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【番外編1】能力者だらけの夜




 時は2029年――全人類の200人に1人が能力者の現代。超能力を持った人間などそう珍しい存在ではなく――それがDNA配列によって生じる人類進化の結果であるがゆえに、『兄弟揃って能力者』というケースも、往々にしてありうるのであった。

 その中でも彼ら「刀堂兄弟」は別格だった。

 長男・朱将。次男・黄佐。三男・青尉。

 彼らが操る“炭素”は、時に刃となり、時に盾となり、幾つもの戦場を幾人もの強者(つわもの)を、制してきた。

 彼らは3人にして1人、そして1人にして他千人に勝る。

 その武力たるや、どの大組織でも手出し出来ず――したが最期、反対に噛み砕かれるのは自然の摂理ほど明白であった。予知能力がなくとも分かる、絶対不変の未来。

 ゆえに、能力者たちは彼らを指して、こう述べた。

 ――『触らぬ刀堂かみに祟りなし』と――


☆1


「青尉! 起きろ!」

「・・・・・・うん。起きた。」

「嘘つくなっ!」あの間は明らかに、寝ている証拠だ。朱将は青尉の部屋の戸を開け放ち、問答無用で布団を引きはがした。「とっとと起きろってんだよ、ほら!」

「んんっ・・・んーっ!」安眠を邪魔されて――まして、これから労働現場に放り込まれると分かっていて、どうして気持ちよく起きられようか?――青尉は呻り声を上げ、手を振り上げた。

 瞬間、机上に置かれていたシャープペンの芯が一斉に、その体積を数倍にも膨らませ、鞭のようにしなやかに伸び、朱将へと襲い掛かった。常人であれば確実に捉えられない全方位からの攻撃――しかし朱将は片手を上げただけで、それらすべての動きを止めた。

 同じ能力、同じ強さ、となれば、拮抗するのは当然のこと。

「あ、お、い・・・っ! いい加減、諦めろ・・・このっ!」

「やぁああああだぁああああああ・・・っ! 俺は、寝る・・・っ!」

 お互いが炭素を動かそうと全力を込めるが、部屋中に広がった鞭状の炭素は微動だにしない。朱将は正直今すぐ詰め寄って殴ってやりたいと思ったが、一瞬でも気を抜いたら青尉の能力にやられると明白であり、動けない。青尉は青尉で、実のところ目はすっかり覚めてしまっていたのだが、ここで引いては男が廃ると一層力を込めて――

 パンッ!

 唐突に手が打ち鳴らされ、炭素が一瞬で粉々になった。こんなことができるのはこの世に1人しかいない。同じ強さの同じ能力を持ち、“どうぶつければ相殺できるか”をよくよく理解している人物。

 音が鳴った方を見れば、

「・・・2人とも、いい加減にしなよ?」

 黄佐が満面の笑みで立っていた。


☆2


「父さんがギックリ腰やっちゃって大変なのは知ってるでしょ青尉? 疲れてんのは全員そうなんだから、駄々こねないの。」

「はぁい。」

「朱兄も、いくら家族だからって頼み方ってもんがあるじゃん。少しぐらい気を遣ってくれてもいいんじゃないかな?」

「おーう。」

「まったくもう2人とも、今日も一日大変だってのに、朝から無駄な体力使っちゃって・・・これで途中でへばりでもしたら、問答無用で山に捨てて帰るからね!」

「「うーっす。」」

 気のない返事をしながら、朱将と青尉はもそもそと朝食を食べた。

「ごっそさん。んじゃ、行くぞー。」

「はいはーい。」

「んー。」

 三兄弟は重たい足を持ち上げて、戦場に赴く準備を始めたのだった。


 ――そう、時は5月の初め。

 世はG・Wの真っただ中である。

 G・W――人はそれを『ゴールデン・ウイーク』と読むであろう。サービス業者と観光業者と農業者以外は!

