デート
今日は尚と初デート。適当にその辺にあった服を選んでいると、漱兄ちゃんに呼び止められた。
「伶麻はこれが似合うと思う」
彼が見せてきたのは肩が露出するような服。下にタンクトップを着るといいらしい。それに七分のズボン。試しに着替えてみた。
「…伶麻、滅茶苦茶可愛い」
馨兄ちゃんまでそんなことを言い出す。
「変、じゃないかな?」
思わずキョロキョロしてしまう。
「大丈夫、伶麻可愛いから」
くしゃくしゃと漱兄ちゃんが頭を撫でてくる。
「僕、男子なんだけど…。あ、そろそろ行かないと」
急いで玄関へと向かう。
「行ってらっしゃい」
「気を付けてな」
二人の兄が見送ってくれる。僕はそれに行って来ます、と返した。
外に出ると尚がぼーっと佇んでいた。その大きい背中にぎゅっと抱き付く。彼は驚いた様子をしながらも僕の名前を呼び、大きな手で頭を撫でてきた。
「尚の身体、冷たい」
抱き付きながら言ってみる。
「そうか?早めに来て待ってたからかな。…伶麻は温かい」
そんな風に言って僕の身体を抱き寄せてくる尚。
胸元から聞こえる微かな尚の鼓動。どくんどくんと鳴り響いている。僕の心臓もずっと鳴り止まない。尚に近付けばよりいっそう速まる。
「さて、温まったし行くか」
尚はそう言い僕の手を軽く引いて歩き出した。
優しい尚の手。大きくて、ゴツゴツしてて、でも優しい。その冷たい手を握って歩き出す。
「何か雨降りそうだな」
歩きながら空を見上げ言う尚。
「曇ってるもんね」
僕もぼーっと空を見上げてみる。
せっかくの初デートなのに、雨なんて降らないでほしい。第一、傘持ってないし。…まあ、もし降ってきたらどこかで雨宿りしよう。
そんなことを考えながらゆっくり歩いていると、見知った声が聞こえた。
「あれ、尚?」
空からその声の主へと視線を落とす。
「…恒誠」
キョトンとして尚が呟く。
「二人して何してんの」
僕を見てあからさまに不機嫌になる恒誠。
「んーと…デートだけど」
尚は苦笑しながら繋いだ手を見せ付ける。
「学校以外でもずっと尚にくっ付いてんだな、そいつ」
恒誠が僕を微かに睨み言い放つ。
「そ。仲良いからな」
そんな嫌みにさらっと言ってのける尚。
それを聞きムッとしてからじゃあな、と言い残し僕等を通り過ぎようとする恒誠。
通り過ぎる瞬間、僕にしか聞こえないように彼は言った。
“――お前と尚じゃ釣り合わない”
僕はどう反応すれば良いのか分からなかった。僕が尚に釣り合わない。そんなこと知っている。でも尚が許してくれてるから傍に居られるんだ。
皆に親しまれる尚と誰からも疎まれる僕。釣り合うはずがない。一緒に居ちゃいけない。
そう考えると、いつの間にか勝手に走り出していた。尚の傍に居ちゃ駄目だ。僕じゃ駄目なんだ。
走り出すと後ろから尚の呼ぶ声が聞こえた。けれど僕は振り向かず必死に走る。
どこまで走っただろう。沢山走って疲れた。思わず近場にあったベンチに寝転がる。冷たい。寒い。ああ、そうか。尚が隣に居ないからだ。尚の隣は暖かくて 心地良くて 安心する。
「尚…寒いよ…」
目を閉じると自然と涙が零れ落ちてくる。
するとバサリと何かが身体を覆う。暖かい。何だか尚の匂いがする。
「…こんな所に居たのかよ」
疲れきった溜め息混じりの声が聞こえた。
目をうっすらと開いてみる。するとそこには尚の姿が。僕の身体には彼の上着が着せられていた。
「尚、何でここに……んぅっ」
尋ねようとしたら唇が重ねられた。熱い唇。
唇が離れ見上げると尚の熱を帯びた瞳が僕を見ていた。
「勝手に居なくなるな、馬鹿」
