12
「イザベラ!起きなさいよ!」
カーラーの声と共に布団をはぎ取られてイザベラは目を開けた。
侍女服を着た親友カーラーの冷たい瞳と目が合ってイザベラは飛び起きた。
シドたちが寝てしまったので、イザベラは用意された部屋で休もうと思ったが体が興奮して眠れない状態だったのにいつのまにか寝てしまったらしい。
「あれ?私いつの間に寝ていたの?私枕が変わると寝れないのに・・・」
「絶対嘘でしょ。イビキをかいて寝ていたわよ」
ボサボサの髪の毛を手で撫でつけながらベッドから降りるイザベラを横目で見ながらカーラーは朝食を机の上に用意していく。
「今日は何かやるんでしょ?シド様とアントム様はもう会議に参加しているわよ」
「まだ、朝早いじゃない。シド元気になったのね。よかった」
時計を見るといつも起きる時間より1時間ほど早い。
あくびをしているイザベラを鏡の前に座らせて櫛を渡した。
「ほら、さっさと身支度を整えなさい。寝坊をするイザベラが結婚出来て私の婚約が決まらないのはなぜなのかしら」
ぶつくさと呟いているカーラーはベッドを整え、簡単に身支度を整えたイザベラが朝ごはんを食べ始める。
「昨日は大変だったのよ。大きな事件が起きて凄い疲れたわ」
パンをちぎりなら言うイザベラに飲み物を注ぎながらカーラーは頷いた。
「知っているわよ。大騒ぎなんだから。ヨルマンさんはよくわからないけれど容疑者として閉じ込められているって噂よ」
「ヨルマンは変な女と付き合っていたのが運の尽きね」
「あー聞きたくない!すべての事件が終わるまで私は何も聞かないわよ。いくら噂好きの私でも聞いてはいけないことを聞いてしまって牢獄に入れられたたまったものじゃないわ」
イザベラが話し出すとカーラーは耳を塞いだ。
「そんなバカな」
突拍子もないことを言うカーラーにイザベラは噴き出す。
「あんた知らないだろうけれど、今大混乱なのよ。魔法騎士の新人君なんて指名手配されているらしいじゃない」
「フィリップねー。帰ってきたら拷問の刑を受けさせるって言ってたわ。ヨルマンも拷問の刑だって言っていたけれど何をするのかしらね」
「怖いっ!私、あなた達とはしばらく関わらないようにするわ。早く食べて、シド様の所に行きなさいね。私は普段の仕事に戻るから」
素早く片付けて出ていくカーラーに手を振ってイザベラも朝食を食べようとパンを口に含んだ。
朝食を食べ終えたイザベラが廊下にでると、カーラーが言っていた通り、大混乱だった。
騎士の数が多くなっており、各箇所に配置されていた。
魔法騎士達がいる塔へと近づくと、黒い服を着た騎士に止められる。
「これから先、魔法騎士以外は立ち入り禁止だ」
「シド様に用事があるのですが」
「立ち入り禁止だ!」
今にも剣を抜いて斬りかかってきそうな殺気を出されてイザベラは一歩下がる。
侍女服を着ていても通してくれないとなると困ったと思っているところに後ろから会いたいと思っていた声が聞こえた。
「彼女は通していいよ。僕の婚約者だ。身元もはっきりしている」
「シド!婚約者だなんて、そんなぁ」
青い魔法騎士の騎士服を着たシドが顔を赤くしてモジモジしているイザベラの肩に手を置いた。
「シド隊長。かしこまりました」
黒い服を着た騎士は敬礼をするとシドとイザベラと通してくれる。
「凄い物々しいですね」
少し城の中を歩いただけで殺気立っている雰囲気にイザベラが言うと、シドは頷いた。
「そりゃね。どこにスパイが入り込んでいるか分からないからね。はいこれ、兄さんから」
歩きながらシドに書類の束を渡される。
「なんですか、この書類は・・・」
ペラペラとめくると、顔写真入りで騎士の経歴と家族歴が書いてある。
「騎士達が入隊するときの書類。まずは顔と実際の人間が合っているか確認するって」
「誰が?」
「顔くらましを見破れるのは今の所イザベラだけだからね」
ニッコリとシドに微笑まれてイザベラは項垂れる。
婚約者と言われて舞い上がっていた気持ちが一気に沈む。
「一体何時間かかるんですか・・・」
