第四話
「神の使者か」
「以前に、魔王の使者イベントがもとで、陥落した三本木ヒルズの例が
あります。慎重に対応しないと危険かと」
「どうすればいいんだー」
動揺する幹部たちを穏やかに眺めるアーネスト。
一見するといつもの動じない笑顔であったが、何も期待しなければ
落胆せずに済むという悟りの境地であった。
そうこうしているうちに、神の使者が魔方陣に現れる。
先触れから、数分しか間を開けない辺り、対策を準備する時間も与えない
意地悪さを感じさせるものであった。
「シュガーブルクへようこそいらっしゃいました。急なことゆえ、
歓迎の宴などは開けませんが、ごゆるりとお過ごしください」
いつもと態度を変えないアーネスト。
落ち着き払った姿に、幹部達も安堵をし始める。
「この度は、世界の街を見てまわり、ふさわしき街を探している」
この口上は定型のものであるがゆえに、なんにふさわしきかは敢えて
問うものはいない。
何度聞いても返答がなかったからだ。
「ふさわしいかはわかりませんが、私が街をご案内しますので、思う存分
見てください」
「アーネスト様、お忙しい身ですのにAIの相手などせずとも」
「この方々は神の使者なのですよ?街の代表である私自らがご案内せねば、
失礼にあたります」
配下達を一蹴し、使者と歓談しながら街をまわるアーネスト。
戻ってきた時には、使者は納得したようにうなずいていた。
「なるほど。確かにふさわしいようだ。統治者も人々も優れている。
加護に値しよう」
その発言に大喜びする幹部達。
だが、アーネストは困ったように使者を見るのみ。
使者は、アーネストに微笑み、
「人は、試練を通じて強くなるのです」
言い残して、魔方陣から旅立った。
シュガーブルクが神の加護を受けた。
このニュースは、公式コミュで宣言されたこともあり、ゲーム中を
瞬く間に駆け巡った。
神の使者来訪イベント自体は、他の街でも何度も行われていた。
魔王の使者イベントのように、街が滅びる結果にはならなかったが、
凶作イベントや地震イベントが起きる疫病神の使者と呼ばれるイベントで
あった。
それなのに加護を受けるとは何事?騒然になるのに時間はかからなかった。
種を明かせば、アーネストが以前からAIもプレイヤーと同じように
扱うことを神の使者AIに対しても行ったにすぎない。
ここの運営は、魔王軍の侵攻イベントでもわかるようにAIだからと
いい加減な対応することを嫌う。
公式サイトで問題対応を何度も流すこともあり、その事に気づく
プレイヤー達も認識するようになった。
だが、街の代表になるようなプレイヤーは、リアルを削って
参加している状況であり、概要だけ見て中身を確認しないことが多く、
同じ間違いが繰り返され続けていた。
その為、今回が自分達と違いすぎる対応になった理由を彼らは、見誤った。
ハンドブックに載ったことを含めて、癒着プレイヤーに違いないと
糾弾し始める代表者達。
大勢力の主もいたが、他プレイヤー達は、あまりに馬鹿馬鹿しい理由で
野合することに、見限る者も出始めた。
徐々に溝は深まっていった。