悪役令嬢ものの王子様と意識が入れ替わった件について
「ん?」
一瞬、思考が飛んだ。
「お前との婚約を……?」
状況が読めない。
「……???」
目の前には少しきつい顔をした美女が、鮮烈な赤色のドレスを着て、不思議そうな顔をしている。
いや、誰だよ。
そして、俺の腕に抱かれているのは、かわいらしい容姿をした青色のドレスを身にまとった美少女だ。
周囲を見渡すと、金髪や銀髪といった外国人の方が少し古いイメージはあるものの素敵なドレスやスーツを身にまとっている。
此処にいる全員がぱっと見だいたい同年代に見受けられた。
見受けられるだけで、俺からしてみれば似たような顔をしている。
ほら、白人は白人で似た系統の顔してるじゃん。あんな感じで、黄色人種の俺からしてみればちょっと判別がむつかしい。
「あの? 殿下……?」
赤い子がきつい顔を困惑に染めて、おずおずと話しかけてくる。
でんか???
俺は小市民でしかないんだが???
「え、う、ん、ふぇ?」
とにもかくにも、何が起こっているのかわからないが、知らない女性に触れたまま(それも抱きしめてる!)状況は俺の心情的にまずかったので、離してあげる。
「で、殿下……?」
でんか。
俺はバカではないので、その役職名が自分を指す二人称であることは理解できる。
だが、黄色人種で小市民な俺がなんだって『殿下』などと、美少女に呼ばれているのか、周囲が何で俺を見ているのか。状況が全く読めなかった。
「スゥーーーーーーーーー……。あ、え、ごめん、解散で」
俺は小声でそう言うと、その場を急いで逃げることにした。
わけわからない状況をわけわからないまま話を進めるのは危険だと判断した結果だった。
「ちょっ、殿下?!」
「お、お待ちください!」
とにかく訳が分からないまま、俺は逃げた。
一目散にダッシュした。状況も何もかも意味不明過ぎて、頭が沸騰しちゃいそうだった。
だが、そもそもパーティ?会場もそうだが、何も知らない場所である。トイレの場所なんてわかるわけがなかった。
「え、殿下?!」
通りすがりの甲冑の人に話しかけられたので、聞いてみることにした。
「ごめん、トイレどこ?」
「ふぁ?! と、トイレですか? そこを右に曲がって突き当りのところにございます」
「あんがと!」
俺はダッシュでトイレに向かう。
どこを歩いても豪華絢爛な場所だなぁなんて思いながらも、とにかく俺は男子トイレの個室に逃げ込むことに決めていた。
「お、あったあった!」
俺の知るトイレの標識マークと同じマークが書かれたトイレを発見。
●|●
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素早く男子トイレの侵入する。
ちらりと鏡に映った姿が金髪碧眼のイケメン外人だった気がするが、とにかく個室に駆け込んだ。
パーティの最中ということもあってか、個室は完全に空いていたので、俺は個室に入ると扉を閉めて鍵をかける。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
俺はウォシュレットがついていないトイレの便座に腰を掛けた。
おちけつおちけつ、おちついた。
とりあえず、意味が分からない状況には変わりないが、トイレの個室に入れた以上は落ち着いて考えをまとめることができる。
まずは、俺自身の事だ。
俺は……誰だろう?
いや、黄色人種が多く住む国の一般人で労働を対価に収入を得ていたことは覚えている。
別にブラックというほどでもなかったし、普通に営業をやっていたと思う。
だから、異世界転生をする理由がわからなかったし、そもそも元の自分がどんな名前だったかはわからなかった。
自分自身の情報はロストしているのに、経験や記憶だけが転移した感じ?
