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町の騎士の詰め所の二階のゲストハウスに通されたイザベラは窓の外を見た。

すっかり空は暗くなり、街の灯りは消えている。

室内の時計を見ると真夜中だ。


少し広めの部屋は、ベッドが二つとソファーと机が置かれており昼間預けたシドとイザベラの旅の荷物が運び込まれていた。

先に休んでいいとシドに言われたが、緊張して休めるはずもなくイザベラは何度も自分の恰好が可笑しくないか鏡の前で確認をしていた。

まさか、シドと同じ部屋で寝ることになるとは思わず心の準備ができてない。

婚約者だし、いずれ結婚するのだから問題はないと思うが、ちょっと早すぎるのではないかしらと何度も心の中で自問自答を繰り返しバスルームと部屋を行ったり来たりしている。


「シド、いつ帰ってくるのかな」


何度目かの呟きをして、時計を見てため息を付く。

泣いたままのヨルマンを数人で担いで、エオノラも手錠をされたまま移動をして騎士の詰め所に帰ってきてからシドはずっと聞き取りをしているらしい。

流石に待つのに疲れたイザベラはベッドの上に横になった。


「魔法球が輝きをなくすと地震がくるとか・・・どういうことかしらねぇ・・。ただ私は、恋愛結婚がしたかっただけなのに・・・」


大きなあくびをしながらイザベラは呟いて、そのまま目を閉じた。



ガサガサと音がして、イザベラは重い瞼を開けようと身動きをする。

シドが帰ってきたんだ。

帰ってくるまでは起きていようと思ったのに、いつの間に寝てしまった。

重い体を起こしてシドの姿を探すが窓の外から差し込む光に驚いてイザベラは声を上げた。


「もう、朝!いつの間に寝ていたの!」


「イビキをかいて良く寝ていたよ」


すっかり身支度を済ませた魔法騎士姿のシドが口元を歪ませながらソファーに座っていた。


「嘘よ。イビキなんてかいてないわよ」


ボサボサの髪の毛を撫でながら言うイザベラにシドは耐えられないと言うように噴き出して笑った。


「いや、確かにイビキはかいてたよ。それに涎もすごかったよ。早く顔を洗ったら?」


すっかり目が覚めたイザベラはベッドから飛び降りてバスルームへと駆け込んだ。

鏡を見ると、ボサボサの髪の毛と口元には涎の跡が付いている自分の姿を鏡で見てイザベラは叫んだ。


「嘘でしょー。涎の跡が付いている!」


イザベラの叫びを聞いてシドの笑い声がバスルームまで聞こえてくる。


「そんなに笑わなくてもいいじゃない・・・」


シドが帰ってくるまで待って居ようと思っていたのに、気づけばイビキをかきながら涎を垂らして寝ているのを見られるなんて。


最悪の気分で顔を洗って身支度を整え、バスルームから顔を出すとシドはまた笑いだした。


「ごめん。イザベラが可愛くて」

「・・・イビキをかいてても?」


絶望的な顔をして聞いてくるイザベラにシドは笑いながら頷く。


「もちろん。こうして一緒に過ごすと、新しいイザベラを発見できてますます好きになるよ」

「・・・本当に?」


今度は顔を赤くして聞いてくるイザベラにシドは微笑んだ。


「そうやって、僕の言葉一つで気分が変わるところも可愛いと思うよ。イザベラが準備している間に朝食を運んでもらったんだ。一緒に食べよう」


シドが座っているソファーの前の机には簡単な朝食が置かれていた。

昨日は結局夕飯も食べれず寝てしまったことを思い出して、急に空腹を感じイザベラはお腹を押さえる。


「昨日は忙しかったものね」

「僕もお腹ペコペコだよ」


机を挟んで向かい合ってイザベラとシドは朝食を食べ始めた。

サンドウィッチとサラダと紅茶、シドの隊長室で食べたお昼ご飯と同じようなメニューにイザベラはため息を付く。


「いつか、シドと豪華な食事がしてみたいものね」


「そうだね、この事件が終わったらディナーに招待するよ。そういう所はあまり行かないけれど、イザベラとだったら楽しそうだな」


サンドウィッチを食べながら微笑むシドにまたイザベラは顔を赤くする。

これは、恋愛をしている状態ではないだろうかと心の中でガッツポーズをして、イザベラもサンドウィッチを食べた。


「それで、ヨルマン達はどうしたの?」


イザベラが聞くと、シドは顔をしかめる。


「どうしたも、こうしたも、大した情報は無かったよ。ヨルマンを騙して魔法球を盗んだまではよかったけれど、国に持って帰ったら大地震が起きて、竜が来て魔法球の光が消えたらしい。ヨルマンはそれを抱えてまたこの国に戻ってきたところを僕達が捕まえたって所だね」