「昔の漫画家さんが言ってたことに大いに同意するんだけど、」と、黄佐が助手席でぼやく。「こんなの本っ当、マジで、ガッデム・ウィークだよねー。」

「せめてグリーンティー・ウィークぐらいにしとけよ。」と、朱将。トラックはセカンドギアで、急勾配の山道をごとごとと登っていく。「気分的に。」

 その2人の間に、肩を狭めて座った青尉は、――どうだっていいよ・・・部活行きたかったな・・・。と冷めた目で思った。

 刀堂家のメイン収入は“製茶”である。もちろん、他に米や野菜や何やらと色々作ってはいるが、やはり一番まとまった額になるのはお茶であった。

 そして、4月の終わりから5月の初めといえば、一番茶の時期であり、彼らの繁忙期となるのである。・・・そこに、のどかな茶摘みの風景など無い。そんなもの一部の高級茶葉の産地でしか行われないものだ。基本は“茶摘み”ではなく“茶刈り”――茶の木に沿ってアーチ状になった機械の刃か、あるいは乗用のお茶刈り機を使って、一気に刈り取るものである。

 そんな折に、父・軍武(いさむ)がギックリ腰をやらかして入院。とてもじゃないが作業など出来ない――ということで、急遽青尉まで駆り出されて、三兄弟でのお茶刈りと相成ったのであった。

「うし、今日はここ終わらせるぞ。」

 朱将がトラックを路肩に停めた。本日の作業場となる茶畑を見て、青尉は思わず頭を抱える。――我が家の所有地で最も広く、最も勾配がきつい茶畑だ。ついでに足場も悪い。

「ここまだやってなかったんだ・・・最悪・・・。」

「ここが終われば後はマシだよ。ほい、行くぞー。」

 そう言って励ます黄佐の声も、やや死んでいるように聞こえた。


☆3


 ――せめて能力を使いたい。そうすればもっと簡単に運べるのに。

 青尉は、茶葉が大量に詰まった袋を肩に担いで、急勾配の坂を下りながら、そう思った。――っつっても、まぁ、炭素が混ざりでもしたら最悪だから、ってのは分かるから、しょうがないんだけど。うちのお茶は最高に美味いしなー。

 などと、思考を飛ばし飛ばしやらなければ、とてもじゃないがやってられない。暑いし、重いし、持ちにくいし、歩きにくいし、最悪である。

 水分は適宜補給。休憩は、朱将が工場(こうば)に刈り取った茶葉を置きに行っている間だけ。そんなことを12時までずっとやっていたら、黄佐と青尉は疲労困憊で、「おう、刀堂さんちはみんな孝行者でいいなぁ!」などという同業者のおっちゃんにも「はは・・・どうも・・・。」としか返せない。さすがに、本業の朱将は疲れた様子など微塵も見せなかったが、明らかにいつもより口数が少ないと気づかぬ弟たちではない。とはいえ、自分たちも喋る余裕などないので、自然、車内は沈黙か、「疲れた・・・。」と誰かが呟く音しか鳴らないのであった。

 あらかじめ用意しておいたカレーを流し込むようにして食べ、居間に寝転がる。昼寝は最高の体力回復方法だ。そして、1時半には再び家を出る。

 赤信号で車を止め、「午前で大体、半分くらいは終わったぞ。」と、朱将。

「何キロだった?」黄佐の問いに、青尉が目の前のダッシュボードから伝票を引き抜いた。「えーと・・・500キロ、ちょい。」

「うっへぇ、聞かなきゃよかった、気持ち悪い。まさかとは思うけど、今日だけで1000キロ刈るつもり?」

 あからさまに嫌そうな顔をする黄佐に、しかし朱将はこともなげに「あそこ全部終わったら、1200はいくぞ。」

 大きな溜め息が2つ。誰が投下したのかなど言うまでもないことであろう。

「まぁでも、終わっちゃえば後は楽だから・・・。」気休め程度にそう呟いた黄佐が、ふと前を見て、「――ねぇ、この道、何かやけに混んでない? いつもこんなんじゃないよね?」