人格はそもそもこんな感じだったし、自認性別は男で変わらない。
少なくとも、俺は『殿下』と呼ばれるような大層な血筋の人間ではないし、ただの小市民で間違いないだろう。
次、現状把握。
俺はどうやら異世界転生したらしい。
それも、『殿下』と呼ばれるってことは、王様の子供である。
しかも、おそらく王位継承権第一位。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
意味が分からん過ぎて溜息出ちゃうね。
つまりは、今、『俺』の自認があるこの体には元の人格が備わっていたわけだ。
おい、俺! どこに行った!
自分に呼び掛けても無反応だったので、寝てるのだろうか?
つまりは、俺自身こいつの名前もわからないわけである。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……。マジか」
三度目のため息が出る。
自分の格好を見ると、白いスーツに金の装飾をしているものすごく金のかかってそうな格好をしている。まさに王子様という感じ。
動くたびにカチャカチャ音が鳴るし、使っている金色のチェーンを触るとひんやりと冷たいので、ダイキャストに金メッキではなくガチの金を使っている感じがする。
で、先ほどのパーティは、何のパーティだろう?
みんな着飾ってたし、全員若そうに見えた。イメージ高校の卒業式?
卒業記念パーティでものんきにやってたんだろうか?
で、体の主は直前まで、何かしらの注目されるようなことでもやってたのだろう。
女の子侍らせて何やってたんだ!
青い子も赤い子もそれぞれの違いはあるものの、ものすごくかわいかったし、何してんねん!
ドンドンドン!
トイレの扉が急に叩かれる。
「入ってますよー」
「ちょ! 殿下! お戻りください!」
「入ってますよー」
「いや、何のんきしてるんですか!」
「入ってますよー」
「開けて下さい!!!」
「入ってますよー」
俺だって、わけわからん状況に頭を悩ませてる最中なのだ!
入ってるって言ってるんだからおとなしく待っておけよ!
ドンドンドン!
うるさく何度もたたかれる扉。わけのわからん状況。
考えもまとまらねぇよ!
そもそも、この王子様、何をやらかしちゃったのかわかんねぇんだし!
ドンドンドン!
「うるさい! 入ってるって言ってるじゃん!」
「殿下!? なんですかその言葉遣いは?! とにかく、アリスティアと公爵令嬢が外でお待ちです! 出てきていただかないと!」
「誰だよ! さっきの赤いドレスの子と青いドレスの子? 解散って言ったじゃん!」
「殿下?! ちょ、本当に殿下ですか?!」
「わかんないよ!! とにかく、俺は出ていかないから!!」
「で、殿下!! 殿下!!!」
ドンドンドン!
外の奴うるさい!
トイレに逃げ込んだのは間違いだったかもしれない。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
寝てるんじゃねぇぞ、体の主! 殿下! なんで名前も知らない人物に成り代わらなきゃならんのだ!
ふと、そう言えばこの状況、WEB小説でよく見る光景だなぁなんて頭によぎる。
あー、なんか喉元まで出てきてるのになぁ……。なんだっけなぁ……?
ドンドンドン!
「殿下! ああもう! ライル! 頼むから出て来いよ!!」
ついに外にいる人の言葉が崩れる。
どうやら俺の体の名前は『ライル』とか言うらしい。愛称っぽいな。
「お前がサンジェルマン公爵令嬢との婚約を破棄するっていう話だったじゃないか! なんで破棄する前に逃げるんだよ!」
「はぁ?」
思わず声が出た。
それと同時に、のどから出かかってたものが、突っかかっていた小骨が取れるように思い出した。
「ああ! もしかしてこれ、悪役令嬢ものの王子様!?」
「何言ってるんだよ!? ほんとに!」
なるほどなるほど、だとすると合点がいく。
アリスティアって子がたぶん青い子で、主人公なのだろう。
そして、サンジェルマン公爵令嬢が赤い子だ。悪役令嬢だね。
わかった、これからざまぁされるのが『ライル』殿下というわけだな!