「ヨルマンを騙したって言っていたけれど、愛してなかったのかしら?しかも、竜って何?」


「竜ねぇ・・ヨルマンの頭が可笑しくなったか妄想かだね。ヨルマンは馬鹿みたいに真面目だから、女の演技に騙されたんだろうね。団長が別れさせようとしていたのは正解だったな」


イザベラは、シドの部屋で会ったヨルマンの姿を思い出して頷いた。


「前に、もし何かあれば命をもって償うみたいなこと言っていなかった?」


イザベラの言葉に、シドはますます顔をしかめた。


「言ってた。馬鹿真面目だから、魔法球を国に返して、そのまま死のうとしたらしいよ。魔法球に魔力と体力を奪われて。まぁ、ギリギリ回避できたと思うけれど死なない様に今は見張っているけれどね」


「それで、これからどうするの?」


「国境までイザベラと行くつもりだったけれど、また城に帰ることになったよ。そろそろ魔法騎士達が数人応援にくるから、到着したらヨルマンとエオノラを護送しながら城へ向かう。イザベラは魔法球を持ってくれると助かるよ。危なくて誰も持てないから」


「解ったわ」


シドが少し触っただけで倒れてしまうぐらい力を吸い込んでしまう魔法球は確かに誰も持てないだろうとイザベラは頷いた。



朝食を食べ終えて、イザベラとシドが一階へと降りるとすでに城から魔法騎士が数人到着していた。

シドと、イザベラの姿を見ると意味深な笑みで笑い合っている。


「お疲れ様です。同じ部屋で寝たって聞きましたけれど、いやー羨ましいなぁ」


シドの部下がニヤニヤと笑いながら敬礼をして挨拶をするのをシドも敬礼をして返した。


「お疲れ。まぁね、イビキをかいていて可愛かったよ」


「ちょっと!イビキなんてかいてませんからね!」


イザベラが慌てて間に入って訂正をするのを見ていた魔法騎士達が囁き合った。


「あれは、何にもなかったな」

「無いな。賭けは俺の勝ちだな」


「さて、ここだと色々危ないから設備が整った城へと早く戻ろう」


シドが手を叩いて言うと、魔法騎士達が一斉に敬礼をして動き出す。

無駄口を叩いていても、動きは速くさすがエリートと呼ばれているだけあると感心しているイザベラにシドが手招きをした。


「なに?」

「あれを持っててほしいんだけれど」


シドが指をさす先には布に包まれた光を無くした魔法球が机の上に置かれていた。

昨日、イザベラが置いたままになっている。


「解ったわ」


イザベラは布で魔法球を包み持ちやすいように結んで両手で持ち上げた。

重くは無いが、片手で持つには大きすぎる。

抱えるように持っていると、魔法騎士がシドに敬礼をする。


「準備が整いました。いつでも出発できます」


「さすがだね。準備が早くて助かるよ。僕達の荷物も積んでくれた?」


歩き出したシドの後についてイザベラも騎士の詰め所から外に出た。

外の通りには馬車が一台止まっており、幌がかけられているが中は鉄格子が付いており出入口も鉄格子で閉じられていた。

シドは馬車の状態を確認するように手で格子を叩いて一周すると頷いた。


「ちゃんと魔法が発動できない様になっているね。ヨルマンとあの女を一緒に護送したらよくないかな?」


シドに聞かれた魔法騎士は首を傾げた。


「まぁ、良くは無いでしょうけれど、俺達も分散されるよりは一か所でまとまってくれた方が見張りやすいですよね。ヨルマンは死にそうな感じなんで逃亡したりしないと思いますよ。元気も無いからあの女と喧嘩もしないでしょうし」


「でも、あの女は元気だよね」


シドはしばらく悩んで、イザベラを見た。


「ねぇ、悪いけれど、見張りとしてイザベラも一緒に馬車に乗ってくれないかな?」


「嫌よ。騙していた女と騙されて死にそうな男と一緒の空間に居るなんて辛いもの。それに、護送車に乗るなんて犯罪者ではないんだから」


即答するイザベラにシドはもっともだと頷きつつ、イザベラの顔を見た。


「イザベラしか居ないんだ。お願いだから見張っててほしいんだ」


そこまでシドに頼まれたら仕方ないとイザベラは嫌々頷く。


「本当は嫌なのよ」

「解っているよ。ありがとう」


シドに微笑えまれてイザベラも微笑んだ。


「それで、イザベラには中で二人を見張っててほしいんだけれど、注意事項があるんだ。この鉄格子は魔法がかけてあるから決して触らないでね。魔法を無力化されたらたまらない」