 言われてみれば、さっきから車は少しも前に進んでいない。よくよく見てみると、何十台もの車が前に連なっていることが分かる。

「なんでこんなところで渋滞なんか起きてんだよ・・・。」朱将は苛立ったように言った。「ゴールデン・ウイークだからって、こんなとこには何もねぇはずなのに。」

「うーん・・・事故でも――」

 ――起きたかなぁ、という黄佐のセリフは、突然轟いた爆発音にかき消された。

「っ、なんだっ?」

 3人の間に緊張が走った。遠目にも、前の方で人々が混乱してるのが分かる。そして、徐々に、車の隙間を縫うようにして、一目散に走ってくる人が現れてきた――まるで、何かから逃げるかのように。

「んー・・・。」黄佐がわざとらしく首を傾げた。「俺ちょっと嫌な予感がするなぁ。どう思う、青尉?」

「黄ぃ兄、残念ながら、」青尉はすでに悟ったような眼をしていた。「俺も同感。嫌な予感しかしない。」

 その時だった。

『――愚かなる一般人どもっ! 神の御業の前にひれ伏せっ! 我々は選ばれし者っ! 神々に愛されし者っ! ――超能力者であるっ!』

 スピーカーで増幅された醜悪な声が、ノイズとともに響き渡った。

 今度の溜め息は3つ。投下した3人は素早く車を降りて走り出した――当然のように、一般人たちとは逆の方向へ。


☆4


「ひぃ、ふぅ、みー、よー・・・・・・んー、まぁなんかたくさん。」

「途中でやめんなよ。」

「いいじゃん、どうせ端から倒してくんだし。左手側の3人からいくよ。」

「了解。」

 黄佐の指示に、青尉が頷いて、一気に加速した。自慢だが、スピードは三兄弟の中で最も速い。あっという間に彼我の距離を詰め――同時、手の中のシャーシンを、変形。形作ったはただの棒である。といっても、伸縮自在の如意棒のようなものだが。

 走った勢いをそのまま棒に乗せ、振るう。

 唐突に真横から頭を殴られて、為す術もなく1人目が倒れた。

 返す刀で青尉は棒を半回転。2人目がその手に持っていた武器を叩き落とし、鳩尾を突く。

「ごふっ・・・!」

 もんどりうって倒れた2人目のことなどもう見ない。間髪入れず3人目の脳天へ棒を振り下ろしたがしかし、ようやくまともに反応した3人目は、青尉の攻撃をテレポートで躱した。一瞬の後、青尉の背後に現れたそいつは、拳銃を構え、

「ぎゃっ!」

 後ろから朱将に殴られて昏倒した。

 青尉は防御に回していた分のシャーシンを再び棒に戻して、朱将と黄佐に並んだ。

 こちらの襲撃は完全にバレた。周囲を能力者たちに囲まれる。連中は皆、緑のケープを羽織っていて、どうにも胡散臭い。

 青尉は目を細めた――俺たちが一番嫌いなタイプだ。

 メガホンを持った男が『君たちも神に選ばれし者たちかっ! 素晴らしい、我らが同志よっ! 今こそこの腐った現代社会に一矢報いようではないかっ!』などと、車の上に乗って叫んだ。どうやらあいつがリーダー格らしい。

