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魔法騎士の詰め所は重い空気が流れていた。


「あのでかい竜に目玉を返しに行く役割がどうして俺等なんですか」


恨みがましい目で部下に見られてシドは肩をすくめる。


「仕方ないよ。竜が攻撃してきたら魔法防御で対応できるかもしれないし。イザベラを守らないといけないし」


「行きたくないです!あの竜が翼を羽ばたかせただけで町が崩壊したとうい報告があるんですよ?」


他の騎士達もシドの周りに集まって文句を言っているのを見ながらイザベラは光を失った魔法球を鞄に入れてみた。

何個か選んだ鞄の中でちょうど入る鞄を探し当てて手を叩いた。


「ピッタリだわ。鞄に入れれば手で抱えて持っていなくてもいいよの」


魔法球が入った斜め掛けのカバンをたすき掛けして立ち上がってシドの前に立って見せる。


「どう?」


「いいんじゃない?」


近づいてくるイザベラの体に当たらないようにシドは身を引きながら頷いた。

シドの周りに集まっていた魔法騎士達もイザベラから距離を取って顔をしかめた。


「うわぁ、ちょっと気を付けて動いてくださいよ。イザベラさんの体に当たったら俺ら、力吸い取られて倒れてしまうかもしれないんですよ」


「肌身離さず持っていなさいって王様が言うから。仕方なくよ。みんな気を付けてね、私に当たったら死ぬわよ」


上機嫌のイザベラに魔法騎士達は舌打ちをする。


「イザベラさんは本当に、単純ですね。一か月の休暇でシド隊長とべったりできるのと結婚式の場所が決まったから上機嫌ですね」


「そうね。あ、王様が魔法騎士達も特別手当を出すって言ってたわよ」


鼻歌を歌いだしそうなイザベラの言葉に、魔法騎士達は団長とシドの周りに集まった。


「本当ですか?」


「国を救うためだからね。かなりお金出してくれるみたいよ」


「やったぁー。俺、家を買うぞ!」


「イザベラもお前たちもどっちも同じぐらい単純だよね」


一気にやる気になった騎士達を見てシドは呟いた。


「ところで、竜の居場所は判明した?」


シドが言うと、団長が書類を投げてよこす。


「竜の目撃情報を集めてまとめたものだ。城から飛んで行った竜は町を超えて森へと入った。木をなぎ倒しながら消えていったらしい」


「木をなぎ倒しながらね。とんでもない力だね」


書類を捲りながらシドは言って上を向いて息を吐いた。


「よし、明日早朝出発しよう。イザベラは、魔法球を持つ係ね。装備は野営が5日はできるぐらいの量を。けが人が出るかもしれないから防御と、応急処置が優れているものを連れて行く、あとで指名するからよろしく。団長も一緒に行く?」


