21
野営地まで戻り、少し休憩した後イザベラ達は城へと戻るべく移動を開始した。
すでに日は高く、雲一つない快晴だ。
馬を操りながら隣イザベラはシドを振り返った。
「アントワ王妃って実在していた人物なのよね?」
「そうだね、絵本に書かれていた字はアントワ王妃が直接書いたんだろうね。アントワ王妃と先祖のイザベラは親友だったようだね」
シドも馬を少し走らせて、イザベラの横に並んだ。
シドイザベラの後ろには馬車と馬に乗った魔法騎士達が続く。
「私の先祖のイザベラさんが魔法騎士と結婚したと言っていたけれど、まるで私たちと同じね」
顔を赤くして言うイザベラにシドは軽く微笑む。
「確かにそうだね」
ほのぼの話している二人に、魔法騎士達が口を挟んだ。
「そんなことより、竜の娘ってなんですかね。竜と人間が繁殖できるとは思えないんですけれど」
「私もそれは思ったわ。一体どうやって・・」
生々しい表現が口から出そうになりイザベラは口をつぐんだ。
「僕達の考えが及ばないこともあると思うしかないよ。僕としてはイザベラが、竜の娘と同じ魂を持つ者って言ったところが引っ掛かる」
シドの言葉にイザベラは頷いた。
「先祖ってところは言葉を濁したわよね。しかも、シドも顔が似ているとか言っていたし。どういう事かしら」
シドは長いため息を付く。
「考えられる事と言ったら、生まれ変わりとか?竜の娘だったイザベラとその夫の僕が生まれ変わったとか考えられるのはそれぐらいだよ」
「生まれ変わり!」
イザベラを含む全員の声が重なる。
「そんなこと、あるはずが無いじゃないですか」
魔法騎士の一人が言うと、ほかの騎士も頷きつつ、首を傾げた。
「でも、生まれ変わりって考えるのが一番しっくりくるような・・・」
「いやいや、ないでしょ!」
「そんなこと言ったら、おまえ、竜だっているはずないだろ」
魔法騎士達がそれぞれ言い合いをする中、先頭を歩くイザベラは空を見上げて顔を赤くしている。
「イザベラ?大丈夫?」
心ここにあらずというイザベラの様子にシドが声を掛けるとキラキラした瞳が向けられた。
「生まれ変わりですって!なんて素敵な響きなのかしら。私たちは、何度生まれ変わっても愛し合って結婚するのよ」
「うん?」
イザベラの思考について行かれずシドは動きを止めてイザベラを見た。
「隊長。そこはそうだね、って言った方がいいと思いますよ」
後ろから部下に囁かれてシドは慌てて頷いた。
イザベラはそんなやり取りを気にすることなく、未だ顔を赤くして空を見上げたままだ。
妄想の中に入ったままのイザベラにシドたちはそっとしておこうと目配せをした。
「隊長は、イザベラさんを悲しませたら国が滅ぶかもしれないから言動と行動には気を付けた方がいいですよ」
「僕に、国の運命を掛けられても困るよ」
嫌な顔をするシドに、魔法騎士達は同情する。
イザベラが不幸だと感じたら、竜が目覚めて町を攻撃するかもしれないという恐怖に魔法騎士達はシドの顔を見た。
「隊長、頑張ってイザベラさんを幸せにしてあげてください。俺達、生きていたいので。竜なんて誰でも敵わないでしょ」
「僕だって生きていたいよ!でも何を持って、竜はイザベラが不幸になったと思うんだろうか」
「えー知らないっすよ」
王都へと入ると、シド達一行は町の人達に拍手で出迎えられた。
「竜を退けるなど、さすが魔法騎士だ!」
「魔法騎士最強のシド隊長が竜を退けたんだ!」
町の人たちが、拳を振り上げながら歓声を上げている中、城へと続く大通りをシドたちは進んだ。
「俺達何もしていないのに、凄い出迎えですね」
「僕なんて魔法騎士最強とか言われているんだけれど」
居たたまれない気持ちになりながらも背を正して歓声にこたえる魔法騎士達。
シドもあまりにも褒められて、気まずい気持ちのまま城へと戻った。
城へ戻ると、騎士達が拍手をしながら盛大に迎えてくれた。
「よくやってくれた!シド隊長。魔法騎士達よ」
城へと着き馬を降りると、満面の笑みの王が広場まで出てきて手を叩いて立っていた。
「竜を退治したのだな。さすが、国一番の魔法騎士シド達よ」
誉め言葉を並べる王に、シドは軽く頭を下げて答えると気まずい気分で王と後ろに立つ王の護衛騎士アルベルトに言った。
「報告があります。少し人数を絞っていただけるとありがたいです」
訳ありな言い方に、王とアルベルトはお互い視線を合わせて頷いた。
「その前に、魔法球を元に戻さないと」
イザベラは光が漏れないように鞄に布をかけて守っていた魔法球を指さした。
「予想を超す出迎えにすっかり忘れていた。それが一番大事だったね」