 黄佐がぼそりと「安っぽいリーダー。」と呟いて、せせら笑った。

『我々は貴君らを歓迎する! さぁ、その神の寵愛を受けし力を、世界のために゛っ!』

 男の大層な演説は途中で寸断された。

「黙れよ、うるせぇな。」

 朱将が投げたシャーシンのケースが、男の鼻に直撃したからだ。

「なんだかよく分かんねぇけど、こっちは仕事の邪魔されて迷惑してんだよ。とっとと帰れ、クズども。」

『っ・・・なっ・・・なっ・・・この、無礼者どもっ! 貴様らのような野蛮な連中など、など我らの同胞ではないっ! 始末してしまえっ!』

 リーダーのがなり声に、連中は呼応して、――あんなのでも一応リーダーなんだ、本当に、と黄佐は思った――それぞれの武器や能力を構えた。

 多勢に無勢。

 四面楚歌。

 普通に考えて絶体絶命。

 ――だというのに、刀堂兄弟は笑った。

 朱将はにやりと、鬼のように。バキリ、と拳が音を立てた。

「来いよ、ぶちのめしてやる。」

 黄佐はにこりと、悪魔のように。やれやれ、と肩を竦める。

「めんどくさいなぁ。ま、しょうがないけど。」

 青尉は悠々と、獣のように。スッ、としなやかに棒を構え直した。

「・・・。」

 よく似た真っ黒い3対の目が、捕食者の光を湛えて、敵の連中を見据えた。多勢に無勢? 四面楚歌? そんな言葉誰が言ったのだろうか。

 思わず怯んだ部下たちだったが、

『総員、かかれーっ!』

 リーダーの怒鳴り声に、半ばやけくそになって、3人へと襲い掛かった。


☆5


 同じ性質を持った能力というものは、同時に使用すれば混線し、衝突し、時には相殺されるものである。それはちょうど、今朝の刀堂家で起きたように。ゆえに、遺伝子レベルで同質の能力を持つ兄弟は、普通同時に能力を行使できるものではないのである。

 そう、“普通”なら。

「くらえぇぇぇえええっ!」

 気合というよりは祈りを込めて、敵が吠え、氷の刃が戦場に降り注いだ。

「黄佐。」

「はーい、よっと。」

 朱将の指示に黄佐がひょっと手を上げると、振り撒かれていた炭素が一気に凝縮して壁となった。氷の刃はそれにぶつかり砕ける。

 ――と、壁の下から、氷の破片が舞い散る中へ、青尉が矢のように飛んできた。

 爆発的な踏み込みからの加速。そして一息に氷の能力者を仕留めようと棒を振り上げ――視界の隅で、別の能力者が電撃を放つのが見えていたが、黄佐がそれを防いだので無視し――振り下ろす。

 鈍い音を最後に、氷の能力者はコンクリートへ頬を付けた。

 攻撃の直後、一瞬隙を生じさせた青尉に、両脇から2人同時の襲撃。片方はその腕に炎を纏い、もう片方は何も持っていなかったが、殴りかかってくるぐらいだから近接攻撃系の能力なのだろう。青尉は迷わず炎の方に背を向けて――そこに、朱将が背中合わせに滑り込み――同時に2枚の盾を作る。

 混線? 衝突? どうしてそんなものが起きようか。彼らはしっかり――青尉は2B、黄佐はHB、朱将は2H、と――住み分けているというのに。

 そして2種類の攻撃を受ける。と、朱将の盾は焼け落ち、青尉の盾は派手な音を立てて粉々に砕け散った。

「・・・衝撃波?」と、青尉は呟いた。――ならば、受けなければいい。たとえ受けても、砕かれるだけならまた集められる。

 相手の能力のことを考えたのはその一瞬だけだった。砕けたシャーシンを集めもしないで、青尉は相手の懐に飛び込む。密着すれば、他人の攻撃に邪魔されないからだ。そしてそのまま、相手の胸ぐらと左腕を掴み、さらに一歩踏み込んで、足を刈る。

