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2-7

「行くぞ!」


 だんっ、と地を蹴りデュラハンへと向かって間合いを詰める。

 ずっと防戦しかしてこなかった相手が、急に攻勢に出てきてびっくりしたか、デュラハンの反応は一瞬遅れた。


 しかしすぐに動揺は去り、ランスを操る手も変わらず機敏。だが――


(見える)


 落ち着いて冷静になればちゃんと見えた。

 力はやや押し負けているが、A・Fと乗せた魔力分と合わせて、武器威力もこっちが上だ。


「はッ!」


 何度目かの打ち合いで、力の緩んだ槍を思い切り横に叩く。

 馬上でよろけたデュラハンが、再びランスを引き戻せるまでには十分時間がある。

 一歩踏み込み、どこを狙っても鎧しかないデュラハンを、左肩から大きく袈裟掛けに斬り裂く。


 ごば、と大量に散る黒月の雫。

 しかしこいつが出来上がる時に見た量を考えると、致命傷には程遠い。

 すぐ様再び距離を取る――と。


(来た)


 自分の内にもう一人の存在を確認して、俺は大きく後ろに飛びのく。

 続いて地面を蹴ってジャンプして、そのまま空へと羽ばたいた。


 A・Fの姿はA・Aの側に具現化するが、実はその具現もA・Aの一部である。リンクしていない時は勿論A・F本人だが。

 A・Aの一部ではあっても、俺の意志で動かせるものではなく、あくまでもA・Fとして別個に存在している。


 他人の意識で動く自分の一部というのも変な感じだが、リンクしている訳だからおかしいとまでは言えないんだろう。

 元々全員がリンクし終わったら逃げる事は伝えてある。すぐに俺を追ってA・Fの皆も空へと退避して来た。


「待たせた、逃げるぞ!」

「超待ってた!」


 繕いもせずに超本気でそう言った久坂に、二人揃って引きつってはいたものの、少しだけ笑い合う。


「離脱しろ!」

「了解!」


 最初のパニックはすでに去っているから、皆それぞれに己の優秀さを知らしめる早さでアッシャーへと還って行く。

 A・Fのいないこの瞬間が、A・Aにとって一番危険な瞬間だ。


「久坂、俺等も還るぞ」

「あぁ。――あッ1?」

「な、何だっ!?」


 自分の内に誰もいなくなったのを確認して、久坂と共に還ろうと思って声を掛けたのに、いい予感の全くしない驚愕の声を上げた久坂に、俺も思いきり動揺した声を上げる。


「あれ……ッ! 黒月の雫が……」

「!?」


 嫌な単語に俺も久坂の差した方を振り向く――と、デュラハンが出来た時と殆ど変らない量の雫が、ぼたりっ、とデュラハンの上に落ちた所だった。


「――っ!!」


 狙って落ちて来たのか、それともただの偶然か。


 とにかく、落ちた雫はそのままデュラハンにまとわりついた。

 質量に相応しい、新しい形になろうと形を崩して――


 見たのはそこまでだ。

 あれが完成したらとか、恐ろしい想像しかできない。少なくとも学生の俺達が相手取るものじゃない。


「――っはッ!」


 息を吐いてがばと勢い良く起き上がると、辺りにはもう見覚えのある救護班のスタッフが待機していた。


「椎堂、久坂、無事か!」

「はい」


 反射で体を起こしてしまったが、起きる事ができた時点で、この前の浦賀先輩の時よりも軽傷なのは確かだ。

 今回は装甲を削られ本体に傷を負う、という肉体ダメージの意識があるせいか、実際に肉体に影響が出ているらしく、服の擦れるそこかしこがヒリヒリとする。


 傷を負っていたはずの手の甲に目をやると、はっきり裂傷を負って血が流れていた。

 深さは……それ程でもない。アストラルで負ったのよりも若干浅いだろう。

 一番怖い影響は、肉体ではなく精神の方だから、体にここまで出てるってのは……あんまり考えたくない。


 そしてそれは、どうやら正しいらしい。


「動くな、そして考えるな。とにかく検査をしてからだ。二人共な。相見は先に休んでいる」


 同じく起きようとしていた久坂は再び強制的に横にならされて、俺も吉川の手で肩を押されて、大人しく台の上で仰向けになった。


「あやめ達は……?」

「彼女達も治療室だ。さすがに貫通まですると影響が出るからな」

「……すみません」


 A・Fが傷付く責任は、当然全てA・Aにある。

 彼女達は優秀だが、残念ながら――俺は優秀だ不出来だのもっと前段階にいる。

 だから申し訳ないと、そう思った。


「それが役目だ。お前が気にする事じゃない。とにかく、もう休め」

「――……」


 理屈の上では、そうだ。

 そして感情がどうあれ軍人としてそれが正しい。


「――あの、デュラハンは」

「もう連絡してある。新たな雫が落ちたようだから、大事を取って正式な公人の魔導騎士が討伐に当たる事になった。もう向かっているだろう」

「そうですか」


 ならばもう伝えるべき事は何も無い。

 疲労もあったし命令でもあったから、俺は息をついて目を閉じた。

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