数時間後イザベラは魔法騎士達の詰め所の横の部屋に作られた特設会場に座って、写真と顔が合っているかの確認を行っていた。
騎士全員を行うことは不可能に近いということなので、上層部だけ顔認証を行うということだが机の上に置かれている書類の束にイザベラはうんざりしてしまう。
部隊ごとに入室し、イザベラが書類の写真と実際の写真があっているかの確認をする。
サポートとして横にシドが座っているが、彼は机の上で何かを作っていて書類の写真には興味がなさそうだ。
「何を作っているの?」
「イザベラみたいに魔法が使えない人が役に立つような道具だよ。まだ一回も成功していないけれどね」
まだ少し体調が整っていないのか、少しだけ顔色が悪いシドにイザベラは頷いた。
隣に座ってくれているだけでも安心する。
こうしてシドの部屋にあったガラクタは増えて行ったのかと納得しつつ、後ろに立つシドの部下を振り返った。
「次の部隊を呼んで」
シドの部下は頷いて廊下へ続くドアを開けた。
「次の部隊どうぞー」
シドの部下が声を掛けると、騎士達がぞろぞろと入ってきて一列に並ぶ。
書類には王直属の護衛隊と書かれており、番号が振ってある。
「1番、王直属護衛部隊隊長 アルベルト・アルフォンスです」
椅子に座っているイザベラに敬礼をする男の顔を見て、書類に貼られた写真を見る。
「この写真古すぎません?」
目の前の男は口ひげを伸ばしており、体つきも写真より筋肉が付いている。
50代後半だろう。
イザベラが手に持っている写真にははつらつとした20代の青年が写っている。
横に座っていたシドも頷いて写真と前に立っている男を交互に見た。
「確かに、写真が古すぎるけれど判断はできるでしょ?」
「この美青年が年を取るとこういう普通おじさんになるのね。でも顔は同じ感じです合格!」
イザベラは書類を合格と書かれた箱へと放り込んだ。
「合格しても嬉しくありませんな」
アルベルトは文句を言いつつ敬礼をして部屋を出て行った。
後ろに並んでいた男が前に出て敬礼をする。
「2番、王直属護衛部隊 副隊長 ランドル ルンペンスです」
イザベラは書類の写真を見て前に立つランドルを見る。
写真の青年は金髪の長い髪の毛を三つ編みにして前に垂らしている美青年だ。
前に立っているのは坊主の男だが顔は整っている。
髪の毛が無くなっただけで顔は本人だ。
「・・・・時間の流れって残酷ねぇ・・・・。顔は年取っているけれど髪の毛以外は変わらず整っているから合格です」
窓から差し込む太陽の光がランドルのツルツルの頭皮に反射して輝いているのを見ながらイザベラは合格の箱へと書類を入れた。
「くっ・・・屈辱的ですな・・・」
髪が無くなった頭皮を撫でながら歯を食いしばってランドルはイザベラとシドを睨んで出て行った。
後ろに並んでいた仲間の騎士達が笑いを堪えながら見送っている。
王直属の護衛部隊の顔確認が終わりイザベラは息を吐いた。
「この部隊、写真が古すぎて確認が大変だったわ」
「王直属ともなると凄腕が揃っているから騎士歴も長くなるから仕方ない。次は姫様の親衛隊だから若い子が多いと思うよ」
シドが言いながら書類の束をイザベラに渡した。
「それは助かるわ」
書類をパラパラとめくって写真を見ると確かに美形ぞろいだ。
「姫様は顔がいい人が好きなのね」
イザベラが言うと後ろに立っていたシドの部下が苦笑している。
「姫様は見た目重視ですからね。シド隊長も姫様の親衛隊にスカウトされていましたよね」
「えっ、凄い。確かにシドは姫様の親衛隊の人達より顔はいいわよね」
イザベラはシドの顔を見ながら顔を赤くして褒めるとシドは嬉しそうにうなずく。
「ありがとう。言っておくけれど僕はその上魔法が仕えるからね。姫様の護衛騎士よりもすごいんだ。惚れなおした?」
「・・・まぁ・・」
イザベラは赤くなって俯くと、後ろからシドの部下が割って入った。
「はいはい、そこまでにしてください。仕事ですからね。次の部隊どうぞー」
「まだ、続くのね。もう疲れたわ・・・」
机の上にうつ伏したイザベラを見てシドは微笑んだ。




