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狂気

起きると尚が隣で眠っていた。静かに寝息を立てている。

いつの間にか服も着替えさせられていて、元着ていた服を着ていた。尚が着せてくれたのかな。眠っている尚の身体を揺さぶる。


「ん…何、伶麻」

気だるげに目を覚ましぼんやりと僕を見る。


「雨上がったかなって思って」

僕もぼーっとしながら言った。


「もうここ出る?…って、もう夜じゃん」

携帯を見てガバッと起き上がる尚。


「うん。だからもう出た方がいいかなって思って」

そう言うと急に尚が後ろから抱き締めてきた。


何だろう、と思っていると尚が口を開く。



「まだ伶麻と一緒に居たい」

その言葉にトクンと胸がときめいた。


「…尚がそう言うなら」

彼の手に触れてみる。温かい手。


今日はここに泊まることになりそうだ。尚と二人きり。邪魔する奴はどこにも居ない。恒誠も居ない。

尚は気付いてないだろうけどあいつは尚を狙ってる。僕には分かる。無理やりキスされたって言ってたし、僕がどうにかしないと。尚を守らないと。尚はどこへも行かせない。ずっと僕の隣に居ればいい。


尚は僕のものだ。横取りする奴は消えればいいんだ。僕が消してあげる。男も女も関係なく。尚だって煩わしく思っているはずだ。きっとそうに違いない。尚は優しいから言い出せないだけ。


僕が 守ってあげるからね。



大好きな尚と向かい合わせになって寝転がりながら僕はそんなことを考えて彼の頬を撫でた。


「伶麻、手冷たい」

僕の手に手を重ね尚は言う。


「ごめん。ちょっと寒くて」

急いで手を離そうとすると、ぎゅっと手首を掴まれた。


不意に尚に抱き寄せられる。温かい身体に包まれる。温かい、尚の体温。心地いい温かさだ。彼の胸板に顔を埋める。良い匂いがする。シャンプーの匂いかな。お風呂入ったもんね。尚と同じ匂い。嬉しい。でもやっぱりいつもの尚の匂いの方が僕は好きだなあ。

尚の髪も、顔も、目も、口も、声も、喋り方も、性格も、匂いも、みーんな好き。大好き。全部僕のものにしたい。




------



朝、俺が目を覚ますと伶麻の笑んだ顔が近くにあった。にっこり微笑んだ顔。こんなに笑っている彼を見るのは初めてだ。…これは夢だろうか。


伶麻の頭を撫でようとして手を動かそうとするが動かせない。見てみると両手が縛られてベッドに繋がれていた。


「伶麻、これ何?」

俺は内心焦りながらも冷静に尋ねてみる。


「尚を繋いでるんだよ」

どこにも行かないように、と伶麻。


俺の上に軽い身体の彼が乗る。あまり眠れていないのか、目の下には隈が出来ている。相変わらず不健康そうだ。



「俺はどこにも行かない」


「うん、分かってる」

何だかいつもと伶麻の様子が違う。


「じゃあ何でこんなこと…」

そんな彼に聞いてみる。


「恒誠…くん、とかから守る為だよ」

一瞬だけ憎しみの籠った目になる伶麻。


あいつはただの友達だ、と言おうとしたけれど彼が放つ殺気がそれを言わせない。



「なんて怖い顔してんだよ。俺はいつものような伶麻の方が好きだ」

小さく笑って言ってやると、彼は我に返ったかのように目を見開いて俺を見下ろしていた。


「ご、ごめんなさい…」

急いで腕の縄を解き俺にすがり付いてくる伶麻。


既に伶麻に殺気なんてものはなく、くっついてくる可愛らしいいつもの伶麻だ。さっきのは何だったのだろうか。


「僕、尚を守りたかっただけなんだ。だからお願い…嫌わないで…!!」

今にも泣きそうな顔をして伶麻は俺に訴え掛けてくる。


「嫌わねぇよ、馬鹿」

腕が自由になった為、彼の頭をくしゃくしゃと撫でながら笑ってみた。


「僕が尚を守るからね」

痛いぐらいに抱き締められる。


前まではこんなこと言う奴じゃなかったのに。しかも俺を守るって…何から守るっていうんだ?恒誠がどうのこうの言ってたけど。まだ恒誠が俺にした悪い冗談のことを根に持っているのだろうか。…いや、人のこと言えないな。伶麻がもし他の誰かとキスしてたら怒る。