ははぁん、はっきりわかんだね。
外にいる奴に1145141919点あげたい気分だ。
「あのさぁ」
「なんだ、ライル」
「お前誰」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
個室の外からキレ散らかす声が聞こえる。
「なんで乳母兄弟の俺のこと忘れてんのぉ?! 記憶喪失するような場面なかったよなぁ?!」
「いや、知らんし。てか俺も誰よ」
「おい、出て来い! 殴ったら記憶戻るかもしれない!」
「痛いからやだね」
マゾじゃねぇし。
「教えろください」
「どういう言葉遣いだ! てか、そんな汚い言葉遣いをどこで覚えた!! 陛下が嘆かれるぞ!」
「いいから、そのまま教えろください」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
扉を叩く音が止み、深いため息が聞こえてきた。
「お前はラインハルト・エーデリウス王子。エーデリウス王国の王位継承権第一位。トイレの外に控えていらっしゃるのは、アリスティア・リリエンベルグ男爵令嬢。エリザベート・サンジェルマン公爵令嬢。現状は王立学園の卒業記念パーティで、アリスを婚約者として、サンジェルマン公爵令嬢との婚約を破棄しようとしていた。これでいいか?」
「ああー。オッケー把握」
状況についてはわかった。
完全に知らない小説の悪役令嬢ものだな。
「で、アリスティア・リリエンベルグ男爵令嬢をアリスと呼ぶあなたはだぁれ?」
「……本当に忘れたんだな。俺はラインハルト王子殿下の乳母兄弟のミハエル・アーティレイト。伯爵嫡男だ」
「ふぅーん……。やるじゃん」
「どういうリアクション?!」
ミハエルは俺と同様の攻略対象ということでFAだろう。
で、攻略済みと。やってんねぇ~。ハーレムルートかぁ?
「まあ、婚約破棄はなしです。解散。俺はもうしばらくトイレにこもってる」
「いや、いきなり言われても……。てか、そもそも宣言する前に逃げたから、破棄も何もないんだが。それに、公爵令嬢がアリスをいじめていた件はどうするんだよ」
「ほーん、知ってんの?」
「知ってるも何も、頑張っているアリスの教科書が燃やされていたり、公爵令嬢の取り巻きが階段から突き落として怪我をさせたりしてただろ? 前に問い詰めた時も、アリスにきつく当たってたし」
これ、本人は当たり前のことを注意していただけで、取り巻きが暴走したんだろうなぁ。俺知ってんだ。
てか、ハーレムルートって基本的に難易度が非常に高いことが鉄板だ。攻略サイトを見て意図してやらなければ無理ってレベル設定がほとんどである。
乙女ゲームやったことないから知らんが。
つまりは、アリスティア・リリエンベルグも転生者(しかもゲームの攻略者)である可能性もあるわけだ。
「なるほどねぇ~」
「……お前、本当にライルなのか?」
「知らんが、体はそうなんじゃないの?」
「……お前誰だ!」
「それも知らんよ。てか、なんであのタイミングで意識が切り替わるんですかねぇ」
「……………………わかった。とりあえずお前はそのままトイレに籠って居ろ。今の状況は俺が何とかするから。殿下じゃないお前が出ていくと、余計混乱しそうだ」
ミハエルはそう言うと、深いため息をついてトイレの外に出て行った、と思う。
しばらく静かになったからだ。
その後、またミハエルが扉をたたいた。
「体調不良ということで、帰ったことにした。とりあえず、事情聴取をしたいから、出てきてくれ」
「あいよ」
俺がトイレの個室から出る。
待っている間に身の振り方をどうするか考えていたからね。
で、外に出ると、まあ長髪の絶世のイケメンがいたわけですよ。メインビジュアル!
「うわっ! ミハエル君めっちゃイケメン!」
「嬉しくない誉め言葉をありがとう。見た目はそのまま本当に殿下なんだなぁ。まあいい。とにかく、会場から出るぞ」
そう言うわけで、俺は事情聴取を受けに別室に連れていかれるのだった。
俺ってこれからどうなるんだろう?
