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【証拠はいらない】頑張っているのに評価されない

作者: Wataru
掲載日:2026/02/21

 事務所のドアが、ゆっくり開いた。


「……相談、いいですか?」


 入ってきた男性は、どこか疲れた顔をしていた。


 机に足を投げ出していた俺は、軽く手を上げる。


「どうぞ。失恋でも仕事でも、人生相談でも」


 横から声が飛ぶ。


「それが人の話聞く態度?」


 相棒だ。


 仕方なく足を下ろす。


 男性は椅子に座るなり言った。


「頑張ってるのに、評価されないんです」


 視線は下を向いたまま。


「残業もしてますし、仕事も引き受けてます」

「でも評価されるのは、いつも別の人で……」


 言葉が詰まる。


「正直、やる気がなくなってきて」


 しばらく黙ってから、俺は聞いた。


「評価されたら、満足する?」


 男性は少し驚いた顔をする。


「……え?」


「上司に褒められて、昇進して、給料上がったら終わり?」


 男性は考え込む。


「……いや」

「たぶん、次はもっと上を目指すと思います」


「だろうな」


 相棒が静かに言う。


「評価って、もらってもすぐ次が欲しくなるものよ」


 男性は、はっとする。


 俺は続ける。


「他人の評価ってのはな」

「終わりがない」


「今日は評価されても、明日は不安になる」

「また抜かれるんじゃないかってな」


 沈黙。


「じゃあ、どうすれば……」


 男性が絞り出すように言う。


 俺は窓の外を見ながら答える。


「自分で決めろ」


「……何をです?」


「今日の自分、納得できるかどうか」


 静かに言う。


「サボったと思うなら、やれ」

「やれるだけやったなら、それで終わりにしろ」


 相棒が付け加える。


「他人の点数表で生きてると、一生休めないわよ」


 男性は、しばらく黙っていた。


 やがて、小さく笑う。


「……確かに」

「評価されても、不満は消えなかったです」


「だろ?」


 男性は立ち上がる。


「なんか、少し楽になりました」


「上出来だ」


 頭を下げ、部屋を出ていく。


 ドアが閉まる。


 俺は椅子にもたれかかる。


「解決したか?」


「してないわよ」


 相棒はコーヒーを口にする。


「でも、自分で終わらせる方法は分かったんじゃない?」


 少し間。


「……それで十分だろ」


 湯気が、ゆっくり揺れていた。


 他人に認められる証拠なんて、

 いくら集めても足りない。


 自分で納得できるなら、それでいい。


 それが分かったなら――


 もう、証拠はいらない。

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