2.やっぱり無理、なのか?
「大丈夫…?清隆くん。あの、ごめんね。私が近くにいたばっかりに…」
「いえ、大丈夫です。このくらいなら毎日食らって…、何でもないです」
「毎日…?」
ここでまさかの大ピンチ到来!どうやってごまかすか。
下手に言い訳しても怪しまれるだけだし、ここは古今東西使われてきたあの手を使おう。
「それより、俺はそろそろ行かないといけないので」
そう、ごまかすのだ。
いかに自然な形でこの場から切り抜けるかが重要となるこの方法。
一歩間違えれば秘密がバレ、普通の学校生活を送るという夢が途絶えてしまう。
そんなことは避けなくてはならないので、自然に。そう自然に。
「あ、私も行かないといけないので一緒に行きませんか?」
「えっ?」
おっと、ここで生徒会所属の美女が切り込んできた!
どうする。ここで一緒に学校に行くなんて選択したら…。
間違いなく学校中の注目の的となってしまう。
そうなってはもう…。
「いえ、自分は一人で行きたいので。それでは」
無理やり会話を終わらせダッシュでその場から逃げるように立ち去る。
実際、逃げているが。
後ろの方で「待って!」と聞こえた気がしたが無視する。
こんな要注意人物と登校するなんてまっぴらゴメンだ。
さっきも、一緒にいただけで上級生から急に殴られ酷い目に合った。
少し強引に逃げてきたことだけが気がかりだ。
そんな事を思いつつもとりあえず、学校の方へと向かう。
頭の上には澄み切った蒼穹がどこまでも続いている。
………
……
…
教室内には沈黙が広がっている。
クラスの視線の大半が一箇所に集まっている。
そして、その視線の先にいるのは清隆こと藤ノ宮清隆である俺が立っている方向だ。
期待の眼差しを向けている人、冷ややかな目で見つめてくる人。
一体どうしてこうなったんだ…?
「え〜っと、藤ノ宮君。大丈夫かい?」
ここでクラスの中で取り分け目立ち、なおかつイケメンである高崎が声を掛けてきた。
彼はあまりにも僕が情けなくてつい情を掛けてしまったのだろう。
時は遡ること一時間半。
俺はいろんないざこざに巻き込まれながらも学校には遅刻せずに済んだのだ。
そして、特に何もなく朝のホームルームが終わり入学式へと向かう。
この学校はわりかし校舎はきれいな方だと俺は思う。
床にはしっかりとワックスが施されているが木の温かみを感じれる廊下。
教室は壁も天井も床もシミ一つなく汚れが全く目立たない。
体育館も同様、俺がいた中学校の倍ぐらいはある大きな空間が広がっていた。
校長先生が入場してくるとその場の空気は一気に重くなる。
中学校のときと同様、校長先生の長くてありがたーい話が延々と続く。
何故校長先生の話は内容がないわりには話が長いのか永遠の謎である。
「次は、生徒会長から激励の言葉です。
高度育成第一高等学校生徒会会長、北川綾音さんお願いします」
そして、体育館には聞き覚えのある体育館中に澄み渡る声が反響する。
壇上には北川綾音が生徒会と書かれた腕章と記章を身に着けている。
そして、俺の直感がこう告げている。「やばい」と。
「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。今年度も実に優秀な生徒が入学してきたことを心より祝福いたすと同時に、歓迎いたします。まずは、この学校についての大まかな説明をしたいと思います……」
生徒会長は10分くらい話しただろうか。
長い長い話をする校長先生とは正反対の思わず聞き入ってしまう10分だった。
さすがは生徒会長といった感じだろう。
いかに聞き手に興味をもたせるかをしっかりと把握しこの場の主導権を完全に掌握している。
そして、挨拶が終わり壇上から降りようとしたときに事件は起こった。
一仕事終えたのか、スピーチが終わってからは一気に表情が緩くなってゆく。
そして、生徒会長はまさかの行動に出たのだ。
俺の見つけるなり手を降り出したのだ。
その瞬間誰もが、彼女の行動を理解できなかったであろう。
そして、段々と視線が俺の方へと集まってくる。
以前にも似たようなことがあった。
もう、思い出したくもない子供の頃の記憶…。
………
……
…
「さぁ、今からとある事をしてもらいます。ルールは簡単です。
この場にいる中で一番最後まで生き残っていればいいだけです。
何をしても自由。殺しても、虐めても。それではゲームスタートです。」
そう、仮面を被った男は言った。
そして、周囲の子供は困惑を極めた表情をしている。
そして、何を思ったのか突如後ろの方から甲高い悲鳴が聞こえてくる。
恐る恐る振り返ってみるが、そこには声の主と思われる人物が血の海の上に横たわっていた。
「キャァー!!!!!!」
そこからは地獄だった。
あたりでは血の海が形成された。元々の床の色がわからない程までに。
もう俺は立ちすくんでいられる状態ではなかった。
………
……
…
「ぉたかくん。清隆くん。清隆くん!」
何やら隣の方から優しい声がする。
ああ、俺はまたあの時の事を思い出していたんだ。
「あぁ、ごめん。ありがとう」
「ううん、清隆くんが謝ることじゃないよ。それに、大丈夫…?」
「あぁ、大丈夫だ」
そういうと俺は周囲を見渡す。
さっきと打って変わって、周りには人っ子一人いない。
動揺している俺に気づいたのか、簡潔に説明してくれた。
「清隆くん。全然声を掛けても反応しないからみんなもう教室に戻っちゃったんだよ。
ああ、私まだ名乗ってなかったわね。私の名前は七条恵だよ。
気軽にめぐみって呼んでね。私はもう清隆くんの事を知っているから説明は不要だよ」
「お、おう。七条、よろしくな」
七条…、どこかで聞いたことのある名前だが…、
「もぉ!なんで恵って言わないの?…、まああまり親しくないからしょうがないよね」
そんな事を考えている暇もなく彼女が喋りだす。
どこか少女は寂しげな表情をしている。
まるで何かに気づいて欲しいかのように…。
そして、七条は思い出したかのように言う。
「早く教室に戻らなくっちゃ!急ごう、清隆くん!」
俺の返事を聞く前に彼女は俺の手を引いて走り出す。
一瞬戸惑ってしまったがすぐに彼女についていく。
そして、今に至るということだ。
俺は非常にいたたまれない気持ちなのだが動くわけにも行かない。
俺はさっと、椅子に座り遠くを見つめる。
その時、学校の下校開始時刻のチャイムが鳴りクラスメイトが次々に席を立つ。
近くからは、遊びに行く約束や一緒に帰る約束などをしている。
もう親しくなった人ができたのだろう。
そう思い、荷物をまとめているときに教室に見覚えのある女性が入ってきた。
「清隆くん。ちょっと時間ある?」