ラインハルト王子殿下君の意識は戻るよね?!
俺は慌てつつも、ミハエル君に連れられるままに会場内の別室に通された。
付いてきた護衛の甲冑さんは、部屋に入る際にミハエル君から。
「これから内密の話をする。国家機密に該当するかもしれないので、席を外すように」
と言われてすごすごと去っていった。
え、そこまでの話?って一瞬思ったが、よく考えれば他人が要人を乗っ取ったってやばい案件だなと思い至る。
「スゥーーーーーーーーー……」
テンパってしまった。
これ、ミハエル君に正体明かさない方がよかったんじゃね?
だがしかし、この異世界についての知識皆無で王子様ごっこなんでできるはずがない。
ラインハルト君! 早く起きてー!!
「そんな癖、ライルにはなかった」
「ア、ハイ」
ミハエル君にそう言われても、そもそも、ラインハルト君を知らない俺からしてみればどう答えたらいいかわからない。
そもそも、前世のアイデンティティすらない俺にどうしろというのだ。
「ひとまず、アリス以外の信頼できる連中だけは集めた」
そこは、イケメンパラダイスだった。
男の俺ですらイケメンと感心して負けを認めてしまうほど、イケメン度が高い連中だった。
全員攻略対象なんだろうなというのは、一瞬で理解したけどね!
「おいおい、ライル王子、一体どうしたんだ?」
「我々以外人払いとは、よほど重要な話のようですね」
「ただ、パーティの最中抜け出した挙句に僕たちを呼びつけるなんで、理由を知りたいよね」
順番に、赤い短髪の痩せマッチョなイケメン。
緑髪で右側の前髪だけ片目が隠れるくらい伸びている眼鏡のイケメン。
オレンジ髪で幼さが残るショタ。
全員がまさにパッケージ映えがするであろうメインビジュアルを飾るイケメンだった。
「スゥーーーーーーーーー……。ド、ドモ……」
俺の反応に、全員が困惑の表情を浮かべる。
営業していた時は、もっと年上のおじさん相手がデフォルトだった。
ただ、プライベートは割とコミュ障だったことを俺は思い出していた。
「……誰だこいつ」
そう言ったのは、赤髪君だった。
「そうなのだ。ラインハルト殿下は突然人格が変わってしまったのだ」
ミハエル君はため息をついて、そう説明した。
「はい?」
「……頭が痛い」
「ミハエル先輩、正気ですか?」
三者三様の反応を示すイケメンたち。
「俺は正気だ。正気じゃないのがこいつだ」
ミハエル君が俺の肩に手をのせる。
いや、俺自身は正気なんですがそれは。
「いやいやいや、ミハエル君。その前に彼らを俺に紹介してもらえませんかねぇ?」
「……ああ、そうだな。時間が無いので簡単に紹介するが、赤髪がディエン・フェルイン。フェルイン伯爵の嫡男であり、同時に騎士としても優れた実績を持っている」
「お、おう」
「緑髪がエイレス・アードルマイト。アードルマイト伯爵家の嫡男で、全生徒の中でも一番頭がいい」
「は、はぁ」
「橙髪はシューメルト・サンジェルマン。サンジェルマン公爵家の嫡男で、エリザベートの弟だ」
「……」
「はぇ~。そうなんっすね」
なかなか鉄板って感じの設定だなぁ。
「みんな、主人公に惚れているという認識でオケ?」
「主人公……?」
「な、なにを言ってるんだ、王子?」
「え、えーっと、……どうリアクションしたらいいかわからないんだけど」
「……はぁ」
ミハエル君の眉間に皺が!
