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第六夜-3

「ええと・・・」――話が再開したので、青尉は目線を戻した。――「まず先に、『マッド=コンクェスト』、通称M=C(マック)さんについて話そうか。」

「マック?」

「『マッド=コンクェスト』の頭文字をとったんだ。MイコールC、で、マック。ネット上じゃあこれで通ってるよ。」

「ふぅん。」なんだか途端にチープになったな、と青尉は思った。

「M=Cさんは、テロ組織として有名だけど、実は救命活動もしてるんだ。」

 と、辰生。

 青尉は一瞬、自分の耳がおかしくなったのだと思った。

「・・・はぁ?」

「・・・うん、はぁ? ってなるよな。普通おかしいよな。」辰生も苦笑い。「でも、本当なんだよ。地震とか土砂崩れとか、そういう災害の時、一番早く現場に行って能力使って人助けしてんのは、M=Cさんなんだ。もち、非公式かつ秘密裏に、だけどな。ちなみに、これまでに何件もテロ起こしてるけど、―――」いったん言葉を切って、「―――実は、死者はゼロなんだ。」

「はぁあああ?」

「死にそうなほどの怪我を負っちゃった人のことは、その場で治療したりしてるし。まぁ、M=Cさんの目的から考えれば、死者を出すのがよろしくないのは確かなんだけど。」

 それにしたって、変な話だよなー。と、辰生は外国人のように大きく肩を竦めた。

「で、さっきの話に戻るわけだ。」

「さっきの話?」

「能力者をどうやって増やすか、っての。」

「あぁ・・・。」

 青尉はだんだん話についていくのが面倒に思えてきてしまった。

「M=Cさんの目的は、さっき言った通り、能力者を増やすことだ・・・ってのが、ネット上の通説でさ。そのために、能力を使いまくってんの。ええと―――」辰生は頭の中で話を組み直して「―――能力の発現形態ってさ、一般的に、4つあるって言われてんだ。」

「4つ?」

「うん。後天的か先天的か、遺伝性か突発性か、っていう2かけ2の組み合わせで分類されるんだ。それぞれ、あくわいあーど、なちゅらる、へりでぃてぃ、さどぅんりぃ、の頭文字を取って、A&S(エー・エス)型とかN&H(エヌ・エイチ)型とかって呼ばれてる。」

 青尉は再び脳内の英和辞典をめくったが、naturalとsuddenlyしか変換できなかった。あとの2つはまだ教科書に出てきていないような気がする。

「で、この4つのうちの1つ――」辰生の説明は続く。「――A&S型、つまり、後天的かつ突発性発現の能力ってのが一番多いんだけど、そいつがどうやって発現するのかって言うと、“一般人が能力に接した時”っていう仮説が、最も有力視されてるんだ。」

 後天的かつ突発性―――つまり、俺みたいに突然能力を手に入れてしまった能力者ってことか? ―――そう理解しつつ、青尉は違和感を抱いていた。あれ、俺・・・? しかしそれを口に出す間もなく辰生が話す。

「そこで、M=Cさんの出番ってわけよ。テロ行為や災害支援を通して、一般人が能力に触れる機会を増やす。そうすることで、どんどん能力者の数を増やしていこう、っていう魂胆なわけよ。―――まぁ、能力ってのは遺伝するらしいから、放っといても何百年後だかには世界中み~んな能力者ってことになるみたいだけどな。」

「へぇ。そうなんだ。」

「あ、ちなみに、ジス――JISコーポレーションな。その、ジスさんと、M=Cさんは、仲が良いって噂がある。」

「ふぅん。」

「ジスさんがキナ臭いってのはそう言うところで、星屑さんらとも仲良くやってるらしい。なんつーかこう・・・体の良い第3者? 漁夫の利ポジションっつーの?」

「へぇ。」

「ま、こんなところだな、基礎知識は。わかったか?」

 まるで学校の授業を受けているようだ。青尉は小学生のごとく無邪気に『はーい!』と言おうかと一瞬考えて、次の瞬間考え直し――自分で言うのもあれだが、痛い――黙然と頷いた。

 よしよし、と満足げな辰生。「そういや、聞いたか?」と、話を変える。「マッド=コンクェストの配下組織に、マッド=グレムリンって奴らがいんだけどさ、噂によると、そいつらが今、この町に来てるらしいぜ。」

