最終話
「武、いい加減、目を醒ましなさい!」
何から目を醒ますというのだ。
私は、リアルでは佐東ゴールデンサービスのCEO、VRでは
シュガーブルク代表アーネストである。
リアルでも、VRでも、充実した生活を送っているではないか。
「兄貴、いい加減にしろよ。自分でもわかってるんだろ。俺、兄貴がいるせいで恥ずかしいんだよ」
何が恥ずかしいのだ。
業界シェアトップで信頼の実績ナンバーワンの会社を経営する兄が
いるというのに。
「武、もういいだろう?佐東ゴールデンサービスだったか?調べは
ついているんだ」
調べとはなんだ?
何を言いたいのだ?
「佐東ゴールデンサービスは、資本金100円のペーパーカンパニーに
過ぎない。業務内容も、実態がないだろう?いくら、お前の部屋の中
のものを数えても、それは仕事と言えない」
う、頭が痛い。
何をするんだ、やめろ!!
「ダメね。現実を受け入れようとしないわ」
「兄貴は昔からダメ人間だったけど、多少は現実を直視できたのにな。
会社のこともそうだけど、経歴紹介も酷すぎる」
「嘘は言ってないとはいえ、ものは言い様という言葉があきれそうよ。」
東大に入りとは、勝手に敷地に入って、東大に入ったと宣言したに
過ぎない。
プライドを捨てれば何でもできると学べたのかもしれない。
一流企業の本社で請われて仕事したとは、ファーストフードの
バイト募集をした際に、定員がちょうど募集の店が埋まってしまい、
人手不足の本社ビル内店舗で採用されたに過ぎない。
なお、四日で解雇された。
人の流れを作る仕事とは、行列整理のバイトを指す。日雇いで
一回やっただけであり、
「次からは、君を指名させてもらうよ」
と言われ、二度と現場に行けなくなった。
無から有を創造する仕事とは、書いた小説を自費出版することを
誘われ、出版したことである。
出版社側は、売れようが売れまいが費用はすべて作者負担なのだから
構わない。
案の定、一冊も売れなかった。
35才になり、派遣会社からも相手されなくなった武は、一念発起して
佐東ゴールデンサービスを設立。
もっとも、会社を作っただけで仕事ができるわけもなく、親からの
仕送りを出資金扱いにして、そこから給料をもらうだけの実態皆無の
会社であった。
暇をもて余した武は、黄昏のガンブにアーネストとして参加。
運よく、抽選で街の統治権を得たことで、シュガーブルクを建設した。
アーネストの能力設定は、知力と魅力に極振りされていたため、ボーナスで知的魅力がある行動に補正されるアビリティを獲得したのも幸いであった。
AIとプレイヤーに分け隔てがなかったというと格好良い。
だが実態は、区別がついてないだけであった。
区別してほしくない運営からすれば、理想的な人材とも言えたが。
武が気づいた時には、病院のベッドの上だった。
部屋に窓はなく、ドア以外は何もない部屋。
「私は、佐東ゴールデンサービスのCEOにして、VRではシュガーブルクの代表者なのだ。皆が私を待っている!」
大声で怒鳴る武。
だが、暫くなんの反応もはなかった。
暫くして、
「君に伝えるのは、ある意味残酷かもしれない。だが、いつかは知らなければならないな」
黄昏のガンブは、プレイヤーに大量逮捕者を出した社会的責任を
とって、運営によりサービスを終了された。
逮捕されなかったプレイヤー達が、サービス終了撤回を求める訴訟を
起こしたことがかえって異常扱いを受け、世論の高まりからVR技術の
ゲームへの使用が禁止されることになる。
黄昏のガンブ、それは伝説のゲームである。
ログアウト不能なデスゲームとなり、VRゲーム時代を終わらせた。
あるものは恨み、あるものは懐かしむ。
アーネストとシュガーブルクの名は語り継がれるが、
そこに佐東武の名はない。
今まで読んでいただきありがとうございました。
当初の予定通りの終わりなのですが、いろいろ申し訳ない感じですね。
すみません。
クリス・クロス読者参加ゲーム参加者として、ログアウト不能なデスゲームものを書いてみたかったのですが、そんな簡単には書けないなと反省しきりです。
もし、何か別の作品を読んでいただけましたら、その時はよろしくお願いいたします。