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第二夜-2

 


 巨大な爆発が平凡な朝をぶち壊した。


 1月の透明な空気を真っ赤に染めた爆風が、青尉の背にまで襲いかかり、黒髪を滅茶苦茶に掻き乱した。

「っ、なんだ?!」

 青尉は素早く自転車を停めて振り返った。

 爆発は6ヶ所で起きたらしい。燃えているのは5tトラックだ。先ほど青尉は気付かなかったが、トラックは道路の両端に3台ずつ停まっていた。それらすべてが派手に炎上している。大通りに悲鳴と怒号が飛び交い、すべての流れが停滞する。通勤・通学ラッシュを狙ったように起きた事件は、おそらく狙い通りの結末なのだろうが、大パニックを引き起こしていた。

 爆発をもろに受けた車が、後続の車を巻き込んで豪快に横転した。玉突き事故が発生し、二次、三次、と被害を拡大させていく。歩道の上ではサラリーマンや学生が怪我を負って倒れ、無傷でも混乱して右往左往し、ビルの中へと逃げ込んだり、その場に立ち尽くしたりしていた。青尉の学校の制服を纏った者も何人かいる。歩道橋の上に取り残された人も数人いた。ビルの中には、呑気に携帯を向けて事態を撮っている人達が見受けられた。

 まず真っ先に青尉が考えたのは、昨日敵対した『stardust・factory』の山瀬のことである。すなわちこの爆破テロは、山瀬たち『stardust・factory』の仕業であるのだろうか、と。彼の能力なら、この程度のこと簡単にできるはずだ。

 しかし青尉はその考えをすぐに否定した。冷静になれ、と自分に言い聞かせる。情報が少ない内に感情で決めつけるのはよくない。まず青尉には、これが能力による爆発かどうかも分かっていなかったのだから。―――戦闘オタクの黄ぃ兄が見たら、きっと判断が付いたんだろうけど・・・それどころか、爆薬の種類まで分かっただろうけど・・・俺にはさっぱりだ。

 とりあえず青尉は自転車を隅っこに停め、鞄から携帯を取り出し救急車と警察を呼ぼうとした。しかし、

「―――あれ、圏外・・・?」

 ジャミングか何かされているようである。用意周到なことだ。まぁ、そうでなければこんなテロなど起こさないか。携帯使用不可の状況は混乱を助長するだろう。

 仕方なく青尉は携帯をしまい、応急処置でも出来ないかと辺りを見回した。

 その時だった。

 路地からやけに落ち着いている人々が出てきた。さっきトラックから、爆発する前に出ていった連中だ。ざっと30人ほどいるか。そいつらが―――突然、無傷の人々を襲い始めた。

 物理的化学的法則をまるっきり無視して、火球が飛び、爆発が起こり、雷が落ち、人がビルの壁を垂直に登って硬質ガラスを蹴破る。

 青尉は愕然とした。しかし、愕然としたのは刹那のことで、次の瞬間には走り出していた。

 決まった。奴らは能力者で、それもとびきり悪質な連中だ。―――青尉は下がってきていたネックウォーマーをもう一度引き上げた。

 思い出した。胸元のマークは一昨日の夜に見たものだ。確か・・・『マッド=コンクェスト』とか言ったか。過激派で知られる7大組織の1つだったと思った。―――青尉はポケットからシャープペンの芯を取り出した。

 青尉は走りながら、丹田を意識して深く細く息を吸って、吐いた。身体の中心に堅い芯を一本通すイメージだ。できるだけ視野を広げ、敵の位置とフィールドの状況を確認する。そうして、一番近くにいた敵に向かい漆黒の剣を振り上げた。


☆3


 星座占いというものを青尉は少しだけ見直していた。確かにこれは、思いがけないハプニングである。ただ―――この場におひつじ座の人は何人いるのかな。もし全体の半数以上いたら、俺は次から星座占いを全面的に信用しよう。―――と、鍔迫り合いをしながら思った。

