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「イザベラ!ちょっと起きなさいよ。いつまで寝ているの!」


カーラーに体を揺すられてイザベラは重い瞼を開けた。

カーテンはすでに開かれており、窓の外は明るい。


「疲れているからもう少し寝かせて」


はぎ取られた毛布を肩までかけてもう一度寝ようとするイザベラの体をカーラーは揺さぶった。

それでも目を開けようとしないイザベラの耳元でカーラーは大きな声を出す。


「寝ている場合じゃないでしょ!昨日、竜が出て大騒ぎなのよ」


「知っているわよ。凄い近くで見たもの」


目を薄っすら開けて言うイザベラにカーラーは呆れて両手を上げた。


「それでよく寝ていられるわね!知ってる?隣の国のモロト国は大地震が起きたって話だったけれど竜の翼の風力で町が崩壊したってことだったらしいわよ」


「地震じゃなかったの?」


イザベラは起き上がってカーラーを見た。


「そうみたいね。竜が居るなんてビックリよね。今までどうして現れなかったのかしらね」


「さぁ、あの球が関係しているのかもしれないわよ」


あくびをしながらイザベラが言うと、カーラーは首をかしげる。


「え?あの球ってなに?」

「あ・・」


これは言ってはいけないことだったかとイザベラは慌てて口をつぐんだ。


「あまり私は聞きたくないけれど、あんたが今回結構関わっていることは分かったわ」


「私もわからないことだらけで、シド達もよくわからないようよ」


「今日も朝からずっと王様も含めて集まって話し合っているらしいわよ」


カーラーはイザベラの為に朝食を用意しながら言った。


「心配ね」


身支度を済ませたイザベラが席に着きながら言うとカーラーは呆れて息を吐く。


「あんたねぇ、他人事ね。私なんて不安で昨日はよく寝れなかったわ」


「だって私、人生の目標だった恋愛結婚ができそうだから幸せしかないわ。魔法騎士隊長のシドと結婚するのよ。何も不満はないわ」


嬉しそうに言う、イザベラにお茶を出しながらカーラーはまたため息を付く。


「結婚の前に、竜に国が亡ばされるかもしれないのよ。本当に、あんたは能天気ね。結婚できて幸せなんて、一か月前のあんたに聞かせてやりたいセリフだわ」


「本当だね」


後ろからシドの声がしてイザベラとカーラーが振り向くと、ドアを開けてシドが立っていた。


「ノックしたんだけれど、返事が無いから勝手に入っちゃった。ごめんね」


騎士服姿にマントまでつけているシドを上から下まで見てイザベラは首を傾げた。


「どこかに行くの?」


「いや?緊急事態に備えてすぐに飛び出せるように、全ての騎士が武装中だよ」


「なるほど」


シドがどこかに行かなくてよかったと安心してイザベラは頷いた。


「これから会議なんだけれど、イザベラがイビキかいて寝ているのを見てから行こうかなと思って」


シドの言葉にカーラーが噴き出して笑っている。


「イビキなんてかいてないわよ」


遠い目をして言うイザベラ。


「イザベラが元気そうで良かったよ。竜に目玉を返しに行こうって話になっていてね」


シドはテーブルの上に置かれているイザベラの朝食を手に取って口に放り込んだ。


「へぇー。大変ね」


あの大きな竜がどこに居るかもわからないのに、目玉を持って返しに行くなど大変だろう。

もしかしたら返り討ちに会うかもしれないとイザベラは頷く。


「他人事みたいに言っているけれど、返しに行くのはイザベラだから」


「はぁ?どうして私?」


驚くイザベラに、シドは面白そうに笑った。


「そりゃ、あの球を持てるのはイザベラだけだし。あの妙な魔法球が、竜の目玉で。だから解読できない魔法がかかっていたのではないかって見解なんだ」


「はぁ」


難しいことは分からないとイザベラが適当に返事をするのを見てシドは苦笑する。


「つまり、目玉を返せば竜が落ち着くのではないかってことなんだ」


「えー。でも、目玉を差し出したのは、竜の方でしょ。娘が欲しいって言っていないのに勝手に国の繁栄とか願って玉を差し出したんでしょ?そういえば絵本の最後はどうなっているの?娘は結婚したのかしら?」