「家に帰るか」

伶麻の腕を掴み立ち上がって上着を着る。ホテルを出て道を歩いていると彼が口を開いた。


「僕、まだ帰りたくない」

帰ったら夜まで一人だもん、と。


「じゃあ家来るか?今日皆出掛けてるから俺も家で一人だし」

そう返すと伶麻は嬉しそうに俺を見て大きく頷いた。



------



尚、怒ってないかな。腕縛っちゃって…痕付いちゃったし。どうしても不安がなくならなくて、尚を繋ぎ止めたら安心出来る気がした。いざ縛ってみたら“尚は僕のもの”って感情が溢れ出して どうにもならなかった。

きっとこれが独占欲というものなんだろう。彼を閉じ込めてしまいたくなる。誰の目にも触れさせず、僕だけを見て、僕だけと話して。僕の為だけに生きて。そんな考えを押し殺して尚の家に向かう。


尚の家に着いた。彼は玄関を開けて先に入るよう促す。そんな時、よく知った声が聞こえた。


「伶麻!」

二人の男の人の声。

嗽兄ちゃんと磬兄ちゃんだった。


「お前、どこ行ってたんだよ!」

嗽兄ちゃんが僕の肩をがしりと掴み叫ぶ。


「心配したんだぞ」

磬兄ちゃんは不安げな表情を僕に向けている。


二人はぱっと僕の隣に居る尚を見た。今にも掴みかかりそうな二人を止める。



「この人は悪くないんだ!同級生なんだよ」

慌てて言うと兄ちゃんたちはぽかんと口を開いていた。


「初めまして、松本尚といいます。伶麻の友達…です。俺が連れ回しちゃって…だから伶麻を責めないであげてくれませんか?」

僕の隣の尚が僕を庇って言う。


「僕が行きたいって言ったの。雨も降ってたし…」

そう言うと兄ちゃんたちが溜息を吐いた。


「……それなら仕方無いか」

磬兄ちゃんは頭をガシガシと掻きながら呟く。


「ほら、帰るぞ伶麻」

ぐいっと引かれる腕に、思わず尚の服を握り逆らう。


まだ尚と居たい。離れたくない。兄ちゃんたちに心配かかるのは分かってる。でもまだ もう少し。



「すいません、俺の家ここで 伶麻が忘れ物しちゃったんです」

反対側の腕を尚が掴み引き留める。


「え、ここ尚くんの家?」

磬兄ちゃんがきょとんとしながら尋ねた。それにこくんと頷く尚。


「荷物取ったら帰って来いよ」

ぱっと腕が離され二人は家へ向かう。早く帰っておいで、と磬兄ちゃんが言い残していた。



「あの二人、伶麻の兄貴なんだな」

僕の腕を離してから尚が言った。


「うん、そうだよ」

尚の家に入りながら話す。


兄ちゃんたちに見付かったからあまり長居出来なくなっちゃったな。尚と離れたくない。そんな思いを巡らせ彼に抱き付いた。驚いた様子で振り返り、僕を見る。


「尚…一緒に居て」

寂しい。兄ちゃんたちと一緒に居ても寂しさは埋まらない。尚じゃないと意味が無いんだ。


「でも兄さんたち、早く帰って来いって言ってたろ」

ぐしゃぐしゃと髪を撫で回し別にずっと会えない訳じゃないんだから、と言われる。


「…うん」

ぎゅっと抱き付いて答えた。離れたくない。でも家が近いから直ぐ来られる、そう自分に言い聞かせ彼から離れる。


僕は帰ろうとして扉の方を向く。するとドアノブに掛ける手に手が重ねられる。ゴツゴツした大きな手。細く長い指。

そして振り向くと不意にキスをされた。優しく でも激しいキス。離れようにも手首を掴まれて思うように動けない。



「…っん」

口の隙間から吐息が漏れる。


やっと離してもらい、荒い息遣いで彼を見上げる。


「じゃあ、また明日」

そう言いガチャリとドアを開ける彼に言った。


「僕が尚を守るから」

それを聞いて尚は苦笑していた。


そうだ。尚は僕が守る。誰にも渡さない。絶対に離さない。大切な 大事な 大好きな 愛しい尚。尚に近寄る邪魔者は僕が退けてあげるからね。

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