1.不条理な世界
この世の中は大きく二つの人種で分けられる。一つ目は絶対的な強者。他を圧倒し、誰にも追随できないほどの卓越な才能を持ち、圧倒的な力で世界の頂へと手を掛けようとする者達だ。対して、二つ目。それは、弱者だ。何をしようと、努力をいくらしようと全くと言って良い程に報われず、何者からも見限られ一生の大半の娯楽を削り、生活している者達。そんな対局の二つだけで世界が構成されているなどと言うのは、現代社会においては少し行き過ぎた表現かもしれない。
否。俺は行き過ぎた表現ではないと思っている。
しかし、世の中には隠れた才能とやらを偶然持ち合わせた者もいる。
そういうやつに限って大半は理解されず一人苦しみながら生活を送っているだろう。
ならば、その才能を隠してみてはどうだろう?
傍からはただの平凡な存在。そういう者だという認識しかされないだろう。
そうしていればどれだけ気を使わず楽に生活できるのか考えたことはあるか。
答えは否だ。
大半の隠れた才能を持つ輩は周囲に認められたいがために自己主張が激しい。
そして、いじめの対象と成り下がってしまう。
そんなどうしようもない者達が集い、学ぶ場。
それが高度育成第一高等学校だ。
………
……
…
「きよちゃ〜ん。ご飯だからそろそろ起きてきて〜!」
朝から耳を劈く高音が俺の耳の中で共鳴する。
こんな目覚めは最悪だ。この家に引き取られた頃にはそう思っていた。
毎日あの高音を聞かされていたら慣れるのも自然だろう。
俺は声の持ち主の元へと向かった。
「あら、きよちゃん。髪の毛がこ〜んなのになってるよ。私が整えてあ・げ・る!」
手を大きく上げ回しながら俺の元へと迫ってくる。
「はいはい、母さんはやらなくていいから。」
と、いつものように見事な塩対応をかまし母親が体に触れようとするのを回避する。
思春期男子の前でほぼ下着姿同然の格好で出てくる母親というのはどういうものか。
年相応の精神年齢を持ち合わせていない母親を持つと非常に大変である。
「ねぇ、ま〜くん。きよちゃんがつ〜め〜た〜い〜!」
「はっは、清隆。少し母さんにもかまってあげてくれないか?彼女はとてもかまってさんなようだ」
母親が「ま〜くん」なんて呼んでいるのは言わずもがな俺の父親だ。
見た目はとても勤勉そうな見た目に相反してとってもラブラブな夫婦だ。
今も、鷹のような鋭い視線を送りながら眼鏡の位置を直している。
「ごちそうさま」
俺はそう言うとすぐに自室へ向かい、学校の支度をする。
ハンガーに掛かっている制服に目をやるとため息が出る。
視線の先には赤と茶色を基調とした極自然な制服がある。
「ついに、今日が入学式か」
ついこぼれてしまった。
そんな胸の内には期待と希望で満ち溢れている…、というわけにいかない。
中学の時に友達作りに失敗し三年間ずっと教室の端で縮こまっていた頃を思い出す。
袖に手を通すたびに記憶が舞い戻ってくるが気にしない。
そんなこともあったなと思いつつ、鞄を手に取り玄関へと向かう。
後ろからは母親のありがた〜い言葉が聞こえてくる。
本当にいつまで子供扱いするつもりなのか半分呆れながらため息をつく。
「父さん、母さん、行ってきます」
「いってらっしゃい」と両親は言ったのだろうが扉の閉まる音で掻き消される。
俺は足早にバス停へと向かう。
バスの便数的に早めに行き並ばなければまず乗れない。
そして、案の定それは起こってしまった…。
………
……
…
目の前には一台のバス。
閉まるドア。
次の便に乗ってくれと伝えてくるアナウンス。
「乗り遅れちゃったかぁ〜」
独り言をつぶやくと同時に後ろから同じ単語が聞こえてくる。
女子特有の甲高くも優しく、甘美な響きな声。
ふと振り返ってみるとそこにはいわゆる美少女というのが立っていた。
「君もバスに乗り遅れたの?それよりその制服、もしかして君も高育高校の生徒なの?」
彼女の胸には何やら記章がついている。
そこには生徒会という文字が刻まれているではないか。
まさか、と思ったときにはもう遅かった。
「ここで会ったのもなにかの縁だし、友達にならない?」
そう言うと彼女はポケットからスマホを取り出す。
一瞬、何をしているのか分からなかったがすぐに気づく。
「はい、私の連絡先。私の名前は北川綾音。これからはよろしくね」
早速、俺の平穏な学園生活を送るという夢が崩れかけてしまう。
要注意人物は一通り調べておいたが甘かった。
学校外で出会う事を全く想定していなかった。
早くも夢が少し遠ざかり暗い気持ちで入学式の会場へと向かう。
移動しながらふと脳裏にあることがよぎる。
あれ、俺。人生初の女子との連絡交換イベントなんじゃね…?
………
……
…
俺の夢。
それは平穏な学園生活を送ることだ。
普通に学校に通い、普通に勉強をする。
普通に運動もし、普通に生活する。
そう、あくまで普通に生活する事が夢なのだ。
そんな普通の学園生活を送るためには関わっちゃいけない人が沢山いる。
もちろんそっけない態度をして嫌われ、噂になるのは以ての外なのだが。
あまりにも目立ちすぎる交友関係は避けねばならない。
そのはずなのだが…、
「ねえ、清隆くん。なんでこの高校に入ろうとしたの…?」
「あ、えっと、その…なんとなく…です」
「ふ〜ん。なんとなく、か。そんな感じで入れる学校じゃなかったと思うんだけどな〜」
この北川綾音という女ときたら…、人目を気にせず俺に声をかけてくるではないか。
確かにさっき、俺たちは友達になったはずだ。
しかし、だ。
あまりにも距離が近すぎると思うのは果たして俺だけなのだろうか。
周囲からは彼女の事を思っているのであろう熱い視線が降り注いでいる。
彼女が過度なスキンシップをとった時には感嘆の声が響いてくる。
そして、案の定の展開となってしまうのだ…。
初投稿です!
これからも書いていく予定なので今後ともよろしくお願いします!