シドは手に持っていた資料の束を机の上に置いて、その中に挟まっている絵本を取り出してイザベラに渡す。


「何これ・・」


カーラーは顔を引きつらせながらイザベラが手に持っている絵本を覗き込んだ。


「ただの絵本かと思ったら、実はあの竜の事が書いてあったのよ」


パラパラと本のページを捲っていく。

竜が玉を女性に差し出したところを開いて、次のページを捲った。

女性が教会で結婚している様子の絵が描いてあり、上空には竜が飛んでいる。

絵の上には一行だけの文章をイザベラは声に出して読んだ。


「幸せに暮らしましたですって。これだけよ」


カーラーはイザベラから本を取ると、ページを注意深く見ていく。


「一番最後の背表紙に小さく文字が書いてあるわ。“竜との交流を忘れないように、子供たちに語らせよう。永遠に我が国が繁栄しますように。アントワ王妃”ですって」


「アントワ王妃~?嘘くさい名前ね。そもそも、この絵本を真実とみなすのが可笑しいんじゃないの?誰かが適当に書いたのを城の図書室に入れたとか考えられない?」


イザベラは疑いの眼差しでカーラーを見つめる。


「知らないわよ。そう書いてあるの!」


「アントワ王妃?調べてくる」


シドは呟いて、カーラーから絵本をひったくると部屋から出て行ってしまった。

その背を見送って、カーラーはイザベラをちらりと見る。


「シド隊長を近くで初めて見たけれど凄い綺麗な顔しているわね」


「そうでしょ」


自慢げにうなずくイザベラにカーラーも頷いた。


「変わり者同士、お似合いだわ。あんたたち」




午後になりイザベラは会議に呼ばれた。

城の中の会議室と呼ばれているドアをイザベラは見上げる。

ドアの前には、王直属の護衛騎士が二人立っておりイザベラを見ると軽く頭を下げてくれた。

少し前に写真と本人が合っているかどうか確認していたのでお互い顔は知っている。

イザベラも軽く頭を下げると、護衛騎士がドアをノックして開けてくれた。


「中は凄い揉めている感じですよ」


「・・・でしょうね」


竜などでてきてしまっては意味わからないだろうとイザベラは頷いて重い気分で会議室へと足を踏み入れた。

長い机の奥に騎士に囲まれた男性が立ち上がりイザベラに手を振った。


「やぁ、君がイザベラ・サントラユか。今回は大役を任せてしまい申し訳ないね」


会ったことは無いが、顔は知っている。

王様だ。

イザベラはとっさに膝を折って頭を下げた。


「楽にしてていいよ」


いつもと変わりないシドが立ち上がってイザベラの背を押した。


「それは私が言うセリフだがな。座るがいい」


王がイザベラとシドに視線を向けて言った。

シドに背を押されながら長い机の真ん中にイザベラは座った。

まさかの王様の前だ。

王の後ろには護衛騎士のアルベルト隊長とランドル副隊長の姿も見えた。

窓を背にしているためか、ランドル副隊長の禿げた頭は太陽の光が当たり反射している。

イザベラの横はシドとアントム、その横には団長も座っている。


「大役といいますと?」


本当にイザベラが竜に目玉を返しに行かないといけないのかと嫌な予感を感じつつ聞く。

王は口ひげを触りつつ、イザベラに視線を向けた。


「会議の結果、竜はなぜか怒っておるから目玉を返して許してもらおうということだ」


「子供に言う感じですな」


後ろに立っているアルベルト隊長が鼻で笑ってイザベラを見た。


「昔は美青年だったのに今はおじさんって言ったことを、まだ根に持っているのね」


隣に座るシドに囁いたつもりだったが、声が響いたようで数人が笑いをこらえて視線を背けた。

大きな竜の姿を思い出してイザベラは身震いをする。


「返すと言っても、どうやってですか?」


「竜の前に目玉を持っていくしかあるまい」


アルベルト隊長が答えるがイザベラは納得がいかない。

そんな近くに行ったら殺されてしまうではないか。


「無理です。竜に近づくだけでも恐ろしくて。死んだらどうするんですか!」


青ざめて言うイザベラに王が頭を下げた。


「申し訳ない。あの球を持てるのはイザベラだけなのだ」


後ろに立っているアルベルトはイザベラを見下ろして圧をかけていく。


「我が主が頭を下げているのだ。行ってくれるな?」


「ううう・・・」


部屋の中に居る人たちが期待した目で見ているのを感じてイザベラは横に居るシドを見上げた。

いつもと変わりない無表情だが少しだけ目元が優しい。


「もちろん僕も一緒に行くよ。魔法騎士達を引きつれて」


シドの言葉に団長が嫌そうな顔をしている。


「イザベラ!頷かんか」


一番端に座っていた人物が立ち上がりイザベラに向かって叫んだ。

その顔を見てイザベラはぎょっとする。


「お父様!なぜここに」


「お前の親だから居るんだ。国の一大事なんだぞ!はい、行きますと言わないか!」


「お父様は行かないから、そんな適当なことを言うんだわ!竜はとっても怖かったんだからね」


言い合いをしている親子を眺めて王は口ひげを撫でる。


「イザベラよ、シドとは婚約中であったかな?」


婚約と聞いてイザベラは顔を赤らめた。


「そうですけれどぉ、まだ正式な婚約はしていないですよね」


「そうだったかな?」


シドは首をかしげる。


「イザベラ達が帰ってきたら、城の聖堂を使って結婚式を挙げることを許可しよう。すばらしく立派だぞ。王族以外は式をできないのだからな。ドレスも用意しよう、我が王妃のデザイナーに作らせよう」


「え?本当ですか?」


数十年前に王が結婚式を挙げた時の写真は見たことがある。

ドレスを着てシドと並んでいる姿を思い浮かべてイザベラは目を輝かせた。


「それに加えて、一か月の休暇をシドに与えよう。ゆっくりと二人で旅行でもして過ごせばよかろう」


王の言葉にまたイザベラは目を輝かせた。

シドと二人でゆっくりと旅行がしたい。


「はい、がんばります」


目を輝かせたイザベラが頷くと、王は満足して頷いた。


「素直でいい子だな」


「単純で、お恥ずかしい限りです」


王の言葉に、イザベラの父バルタンは冷や汗を拭きながら頭を下げた。




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