少し怒ったような口調で言われる。
「…ごめんなさい」
座って目を逸らしながら謝った。
「何か恒誠に言われた?」
不安げな表情で彼は首を傾げている。
「………別に、何も」
心配させないように笑ってみせた。言ったらきっと尚は恒誠に何か言うつもりだろうから。
「俺の前では無理に笑わなくていい」
素の伶麻が好きだから、と真剣な顔で訴える尚。
涙を堪えていたのに尚のその一言に一瞬で溶かされてしまった。一気に思いが込み上げて涙が溢れ出す。
「…っ…」
ボロボロと流れ落ちる涙。それを尚が拭ってくれる。
「俺の前でだけは偽らなくていい」
優しいあの手で撫でられて余計に涙が止まらない。
けれど僕はそんな彼に言い放つ。
「僕と尚は一緒に居ちゃ駄目なんだよ」
彼の胸板を押し返し言う。
「何で?」
ゆっくりと話を聞いてくれる尚。
「…釣り合わないから」
自分で言っておきながら胸が傷む。
「そういうの、一緒に居ちゃいけない理由になんの?好き同士だから付き合ってんじゃん」
真剣な眼差しが僕に向けられる。
「で、でも…」
あたふたしながら言葉に出来ずにいる。尚の言うことは最もだ。
「どうせ恒誠にでも言われたんだろ。そんなので揺らいでどうすんだよ」
思わず図星を突かれる。
「俺はお前が好きなんだよ」
不意に僕の身体は尚に包み込まれた。
「え、あ…尚?」
恥ずかしさで何を言っていいか分からない。
「こういうことされるの嫌だったら突き放して」
それを聞き僕は彼の背中に手を伸ばし引き寄せた。強く抱き締めてくれる。
温かい身体 優しい手 真っ直ぐな瞳―――…。いつも僕を守ってくれる。僕も尚を守らなくちゃ。
「あ、雨」
僕が落ち着いて尚と一緒にベンチに座っていると、雨粒が当たった。
「雨宿りするか」
ぐいっと腕を引っ張られ僕はそれに着いて行く。
屋根のある建物まで走った。結構降っているから二人共びしょ濡れだ。冷たい雨に濡れて寒い。
「このままだと風邪引くな。とりあえずここに……」
尚は建物の中へ入ろうとしたがくるりと引き返した。
「入らないの?」
何故彼がそんな行動をしたのか理解出来ずに尋ねてみる。
「…そこはラブホです」
顔を赤らめてボソッと呟く尚。
らぶほ…?何だろう。何だかお洒落な建物だけど。
「でもまあ仕方ないよな…このまま放置してたら風邪引くし」
彼はぼそぼそと独り言を呟いている。
すると彼は僕の腕を掴みラブホという場所に入って行った。何だか綺麗な場所だ。
案内されて部屋に入る。広くもなく狭くもなく僕にとって結構良い部屋だと思う。
上着を脱いでハンガーに掛ける。暖房を入れ乾かそうとしてみる。
何だか寒いと思ったら漱兄ちゃんが選んだ肩出しの服のせいだった。上着を脱いだら尚は僕を凝視している。
「…何?」
首を傾げつつ聞いてみた。
「いや、伶麻にしては露出度高い服着てるなあと思って」
背後からぎゅっと抱き寄せられる。冷たい身体が触れ合う。
「寒いよ」
思わず身体がピクリと跳ね上がってしまう。
「あ、ごめん。風呂入って来い。多分服あると思うから」
パッと身体を離し風呂場へ行くように促される。
風呂場まで綺麗だ。籠の中に服まで用意されてある。僕は着替えがあるのを確認してから風呂場へと足を踏み入れた。
よく考えてみると今は尚と二人っきり。ラブホというよく分からない場所で。
無知な僕は何も知らない。
風呂を出て置いてある着替えを見てみる。
「…え」
僕は目を疑った。
白くてふりふりした可愛らしい服。しかも下着まで用意されて…。他に服は無いのかと探してみたけれど、それしか無かった。裸で居る訳にもいかないので着てみた。
