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「私の事はベラって呼んでね。イザベラだとシド様に素性が解ってしまうかもしれないじゃない」


翌日、イザベラは意気揚々と魔法騎士達がいる塔へと出勤した。

侍女服に着替えると親友のカーラーに言った。


「何回も言うけれど、結婚相手がイザベラの顔を知らないなんてことは無いと思うのよ。普通にしていればいいんじゃないかしら?婚約者のイザベラです。仲良くなるために来ましたって言ってみたら?」


「イザベラじゃないわ、ベラよ。私は相手の顔も知らないのに、相手が私の顔を知ってることは無いわよ。どうせ家同士の結婚だもの」


カーラーは痛む頭を押さえつつイザベラを侍女室へと連れていく。


部屋の中にはイザベラと同じく青い侍女服を着た女性たちが数人集まっており話していたがイザベラたちが部屋へ入ると、話すのをやめてジロジロとイザベラを見つめる。

居心地の悪さを感じていると、後ろから手を叩く音が響いた。


「さっさと中へ入りなさい。私が部屋へ入れないわ」


黒い侍女服を着た中年女性がギロリとイザベラたちを見た。


「申し訳ございません」


カーラーは慌ててイザベラの腕を掴んで部屋の中へと入れた。


「侍女長のマルガレッタ様よ」


カーラーがイザベラに囁いた。

マルガレッタは30歳後半だろうか、美しいが鋭い目をしており厳しい雰囲気を醸し出している。

侍女長は頷いて部屋へと入りもう一度大きな音で手を叩く。


「はい、おはようございます。今日は新入りを紹介します。ベラ。こちらへ」


アントムが手をまわしてくれているのだろう、イザベラはベラと呼ばれたことに安心して侍女長の横に立った。


「ベラはシド様の専属侍女になりました。みんなとは少し仕事が違うでしょうが仲良くしてあげなさい」


「よろしくお願いします」


イザベラが頭を下げるが、前に居る侍女たちはざわざわしている。


「専属侍女ってなにかしら?そんなの聞いたことないわ」


「あの方特別な方なのかしら・・」


侍女たちは専属侍女の存在を疑問に思っているらしく、イザベラを不振がって見ている。

そんな存在しない物に任命しないでほしいとイザベラが冷や汗をかいていると、侍女長がまた手を大きくたたいた。


「静かにしなさい。ベラは魔力が一切ないという特別な体質を持っているのでシド様の専属になり仕事も手伝うとのことです。余計な詮索はしないように」


「そうだったのね。魔法が一切無いなんて可哀想な方ね・・・」

「本当、可哀想」


侍女長のおかげで、彼女たちの疑問は憐みに変わりイザベラを見る目も優しくなった。

普通の人だって魔力はほとんどないが、一切無い人はそうそう居ない。

魔力があったところで、一般人はほとんど使うことは無いが自分が何系の魔力があるという事はちょっとした自慢だったりする。


自分は火系だから夏に強いや、少し魔力が強い人なら火をつけることもできる人もいる。

魔力の系統によって就職先を選ぶなんてことも普通にあった。

魔力がないイザベラは可哀そうに、不便でしょうなど言われることはあったが自分が可愛そうや不便など思ったことは一度もない。

何系の魔法を持っているなど解ったところでそれを使いこなしている人を見たことが無いからだ。

少ない魔力ならないも同然だ。

今だって、前に居る侍女たちに可哀想と思われる筋合いはないのだ。


いつもなら文句を言っているところだが、今はここで働くためにぐっと我慢した。


「はい、では仕事をしてください。今日も元気に頑張りましょう」


侍女長の言葉に侍女たちが一斉に声を出した。


「元気に頑張りましょう!」


侍女たちが仕事へと向かい室内にはイザベラとカーラーそして侍女長だけになった。


「ベラ、大体の事情は魔法庁長官よりお伺いしております。貴女は正式な侍女ではないのでシド様に従って動いていただいて大丈夫です。何か困ったことがあったら相談しなさい」