シドはため息を付いて王を見上げる。
「そうじゃったな、わし達は会議室で待っているからよろしく頼む」
そう言って城の中に消えていく王を見送り、イザベラは口を尖らせる。
「王様、あの塔を登るのが嫌なのよ。私ももう登る体力無いわよ」
ブツブツと文句を言うイザベラにシドは微笑んだ。
「仕方ないよ。さすがの僕も、あの塔を登るのが辛いほど疲れているよ」
シドも疲れることがあるのかと、イザベラは妙に安心しながら魔法騎士の詰め所でもある塔へと向かった。
詰め所では団長とアントムを含む居残り魔法騎士達が満面の笑みで迎えてくれる。
「拍手はもういいですよ」
うんざりしているシドに、団長は肩を回してシドの頭を撫でまわした。
「謙遜するなよ。お前たちのおかげで俺たちは竜と戦わなくて済んだんだ。国中のヤツがそう思っているぜ。いやーよく竜を倒したな。さすが、魔法騎士最強のシド・ロードリゲン様よ」
「ご期待に添えるような竜との戦いではないんだ。詳しくは後でまとめて報告しますよ」
既に階段を登り始めているイザベラに続いてシドも塔の階段を登り始めた。
塔の頂上までたどり着き、息を切らせたイザベラが部屋へたどり着くとすでに魔法球を研究している博士たちが集まっていた。
イザベラが手に持っている、光を取り戻した魔法球を見て感動の声を上げる。
「おぉ、光が戻っている!」
感動している博士たちを横目で見ながらイザベラは台座に魔法球を乗せた。
魔法球の光が一瞬大きくなったが、また元の光に戻る。
「これでいいのかしら」
なんの変化も感じられず不安になり、イザベラがシドとアントムを見る。
二人は頷いてそれぞれ魔法球に手をかざして確認をしている。
「大丈夫。ちゃんと防御もできているみたいだ」
「完璧に元に戻ったね。いや、それ以上か。しかし、どうしてまた光が戻ったんだ?」
不思議そうなアントムに、シドは疲れた顔で首を振る。
「あとでまとめて説明するよ」
「魔法球も完璧に戻ってよかったわ。では、私はこれで失礼いたします」
さっさとこの場から去ろうとするイザベラの腕をシドが掴んだ。
「久々に、イザベラに触れるね」
「そうね、私もうれしいけれど、離してもらえるともっと嬉しいわ」
「逃げるつもりだろ?会議はイザベラも参加してもらわないとね」
「えー。もう疲れて・・・早く帰りたい」
嫌がるイザベラを引きずってシドは会議室へと向かった。
後ろを、アントムと団長達もぞろぞろと続いていく。
シドを中心に長い報告を王にし、話し合いがされた後イザベラが解放されたのは深夜になっていた。
後半は船をこいでいたイザベラだったが、やっと終わったと伸びをして席を立つ。
「結局、どうなったんだっけ?」
殆ど眠っていたイザベラは疲れた顔をしているシドを見上げた。
「報告がほとんどで、特には無いよ。とりあえず、魔法球をあの場所から移動しないようにすることと、眠りについている竜を起さないようにしようってことが決まったぐらいで。あとは本当に、どうでもいい党論で疲れたよ」
「私も、竜なんて居るとは思わかったし。分からないことが多すぎるわよね」
あくびをしているイザベラにシドは軽く笑って、イザベラの背中を押して城の薄暗い廊下を歩く。
見回りをしている騎士がすれ違いざま敬礼をしてくるのでイザベラは軽く頭を下げた
「あ、そうだ。とりあえず、イザベラが竜と繋がっている話はごく一部の人間しか知らないよう伏せてもらったよ。あの会議室に居る人以外は知らないから」
「別に私はどっちでもいいんだけれど」
竜の子孫だから魔法が効かないのだと言い訳になるし、できれば公表してもらった方が一目置かれるのではというよこしまな考えをしてイザベラはニヤリと笑った。
そんな、イザベラの考えが解ったのがシドは手を振った。
「いや、竜と繋がっているとか知られたら、イザベラに身の危険があるよ。竜を利用するために、他国から誘拐されるかもしれないし色々危険が考えられるからね」
「なるほど。それは考えてなかったわ」
「だろうね。おかげで、僕は何もしていないのに竜を退治した魔法騎士になってしまったよ」
「魔法騎士としては、一番ぐらいに強いからいいんじゃない?今後、竜と戦うこともないだろうし」
何でもないことの様に言うイザベラに、シドは眉を上げてイザベラを見下ろした。
「イザベラに不幸なことがあったら竜と戦うことになりそうだけれどね」
「それは仕方ないわね。シドには頑張ってもらわないと」
偉そうに言うイザベラにシドは肩をすくめた。
「竜には勝てる気がしないから、頑張ってイザベラを幸せにするよ」
「期待しているわ、国一番の魔法騎士様」




