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イザベラは屋敷を飛び出して、馬車で城へと向かう。

父親の仕事先でもある城へは何度も通っているので慣れたものだ。

城へと入るとすぐに親友のカーラー・アンダーソンへ面会を申し込むとすぐに受理された。


待たされることなく、魔法騎士の部署へと通された。


魔法騎士と呼ばれる人たちは城の一角、塔がある一角に居る。

魔法を使い、他国と戦っていたり魔物と呼ばれるものが国へ侵入した際には率先して戦っていることはイザベラでも知っていたが、他に何をしているかはよく知らなかった。

ただ、魔法だけではなく騎士としても優秀な人たちの集まりであることは認識しており女性からの人気も高い職業である。


イザベラの親友であるカーラーもいいお相手を見つけるために城に侍女として働いていた。

現在は魔法騎士の侍女となったとのことだったので、これを利用しない手はないだろう。

父親の執務室へは何度も言ったことがあるが、城の端にある塔の場所へは初めて来るためキョロキョロと周りを見ながらイザベラは歩いていた。

大きな塔が立っているあたりが魔法騎士たちのいる場所だ。


「この塔はなにがあるんですか?」


イザベラが聞くと案内してくれているおじさん騎士も塔を見上げた。


「この辺りは魔法騎士様の管轄だから私もあまり来ないのですよ」


「そうなんですか?」


イザベラも塔を見上げながら頷いた。

茶色い色の塔は高く見上げると、一番上には鐘のようなものがついている。

王都に居ればどこからでも見える城のシンボルともいえる塔だが、近くから見るのは初めてかもしれない。


「あの鐘は鳴るのですか?」


生まれてからあの塔の鐘が鳴ったのを見たことが無いとイザベラは思いつつ聞くと、年配の騎士も首をかしげている。


「さぁ?一度も鳴っているのを見たことがありませんが」


そんな話をしながら塔の横に立っている建物へと入り、案内をしてくれていた年配の騎士は持ち場へと帰って行った。

魔法騎士が駐在している建物の入口にはすでにカーラーが待っていた。

イザベラを見つけると手を振って迎えてくれる。


「どうしたの?急に私を訪ねるなんて緊急の用事?」


カーラーは茶色い髪の毛を一つにまとめて青い侍女服にエプロンを付けていた。

初めて見る仕事着にイザベラは上から下までまじまじと見た。


「本当に働いているのね。カーラー偉いわね」


「当たり前でしょう。冷やかしなら帰って頂戴」


「違うわよ。私の人生で大変なことが起こったから協力してほしいの」


手を合わせてお願いをするイザベラにカーラーは頷いて建物の中へと案内した。


「解った。話を聞いてあげるからどうぞ入って頂戴」


「ありがとう!」


カーラーに続いて魔法騎士のいる建物へと入っていく。

薄暗い廊下は広く、廊下はカーラーと同じ侍女服を着た女性と何人かすれ違った。

奥へと向かうと、剣を下げた青い騎士の服を着た男性たちともすれ違いカーラーに続いてイザベラも頭を下げる。

イザベラが珍しいのか、数人の魔法騎士たちはジロジロとイザベラを見ては微笑みながら部屋へと戻っていった。


「部外者が来てはダメだったかしら?」


あまりにも魔法騎士に見られるために不安になったイザベラが囁くと、カーラーは苦笑する。


「そうね。侍女服着ていないと珍しいかもしれないわね。ここが客間よ。借りたからゆっくり話せるわ」


魔法騎士達に見られながらカーラーに続いて部屋へと入る。

ソファーと机だけの部屋に入るとイザベラは息を吐いた。


「ジロジロ見られた気がするわ」


「そうね」


カーラーがお茶を入れてくれるのを見ながら場違いな場所に来てしまったと一気に疲労が増してソファーにだらしなく座るイザベラ。

淹れた紅茶を机の上に置いてイザベラの前に座りカーラーは身を乗り出した。


「どうしたの?なにがあったの?」


「結婚が急に決まったのよ。相手は魔法騎士のシド・ロードリゲンって人なんだけれどカーラーは知っている?」


「知っているわよ。ロードリゲン一族は魔力が膨大で代々王族に仕えているって有名な話よね。ご両親は亡くなられているけれど、お兄様が魔法庁長官で、シド様が魔法騎士の隊長。優秀な一家と結婚が決まって良かったわね」