 大外刈り。

 意表を突かれて、受け身も取れずに背中から叩きつけられたところへ、シャーシンが絡みついた。完全に動きを封じて――青尉は真横に跳躍した。

 その地面が針のように鋭く尖り、一瞬で数メートルも突き上がっていた。

 青尉は走り出した。それに一歩遅れて攻撃が追随する。

 しばらく走り――青尉はふいに急停止した。

 止まったその爪先から数センチのところで、地下からの強襲が空を切った。そして青尉は、止まった勢いを殺さず半回転し、シャーシンケースを投げた。――変形。空中で内側から食い破られるようにケースは割れ、そこから黒い物体がアメーバ状に伸び、地面を変形させる能力者と、それと背中合わせになっていた別の輩をまとめて縛り上げた。

 そして周りを見渡して、

「・・・これで、全部?」

   ★

 朱将は舌を打って、――炎の奴は面倒なんだよな・・・――そのまま踏み込み、刃のような呼気とともに、真っすぐ拳を撃ちだした。何のひねりもない、単純で愚直な――しかし何より確かな物理攻撃。

 それに真正面から殴られ、炎の能力者はあっさり沈黙した。

 あっけない、と思いつつ、朱将はポケットから素早くシャーシンを取り出して――変形――壁を作った。

 ドンッ、と、車にでも衝突されたかのような重たい衝撃が加わり、壁が割れた。

 ――能力者は、あいつか。

 割れたシャーシンを丸くまとめ直しながら、朱将は走り――出そうとして、反射的に後ろに飛びのく。

 頭上から降り落ちてきた別の男の足が、コンクリートを蹴り砕いた。明らかに人間の力ではない――身体強化系、だろう。

 顔を上げてこちらを見、にまりと笑ったその男が――目の前から消えた。

 いや、消えたのではなく、消えたと思うほどの速さで動いていたのだ。消えた後に、その踏み込みによるコンクリートの破壊音が聞こえたほどだ。

 音速に迫るスピードに、朱将の目は男を追えていない。

 そして男は朱将の背後に回って、必殺の蹴りを放った。

 ――が、

「え?」

 硬質な音が鳴り響き、“何か”に蹴りを弾き返され、狼狽しながら着地した。それを“何か”と称したのは、それがまったく見えなかったからだ――いや、よくよく見れば、空間が不自然に歪み、光っているような・・・。

 その狼狽を見逃す朱将ではない。男が着地したその瞬間には、シャーシンを放っている。それはワイヤーのように鋭く伸び、四方から男を押さえつけ、地面に縫いつけた。

 男が動けなくなったのを確認し、朱将は“何か”に触れた――瞬間、透明だったそれは黒くくすみ、ぼろぼろに崩れ落ちた。

「・・・やっぱ、ダイヤくらいまで硬くすんのは1回きりだな。」

 ぼそりと呟き、やけに静かになった辺りを見回す。

   ★

 黄佐は、青尉を狙った電撃を防いで、お返しにとばかりにそいつへ向けて針を打ち込んだ――帯電したシャーシンで。

 自らの電気に焼かれ、悶絶しながら倒れた奴を見つつ、黄佐は背後に壁を展開した。

 衝撃。

「っとー、割と重いねぇ。」

 軽薄に言いながら、壁を回り込んで迫ってきたそいつからバックステップで距離を取り、炭素を固めた弾を放つ。当たれば骨が砕けるだろうが、そいつは憶しもせず拳でそれらを叩き落とし、痛がる様子も見せない。

 身体強化・・・いや、違うな。――黄佐の目は、男の拳が炭素に当たっていないことを捉えていた。

 黄佐は別のシャーシンを操作し、転がっていたタイヤを投げた。――と、タイヤは男の目の前で唐突に軌道を変え、真上に跳ね上がると、遠く背後に落ち転がっていった。

 ――分かった、めっちゃ短距離専門のサイコキネシスだ!

