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イザベラは前に座るシドの顔をもう一度よく見た。


結婚相手と初めての対面にしてはロマンチックではないが、今回は仕方ない。

髪の毛の色と瞳の色はイザベラと同じ色だが、よく見るとシドの瞳はイザベラよりも少し明るい青色だ。

まつ毛は長く、薄い口元は笑みをたたえている。


印象は悪くない。


じっと見ているイザベラにシドは軽く首をかしげる。


「僕の顔になにかついている?」


「いいえ。ちょっと顔をよく見ていたのよ」


「そう。僕の顔は気に入った?」


「悪くないわね」


シドの観察に気を取られてイザベラは思っていたことをそのまま言ってしまった。

流石に他人の容姿を評価するなど失礼だったかと思ったがシドは嬉しそうだ。


「それはよかった。僕も君の事は可愛いと思うよ」


「ん?私はただの侍女だから褒めてもらっても困るのだけれど」


もしかしたら女たらしなのかしらとイザベラは顔をしかめた。

顔もいいし、優しい雰囲気に女性にモテないはずはない。

イザベラは自分の容姿を褒められたことよりも、他の女性にも同じことを言っているのではと不信感の方が強くなった。

女ったらしなら結婚は無理だわ。

カッコいいと思っていた気持ちがスッと小さくなる。

「困ったなぁ。まぁ、よろしくね」

シドは苦笑しながらイザベラに右手を差し出してきた。

「はぁ」

イザベラは仕方なく彼の手を握って握手をした。


「この部屋は僕だけの研究室兼魔法騎士隊長の部屋って感じかな」


イザベラは部屋を見回して顔をしかめた。

床も机の上もものが多すぎて溢れている。

本もあるが、見たこともないような機械や置物が置いてあった。


「汚いわね」


「僕はどこに何があるかは理解しているつもりだけれど、部下や兄からは片付けろと言われているね。でも、魔法の研究をしているからどうしても物が増えていくんだよね」


「魔法の研究?」


魔法の事はさっぱり分からないイザベラは魔法の研究をしている場所があること自体も知らなかった。


「そう。魔力を道具に貯めて魔法が無い人や弱い人も使えるものを発明したいんだ」


「それは素晴らしいわね。私は魔力が無いからそういうのがあると助かるわ」


特に今まで不便を感じたことは無かったが、シドの手前イザベラは言った。

シドは嬉しそうに道具を一つ取った。


「ランプね」


灯油を入れて火をつけるタイプのランプだがシドはダイヤルのようなものを回すと明かりが付いた。


「マッチがいらないってこと?」


「魔力で光っているんだ。つけてみて」


灯りを消してシドはイザベラにランプを渡してきた。

シドが明かりを付けたようにダイヤルを回すが明かりはつかない。


「何ともならないわよ」


「・・・失敗だな。どうやら僕の魔力を吸い上げていて明かりが付いていたらしい。部下たちも魔力がある奴らばかりだからみんな明かりが付いたんだ。魔力を貯めることができれば色々なものに活用できると思うんだよね」


