第零夜
偶然とはいえ『stardust・factory』を産み出してくれた我が親愛なる先生と、それを小説のネタに昇格させてくれた我が親愛なる友人へ、感謝を込めて。
2014年8月26日(火)大幅に改訂しました。
一番大きな変更といえば、那木さんが山瀬さんに改名なさったことでしょうか。
その他、筋は変わりありませんが、進み方がだいぶ変わったので、もう一度投稿し直しております。
なにはともあれ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
いろんな服、ばらばらな年齢、男女混合、一見しただけでは何の共通点も見えてこない十数人の人々が、1人の青年を囲っている。彼らの胸元にはブランドのマークのように、煌びやかなデザインをされた『M=C』のロゴが入っていた。共通点はそれだけ。
囲われた青年は嫌そうに自転車から降りた。
「用件は分かっているだろう? いい加減、大人しく付いてきてくれないか?」集団のリーダーと思しき男が、尊大な態度で言った。「抵抗しなければ危害は加えるつもりはないし、大丈夫、悪いようにはしない。」
「・・・それ、悪人の台詞だぞ。」
青年は溜め息をついた。
「何度も言うようだけど、あんたらみたいなテロリストの仲間にはならない。いや、たとえあんたらがテロリストじゃなくても、俺はどんな組織にだって、入るつもりはない。いい加減、諦めてくれ。こっちはもううんざりなんだ。」
「そうか。それは残念だ。」
口ぶりほど気にしてないように首を振った男が、手を前にかざす。そこから“何が出てくるか”を知っている青年は、素早くポケットに手を突っ込んで、武器でも防具でもある“物”を取り出した。
夜の街中に、火柱が上がった。
―――――冒頭とはまったく関係のない話をしよう。ご存知、異能力集団『stardust・factory』が活発に動き出したのは、つい1ヶ月ほど前の話である。
この世に“異能力”が現れたのは昔のことではない。『10年一昔』と言うからには、9年前の2020年を『昔』と言うことはできないのだ。それは突如として現れた―――正確に言うと、公になった。本当はもっともっと昔から存在してはいたのだが、それは極秘のものだった。だから、何も知らない一般人には、突如として現れたように見えたのである。
理由? そんなものを知っているのは神様だけだろう。人類には、神様が気まぐれを起こしたのだということしか分かっていない。
先天性、後天性、突発性、遺伝性―――発動条件すらも定かでない。が、後天性より先天性の方が強く、遺伝性より突発性の方が弱く現れる傾向があるようだ。曖昧な言い方になっているのは、“先天性かつ遺伝性の能力者”が最強というわけではないからである。
異能力―――サイコメトリーだとかテレポートだとか、非常識的かつ非科学的である人智を超えた能力―――をその身に宿しながら、その使い道に戸惑う人々、或いはその力で他人を圧迫したい人々は、自然と集まり協力しあうようになった。
そうして幾つもの集団が作られた。それらは分解、併合を繰り返しながら発展していく。
やがて、自然の摂理に則り、より強い集団がより弱い集団を支配するようになっていった。ピラミッド型の勢力図が出来上がったのである。今、その頂点には7つの組織が仁王立ちしている。
そんな世の中に、それこそ彗星のように現れた新興集団。
『stardust・factory』
彼ら及び彼女らは、その名を名乗るや否や、あっという間にピラミッドの頂点に手を掛けたのであった。
・・・なぜこんな話をしたのか、って?
あいにく、その問いに答える術は持ち合わせていない。申し訳ないね。まぁ、わざわざここで語らずとも、そのうち分かるだろう。
さて、怒られる前に退散することにしようか。ちょうど、青年の逃亡劇も終わったようだし―――――
青年は、壁際に追い詰めた1人の敵に向かって、闇と同化した剣を振り下ろした。破砕音が響き、敵の背後の壁が大きくえぐれる―――わざと、人に当たらないように避けたのだ。
死の危機に瀕した敵の方は、腰を抜かしたのかその場にずるずると座り込んだ。
青年は自分で作った溝に足を掛け、一気に身体を引き上げると、壁を飛び越えた。
追おうとした人々を、リーダーの男が止める。「もういい、今日は止めだ。」集団の数は最初の3分の1ほどになっていた。青年が逃げながら着実に削っていったのである。中には自滅した者もいたが・・・。強すぎるだろう、アイツ―――リーダーは溜め息をついた。
「どちらにせよ、この敷地内に俺たちは入れないしな。」
「わかってるじゃないか、『マッド=コンクェスト』」
壁の向こうから別の声がした。
「『賢老君主』・・・。」リーダーは憎々しげに舌を鳴らした。「わざわざお出迎えご苦労さま。」
「どういたしまして。ついでに潰してやろうか?」
「いいや、結構。今帰るところだ。」
「―――・・・あのな、『マッド=コンクェスト』。うちの生徒にちょっかい出すのは、もう止めてくれないか。」
真摯な語りかけに、しかし男は応じなかった。
「もしもアイツが『賢老君主』の人間だったら、言う通りにしただろうな。分かってるだろう。アイツはただのはぐれで、俺たちは一般人の言う事には耳を貸さない。」
「・・・・・・。」
「ま、できる限り殺さないように気を付けてやろう。それじゃあな、先生?」
皮肉を込めてそう言ったのを合図に、1人の男が手を鳴らした。音が響いた次の瞬間、集団は完全にその場から消え去っていた。
壁の向こうで嘆息。
能力者たちの夜は、まだ始まったばかりだ。