「あ、主人公ってのはアリスティア・リリエンベルグ男爵令嬢のことね」
「ああ、まあ、そう言っていいだろう」
ミハエル君が同意してくれる。
「まあ、好きだからこそ、姉様よりも国母にふさわしいとおもったから、今回の騒動に僕たちも手を貸してたんだけれどね」
ショタ君が婚約破棄未遂騒動について教えてくれる。
「実際、アリス姉ちゃんは素敵で無敵な子だったし、嫉妬に狂う姉様は醜くて、我が姉ながら見てられなかったしね」
「アリスは自分は男爵令嬢だから、庶子の出だからって否定していたがな。俺らはあのアリスの器に惚れたんだよ」
「ええ、だからこそ、国母にふさわしいと、ライル王子に譲り、身を引こうと思ったわけです」
「なーほーね。って無理やり婚約させたらアリスティアさん困惑するだろ!」
思わずツッコミを入れてしまう。
「ふさわしいじゃねぇんですよ! そもそも王妃って仕事、アリスティアさんは理解でてんのかって! アリスティアさんの気持ちはどうなるんかって!」
「それがアリスのためになるだろうし、貴族は政略結婚するものだろう?」
「そうそう、それに、お前が一番乗り気だったじゃねぇか」
「……でしょうね」
婚約者が嫉妬で狂うほどなのだから、余程なのだろう。
俺、ラインハルト君の評価を落としちゃうよ?
「で、俺から切り出すのもなんだけれども、ラインハルト君に別人が入っちゃったけれどどうすんのよ」
「ごもっともではあるが、お前が言うな」
ミハエル君がまた眉間に皺を寄せる。
いや、一般庶子の出の俺に急に王子様をやれって状況も相当、俺自身も困惑してるんだが……。
「それ自分で言うんだ?!」
「……正気か」
「……頭痛がしてきた」
とりあえず、これからうまく動くためには情報が必要だろう。
別にラインハルト君がざまぁされるのはどうでもいいし、当たり前ではあるが王位とかどうでもいいけれども、元に戻った時に急に他国に出奔してましたとかなったらラインハルト君も困るだろうから、何とかする必要がある。
少なくとも、元に戻るまでは悪役令嬢に「ざまぁ」されるのは俺ではなく、ラインハルト君で無くてはならない。
……え、ラインハルト君戻ってくるよね?
「とにかく、ラインハルト君が戻ってくるまで現状維持するしかないでしょ。そのためにも、この婚約破棄未遂騒動を保留のまま乗り切らないと、ラインハルト君が戻ってきた時に困るからね。というわけで、状況を理解するためにも、これまでのあらすじを知っておきたいんだけれども説明できる人いる?」
「自分の事を『ラインハルト君』というのはやめてくれないか? 余計に混乱する」
「ほーん、なら、いったん俺のことはハルキーと呼んでもらえればいいかな。ラインハルト君と区別する意味でも」
「お、おおう……」
「とりあえず、簡単に、この騒動に至るまでのお話をしてくれませんかねぇ……」
俺がそう言うと、ショタが反抗してくる。
「なんでハルキーに説明する必要がある?」
「あん?」
「だって、ライル王子とは別人でしょ?」
「あんだお? やんのかお?」
「なんか腹立つ……」
「ライ……ハルキー、急にガン飛ばさないでくれ。シューも、今は協力してほしい」
ミハエル君にいさめられて、ショタは一旦矛を収める。
「とにかく、王子の人格が急に変わったというのは非常に問題だ。ハルキーも協力してくれるみたいだし、俺たちでなんとか隠し通すしかないだろう」
「でも、性格違い過ぎない?」
「そこは、演技を仕込めばどうとでもなる。外面だけまねてもらえればいいだろう」
「ふむ、だからこそ僕たちに要請したわけですね」
「ああ。アリスとサンジェルマン公爵令嬢を除けば、ライルの事をよく知っているのは俺たちだからな」
「うんうん、そういうことでよろしくなっ!」
俺がニッコリ営業スマイルをすると、全員がため息をついた。
「あんだお?」