「阿呆が、俺は城を守る係だな」


座席の背もたれに寄りかかり、足を机の上に乗せて団長はニヤリと笑う。


「あーあー。団長は留守番とか酷いですね」


「うるせぇよ。お前らが死んだら俺達が次に行くことになるからイザベラは分かるように玉を置いておけよ。死体だけは回収してやるからな」


団長の言葉にイザベラは鼻を鳴らした。


「解るように置いていても、誰も持てないでしょうけれど。どうするんですか?」


「そういや、そうだったな」


団長は今思い出したと、イザベラがたすき掛けしている鞄を眺める。


「イザベラとシドには生きて帰ってきてもらわんと困るな」


「俺たちは死んでもいいって言うんですね」


騎士達が嘆いているのをシドが手を上げて収めた。


「バカなことやってないで、さっさと準備して。はい、今日は解散」


シドの号令で、一同は仕方なく敬礼をしてそれぞれ準備に去って行った。


「イザベラ、着替えぐらいは用意していて。女の子だと色々必要だろうけれど少ない荷物でお願いね」


「はい」


イザベラも頷いて、準備をするべく部屋へと戻った。



城の中のイザベラに与えられている客室には、父のバルタンが座って待っていた。


「あら、お父様居たの?」


「明日から、遠征に行くのだろう?屋敷から必要そうな荷物を持ってこさせた」


バルタンは椅子の上に置かれている荷物を指さした。


「ありがとう。気が利くわね」


さらりと言うイザベラにバルタンはため息を付く。


「お前は能天気だな。竜など出てきて、人々は恐怖で大騒ぎをしていると言うのに」


顔色の悪い父を見てイザベラは肩をすくめる。


「怖いけれど、お父様ほどではないと思うわ。殺されるかもしれないよりも、聖堂での結婚式が楽しみで仕方ないのよ」


不思議と殺されるという恐怖が無いことに気づいてイザベラは首を傾げた。


「お前のその呑気な性格がシド殿に気に入られたのだろうなぁ」


しみじみ呟く父にイザベラも頷く。


「いやだぁ、お父様ったら。シドに気に入られたなんて」


照れて顔を赤くしながら父の背中を叩いた。


「シド殿が変わっている趣味でよかった。絶対に生きて帰って幸せになるんだよ」


父の顔をして言う姿に、さすがのイザベラも感動をして目を潤ませた。


「お父様、ありがとう。お母さまにもよろしく言っておいて」


「お前が竜退治に行くと知ったらさすがのあいつも心配するだろうからそこは伏せておくつもりだよ」


「お父様?竜退治じゃなくて、竜に目玉を返しに行くだけよ」


「あわよくば、竜を退治するのだろう?」


「え?違うわよね?」


顔を引きつらせて言うイザベラに、バルタンは咳払いをしながら立ち上がった。


「さて、私はこれで失礼するよ。今夜はゆっくり休んで、明日に備えなさい」


「ちょっと、お父様?」


イザベラが捕まえるより早く部屋を出ていくバルタンを見てイザベラは首をかしげる。


「竜退治ではないわよね・・・」



翌朝、イザベラは親友のカーラーに起こされて身支度を整えて集合場所へ向かうとすでに魔法騎士達が集まっていた。

騎士達の暗い雰囲気を感じつつシドを見つけて駆けよった。


「おはよう」


魔法騎士姿のシドに挨拶をするイザベラにシドも軽く微笑んで返してくれる。


「おはよう。よく眠れた?」


「ぐっすりだったわ。それよりみんな元気がないようだけれど?なにかあったの?」


「また竜が隣の国を襲ったらしいよ」


「なんで隣の国なのかしらね?」


「どうしてだろうね?」


シドも首をかしげると、傍で準備をしていた魔法騎士が口を挟んできた。


「魔法球を盗んだからですよ。恨んでいるんですよ。だからあいつらが返しに行けばいいのに。なんで俺等なんですか」


ブツブツと文句を言いながらも手を動かして馬車の中に荷物を入れて行く。


「本当、俺達無駄死にじゃないですか」


「だよなー。魔法球を返すって発想もそもそもおかしいんですよ」


騎士達は文句を言いながら、馬車に荷物を積んで準備を終えると、一列に並んだ。


「みんなの気持ちもわかるけれどね。世界で最強だと言われている僕達、魔法騎士が竜狩りへと向かう。国を守るために命を懸ける!これは入隊の時にも誓ったことだ。共に戦ってくれるな?」