「へぇ・・・。」

「西の方の不良のチームが全滅させられたって。噂じゃあ、不良狩りをしてるとかなんとかって聞いたけど、どこまで本当だかなぁ。まぁ所詮、噂だし。」

 本当に曖昧な情報なのだろう。“噂”という単語を繰り返し強調する辰生に、青尉は「ふぅん。」と気のない相槌を打った。不良関係のことなら朱兄に聞けば詳しいことが分かるかもしれない。帰ったら聞いてみようかな・・・。

「よーし、んじゃ、次は少尉の話を聞かせてもらおう―――」と言った辰生が、突然「あっ!」と足を止めた。

「え、なに?」

 青尉の腕を引く辰生の目線の先は、数十年前にできて、去年テロに遭ったのを契機に改装した、青尉にとっては因縁深い、巨大なショッピングモールだった。

「ちょっと寄ってこうぜ! たしか漫画の新刊が出てたはず!」

「あれ、辰生って紙面派?」

「とーぜんだろ!」

 青尉は腕を引かれながら、意外に思って辰生を見た。電子書籍が完全に普及した昨今、この電子機器に強い現代っ子なら絶対に電子書籍派だと思っていたのに。人は見かけに――いや、人は一面によらないものである。

 自動ドアをくぐると、さすがは日曜日――しかしかなり広いだけあって“溢れかえるほど”とまではいかない程度の数の――総じて楽しげな人々で賑わっていた。

 青尉は思わず遠い目になって、呟いた。

「あぁ・・・懐かしいなぁ・・・。」

「え、何が?」

「実はさ・・・このデパート、去年の8月にテロ被害受けてるだろ? あの時俺、ここにいてさぁ、制圧に一枚噛んだんだよな。」

「えっ?! じゃあ、テロの奴らぶっ倒した、“信号戦隊”って、少尉のことなのか?」

「はぁ?」

 青尉は思い切り顔を歪めた。信号戦隊? 何のことだ?

 辰生は興奮した様子で「いや、一時期話題になったんだよ。ほら、その事件の動画が上がった時にさ、赤・青・黄色の帽子を被った3人組が戦ってたから・・・『さしずめ“信号戦隊・トメルンジャー”ってところかな。』『うっわ、なにそれだっせぇ』笑笑、みたいな。」

「・・・あぁ、なるほど。」

 納得はしたが、苦笑しか出ない。確かにあの時は、珍しく兄弟3人がそろっていて、黄佐の発案によってそれぞれ名前の通りの色の帽子を被って戦闘に及んだのだが。そして警察が来る前に制圧してとんずら決めたのだが。

「まさかそんな風に呼ばれてるとは・・・。」

「ちなみに、今の少尉は“ミスター・一匹狼”だぜ。」

「なんだその変なあだ名。」

「あっ、なぁ! 『信号戦隊の1人はミスター・一匹狼らしい!』ってネットに上げてもいいか?!」

「ぜってぇやだ。ふざけんな。」

「えー、なんでだよ、ケチー。」

 ま、どうせその内バレるだろうけどなー。―――と、辰生はそら恐ろしいことを呟いた。

「ん? ってことはさぁ、去年の8月には、少尉ってもう能力者だったわけ?」

「あぁ、まぁな―――」青尉は今更ながら、周囲を気にして目線を巡らせた。こんな人ごみの中で話すことじゃねぇような気が・・・まぁいっか。「―――7月の終わり頃・・・夏休みに入った直後くらいだな、なったのは。」

「きっかけは?」

 そう聞かれ、青尉は数分前に抱いた違和感を思い出した。

「あ、そうだ、それを聞こうと思ってたんだ。」――勢い、辰生の方を向いて――「なぁ、さっき、能力発現のきっかけは、能力に触れることだ、って言ったよな。」

「うん。まぁ、仮説だけどな。」

「俺さ・・・それが出たの、科学の宿題やってる最中だったんだよな。ほら、同素体ってあるだろ? あれ見ながらさぁ、『シャーシンがダイヤモンドみたくなったら面白ぇなー』って思ったら、本当に、その通りになったんだよ。」