呟いているシドにイザベラも頷いた。


「確かにそうね。それにしても少しは片付けた方がいいわよ」


「うん。それをベラさんに頼もうかなと思っているんだ。君は魔力が無いから道具に込められた魔力が暴走しても影響を受けないから」


「魔力が暴走する?」


不穏な言葉を聞いたとイザベラが聞き返すとシドは何でもないことのように頷いた。


「あれ?知らない?たまに魔力暴走が起きることがあるんだよ。僕達みたいな魔力に優れた騎士でも制御できなくて爆発するんだ」


「危ないじゃない」


「そうだね。魔力が強い人ほど被害をうけるけれど、ベラさんなら大丈夫だよ。ちょっと試してみていい?」


「試すって何を?」


まさか魔力を暴走させるのではないかと身構えるイザベラにシドは右の手の平を向ける。


「魔法でできた小さい氷をベラさんに飛ばしてみる」


「痛いじゃない」


「大丈夫。ベラさんに魔法は効かないって聞いているからちょっと試したいんだ」


魔法は効かないと言っても、氷の塊を飛ばされたら痛いに決まっている。

身を引くイザベラにシドは軽く笑って右手の平に小さな氷の塊を出しベラへと投げた。


一瞬の出来事にベラはかわすこともできずにいるが、氷の塊はベラに当たる前に弾けて消えた。


「あっ!本当に魔法が消えた」


感動しているシドにイザベラは首をかしげる。


「痛くなかったわ」


「ベラに当たる前に氷の塊が消えたからね。魔力を消したんだよ。これは凄いことだよ」


「特殊体質なので・・・」


イザベラの言葉にシドが頷いた。


「兄から聞いているけれど、凄いな感動するよ。これなら僕が発明した器具を扱っても大丈夫だよ。魔力の反動が起きて体が傷つくこともない」


「はぁ・・・それならさっそく片付けましょうか」


侍女の仕事を思い出してイザベラが言うとシドは頷く。


「ありがとう。そうだな・・・捨てるものもあるから部類ごとに分けてくれるとありがたいな」


「わかったわ。魔法の事はさっぱりわからないけれど、部類だけは分かるから。火と風と水と木ね。この印がその部類でしょ?」


イザベラは床に置いてある道具を一つ取って指でさす。

どの道具も、部類分けが解るように印がしてある。


「そうだよ。分けてくれたら僕が捨てるものをその中から選ぶからよろしく」


「わかったわ」


イザベラは頷いてさっそく箱を手にして床に並べた。


「解りやすく印をしておこうか」


そういうとシドは箱に手をかざすと箱の一部が光り火、水、風、木の紋章が浮かび上がる。


「凄いわ。魔法って便利なのね」


感動するイザベラにシドが微笑んだ。


「まぁね。便利な使い方をすれば便利だけれど無い方がいいよ」


「無い方がいいなんて変わっているわね」


魔法が無くても困ったことは無いが、いつもなくて可哀想にと言われているイザベラからしたらシドそういうのは意味が解らない。


「魔力が多いと魔力暴走があるからね。いらぬ人を気付付けてしまうこともある。不便だよ」


悲しそう言うシドにイザベラは頷いた。

何かあったのだろうが、今はそれよりも片付けが先だ。

腕まくりをして床に置いてある得体の知れない物体を箱に仕分けする。


「ねぇ、シドさん。凄い埃なんだけれど」


しばらく床に落ちていた物体を仕分けしていたイザベラだったが一体いつから掃除をしていないのかというぐらい埃が積もっている。

物を取るたびに誇りが舞いイザベラは顔をしかめた。

書類に目を通していたシドが床に座っているイザベラを見て軽く微笑む。


「あぁ、そんなに埃があるなんて気づかなかったよ」


「こんなに埃まみれの所に居たら病気になるわよ」


掃除好きなわけではないが、さすがにこんな部屋には居たくないとイザベラは顔をしかめる。


「埃を払おう」


シドはそういうと手を床に向かって右手を振りかざした。

室内に風が吹いたかと思うと、窓が勝手に開き巻き上げられた風が埃と共に出ていく。

ピカピカとはいかないが、薄っすら積もっていた埃は無くなり心なしか空気がきれいになった気がする。

「凄いわね!魔法って・・・。こうなる前に埃を魔法で掃除したらよかったのに」


イザベラは初めて魔法は便利なものだと感心していると、シドは肩をすくめた。


「完璧ではないけれど、少しは綺麗になったかな」


「この落ちているものは動かせないの?」


「それは無理だね。重いものはさすがの僕でも動かすことはできないかな。要は応用だよ。風の力で埃を払うとか自然の力を借りる感じかな」


難しい話になりそうな気配にイザベラは軽く頷いてまた床にしゃがみこんだ。


「結局、人間がやらないとダメなのね」


イザベラは呟いて仕分け作業を続ける。

そんな彼女を見てシドは微笑んだ。




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