一列に並んだ魔法騎士達の前に立ちシドが言う。


「はっ」


魔法騎士達は仕方なく敬礼を、シドに返して返事をする。


「まぁ、死なない程度にがんばろう。僕だって結婚をしたいからね」


魔法騎士達の出立ということで城に務めている人たちが見物に集まってきた。

城の騎士から侍女まですべての職種が集まり手を振っている。

流石に文句をいう訳も行かず、騎士隊は口をつぐみ前を見つめる。


「ねえ、竜狩りって言った?目玉と思われるものを返しに行くんじゃないの?」


イザベラが不安になって言うと、シドはニッコリと微笑んだ。


「返しに行って、できそうなら狩るよ。狩れればだけれどね」


小さく呟くと、シドはイザベラの背を押しながら歩き出したが、すぐにふらりと地面に崩れ落ちた。


「忘れてた。イザベラは魔法球を持っていたんだった」


「大丈夫?」


シドに触らないようにイザベラは顔を覗き込む。


「ちょっと油断していた。大丈夫」


シドは軽く頭を振って立ち上がると、並んで立っている魔法騎士達に手を上げる。


「騎乗!出発するぞ。それと、イザベラには触らないようにね。力吸い取られるから」


「隊長以外に、イザベラさんに触ろうと思う人は居ないよな・・・」


シドが声を掛けると騎士達が一斉に馬に乗る。

周りで見学していた人たちが手を叩いた。


「頑張ってー」


「竜を仕留めて来いよ。俺たちは行きたくないからなぁ」


団長も前に出て応援している人たちに交じって声を出した。


「クソッ、自分は居残り組だから余裕だよな。団長」


馬に乗り、ゆっくりと出発する魔法騎士達は聞こえないように呟いた。

並んでいる人たちの中に、父親を見つけてイザベラは手を振った。



「お父様~!行ってきます」


「シド君に迷惑をかけるんじゃないぞ」


「大丈夫よ」


馬を操りながらイザベラはもう一度大きく手を振った。






シドを先頭に魔法騎士達は馬に乗って移動をすること数時間そろそろ日も暮れようかという空を見上げてイザベラはマントに付いていたフードを被った。

夕方になり風が冷たくなってきている。


「この辺りに竜がなぎ倒した木があるはずなんだけれど」


シドが地図を広げて言うが辺りは倒れた木など見当たらない。

イザベラは馬に跨りながら辺りを見回した。


「さっきからそればかりで何度目よ」


シドの持っている地図には印がつけてあり、竜が現れて木が倒されているという場所が記されていた。

何か所か回ったがそれらしき場所は見当たらず、竜の気配すら無い。

一行が進む道は木に囲まれており、薄暗くなりつつある。


「木が折れている感じはしないわね」


イザベラの言葉に、後ろに付いてきている騎士も頷く。

シドも地図をたたんで懐にしまった。


「この報告書正確じゃないね。仕方ない野営の準備をしよう」


シドの号令で魔法騎士達は馬を降りて、馬車から荷物を降ろし始めた。

イザベラも何か手伝った方がいいかと思ったが、シドが適当に休んでいてというのでお言葉に甘えて腰を降ろして一息ついた。

馬の扱い離れているとはいえ、こんなに長い時間馬の上に乗っているのは初めてだ。

ピクニックに行くときに乗る馬とは移動距離も違う。

痛むお尻を撫でて、マントの前のボタンを留めているとシドが隣に腰を降ろしてくる。


「お疲れ様。疲れた?」


「お尻が痛いわ」


顔をしかめるイザベラにシドは軽く笑った。


「それは仕方ないね。慣れるしかない。痛みを和らげる魔法もあるけれどイザベラには効かないから困ったね」


「そんな便利な魔法があるならかけてほしいわ」


お尻を摩っているイザベラにシドは隊服のポケットから出したものをイザベラに差し出した。


「人の体の痛みを和らげたり、治したりするのはかなり高度な魔法なんだよ。そうそうお目にかかれるものではないからあまり外では言わないでね」


「これは何?飴?」


差し出された小さな可愛い包みを受け取ってイザベラは手のひらで転がす。


「チョコだよ。今、王都で流行っているらしいよ。疲労回復には甘いものがいいよね」


シドは可愛い包みを開いて丸いチョコレートを取り出してイザベラの口に放り込んだ。

口の中で溶けてなくなるほど滑らかなチョコにイザベラは感動をする。


「美味しい!こんなチョコは初めてよ」