「急にキレるな! ……はぁ。サンジェルマン公爵令嬢を問い詰める寸前だったから、まだ挽回は容易か。アリスについては、どうしたものか」
「まあ、しっかり抱きしめちゃったもんね~。気づいたら腕の中に女の子が居てビビった」
「いや、お前が抱きしめたんだろう?!」
「セクハラで訴えられないかなぁ?」
「せく、なんだって?」
細マッチョの赤髪が聞き返してくる。
「セクシャルハラスメント。最近コンプラ厳しいからね~」
「その、よくわからない単語の乱用はやめろ!」
この世界、セクハラ無いんか。
ただまあ、俺ごときが女の子に触るなんて女の子に申し訳が立たないので、今後は遠慮させてもらおう。
「まあまあ、というわけで、おにーさんに説明してチョ!」
「ライルの顔で意味不明な言葉遣いをしないでいただきたい」
緑眼鏡にそう注意されてしまった。
「……仕方がありません、それでは私の方から説明させていただきましょう」
というわけで、俺は緑眼鏡君からかくかくしかじかと今回の事の起こりについて説明を受ける。
はっきり言えば、非常にお粗末というか、ガバが多い。
この5人だけで動いていて、あの会場での宣言を既成事実化してしまうつもりだったようである。
バカかな?
緑眼鏡君、君って学校で一番頭がいいんだよね?
俺がそう聞くと。
「……殿下がすべて任せておけとおっしゃったので、根回しは殿下がされているものかと思ってましたが」
という人任せなお答えいただきました!
どうやら一番のおバカさんはラインハルト君だったようである。
「ミハエル君、ラインハルト君ってそういう根回しって得意なの?」
「……」
目をそらすミハエル君。
なーほーね、なんであの瞬間、意識が俺に切り替わったのかすべて理解した。
きっと、ラインハルト君がアホ過ぎて、このままだと逆ハーエンドが成立しないと神様が思って入れ替えたのだろう。
そうじゃないんだとしたら、ラインハルト君の体の主導権が俺に入れ替わる理由が思いつかないからね。
「な~ほ~ね、わがった!」
「な、何がですか?! 本当にわかったんですか?!」
「だいたいわかった」
疑わしいものを見るような目で俺を見てくるが、基本的な流れは悪役令嬢ものを履修している俺からすればわかりやすいテンプレだ。
ただ、悪役令嬢が転生者なのか、それとも記憶引継ぎ系なのか、主人公が転生者なのか、肉体乗っ取り系なのか、そこが気になる。
少なくとも俺はラインハルト君の肉体を代行して動かしているわけだが、これも乗っ取り系だろう。
「まずは、ラインハルト君の普段のふるまいをヒアリングして再現する必要があるかな。その後、アリスティアお嬢さん、エリザベート姫様から事情聴取をして、ゴールを設定する必要がある。命令系統としては王子様であるラインハルト君が上位になるから、二人とも事情聴取はできるだろう。もしかしたら原作を知っている転生者かもしれないし、アリスティアお嬢さんの知人に逆ハーレムルートに誘導した人物がいるかもしれないから、そこも聞いておきたいね。おっけーおっけー。ふふふ、面白い」
「ミハエル、君は彼が何を言っているかわかるかい?」
「いや、やるべきことは言っていると思うが、よくわからないな……」
「な、なんだか怖いよ……?」
やることが明確になれば、後はやっていくだけだ。
本当だったら計画書なりなんなりを書いて、脳みそに情報をとどめておくのをやめておきたいが、自分の国の言葉しか知らない俺がそんなものを書けば、証拠として残ってしまう。
……あれ、俺ってこいつらと会話できてるってことは言葉もわかるのか?
まあいいだろう。
ラインハルト君代行! ハルキー(自称)! いっきまーす!
まずは、この悪役令嬢もののストーリーを知る。それを第一目標に俺は動き出したのだった。
息抜きで勢いだけで書いたので、設定とかほぼないです。
続きも無いです。
気が乗れば追記していきます。