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「それで、シド様はどうだった?」


お昼を取る間もなく、シドの仕事部屋を片付けていたイザベラは夕方になり帰ってこないイザベラを心配した侍女長が迎えに来たことにより仕事を終えることができた。


普段働かないイザベラの疲労はピークだったが、シドは上機嫌で明日もよろしくと言われ明日も片付けるのかと重い気持ちでカーラーと合流した。


「顔は良かったけれど、あの汚い部屋で過ごせる人とはちょっと合わないと思ったわ」


疲労でぐったりして言うイザベラにカーラーは苦笑する。


「そうなの?そんなに汚いのね。顔が気に入ったのなら良かったんじゃない?」


「うーん・・・。恋ではないじゃない。私は恋愛をして結婚したいのよね」


「・・・まだ言っているの?顔が気に入ったのなら私なら結婚喜んでするけれどね。それも魔法庁の隊長よ!まぁ、私は顔が綺麗な人と口が上手い男はお断りだけれど。間違い無くいろんな女をひっかけているわよ」


カーラーの言っていることもわかるがイザベラは納得できない。

やはり、人生で一度の結婚は恋愛をしてからしたいと思ってしまう。

悩んでいるイザベラの背中をカーラーは叩いた。


「ま、あんまり悩まないでしばらくシド様の傍で人となりを見ればいいじゃない。もしかしたら恋に発展するかもしれないわよ」


「あの埃っぽい部屋で?」


「ロマンスが欲しいのね・・・もうそれはいい加減諦めたらいいのに」


カーラーはため息を付いた。



「ただいまー」


昼ご飯も食べずにシドの部屋を掃除していたため疲労がピークなイザベラは屋敷へ帰るとソファーへと身を投げた。

普段ならしない行動だが、今日は疲れたのだ。


「お嬢様。はしたないですよ」


執事のジョゼフがお茶を出しながら注意するがイザベラは視線を向けけるだけで体は動かない。


「疲れたの。ずーっと掃除していたのよ。この私が!」


「それはようございましたね。お嬢様も少しは労働をするべきです」


「酷い。労働とは無縁なお嬢様なのに。今日は頑張ったのよ」


ソファーに顔を埋めて寝ているイザベラに母ステラが向かいのソファーに座る。


「それで、シド様には会えたのかしら?」


「ちゃんと会えたわ。そしてシド様のお兄様の計らいで特別に専属侍女にしてもらったのよ」


「後でお礼のお手紙を書いておくわ。で、どうだった?好きになれそう?」


イザベラは少し考える。


「解らないわ。顔はいいけれど凄い埃っぽい部屋に住んでいるのよ」


「あなたが掃除すればいいだけだからそれは解決するわね。顔が気に入ったのならこの話は勧めますよ」


母親に断言されてイザベラは青ざめた。


「えー!そんなぁ、顔はいいけれど恋愛していないもの」


「まだそんなことを言っているのね」


ステラはため息を付いてイザベラを見た。


「イザベラ、我儘は言わないでちょうだい。この結婚は決まったも同然なのよ。恋愛がしたいのなら侍女の間に頑張ってしてみたらどうなの?」


「無茶なこと言わないでよ。恋愛って頑張ってするものなの?」


イザベラは母と傍に立っていたジョゼフを見つめた。


頑張って恋愛をするなどしたことが無い二人は一瞬視線を逸らして咳払いをした。


「と、とにかく、しばらくはシド様お付きの侍女としてがんばりなさい」


「・・・わかったわ。もしかしたら恋愛できるかもしれないものね」


イザベラが頷くのを見てジョゼフが呟く。


「単純でよろしゅうございますね」

「本当、単純な娘で将来が心配だわ」




翌朝、イザベラは全身が筋肉痛になっていたが頑張って城へと出勤した。


「大丈夫?」


身動きするたびに痛いと悲鳴を上げているイザベラにカーラーは声を掛ける。


「大丈夫に見える?全身が痛くて今日休もうかと思ったわよ」


「ちゃんと来て偉いわね。仕事なんだから当たり前なんだけれど、普段どれだけ動いていないのよ」


後半は呟くように言ったカーラーの声はしっかりとイザベラに聞こえている。


「みんな酷いわ。私はこんなに頑張っているのに」


「みんなは普段当たり前にこなしているのよ。さ、仕事よ頑張って行ってらっしゃい」


朝の朝礼が済んでカーラーはイザベラの背中を叩いて送り出した。

仕方なくイザベラはシドの部屋へと向かうことにする。


「あの階段をまた昇るのか・・・」


塔の上にあるシドの部屋に続く長い階段を見上げてため息を付いているとアントムが階段を降りてきた。


「やぁ、おはよう」


にこやかに笑うアントムにシドの兄だけあってよく見ると似ていると思いながらイザベラは頭を下げた。


「おはようございます」


「頑張っているようだね。弟の部屋が少しだけ綺麗になっていて見違えるようだったよ」


「大変だったんですよ。凄い埃っぽいし要らない物は多いしほとんど捨てるものでしたよ」


イザベラの訴えに、アントムは声を上げて笑った。


「まぁ、そうだろうね。何年もあんな状態だったからね。イザベラちゃんが来てくれたおかげで片付ける気が起きただけでも良かったよ」


自分が来なければあの埃まみれの部屋はそのままだったのかとゾッとするイザベラにアントムはまた微笑む。


「どう?シドは気に入った?」


流石のお兄さんに顔はいいですねとも言えず、イザベラは曖昧に頷いた。