「・・・・・・。」辰生は歩き方を忘れた。「・・・は? え、ってことは、少尉、もしかして―――」

「能力には一切関わってない。自分がそうなるまで、関わろうとも思わなかった。」

「・・・まじか。」

「うん、まじ。」

 呆けたように瞬きを繰り返す辰生。それから、「仮説が崩れた・・・。」とぼやくように言うと、ようやく歩き方を思い出したらしく進行を再開しながら、「少尉。」

「ん?」

「あ、そのー・・・何つーか・・・困ったことがあったら、相談してくれよ? 頼ってくれよ? 俺は一般人だし、少尉の味方だから、遠慮とかしなくていいからな?」

「なんだよ突然。」

「いや、えーっと・・・―――」思っていた以上に少尉の周りは大変なことに満ち溢れているようだ。それを知って、辰生は不安になったのだ。少尉は友達だ。友人が、突然、この世からいなくなることを思うと、心臓を掴まれたような気分に陥った。しかし、そんなことは言えない。ええと、怪しまれないような理由は、っと――「――・・・ほら、俺、能力者に関する話って少尉より詳しいし! んと、それに、どんどん関わっていきたいし! だから・・・巻き込まれ上等って言うか・・・むしろ、巻き込んでください! って感じ、かな。はははっ。」

「お、おう、そうか。」

「そー、そー、だから、変に隠し事とかしたら、次はマジで怒るからな! 絶交だかんな、絶交!」

「分かった分かった。」

 青尉は、駄々っ子を相手にするように笑いながら、少し嬉しく思ってそっぽを向いた。味方がいることの心強さはよく分かっている。けれど――たぶん、相談はしない・・・いや、出来ないな。――と、青尉は思った。――辰生を巻き込むわけにはいかない。友達だし、一般人だ。もしも俺の所為で、辰生に何かあったら――そう考えて、一気に肝が冷えた。

 ――駄目だ、絶対に。これは俺の、俺だけの手で片を付ける。

 青尉の横顔が険しくなっていくのを、辰生はじっと見て、音も無く溜め息をついた。なんにせよ、重たい空気は苦手だ。

「―――そういや、5組の汐海(しおみ)さんって知ってる?」

「いや、知らない。誰?」

「汐海 明日葉(あすは)同小(おなしょう)だったんだけどさぁ、この間のテロで怪我して・・・ほら、コンビニに居た奴だよ。望月の隣に。」

「あぁ。」青尉は頷いた。「知り合いだったんだ。」

 辰生は得意げに「まぁな。」と笑った。「まだ入院してるらしいんだけどな。トラウマになったか、親が警戒してんのか、・・・もしかしたら、能力に目覚めちまって、来ようにも来れないのかもしんないけど。」

 青尉は静かに拳を握り締めていた。動かない左腕も、気分だけは固く。真っ黒い塊が――青尉のイメージ上で、それはシャーシンだった――丹田の辺りで渦を巻き、骨を締め上げ髄に染み込んでいくような感覚。悔しくもないし怒ってもいない。ただ・・・そう、ただ、歯痒い。

 辰生は「まぁそれはさておき、だ。」と、暗い話を明るく回収し、両手を合わせて声を落とした。「その汐海さんってさぁ、声楽部なんだけど・・・知らねぇんだったら教えてやるよ。あの子はマジで可愛いぜ。姐御とは正反対な感じでさ、どっちかっつーと聖女? 汚しちゃいけない領域? 清楚で可憐で、男子の中じゃあ、めちゃくちゃ人気あんだぜ。」

「・・・へぇ。」青尉は目が白くなるのを抑えられなかった。「それで?」

「おいおい、わかってんだろ、少尉~。」と、無傷の右腕を小突く。「お前いまチャンスだぞ? いつにない大大大大大チャンスなんだぞ? ピンチを救ったヒーロー、っつう最っ高のポジション確保とフラグ樹立を達成しておいて、モノにしねぇ訳がないだろ。据え膳食わぬは何とやら、って言いますしねぇ!」

 けっけっけっ! といやらしく笑う辰生に、青尉はどこまでも冷淡だった。

「どうでもいいけど、柚姫(ゆずき)のこと“聖女の反対”っつったのバレたら、殺されるぞ。」

「えっ、あっ・・・たっ、他言無用でお願いします!」

 

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