「貴、様っ、何者だっ?!」

「・・・・・・。」

 ネックウォーマーのおかげで、『マッド=コンクェスト』は突然襲ってきた1人の学生が刀堂青尉であることに気づいていない。しばらく戦っていたら能力で気付かれてしまうだろうが、青尉は、別に構わないと思っていた。青尉が顔を隠したのは、録画されるのを警戒してのこと。ネットが社会を支配している昨今、下手に顔を晒して録画され、某有名動画サイトにでもアップされたら、全世界に指名手配されたも同然である。ジャミング装置が制限するのは通信機能だけだ。どうせなら完全に使用不可にしてほしいものである。

 青尉は黙して語らず、力任せに相手の得物を弾くと、すかさず剣の一部を針へと変形させ、体勢を崩したところに撃ち込んだ。

「うわっ!」

 咄嗟に顔を防御した敵。針はその得物に突き刺さり貫通した。だめ押しに青尉が剣を振るうと、あっさり真っ二つになる。

 相手が新たな得物を生み出す前に、青尉はそいつの顎を蹴り抜いて、気絶させた。

 すぐさま次へ向かい走る青尉。

 まだ青尉の存在は敵方に広まっていない。この状態でどの程度まで制圧できるかが勝負の鍵となるだろう。

 ―――本当なら先に、後衛部隊を捜して倒すべきなんだけどな。

 そんな暇は無かった。何せ一般人の命が懸かっているのだから。―――能力者がもう1人2人いて、そいつらが機転を効かせてジャミングの解除くらいしてくれたらいいんだけど。

 そんな希望的観測をしつつ、青尉は2Bシャーシンで先端を重くした鞭を作り出し、敵の顎に狙いをつけて振るう。

 少し離れたところにいた3人が、青尉に気づかぬまま倒れた。

 さて、お次はどこへ行こうかな・・・っと。―――青尉は、ビルの壁面を駆け降りて背後に回ろうとしていた奴を見逃さなかった。

 振り返り様に鞭を放つ。

「なっ?! ぐっ、うぅ!」

 不意を突くはずで不意を突かれた一撃を、相手は避けられなかった。鞭は相手の首に巻き付いて、地面に叩き落とす。

「5人。」

 青尉はネックウォーマーの下で呟き、鞭を変形させる。形どったのは盾だ。飛来した火球を難なく受け止める。しかし、霧散したのは火球と盾、両方ともだった。火を受けると摩耗が速い。相性が悪いのである。

「お前、刀堂青尉だな?」

 火球を放った奴が手の平を青尉へ向けながら聞いた。

 青尉はポケットに手を突っ込んだまま、微かに頷いてみせる。あの男は見たことがある。確か、一昨日の鬼ごっこにも参戦していたはずだ。

「まさかお前がここにいるなんてな・・・」と、相手の男は嘲笑するような表情で言った。「お前の登校時間はもう少し後、我々の計画が完遂された後の予定だったのだが。まったく、思いがけないことだよ。星占いも案外、馬鹿にできないものだな。」

「え? 何お前、お前もおひつじ座?」青尉は咄嗟に普通の会話をしてしまった。

 相手は一瞬戸惑って、しかし素直に頷いた。「え? あぁ、そうだ、けど―――“お前も”って、まさか、お前もなのか?」

「あぁ、まぁな。お陰さまで、思いがけないハプニングに遭遇している真っ最中だよ。」

「ははっ、なるほど。それじゃあ」―――男はからかうような笑みを浮かべ―――「同じおひつじ座同士、仲良くしませんか? まずはお友達から・・・最終的には、我らのお仲間にでも。」

 そう言った時、青尉の周囲には彼のお仲間が勢揃いして、それぞれの武器を構えていた。

「歓迎しますよ?」と、脅す笑み。

「はっ! 冗談やめろよ。」青尉は状況を弁えた上で、一笑に伏した。「なんども言うようだが、俺はどの組織にも入らない。特にあんたらのような、一般人を巻き込んで好き勝手するようなクズ組織にはな。―――来いよ。そんなに戦いたいなら、俺が相手になってやる。」

 ネックウォーマーに隠されて、青尉の口元は見えない。が、挑発的かつ不敵な笑みを浮かべていることは、見えなくても充分わかった。

「・・・作戦変更。刀堂青尉を捕らえよ。生死は問わない。」

 

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