案外サイズはぴったりだ。しかし丈が短めで下着が見えそうな服だ。靴下もあったので履いてみた。
「尚、次お風呂………何?」
タオルで髪を拭きながら部屋に戻ると尚が僕を凝視していた。
「おまっ、何でそんな格好…」
ぱっと顔を背け彼は言う。
「だってこれしか無かったんだもん」
仕方ないよ、と言いながら服を引っ張り丈を伸ばそうとしてみる。
「…風呂、行ってくる」
口元を手で覆いながら尚は風呂場へ向かった。
暇な僕はベッドに寝転がりゴロゴロ転がってみる。大きなベッドだ。ふかふかして気持ち良い。いつも寝る時は布団だから何だか新鮮だ。
何か喉渇いたなあ。そんなことを思っていると部屋に冷蔵庫があることに気が付いた。開けてみてとりあえず適当に飲み物を手に取り、ごくごくと飲み干す。
「……あれ?」
何故だろう。頭がぼんやりして身体が熱くなってきた。
「…伶麻?」
振り向くと尚が上半身裸で佇んでいた。
「尚だぁ」
急に彼が愛しくなってぎゅっと抱き締める。
「どうしたんだよ」
そう言いつつも嬉しげな尚。
「えへへー。あのね、これ美味しいんだぁ」
さっき飲んだ物の空になったものを見せる。
「これ酒だぞ。しかも媚薬入り…って…」
それを手に取って尚は驚いた表情を浮かべる。
「どしたのー?」
僕は尚に擦り寄って尋ねる。
「お前酔っ払ってるじゃん」
彼が僕の肩をがしりと掴み目を合わせてきた。
確かに何だかふらふらする。身体も熱い。お酒なんて初めて飲んだけれど、甘くて美味しかった。
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風呂を出ると伶麻の様子が何だか変だった。よく見ると手には空の酒が入っていたであろう入れ物。しかも成分には媚薬と表記されてある。
恐らく女物であろう服を伶麻が着ていて更に酔っ払っている。凄く可愛らしい。短めのワンピースのようだ。白くてふりふりの。不謹慎かもしれないが似合っている。
「尚ー…」
何を思ったか伶麻は首筋にキスをしてきた。
「なっ、れ、伶麻!?」
思わず動揺してしまう。
「良い匂い」
そして突然首をかぷりと甘噛みした。
「……っ伶麻」
どくんどくんと心拍数が上昇する。
素肌が伶麻に触れる。彼は半裸の俺にぎゅっと抱き付いてきた。そんな彼の頭を優しく撫でてやる。
「尚、何か僕変なの」
「変…?」
どういうことか分からないので尋ねてみた。
「身体、熱くて…」
もじもじしながら呟く伶麻。
「ここが…変なの」
真っ赤になりながら言うと俺の手を掴み自分の下半身へと当てがう。
「触ってほしいの?」
クスッと笑み言った。彼は更に赤くなりこくんと頷く。
ゆっくり服の上から触れてみる。熱っぽいそれは少し固い。
「ベッド座って」
そう言うと彼は大人しくベッドへと座った。
「んっ…ぁ」
座った彼の前に跪き再び服の上から撫でてやる。
「スカート捲って持ってて」
指示するとちゃんと言うことを聞く伶麻。
両脚を掴み足を開かせる。下着越しにモノを舐めてみた。舌を動かす度に彼の身体がビクビクと跳ね上がる。
「な、お…」
彼は捲ったスカートをきゅっと握り締めながら俺の名前を呼ぶ。
「ん?」
一度動きを止めて顔を上げた。
「ちゃんと触ってくれなきゃ…やだ」
赤い顔と潤んだ瞳で訴えかける伶麻。
俺はそんな彼にベッドにうつ伏せになるよう促す。大人しくうつ伏せになった彼の腰をぐっと持ち上げ服を捲り上げる。
「女の子みたいだな」
クスリと笑って言うと伶麻は顔を真っ赤にした。
「男の子だもん…」
悔しそうに呟く伶麻。