「まぁ、悪くは無いです」


もっといい答え方があっただろうが、卒直なイザベラの言葉にアントムは微笑む。


「それは良かった。少しでもいいと思ってもらえると嬉しいよ。まだ一日しか過ごしていなんだからもっと弟の事を知って好きになってもらえると嬉しいな」


「はぁ、がんばります?」


なぜ、頑張らないとならないのかと首をかしげるイザベラの頭をアントムは撫でた。


「ま、あんまり考えこまないで。じゃあね」


「はい。お疲れ様です」


去っていくアントムの背を見送ってイザベラは目の前の階段を見てため息を付いた。

これを上って行かねばならないのか。


イザベラは決意して階段を登り始めた。


「はぁ、はあ・・・」


足が筋肉痛のイザベラは昨日よりも時間をかけて階段を登った。

息を切らせて登りやっと“隊長の部屋はここ”と言うプレートを見て足を止める。


「やっとここまで登ってきたわ」


何度引き返そうかと思ったが、シドから明日もよろしくと言われた手前行かない選択肢はイザベラにはなかった。

筋肉が限界を迎え震える足で向かうと、相変わらず開いたままのドアからシドの部屋を覗き込む。


彼はすでに部屋にいた。


昨日は青い騎士服を着ていたが、今日は上着を抜いており白いシャツ姿だ。

イザベラの姿を見ると満面の笑みを浮かべた。


「おはよう」


「おはようございます。ちょっと休憩させてここに来るだけで疲れたわ」


汗を拭きながらイザベラは椅子へと座った。


「お疲れ様」


シドは、近くにあった水をカップに入れると手をかざす。

何をしているんだろうかとイザベラが見ていると見やすいようにテーブルの上の物を退かしてカップを置いた。


「見ていて」


シドはカップの上に手をかざすと水が一瞬で沸騰し湯気を立てて始めた。


「お湯になったわ」


感動しているイザベラの前で、シドはティーポットにお湯を移し替えてしばらくしてまたカップに注いだ。


「どうぞ。少し休憩して」


「ありがとう。一瞬で紅茶にはできないのね」


「それは無理だね。水を操作してお湯に変換したり氷にしたりすることはできるけれど何もないところから紅茶にはできない」


「難しいわね、やっぱり私は魔法なんて使えなくてもいいわ。お茶頂くわね」


イザベラはソーサーごと持ち上げて紅茶を一口飲んだ。

執事のジョゼフやお手伝いさんが入れてくれる紅茶もおいしいが、シドが入れてくれた紅茶はそれよりおいしく感じイザベラは驚いた。


「美味しいわ。魔法で美味しくできるのかしら?」


「味を美味しくすることはできないけれど、紅茶が美味しく感じる温度で淹れて居るからね。沸騰させてから少し冷ましているよ。98度ぐらいかな?」


「あー・・・温度ね」


数字が苦手なイザベラが顔をしかめたのを見てシドは苦笑する。


「難しい話は苦手かな?」


「そうね。掃除と魔法の話はあまり得意ではないわね」


未だ片付いていない部屋を見回して言うイザベラにシドも部屋を見た。

床の上はだいぶ綺麗にはなっているがまだイザベラ曰くゴミが散らばっている。

机が見えないほど物が乗っている室内にシドは息を吐いた。


「埃はもう無いけれど、これを片付けないとね」


「昨日よりは息がすいやすい気はするわ。また、種類分けをすればいいかしら」


紅茶を飲んで一休みしたイザベラは勢いをつけて椅子から立ち上がった。


「そうだね。今日からは道具を一回ベラが使ってから動かなかったら箱に入れてくれると助かるんだけれど」


「あ、私を呼び捨てにしたわね」


昨日あったばかりの男に呼び捨てにされたとイザベラがシドを指さすと、彼は軽く微笑む。


「だって、僕の専属侍女でしょ」


確かに専属侍女といえばシドの部下ともいえる存在だ。

呼び捨ては当たり前なのかと首をかしげるイザベラ。


「そう言われるとそうかもしれないわね・・・」


「でしょ?でも特別に、ベラは僕の事も呼び捨てにしていいから」


「特別?」


顔をしかめるイザベラにシドは頷く。


「魔力のないベラに道具が仕えるかどうか確かめてもらう役目をお願いしたいと思っているからね。お互い様だろ?」


「そうかしら?・・・・もしかして貴方、女性にいつもそうやって近づいているの?」


顔のいい男はすべての女性を垂らしこんでいるというカーラーが言っていたことを思い出して顔をしかめるイザベラに、シドは慌てて首を振った。


「まさか、言っておくけど女性関係は真っ白だから」


「本当かしら・・・」


疑いの眼差しで見られてシドは肩をすくめて見せる。


「本当だよ」


「ま、ただの侍女である私には関係ないんですけれどね」


イザベラはそう言って今度こそ部屋を片付けようと手を叩く。


「道具らしきものをスイッチ入れて動かなかったら種類分けの箱に入れればいいのね」


「そうだね、お願いするよ。僕は書類の整理しているから、解らなかったら聞いて」


「わかったわ」


イザベラはため息を付いて床に散らばっている何に使う道具かわからないようなものを手に取った。

スイッチのようなものが付いているのでそれをとりあえず押してみる。

反応が無いので種類を確認して、火の印の箱へと放り込んだ。




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