「恋愛結婚が夢なのに嬉しくないわ!」


今にも泣きだしそうなイザベラにカーラーは声を上げて笑った。


「私たち貴族が恋愛結婚できる方が珍しいのよ。シド様っていえばそれなりにカッコいいし、家柄もいいしで女性たちは優良物件で狙っている人多かったわよ」


「・・・・そうなの?」


「シド様をよく知るためにイザベラもここでしばらく働いてみたら?」


カーラーのお誘いに、イザベラは少し考えて頷いた。

結婚相手を見に来たのだ、ここで働いていれば彼を良く知ることができるに違いない。


「そうね。相手を知れば好きになれるかもしれないし。嫌なら断ればいいわよね」


明るく言うイザベラにさすがのカーラーも乾いた笑みを浮かべた。


「貴族同士の結婚で、ほとんど決まっているのを嫌だから断るは無理なんじゃないかしら?」


「どうして?」


「シド様ほどの結婚をお断りしたらその後のお見合いの話が来なくなるわよ」


本気で心配しているカーラーにイザベラは明るく笑う。


「大丈夫よ。私お見合いする気はないもの。恋愛結婚するから!舞踏会で王子様と出会うから!」


「そんな夢みたいな話は無いのよ・・・」


カーラーの話を全く聞いていないイザベラはにっこりと微笑んだ。


「そうよ!シド様よりもここで働けば魔法騎士様と出会いがあるじゃない!その一人と恋におちるかもしれないわ!」


「絶対にないわよ・・・」


カーラーは呟いた。


「ちょうど一人侍女の募集があるから今から申し込んでみる?」


カーラーの言葉にイザベラは頷いた。


「もちろん。どんな人か見極めないと!でも、相手に私だってバレたくないのだけれど」


「・・・・そう・・・。それは不可能に近いと思わないの?」


遠い目をして言うカーラーにイザベラは首をかしげる。


「どうして?」


「相手がイザベラを知らないとかあるかしら?」


「あるわよ。実際私は顔を見たこともないわ!だから相手も私の事知らないはずよ」


「・・・そう・・」


また遠い目をして頷くカーラー。


「侍女として働いていればシド様を見かけることもあるでしょ。人となりを見られればいいわ。もし無理ならシド様はお断りして、別の人と恋愛して結婚!これを目指すわ」


「わかったわ。上に伝えてくるから待っていて」


カーラーは上司に話に行くと出て行ってすぐに戻ってきた。


「急募だったみたいで、今から面接したいってことなんだけれど、どうかしら?」


「大丈夫!ラッキーだわ!私」


「あまりにもスムーズすぎるとか思わないのかしらね・・・この子は」

喜ぶイザベラにカーラーは遠い目をして呟いた。


すぐに面接ができるとワクワクしてカーラーについて行く。


魔法庁長官とドアに書かれているドアをノックしているのを見てイザベラは驚いてカーラーに囁いた。


「面接官って長官なの?」


「そうよ」


魔法庁長官と言えば父親よりも偉い人だとイザベラは慌てて身なりを整えた。


「あれ、長官って私の婚約者のお兄様じゃない?さすがにバレるんじゃないかしら」


「すべて話した方がいいわよ」


呆れたように言うカーラーはさっさとドアを開けて入ってしまった。

慌ててイザベラも中へと入る。

座っていた人物が立ち上がってイザベラたちを迎い入れてくれた。

青い騎士服は他の隊士と変わらないが、胸に勲章が付いていた。


「魔法庁長官のアントムだ。君が、侍女で働きたいと言う子かい?」


優しい声でイザベラに話しかける男性をイザベラは頭を下げてお辞儀をしてそっと見上げた。

かなり背は高く、金色の髪の毛は短い。

顔はかなり整っており優しい顔をしている。

青い目は優しくイザベラを見つめている。


「はい。イザベラ・ザントライユと申します」


「弟の婚約相手の子だよね」


もうバレてしまったとイザベラは頭を抱えたくなった。

ここで嘘を言っても仕方ないと諦めイザベラは頷く。


「はい・・・。どうしてわかったのですか?初めてお目にかかると思うのですが」


「僕は何度か君を見ているよ。どうして、侍女として働きたいのかは・・・だいたい想像がつくかな」


微笑みながら言うアントムにイザベラは首を傾げた。


「解るのですか?」


「まぁね。弟がどういう人か知りたいのだろ?」


「そ、そうです!」


「良く知らない人と結婚など嫌だよね。解った、侍女として弟の様子を見ればいいよ。僕が許可するから」


「ありがとうございます」


飛び上がって喜ぶイザベラにアントムは微笑んだ。


「そうだな、シドの専属侍女なんてどうかな?ずっと一緒に居ることができるよ。名前もイザベラだとバレるかもしれないからベラにしようか」


「そうですね・・・。もし私がシド様のことを結婚相手に会わないと感じたらお断りしてもいいんですよね?」


イザベラの言葉にアントムは目を丸くして驚いている。


「どうしても無理なら仕方ないけれど、僕としては弟と上手くいってほしいと思うよ」


「ありがとうございます!」


イザベラは満面の笑顔でお礼を言った。

婚約者が気に入らなければ絶対に断ってやると決心するイザベラの後ろではカーラーがため息を付いている。


「驚くほど素直ね・・・」


「そこが可愛いって言えば可愛い・・・かな?」


カーラーとアントムが話している声はイザベラには聞こえていなかった。




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