13
「おわったー!」
最後の写真付きの書類を合格の箱に入れてイザベラは両手を上げる。
二日間かけて行われた顔認証試験ではだれも顔くらましの魔法をかけている人は居なかった。
「お疲れ様。僕も完成した。試してみて」
写真の確認作業をするイザベラの隣に座っていたシドは長細い筒のようなものをイザベラに渡す。
「何これ?」
「氷の魔法の応用でスイッチを押すと氷の剣が出る。危ないから自分の方には向けないでね」
「わかったわ」
イザベラは頷いたもののどうせ今度も失敗だろうと思い、スイッチを入れた。
青白い光が筒から出て天井まで伸び、ザベラは光の勢いに驚いてひっくり返り椅子から落ちた。
「イザベラ」
シドは慌てて床に落ちる前にイザベラの体を掴んで支えたが、イザベラの手から落ちたシドの発明が床に転がった。
筒から発している青白い光がドアに当たり音を立ててドアが真っ二つに切り裂かれ片方は床に落ちた。
「わっ!」
驚いて声を上げるイザベラと同時に廊下に居た隊士も悲鳴を上げた。
「わぁぁ。足を切られると思ったぁぁ。隊長、魔法使いました?」
数名の魔法騎士が真っ二つに裂けたドアから顔を出して怒鳴る。
「ごめん、僕の発明が奇跡的に動いたんだ。イザベラが手を離したから・・・」
イザベラに怪我無いか確かめてシドが謝った。
「酷い!シドの発明に驚いただけよ。まさか成功するなんて思わないじゃない」
真っ二つに割れたドアを見て青ざめているイザベラに騎士達も頷いた。
「えっ、これ隊長が作ったやつ成功したんだ・・・すげー威力・・・」
「氷の魔法を改良して剣のようなものを作ったんだけれど、ちょっと改良が必要だな。持続力が無い。でも初めてイザベラででも使えるものが作れたよ」
「威力が凄すぎて私、人殺しになるとこだったわ。もっと生活に活かせるようなものをお願いします。火をつけられるとか自動でお皿が洗えるとか」
「うーん、ちょっとそういう魔法は思いつかないな」
落ちている筒を拾って観察し始めたシドに誰もがため息を付いた。
「うわっ!何だ!これ、ドアが壊れている。天井も穴が開いているし・・・」
走ってきた魔法騎士が真っ二つに割れたドアを見て目を丸くして、部屋の中を覗き込んでシドを見つけると敬礼をした。
「シド隊長!フィリップが到着しました」
「解った。本物かどうかわからないからイザベラも一緒に行こう」
シドに言われてイザベラは頷いた。
塔の近くの魔法騎士の詰め所の前の中庭に戻るとすでに人だかりができていた
シドとイザベラ達が姿を現すとさっと道ができ、人だかりの中心へと行くことができた。
中心には、移動可能な鉄格子が置いてあり中にはまだ幼さを残した青年が涙を流して鉄格子を掴んで立っている。
「僕が何をしたっていうんですかぁ・・・。おばあちゃんの葬式をしていたら急に牢に入れられて連れてこられて・・・」
べそべそと泣きながら叫ぶ青年をイザベラはよく見る。
塔の上で一瞬だけ見た青年の顔にそっくりだ。
「ずっと見ていても、金髪の短い髪の毛に青い目の幼さを残した青年に見えるわ」
隣に居たシドが頷いて、イザベラに入隊した時の写真付き書類を渡した。
イザベラは書類の写真と牢屋の中に居る青年を見比べ、違いが無いことを確かめ頷いた。
「間違いないわ。フィリップ本人だと思うけれど。18歳にしては幼いわねぇ。顔つきも言動も」
イザベラが言うと、フィリップはますます涙を流す。
「何ですかぁ、僕はフィリップですよぉ・・・。みんな寄ってたかって偽物がどうのとか終いには、幼いとか言われて酷いよ」
そんな彼に牢屋を取り囲んでいた魔法騎士と城の騎士達が一斉に罵声を浴びせた。
「お前のせいで大変なことになったんだぞ!」
「盗人が!」
散々言われてフィリップはますます涙を流して大声を上げた。