 長距離に作用できるなら、執拗に追って来る必要はないはずである。

 視界の端で、別の能力者がこちらへ向けて手をかざしていたが、無視――数瞬後、その男は、背中合わせになっていた別の男と一緒くたに縛り上げられ、沈黙した。

 黄佐は距離を保ったまま、シャーシンを先ほどまでの数十倍の大きさで固め――大体、タイヤの倍くらいの半径の球とし――速度はそのままに放った。

 男が両手を掲げてそれを真っ向から受け止める。

「ぐっ・・・う、おおおおおおっ!」

 渾身の力を込めて、男は炭素の塊の軌道を横に逸らした。

 圧倒的な暴力の塊が背後に流れて行き――

「やっほー。」

 ――開けた視界、目の前に黄佐がいる。

 次の瞬間、顔面を殴り飛ばされて、男の視界は閉ざされた。

 黄佐は両手を払って、周りを見、「あれ、これでおしまい?」と言った。

「朱兄、青尉、損害はー?」

「あるわけねぇだろ。」

「無いよ。」

「おーし、それじゃあ・・・――」

 3人が集合し、残った1人に視線を投じる。

『なっ・・・き、貴様ら、まさか・・・っ!』

 リーダーらしき男は、まるで最後の矜持のようにメガホンを放さず、震えた声で――致命的に遅く、圧倒的に愚かに、ようやく正解へたどり着いた。

『――刀堂兄弟、かっ?』

「その通り! だが――」と黄佐が笑う。口上は黄佐の管轄だ。「――今更その名を知ってどうする? もっと早く知っていたら、退散していたのかな? 違うよね? “神様に愛された特別な人間”が、逃げたりするはずないもんねぇー? あれれー、それじゃあ、おかしいなー? どうして君のお仲間は、地面に額をこすりつけちゃってるのかなー? あ、もしかして、神様に祈ってるのかな? “どうかお助けくださいませ”って。」――黄佐の流儀は、目までしっかり笑うこと、だ――「あんたはやらなくっていいの、リーダーさん?」

『ひっ・・・――』ついにリーダーはメガホンを捨てた。「ひぃっ!」そして逃げ出そうと背を向けて車から飛び降り、

「「逃がすか。」」

 ――3人の声と、命令が重なった。

 リーダーの足元でシャーシンのケースが割れ――朱将が最初に投げつけた物だ――そこから触手のように伸びたシャーシンが、飛び降りた瞬間の男をがんじがらめにし、空中に縛り付けた。

「よーし、終了終了ーっと! いやぁ、思ってたよりずっと楽勝で手応えが――」

 黄佐は上機嫌で喋りだしたのだが、その時、遠くからパトカーのサイレンが近づいてきているのを聞きつけて、言葉を切った。そして、一言。

「――撤収!」

「「おうっ!」」

 3人は一斉に車まで戻ると、

「黄佐、青尉、道!」

「了解!」

 朱将の指示で、黄佐がシャーシンを窓から道路に落とした。青尉が変形。そして、タイヤの下から前の車の上を通って脇道へと入る、専用の通路を一瞬で構築する。完成した傍から朱将がクラッチを繋げ、トラックは危なげなく、その真っ黒いレイン○ーロードのような落ちたらアウト(ただし復活なし)の道を疾走していったのだった。


☆おしまい



 


☆あとがき

 来鴉さまのリクエスト「もしも刀堂兄弟が全員能力者だったら」でした。リクエストありがとうございました! 他に『VRMMOに放り込んで自由に能力を選択させる』『完全に別々の能力を持たせる』なども考えましたが、結局一番本編の設定に即した、このような形に相成りました。

 本編で彼らがこの状態だったら、きっと話が半分ぐらいの長さになったのではないかと思います(笑)朱兄が1人でマッド=グレムリン5人を倒すとか、黄ぃ兄がユウレカとM=Cの潜伏先を全部潰すとか、2人で真っ向から第一支部を落としに行くとか、平気でやりそうですし。ますます青尉くんの主人公としての立場がなくなりますね!(笑えない)

 以上、リクエスト番外編その1でした! ありがとうございました!


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