「・・・やっぱりお断りしていいかしら」


鉄格子を触るなと言われても、鉄格子で覆われている馬車を眺めてイザベラは言うがシドは首を振った。


「大丈夫だよ、座る部分は木でできているからクッションかなにかでイザベラの周りを覆って鉄に触れないようにするから。もし、エオノラが逃げたり攻撃しようとしたりしたら魔法球を体に押し当てれば元気が無くなるから、よろしくね」


「よろしくって・・・」


担架で運ばれてくるヨルマンが馬車に乗せられるのを見てイザベラは顔を曇らせた。

目は開いているが、昨日よりも顔色は悪く体も衰弱しているヨルマンは魔法球にかなり体力を奪われているのだろう、起き上がる元気すらなくなっている。


「これを押し当てたら死ぬかもしれないじゃない」


「大丈夫だよ。あの女はしぶといからね。逃げられるよりは死にそうになった方がよっぽどいい。でも殺しちゃだめだよ」


シドが言うと、後ろからエオノラが叫んだ。


「失礼な男ね。顔がちょっといいからって、ふざけるんじゃないよ」


手錠を掛けられたまま騎士に連れられて歩かされているエオノラがギロリとシドを睨んだ。


「言っておくけど僕は、顔もいいけれど、魔力も凄いからそっちこそ舐めた真似をすると痛い目見るよ」


さらりと言うシドを睨みつけながらエオノラは馬車へと背を押されながら押し込まれた。


「準備できていますよ」


魔法騎士に言われて、イザベラは仕方なく馬車の中へと向かう。


「じゃ、何かあったら僕を呼んでね。すぐ横で護衛しているから」


シドはそう言って魔法騎士達に指示を出して行ってしまった。

馬車の一番奥には不機嫌な顔をしたエオノラが手錠を付けられまま座っておりその床の上にはヨルマンが担架に乗せられたまま横になっている。

ヨルマンは顔色が悪いまま目を瞑っているがその手には手錠が付けられていた。

エオノラの向かいの席入口に違い椅子の上にクッションが大量に置かれており、イザベラはその上に座る。

頭までクッションに囲まれてまるでベッドの上に居るような快適さに目を瞑ると鋭い声がかけられた。


「イザベラさん!寝ないでください。その手に持っている魔法球が落ちて俺たちに当たったら最悪なんで」


いつの間にかイザベラの前に魔法騎士が座っており鋭い目でイザベラを見ていた。


「寝てないわよ」


慌てて起き上がって言うイザベラだが魔法騎士は首を振った。


「寝ようとしていましたよ」


そうこうしていると、馬車が動き出した。

幌がしてあり外の様子が分からないが、動き出した馬車は以外に快適でイザベラはまた眠りに落ちそうになる。

そのたびに、監視役の魔法騎士に起こされるのを繰り返して何とか起きていようとイザベラはエオノラと話そうと決めた。


「エオノラさん」


「何よ」


答えてくれないかと思ったが、エオノラはイザベラを睨みつけながらも返事をする。


「エオノラさんはあっちの国で命の危機じゃなかったんですね」


イザベラの言葉にエオノラは噴き出して笑った。


「私の嘘だもの。何でこんなことをしたかって?出世したかったからよ。ただそれだけ」


「そこまで聞いていませんけれど・・・」


「ムカつくから教えてあげる。その魔法球を国に持って帰れば出世できて、上司に認められると思ったからよ。平民が出世できるのはそれぐらいでしょ?あんたみたいな、貴族様にはわからないでしょうね!」


敵意をむきだしにして言うエオノラにイザベラは肩をすくめる。


たしかに、上司に認められ出世しようなど思ったことは無い。

ただ、恋愛結婚がしたいそれだけが目標だったのだから。


「大地震が来たんですか?」


「そうよ。気づけば町がめちゃくちゃ」


「竜ってなんですか?ヨルマンさんが見たって言ってましたけれど」


イザベラが聞くと、エオノラは肩眉を上げる。


「さぁ?知らないわ。ヨルマンの妄想じゃないの?私に騙されて頭おかしくなっているから」


イザベラの前に座っていた魔法騎士が呟いた。


「うわっ、地獄だ。ヨルマン可哀想・・・」


イザベラは膝の上で抱えるようにして持っていた光を失った魔法球を抱えなおす。


「知らないわよ。あんたの国を防衛している大切なものなんでしょ?」


エオノラも知らないとなると、一体これはなんなのだろうか。

イザベラは光を無くした魔法球を見つめた。

それから、エオノラは口を開くことなく休憩を挟みつつ城へと一行は到着した。


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