「どうしてそんなことを言われないといけないんですか!僕が一体・・・何をしたっていうんだ!」
叫ぶと同時に、小さな爆発音と光がフィリップから発する。
「魔力暴走だ!伏せろ」
シドを除く騎士達が一斉に身構えるが特に何も起こらなかった。
フィリップは牢屋の中に座り込んで何が起こったか分からないようでぽかんと口を開けている。
「フィリップの魔力が少ないからこれだけの魔力暴走で済んだんだ。フィリップはあの現場に居た人間ではないな。魔力が少なすぎる」
シドの言葉に、魔法騎士達が頷いて檻の中のフィリップに話かけた。
「お前の一つの容疑は晴れた。次は、繋がりが無いか調べるから覚悟しておけよ」
「一体何の話ですか・・・」
泣きながら言うフィリップが入った檻を騎士達が押していく。
去っていくフィリップを見送ってイザベラは息を吐いた。
「フィリップ可哀想・・・」
「まだ、フィリップに化けていた人間と繋がりがあるかは不明だからね。これから尋問だよ。フィリップは特徴のない顔をしているから化けやすいんだろうね」
「そういうものなんですか?」
魔法の事が一切解らないイザベラはシドの顔を見上げた。
いつもと変わりない綺麗な顔がそこにはある。
「僕の顔を見て何とも思わない?」
「別に・・・綺麗な顔だなぁって思うけれど」
シドの顔を見て照れるイザベラに、周りに居た人がざわついた。
「シド隊長は今、“顔くらましの魔法”を使ってフィリップそっくりになっているのに気づかないのか?」
後ろに居た王の護衛部隊副隊長のランドルが顔をしかめて聞いてくる。
イザベラは驚いてシドの顔をまじまじと見たが、いつもと変わりないシドの顔がそこにはあった。
「私には、いつもと変わりないシドの顔に見えますよ」
「なるほど、イザベラの魔力が効かない体質が本当に役に立っているよ。偽物がすぐに発見できるからね。この魔法は実は完璧ではないんだ、僕がフィリップの顔をしていても違和感があると思うんだ。それは背丈だったり体系だったりするんだけれどそれはどうにもならないからね。魔法ではそこまではできないんだ」
イザベラはシドの顔だけがフィリップになった姿を想像する。
確かにフィリップはまだ成長途中なのか、シドの背には届かない。
すらっとしたシドの顔がフィリップになっていたら違和感を感じるだろう。
「僕は、魔法騎士隊長だ。顔が良く知られているし、いつもと変わった言動をしたら誰もが違和感を感じるだろう?別の誰かに成りすまして職場に忍び込むのには新人であるフィリップが最適だったんだろうね」
シドの説明にイザベラは大きく頷いた。
「顔だけ変わっても、どこかで違和感が出てくるのね」
「そういう事、フィリップは騎士の中では結構背が低い。160センチぐらいかな。イザベラが見た女性がそれぐらいの背丈だったんだろうね」
「ヨルマンの美人の彼女がそれぐらいの背ですね」
魔法騎士の一人が言う。
「なるほど、まだ美人の彼女は捕まらないのか・・・」
シドが呟くと、塔の中から大声が聞こえた。
「ヨルマンが脱走したぞ!」
「魔力を封じる牢獄に居るのになぜ脱走できたんだ?ヨルマンが魔法球を盗む可能性があるな」
シドが呟いて塔を見上げた。
魔法騎士達が剣を抜きながら塔へと走って行き、城の騎士は命令をしながら列をなして塔を囲み始めた。
「魔法騎士は二手に分かれて塔を登れ!ヨルマンが最上階にあるものを狙っている可能性が高い」
シドが叫ぶと、魔法騎士達が返事をしながら塔へと走って行く。
「城の騎士は計画通り周りを囲め。魔力が多少使えるものが前線だ!」
突然始まった戦闘モードにイザベラは避難しようと決意をしたときにシドが腕を掴んできた。
「イザベラは僕の傍にいて。魔法騎士達の顔は覚えているようね?」
「魔法騎士どころか、本人確認した人は覚えているわ」
