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無知の不知

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/06

昼休みの教室で、誰かが言った。

「学校の先生ってさ、社会経験ないんだよ。だから言ってること薄いよね」

周りは「分かるわー」と適当に乗って笑う。

私はその笑い声を聞きながら、心のどこかがひやりと冷えるのを感じていた。


社会経験。

それを知らないはずの高校生が、まるで人生の答えを知ったような顔で語るのが、どうにも滑稽だった。

先生は家から学校へ直行して、何十年も狭い世界だけを見て生きてきた人間だと、彼らは当然のように決めている。

まるで自分たちは広い世界を知っているかのように。


だけど、本当は逆なんだと思う。

狭い世界でしか生きていないのは、私たちのほうだ。

十七年程度の人生を振りかざして、誰かを見下そうとする浅さが、私は嫌いだった。


先生は社会経験がない?

じゃあ、毎日何十人の生徒と向き合って、心を読み取ろうとしているのは、経験じゃないのだろうか。

大人になっても忘れられない言葉を、何気ない授業中に放ってくれた先生のことを、私は知っている。

怒られて泣いた日の、あの説教のたどたどしい優しさを、私は知っている。


「先生は世間知らずだから」と言い切るあの自信はどこから来るんだろう。

自分は社会を理解している、と勘違いできるほどの材料なんて、この狭い校舎の中にあるはずもないのに。

アルバイト一つ経験した程度で、世の中を知った気になれる、その幼さこそが、私はどうしようもなく嫌だった。


先生が教えてくれたことの価値を、自分がちゃんと理解できる日は、いつか必ず来る。

その未来を想像する力がないから、彼らは今を笑うのだと思う。

笑ってしまえば、自分の未熟さを見なくて済むから。


チャイムが鳴って、先生が教室に入ってくる。

さっきまで先生を笑っていた子が、何もなかったように机に向き直るのを見て、私は小さく息を吐いた。

嫌いなのは、先生を笑うことそのものじゃない。

自分より長く生きている人間に対して、何も知らないくせに上からものを言える、その浅い自分を疑いもしない無邪気さだ。


黒板にチョークが走る音がして、授業が始まる。

私はノートを開きながら、心の中でつぶやく。


本当に社会経験がないのは、誰なんだろうね。

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