「それは良かった。溶けない様に氷の魔法をかけた缶に入れているんだ」


そう言ってポケットから缶を取り出す。

イザベラが触ろうとすると遠ざけられた。


「ダメだよ。イザベラが触ったら魔法が解けるだろ」


「あ、そうだった。魔法は便利だけれど、私には効かないから不便だわね」


「イザベラが塔から落ちた時は奇跡的に魔法が効いたのはどうしてなんだろうとずっと考えているんだけれど、答えが出ないんだ」


シドは木の幹に背を預けて、野営の用意をしている隊士を見ながら呟いた。


「確かにそうね!」


そんなことを疑問に思わなかったイザベラは驚いてシドを見る。

シドは前を向いたまま息を吐いた。


「解らないことが多すぎて困るよね。竜なんて出てくるし。イザベラは魔法が効かないし。まぁ、僕の魔法が暴走してもイザベラを傷つけることがないのは安心ではあるけれど。何かあった時に助けられないかもしれないと言う不安が出てきてしまったよ」


イザベラはもらったチョコレートの包みを開いて、口に放り込む。

溶けていくチョコを舐めながら人差し指を立てた。


「愛ね。愛の力よ」


言い切るイザベラにシドは噴き出して笑う。


「そうだったらいいね」


「絶対にそうだと思うわ。シドはそれぐらい私を好きだってことね」


言い切るイザベラにシドは頷いて横に座るイザベラを見る。


「イザベラの事は好きだけれど、魔法が効かない現象を超えるほど愛しているっていうのは凄いね。自分じゃ気づかなかったけれど」


「いやだー、恥ずかしい!」


顔を赤くしてシドの肩を叩くと、体がグラリと揺れた。

地面に手を付いて倒れるのを防ぎながらシドは息を吐く。


「力を吸い取られた・・・。僕に不用意に触らないで」


「ご、ごめん」


慌ててシドから身を引いたイザベラのもとに、魔法騎士が駆け寄ってきた。


「食事の準備できましたよ。・・・いやらしい事でもして不用意にイザベラさんに触ったんですか?隊長~」


地面に手を付いて脱力しているシドに冷たい目を向けて言う部下に首を振った。


「違う。イザベラのせいだ」


「ごめん。私が思わず触っちゃったの」


両手を合わせて謝るイザベラに魔法騎士が青ざめながら後退った。


「こわっ。俺達には絶対に触らないでくださいね。魔力の強い隊長だからこれだけで済んでいるんですからね!とりあえず、さっさと食事してください」


シドはヨロヨロと立ち上がって、イザベラを振り返った。


「そうだね、ご飯食べて明日に備えて早く寝よう」


イザベラも立ち上がり、ズボンに付いた土を払って歩き出した。

気付けばすでに野営の準備ができており焚火が炊かれている場所で騎士がお玉を持って立っている。

続々と騎士達が食事をもらって、火を中心に座り食事を開始していた。


「野営でも結構おいしい食事ができるんだ。先頭中でもないから気楽でいいよね」


「楽しみだわ」


焚火を中心に魔法騎士達が輪になっているところに、イザベラとシドも加わった。

暖かい野菜と肉入りのスープとパンを手に地面に座って食べ終わると、シドはイザベラ

をテントに案内した。

一枚のテント用の布の中心に森から拾ってきた棒が立ててあり、人が一人寝れるぐらいの空間は確保できている。


「てっきり地面に毛布を引いて寝るのかと思っていたわ」


「似たようなものだけれどね。一応のテント、風は防げるし寝顔も見られないしいいでしょ」


イザベラが入りやすいようにテントの布を持ち上げてシドは言う。

テントの中に入って中を確かめているイザベラにシドは毛布を差し出した。


「寒かったら言って、毛布追加できるから」


「ありがとう」


イザベラが毛布にくるまって横になるのを見届けてシドは軽く手を振る。


「おやすみ。僕たちは交代で見張りをしているから何かあったら言ってね」


「わかったわ、おやすみなさい」


挨拶をして、シドがテントの入口の布を降ろして去っていく足音を聞いてイザベラは静かに目を閉じた。



「疲れた・・・」


一日馬に乗ってお尻も痛いし、全身も筋肉痛だ。

シド達は、訓練のおかげか疲れている素振りすらない。

竜が見つかってほしいような、ほしくないような不思議な気分でイザベラは眠りについた。



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