「ありがとう、見た覚えのない人が周り居たらすぐに教えて。とりあえず塔に僕達も行こう」
「えっ?私は戦えないわよ」
抵抗するイザベラにお構いなしにシドは腕を取って引きずって連れて行く。
塔へ続く階段付近に立っている魔法騎士達が敬礼をしてシドとイザベラを通した。
シドに腕を掴まれたまま塔の階段を登る。
息を切らせながら最上階へと向かい、魔法球が置いてある部屋へと向かった。
団長とアントムが部屋の中にいて、シドとイザベラを見ると鋭い視線を向けた。
緑色の光を発していた魔法球は無くなっており台座だけが置かれている。
「俺達が部屋についたらもう無かった」
険しい顔をした団長が言うとシドは驚いて台座に近づく。
「鐘は鳴っていませんよ?」
階段をあがって息を切らせているイザベラにシドは頷く。
「一部の魔法騎士は鳴らないように設定されていたからだ!ヨルマンは魔法球に力を入れる役割の一人だった」
「やられたな。犯人はヨルマンだ。変装していたのはヨルマンの恋人だな」
団長が怖い顔して言うがイザベラは首を傾げた。
「でもヨルマンが魔法球を持っているとしたら魔力と体力を吸い取られるんですよね?そんな事できるかしら?」
「愛は人を馬鹿にするんだよ。体力と魔力を吸い取られているからまだそんな遠くには行っていないはずだ」
「確かにあり得ないぐらい魔力と体力を吸い取っていく玉ですからね。もし、隣国へ持っていくことが目的なら途中で力尽きて死ぬでしょうね」
シドが頷くとアントムが頷いた。
「これだけの防御ができる魔法の構築を知りたいだろうから隣国に持っていくことはあるかもしれない。アントムが死のうがどうでもいいけれど、隣国にあの魔法球が渡るのは防がないといけないね」
窓の下から団長を呼ぶ声が聞こえ、シドたちは窓から顔を出した。
下に居た騎士が声を上げている。
「団長!城の屋上です!犯人らしきものが光る玉をもっているので取り囲んでいます」
「よし、すぐに向かう」
団長はそう言うと、窓から飛び降りた。
「ここ、凄く高いですよ」
イザベラが驚いているとアントムも窓から飛び降りた。
シドはイザベラを抱き上げにやりと笑う。
「これも応用だよ。風の魔法で衝撃を和らげることができる」
イザベラを抱えたままシドは窓から飛び降りた。
「いやぁぁぁ」
フワッとした浮遊感にイザベラは悲鳴を上げて目を瞑った。
「イザベラ、もう地上に着いたよ」
優しくシドに言われて目を開けると、塔と城を繋ぐ屋根の上だ。
「どこが地上?」
小さく言うイザベラにシドは笑ってイザベラを抱えたまま屋根の上を走りだした。
遠くには団長とアントムが走っている姿が見える。
「近道だからね」
屋根の上を走ること数分、騎士達の怒声が聞こえてきてイザベラは振り返った。
地上には沢山の騎士が上を見上げており、イザベラが居る位置よりはるか上の城の屋上に人影が見えた。
「あの上か」
シドは呟いてイザベラを抱えたまま窓から城へと入る。
「飛んでいかないの?」
「重さがあるものは無理。風の魔法を応用して落ちたときに少し衝撃を和らげたりはできるけれど」
「便利なようで不便なのね」
よくわからないと首をかしげるイザベラを抱えてシドは城の中を走った。
騎士達が道を開けてシド達を優先的に通してくれる。
城の屋上へと続く階段をイザベラを抱えながらシドは走って登った。
最上階へと向かうと、一人の男性を取り囲んでいる魔法騎士達が居た。
中心に居る男は緑色に光る魔法球を手に持っている。
「ヨルマンだわ」
イザベラが顔を確認して言うと、シドは頷いた。
「誰かがヨルマンに化けているわけではないんだな」
シドは呟いて剣を抜いた。
「ヨルマンを捕まえろ!生死は問わない!」
シドが声を上げると、ヨルマンを取り囲んでいた騎士達が答えた。




