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イザベラは医務室のベッドで寝たままのシドの顔を見てため息を付いた。

運び込まれた時よりは幾分シドの顔色は良くなっている。

他のベッドにも魔法騎士達が横になっている。

シドが倒れてから数時間が経過しており、外は日が落ちて真っ暗だ。


「おつかれさま」


医務室に入ってきたアントムにベッドで横になっていた数人が起き上がって敬礼をした。


「楽にしてていていいよ。イザベラちゃんの家には連絡しておいたから今夜は部屋を用意してあるからここに泊まってね」


「ありがとうございます」


今さら家に帰るのも億劫だと思っていたのでイザベラはお礼を言う。


「とりあえず簡単な報告をするね。被害は城の騎士が数名打撲、一番寝込んでいるのは魔法騎士の部隊だ。まぁそれは、ヨルマンの魔力暴走のせいだからなんともいえないけれど。魔法球を盗もうとしていたフィリップは逃亡中。彼は祖母が亡くなり休暇中だったんだね」


書類を見ながら言うアントムに起き上がってきた魔法騎士が頷いた。


「フィリップの野郎はおばあちゃんが死んだって言って泣きながら休暇を取って田舎に帰るって、あれは嘘だったんだな」


他の隊士も頷いて声を上げる。


「何もできない新人のふりしやがって。魔法だってそんなに使えませんって演技していたんですね」


フィリップへの怒りを口にする騎士達にイザベラはおずおずと手を上げた。


「あのぉ・・・私もフィリップと呼ばれる人をみたのですが、どう見ても綺麗な女性にみたのですが・・・シドがそれは“顔くらましの魔法”かもしれないって言っていました」


「えっ?」


イザベラの言葉一同が驚く。


「女性に見えたの?」


アントムが驚いて聞いてくるのでイザベラは頷いた。


「一瞬少年のような顔に見えましたがその後は、黒髪の長いウェーブの綺麗な女性でしたよ。魔法騎士の恰好はしていましたけれど」


「顔くらましの魔法だ!」


一同は叫んだ。


「ってことは、フィリップはえん罪なのか?」


「いや、でも顔くらましの魔法って高等魔法じゃねぇか。俺だって使えないぞ」


興奮して大声を出している騎士達が煩いのかシドが顔をしかめて薄っすらと目を開けた。


「うるさいよ。ゆっくり寝させてもくれないのか・・・」


起き上がろうとするシドにイザベラは慌てて背中に手を当てて手助けをする。


「シド隊長!」


一斉に話し出そうとする隊士達に片手を上げて静めてシドは口を開いた。


「動けなかっただけで話はだいたい聞いていた。話を整理しよう。イザベラ、水くれるかな」


優しくお願いされてイザベラは慌てて水差しからコップに水を注いでシドに渡した。


「ありがとう。まず誰かが魔法球を盗もうとしたこれは間違いない。魔法球は魔法騎士と一部の騎士しか存在を知らないものだ。僕たちはそれを阻止しようとして魔法球が保管されている場所に行くとフィリップの顔をした男が魔法球を盗もうとしていた。

これはみんな見ているよね」


「そうですね」


部屋のみんなが頷く。


「ただ、イザベラには美しい女性に見えた。イザベラは魔法が効かない体質だ。犯人は顔くらましの魔法をかけてフィリップに成りすましていたということだ。なぜフィリップなのか、それと僕達がちょうど魔力暴走を受けて力が無い時に襲ったことは偶然ではないと思う」


「確かに偶然にしてはできすぎだな」


アントムが頷く。


「フィリップと言う男はそもそも存在する人間なのだろうか」


シドの疑問に隊士の一人が頷く。


「俺達が騎士になるときは親の親まで調べるので身元は確かなはずですよ。それに俺の父がフィリップの爺さんの部下でした。フィリップも幼い時に何回か会っています」


「そうだね、フィリップのおじいさんも魔法騎士だったのは間違いないようだ。代々騎士家系らしい」


アントムが手に持っていた書類を捲りながら言った。


「俺、凄い怖いことを考えてしまったんですけれど、魔法球を盗もうとしたヤツにフィリップは目を付けられていて、そいつが、おばあさんを殺してフィリップは田舎に帰らざる得ない状況を作り、フィリップに成りすましたやつが城に入ってきて魔法球を盗もうとしたんじゃないですか?」


