おにいちゃんって よばないで
アーさんの すまいは おにいちゃんのへや
おひさまのひかりが いっばい あったかいの
だから ちくわさんは まいにち ぼくをくわえて ごしゅっきん
マリちゃんの おへやからだと すぐだけど
ごはん ごしょうばん したあとは
かいだんのぼって アーさんのうえまで はこんでくれたよ
そして ぽかぽか ぬくぬく しながら おはなしするの
【ケンちゃん きのうは オトモダチと ケンカして くやしいくやしい しくしく だったのよ】
アーさん しおしお しょんぼり
しんぱい なんだって
【ケンはなあ。フクザツだからなあ】
フクザツ?
ぼくと アーさんの あたまのなかに はてなが うかんだ
【ケンはな。パパとママの、はじめての、アカンボウだろう?】
うんうん
ぼくと アーさんは はいちょうする
まちにまった アカンボウ。
みんな おおよろこびで
ケンちゃんを だいじだいじ してたんだって
もちろん ちくわさんもね
【ケンは、このいえのイチバンだった。このおうちの、おうさまだ】
おうさま?
いちばん えらいひとのことよって アーさんが おしえてくれた
【ところが、マリがうまれて、ようすがかわっちまった】
あるひ とつぜん
ちいさなマリちゃんが あらわれた
みんな かわいい かわいいねって
おおよろこび
でも ケンちゃんは
そう おもえない
あかい しわしわ
なんか こわい
なんか やだ
かわいいは ぼくなのに
ぷうっと ケンちゃんが ほっぺたふくらませても
だれも きにしない
ケンちゃん きょうから おにいちゃんだよ
このこは マリちゃん
イモウトだよって いわれて
ケンちゃん だいこんらん
イモウト って なに
イモウト
ぼく いらないよ
いらなってば!
いつも みんな ケンちゃんを みて
いつも みんな ケンちゃんの こえを きいていたのに
じわじわと かわっていく
【ケンは、ちいさなあたまで、いっぱいかんがえたよ】
みんな どうして?
ぼく ここにいるよ ねえ
ぼく いないの?
ばく いらないの?
みんな イモウトがいいの?
ケンちゃんのなかに まっくろな かいじゅう びょこんと はいっちゃった
かいじゅうさんの おなまえは ふへいふまん さんって いうんだって
【だんだん、げんきなケンじゃなくなってきたのに、みんなはきがつかない】
イチバン だったころの ケンちゃんの おかおは
まるで おひさま みたいに ぴかぴか きらきら していたんだって
なのに マリちゃんが やってきてからは
どんより くもりぞら
むすっと おくち とがってる
なのに
ちょっとまってね
マリちゃん おなかすいたって
ちょっとまっててね
まりちゃん おねむだって
ちょっとまっててね
おにいちゃん
いやだ まてない!
ぼくが イチバンなのに どうして?
だって マリちゃん あかちゃんだもの
だって ケンちゃん おにいちゃんだもの
いちばん ききたくない ことば
【それで、ケンは はれつした】
おにいちゃん いやだ!
イモウト だいきらい!
イモウト あっちいけ!
ケンちゃんは マリちゃんのおくるみ ひっぱった
これぼくの
ママもぼくの
パパも ばあばも じいじも ハナちゃんも
おうちのなか みんな ぼくのなの!
ケンちゃんは ないて ないて わんわん ないて
おうちのなかは だいこんらん おおあわて
みんなで ケンちゃん よしよし ごめんね したんだって
【それから、ママたちなりに きをつけちゃいるけど。こればっかりはな……】
ケンちゃんは おにいちゃんで
まりちゃんは イモウト
きまっちゃってるの
かえられないんだよ って
ちくわさんはいう
ぼくとアーさんが ぬいぐるみで
ちくわさんが ねこ
なのと おなじなんだって
そうかあ
ぼくには ちょっと むずかしい
ケンちゃんは いまも いやなのかな
おにいちゃんって つまんないのかな
ちょっと かわいそうね
ところで
けんちゃんのなかの くろいかいじゅうさんは
いまも おなかのなかで のしのし おげんきで
ときどき がるがる ぎゃおうって あばれるんだって
【ドラドラ、おまえ、ときどき ぽこんって やられるだろう?】
なるほど
あれは くろいかいじゅうさんの しわざ でしたか
なるほど