「知ってる。だってちゃんと“コレ”付いてるもんな?」
下着の上から彼の半身を指先でなぞってみる。
「ぁ…っつ」
彼はピクンと身体を跳ね上げ小さく甘い声を出す。
「触ってほしいんだよな」
どうしても意地悪したくなってしまう。伶麻が可愛過ぎるから。
「お願い、早く…っ」
もう耐え切れない様子の彼の下着を脱がして自身を直接触ってやる。火照って熱くなった身体同士が触れ合う。
「あ、ひぁっ…!!」
小さな声で喘いだかと思うと俺の手に伶麻の蜜が吐き出される。
蜜の付いた指を彼の中にゆっくりと入れてゆく。つぷ…と粘着質な音が部屋中に響く。容易く指が二本も飲み込まれてしまった。
中で指をばらばらに動かしてみる。動かす度に伶麻の身体がピクピク跳ねる。不意に奥へと指を突っ込む。
「や、んぁ」
伶麻の腰がガクガク揺れる。
「気持ち良い?」
尋ねながらしっかり腰を支えてやる。伶麻はそれにこくりと頷いた。
指を抜いて俺の自身を当てがった。そのまま一気に奥底まで突く。いやらしい音が鳴る。
「駄目、動いちゃ…駄目」
シーツをキツく握り締め伶麻は訴えてくる。媚薬入りの酒を飲んだせいかいつもより感じている彼はいつも以上に可愛い。
「それは聞けねぇ」
彼の腰を掴み動き始める。
「んっ…ぁ、は」
苦しそうな でも快感に溺れている伶麻は呼吸を乱している。
「伶麻、ゆっくり息して」
そう言って彼の頭を撫でた。すると言葉に従い呼吸を整えようとする伶麻。
腰を動かす速度を徐々に速めていく。俺も限界が近いようだ。
俺が果てると共に伶麻も欲を吐き出す。
「…ごめん、かかっちゃったな」
服を整え置いてあったタオルで彼の身体やシーツを拭く。
「ん、大丈 夫…」
寝転がりながらそう呟いた。まだ荒々しく息をしている。
寝転んでいる伶麻の傍に座り頭を撫でてやった。彼は俺の方を向きてを握ってくる。その手にキスが落とされる。
不覚にもドキリとしてしまった。何度も何度もキスをする。柔らかな唇が手に触れていて心地良い。
「尚、まだ…変な感覚」
起き上がって熱を帯びた瞳で俺を見つめる。
「じゃあコレ使ってみれば?」
俺が彼の前に突き出したのは所謂 大人の玩具。
「何これ」
予想通りキョトンとしている。
足を開くように促しまだ濡れているそこに玩具を入れてゆく。それは容易く飲み込まれてしまう。スイッチを入れると彼の中で振動が響き始める。
「ひっ、ぁあ…!」開いていた足を閉じようとしているのを防ぐ。
既に先走って蜜が溢れている。俺はそれを口に含みながら玩具の振動の強さを強めた。
「これ、変…っぁ」
伶麻は俺の頭を押し付けて言う。
「もうイっていいよ」
そう言い振動を更に強めた。
「んっ…あぁ!!」
勢い良く彼の蜜が口内に流れ込んでくる。俺はそれをゴクリと飲み込んだ。
スイッチを止めて玩具を取り出す。伶麻の蜜がねっとりと付着している。彼は疲れたのかぐったりと横になった。
どうやら眠ってしまったようで寝息を立てている。俺は乾かしておいた服を着て伶麻の服も着替えさせる。
着替えさせたものの、どうしても伶麻の身体に目がいってしまう。そう、あの肩が露出している服だ。色白い素肌と痩せた身体。細い鎖骨が妙に色っぽい。首筋がとても綺麗に見える。
触れたい。キスしたい。抱き締めたい。そんな思いを掻き消して伶麻の隣に寝転んだ。
雨は止んだのだろうか。窓の無いこの部屋からは分からない。そもそも雨宿りする為に仕方なく入っただけなのにこんなことになるなんて…まあ恋人同士だからいいんだろうけどさ。
雨が止むのを待つだけ、と思っていたらいつの間にか眠ってしまっていた。