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不健康ランド

作者: 村崎羯諦

受付①「ようこそ、不健康ランドへ! どのような不健康をお求めでしょうか?」


客①「えっと、実は一昨日の金曜日に結構でかいやらかしをしてしまって……明日出社したらきっと怒られちゃうと思うんです。なので、ギリギリ出社できるレベルの風邪を引いて、そこまで強く怒られないようにしておきたいんですが、できますか?」


受付①「もちろん可能です。本施設の2階に風邪引き部屋というものがありますので、そこでどれくらいの程度の風邪を引きたいかを言っていただければ、本施設の専門スタッフがご要望通りの風邪を引かせて差し上げます」


客①「ありがとうございます! 助かります!」


受付②「こちらが施設の案内になります。館内に服装のルールはありませんし、施設利用中も自由に外出が可能です。ぜひごゆっくりお楽しみください」


受付①「次の方どうぞ」


客②「数年前に鬱病を発症したことがあるんですが、その時に妻や息子夫婦から生まれて初めて優しくしてもらったんです。今は状態がよくなりつつあるんですが、あの時の優しさが忘れられなくて……。また以前と同じくらいに戻りたいんですが、精神的な不健康も取り扱ってますか?」


受付①「他では取り扱ってないことも多いんですが、本施設では精神的な不健康も取り扱っています。別館全体が精神的不健康フロアとなっておりまして、一階に鬱病発症サポート施設がありますのでそこで詳しい説明を受けてください」


客②「ありがとうございます。我ながら卑怯だとは思うんですが、やっぱりどうしても優しくされたいんです」


受付②「こちら施設の案内です。ごゆっくり」


客③「来週運動会なんですが、馬鹿にされているのが出たくないんです。ここで骨折することってできますか?」


受付①「もちろん可能です。ただ、お客様は18歳以下ですよね? 未成年の場合には保護者の同意書が必要なのですが……」


客③「あ、それは大丈夫です。うちの親もいいよって言ってくれているので。これは親から預かってきた同意書です」


受付①「これは失礼しました。骨折は本館3階にございますので、そちらで骨折したい箇所をご相談していただけたらと思います」


受付②「ごゆっくり」


受付①「はー、疲れた。とりあえず来館者は捌けたな」


受付②「そうですね」


受付①「……」


受付②「……」


受付①「……」


受付②「それにしても未成年でここに来るなんて今時の世代って感じですね」


受付①「こらっ! 聞こえるぞ」


受付②「大丈夫ですよ。ちゃんと周りを確認してから言ってますから。それにしても、ここで働く前は一体誰がこんな施設利用するんだって思ってましたけど、よくもまあこんなにお客さんがやってきますね」


受付①「健康でいたい人の方がもちろん多いんだろうが、それと同じくらい不健康になりたい人も多いってことだよ」


受付②「はあ」


受付①「俺もな、疲れてヘトヘトになって帰ったら、妻と子供がお疲れ様って労ってくれるんだ。その一瞬のためにこうして仕事をしてるってわけだよ」


受付②「そんなもんなんですかね」


館内スタッフ「すみません、宮本さん。本社から来月開始予定の新サービスの件で連絡が来てます」


受付①「ありがとう。今行く。来館者も落ち着いてきたし、ちょっと悪いけど一人で受付しといてくれるか?」


受付②「大丈夫です」


受付②「……」


受付②「それにしても宮本さんすごいな。もう五年以上この施設で働いているらしいし、頼れるベテランって感じだよな。いろんな仕事を押し付けられてるのに、何の不満も言わないし。いつも誰よりも早く職場に来て、誰よりも遅く職場から帰っているんだから。だけど、残業もとんでもない時間してるだろうし、いつも疲れてて、働きすぎが心配だよ」


スーツ姿の男「すみません。ちょっといいですか?」


受付②「おっと、失礼しました。ようこそ不健康ランドへ」


スーツ姿の男「いえ、私は客ではなくこういうものです」


受付②「え? 労働基準監督官?」


スーツ姿の男「この施設で残業時間超過の労働基準法違反があると申告があったので、抜き打ちの調査にやってきました。上の方を呼んでもらえますか?」


受付②「しょ、少々お待ちください。宮本さん! ちょっと来てもらえますか!?」


受付①「なんだ、そんな騒いで」


スーツ姿の男「初めまして。私、こういうものです。宮本……労働時間超過が疑われる従業員の名前一覧にそう言えばありましたね。あとで改めて確認させていただきますが、月に300時間以上働かれてますか?」


受付①「ええ、毎月それくらいは働いてますね。でも、それが何か?」


スーツ姿の男「それが本当であれば、明確な労働基準法違反です。こんな状況を許しているのは、言語道断です。ひょっとしてですが、あなたがこの職場の責任者ですか?」


受付①「いえ、違います」


スーツ姿の男「では、社員ですか?」


受付①「社員でもないです」


受付②「え、そうなんですか?」


スーツ姿の男「失礼しました。アルバイト従業員ですかね。ただ、労働法はアルバイト従業員に対しても適用されるので、アルバイトであれば許されるというわけではありませんからね」


受付①「えーっと……。色々と誤解がありそうなので、ちょっといいでしょうか?」


スーツ姿の男「なんでしょう? 法律違反なのですから、言い訳は通用しませんよ」


受付①「えっと、私はアルバイトでもないです」


スーツ姿の男「はい?」


受付①「社員でもアルバイトでもないので、別に労働基準法には違反してないと思います」


スーツ姿の男「社員でもアルバイトでもないとしたらあなたはなんなんですか?」


受付①「私は過労で不健康になるためにこの施設にいる一般客ですよ」

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