一人の隊士が言うと、他の人も悲鳴を上げた。


「こわっ!ばあさんを殺されるわ、犯人にさせられるわ、フィリップ可哀想だわ」


「俺じゃなくてよかったー。でもまだフィリップが犯人の仲間かもしれない疑惑はあるからな」


シドは頷いて手に持っていたコップを飲み干した。


「フィリップが狙われたのは新人だからかもしれないな。しかし、俺たちの中に情報を流している奴がいるのは確かだ」


シドの言葉に隊士達はお互いの顔を見て指をさす。


「お前か?」


「俺じゃねーよ。お前だろ」


言い合いを始めた隊士達の間にアントムは入って手を叩いた。


「君たちではないことは確かだな。犯人は魔法球を手で取って持ち歩こうとしたが出来なかったんだ。それは、あれが魔力を奪い取ると知らなかったからだろう」


「あー、なるほど」


納得している一同にイザベラは首をかしげる。


「どうしてですか?」


「あの球は魔力を吸い取るんだ。そして貯めた魔力を使って城の防衛をしている。つまり、持ち運べば運んでいる人間の魔力を吸い取って最悪の場合死んでしまうからね」


シドの言葉に魔力の無いイザベラはよくわからず首をかしげる。


「持っているだけで死んでしまうのですか?」


「魔力と一緒に体力も奪うからね。城の防衛にはかなりの魔力を使っているからかなりの魔力を吸い取るようにできている。魔力の強い騎士が交代で玉に魔力を入れていたんだ。ただこれを知っているのは魔法騎士の中でも一握りだ。そのひと握りのエリート魔法騎士はこの医務室にいる連中と言うわけだ」


シドの言葉に一同は頷いて、肩をたたき合った。


「そうだよなぁ。疑って悪かったな!」


アハハッ、と笑っている仲間を見てシドは息を吐いた。


「しかし、誰だ?」


「ヨルマンが怪しい。あいつが美人の恋人と付き合い始めてから可笑しかったもん」


隊士の一人が言うと、一瞬部屋に沈黙が降りた。


「美人の・・・恋人?」


ポツリとアントムが呟くと、一同は声を上げる。


「顔くらましの魔法を使ったのはヨルマンの美人の恋人だ!イザベラさん、黒い髪の毛にウエーブだったんですよね?」


必死の形相の隊士にイザベラは窓から飛び降りた女性を思い出し頷いた。


「目の色は?黒かったですか?」


「一瞬で見ていないわ」


イザベラは答えるとアントムは手を叩いた。


「よし、とりあえず、田舎に帰ったフィリップを指名手配しているから帰ってきたら拷問の刑。ヨルマンの美人の恋人も指名手配しよう。寝込んでいるヨルマンは起きたら拷問の刑、イザベラちゃんは、主要な隊士達の顔の認証をお願いする。スパイが入り込んでいる可能性がある。すべて極秘に進めよう」


「顔認証って何をするんですか?」


不安になって聞くイザベラにアントムは肩をすくめた。


「簡単な作業だよ。明日伝えるから。今日はゆっくり休んでね」


「僕、もう少し寝るから、イザベラも休んだほうがいいよ」


シドは横になると、掛布団を肩までかけた。

本格的に寝始めたシドにイザベラは部屋を見回すと、興奮していた隊士達もそれぞれベッドへと横になり始めている。


「イザベラさんも休めるときに休んだ方がいいですよ。明日から忙しいから」


騎士と言う職業柄か、隊士達は横になるとあっというまに寝息が聞こえてきた。


「信じられない・・・みんなもう寝ているのね」


イザベラはため息を付いて部屋を後にした。


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