「はい。ありがとうございます」


「部屋の掃除もしてもらえると助かるわ。シド様は部屋に人を入れないから・・・」


溜息をつきながら言う侍女長にイザベラは固まる。


「部屋が汚いってことですか?」


「汚いというより雑然としているというか、物が多いというか・・・貴方から言ってもらえれば少しは綺麗になるでしょう。よろしくね」


「はぁ・・・」


雑然とした部屋に行かないといけないのかと心が重くなったイザベラはあいまいに返事をしてカーラーと退出した。


「シド様の部屋は塔の階段の最上階」


「一番上?隊長だから?」


イザベラが聞くと、カーラーは首を傾げた。


「知らないわ。とにかく一番上はシド様専用の部屋でそのほかの人は一番下。一つ言えることはイザベラは毎日上まで階段を使って登っていうことね」


「えー、疲れちゃうじゃない・・・・。あと私はベラよ」


「仕方ないわよ。嫌なら帰ればいいじゃない」


カーラーに言われてグッと言葉に詰まった。

毎日ここを登るのは大変だけれど、婚約者の事は知りたい。


「頑張るわ」


「そう?じゃ、頑張って。私は一番下の階で仕事だから。お昼にでも会いましょう」


「そんなー。私を見捨てるの?」


ずっと一緒にいてくれると思っていたがカーラーは手を振って去って行ってしまった。

親友だと思っていたのに酷いと親友カーラーの背を見つめたが彼女は振り返ることなく消えていった。

目の前には塔へ上る長い階段が見える。


これを今から登るのかと思うと辛いが、婚約者の顔を見るためだとイザベラは一歩踏み出した。


「はぁ、はぁ」


螺旋階段を上るイザベラは太ももが痛かったが頑張って登り続けた。

途中で会った魔法騎士が上がってくるイザベラを見て驚いて道を譲ってくれたので頭を下げ挨拶をしたついでにあとどれぐらい登るのか聞いてみた。


「シド隊長の部屋はあと半分かな。隊長の部屋って言うプレートが見えたらそこの廊下の奥に行けばシド隊長の部屋だよ」

「ありがとうございます」


お礼を言って、気合を込めて階段を登り続けた。


「あったわ。隊長の部屋」


階段を登りつづけると“隊長の部屋はここ”と書いてある銀色のプレートが壁にかかっている。

階段を抜けて廊下へ出ると思ったよりも広さは無い。

ドアは何個かあったが開いたままのドアを見つけて痛む足を動かしてそこへ向かった。

部屋をそっと見ると、床や何個かあるテーブルにも物が置かれており雑然としている。

この部屋がシドの部屋に間違いないとイザベラは開いたままのドアをノックした。


「はい」


部屋の奥を見ると青い騎士服の男性が背を向けて立っている。

何か道具をいじっているようでこちらを見ようともしない。


「あのー、今日からシド様の専属侍女になりましたベラと申します」


「はぁ?専属?そんなの必要ないよ」


声は優しいが、一度もこちらを向かない男に、階段を登ってここまで来たのに人の顔も見ないで失礼な人だとイザベラは思った。


「そうですか。失礼しました」


やっぱり結婚は断ろうと背を向けて歩き出したイザベラにシドが慌てて声を掛ける。


「あー思い出した!ベラさんだよね。兄から専属を付けたって言われていた。すまなかった」


「いえ、もういいです」


頭を下げて帰ろうとするイザベラの手をシドが掴んだ。


驚いてイザベラが振り返ると、シドの青い瞳と目が合った。

整った顔に金髪の髪の毛は兄のアロームと似ているが、アロームよりも少し優しい雰囲気だ。

シドの少し長めの髪の毛が目にかかっている。


「待って。謝るから。ちょうど手が足りなくて困っていたんだ。とりあえず部屋へどうぞ」


イザベラの手を掴んで無理やり部屋へと招き入れた。

イザベラは帰ろうかと思っていたが、あまりにもシドの力が強いため手を振り払うこともできずに部屋に入り無理やり椅子に座らせられた。

座ったイザベラの前に椅子を持ってきてシドも席に座った。

シドの顔をよく見ていたイザベラはこの結婚悪くないのかもしれないと心が動いた。



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