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「魔法球?」


聞いたことが無い言葉にイザベラはシドを支えながら聞き返した。


「僕達が交代で魔力を入れている玉の名前だよ」


「それを盗んでどうするの?」


医務室で寝ていた魔法騎士達はよろよろしながらも小走りで走って行ってしまった。

一番身動きが取れないのがシドのようで、イザベラが支えていないと立っていることもできない。

イザベラに支えられながらシドは医務室から廊下へと出る。

廊下には城の様々な部隊の騎士達が右往左往しており、かなり混乱していた。

医務室から出てきたシド見ると、数人が足止める。


「シド隊長。どうなっているんだ」


「解りません。誰かが魔法球を奪おうとしているか危害を加えていますね。魔法騎士を塔の最上階に向かわせていますが、魔力暴走を受けたおかげで主力の騎士の魔力が枯渇しています」


シドが早口に言うと、黒い隊服を着た騎士が舌打ちをした。


「最悪のタイミングだな。とりあえず周りを囲め。敵を城から一歩も出すな!」


「おっす!」


大きな声で言う騎士にまわりから返事が返ってくる。


「まだ鐘は鳴っている!敵には奪われていないから地上から塔を囲め!塔は魔法騎士達が守る。我らは地上を守れ」


怒鳴りながら走って行く騎士たち。


「僕たちは魔力が枯渇しているんだって・・・」


シドは呟きながらも歩き始めた。


「鐘が鳴っている間は大丈夫なの?」


シドを支えながら塔に続く階段までたどり着いて速足で上がりながらイザベラは聞いた。


「魔法騎士と王族以外が触ると鐘が鳴るような仕掛けになっているからね。鳴っている間はまだ魔法球がこの場にあるか壊されていないってことだ」


「なるほど。魔法球ってなに?」


「この国で一番大切なものだね。下手したら王様の命より大切なものだ」


「えっ?」


そんな大事なものがあるなどと聞いたことが無い。

驚くイザベラに支えられながら速足で階段を上がっていく。


「魔法球は魔法騎士の中でも魔力があるものが交代で毎日魔力を注いでいる。その魔法球がこの国の守りでもある。城を外部の魔法から守っている感じと言えばわかるかな?」


「なんとなく、それが無くなると城の守りが無くなってしまうってこと?」


イザベラが聞くと、シドは頷いた。


「そうだよ。守りが無くなれば外部から魔法で襲われやすくなるね。魔法球はここだけではないんだ、国境を守るために国境付近にもある。ただある場所は極秘だけれどね」


「だからそんなのがあるなんて知らなかったのね」


「そうだね」


最上階に近づくと階段に魔法騎士達が立っていた。


「状況は?」


シドが隊士に聞くと、息を切らしながら答える。


「ドアが開きません。魔力で塞がれているようです」


シドは頷いてイザベラに支えられながら最上階へと向かう。

魔力を使い切って座り込む魔法騎士達をよけて上へと向かうと団長が大きな体でドアを蹴っていた。


「まだ鐘は鳴っている!いいかお前ら、力と風の魔法でドアを蹴破るぞ」


大きな声を上げる団長の後ろに魔法騎士達が並んで手の平をドアへ向けた。


「せーの!」


掛け声とともに団長は力任せにドアに体当たりをし、後ろの隊士達は風の魔法をドアに当てるがビクともしない。


「氷の魔力を感じる。溶けさせればいけるかもしれない」


シドが言うと、団長が一歩引いた。


「いけるか?」


「やるしかないでしょ。魔力はほぼ無いですけれどね」


シドはイザベラから離れると、よろけながらも剣を抜いた。

刀身を手でなぞると青白く光り始めた。


「すごい・・・」


近くで見る魔法に感動をしているイザベラにシドは青白く光る剣を片手に振り返る。


「離れて」


慌ててシドから離れるとイザベラの前に魔法騎士が数人立った。

先ほど医務室で見た顔だ。

体力が戻っていないようでフラフラしているが剣を構えてシドに合図を送った。

シドも頷いて剣を構えドアに向かって降り降ろした。

剣から出た青白い光が当たりドアを揺らすが開かない。


シドはもう一度剣の刀身を撫でて魔力を加える。


先ほどよりも輝きを増した剣を構えてドアに何度も降り降ろした。

剣から発せられた青い光がドアに数回辺り、音を立ててドアが部屋の中に吹っ飛んだ。


「開いた!突っ込め」


すかさず団長が叫ぶと、シドを先頭とした魔法騎士達が部屋の中へと走った。

イザベラも廊下から部屋の中を覗き込む。

ドアは粉々になり部屋の中に散らばっており、小さな部屋の中心には緑色の光る玉が浮いているのが見えた。


片手で持ち運びができるほどの大きさだ。


玉の向こう側に年若い青年が驚いた顔をして立っているのが見えた。

白いワイシャツに黒いズボン姿の青年は隊士が突入してきたのを見て緑の玉から離れた。

窓に向かって手をかざすと鉄格子ごと窓が吹き飛んだ。


「フィリップだ!」


青年を見た魔法騎士達が一斉に叫ぶ。

騎士達が一斉にとらえようと手をかざして魔力を集める前にフィリップと呼ばれた青年は窓から飛び降りた。


「あいつ、この高さから飛び降りたぞ」


「落ちるぞ!捕まえろ!」


団長は走って窓枠へと向かうと下に向かって叫んだ。

イザベラも窓へと駆け寄って下を見る。

下を取り囲んでいた騎士達が一斉に落ちてきた人を捕まえようと動くが、目に見えない力で吹き飛んだ。


「魔法だわ」


イザベラが叫ぶと、団長は頷いた。


「風の魔法の応用だな。あいつは入りたての新人だ。そこまでの力はないはずだぞ。まだ風の魔法で相手を吹き飛ばす訓練すらしてねぇ!」


唸るように言って、走って部屋から出て行った。


その背を見送って気づけば部屋の中はシドとイザベラだけになっている。

シドは窓の下を見ながらもかなり疲労しており、顔色が悪い。


塔の下では騎士達がフィリップを捕まえようとしているが、吹き飛しながら前へと進んでいる。


「フィリップは逃げ切るな。しかしあんなに魔力があるとは思わなかった」


下を見て呟くシドは今にも倒れそうだ。

イザベラは彼の隣に駆け寄ってそっと支えた。

シドはイザベラに寄りかかり城の騎士を吹き飛ばしながら去っていくフィリップを眺めている。


「フィリップって新人なの?」


イザベラが聞くとシドは頷く。


「魔法騎士になってまだ半年。彼は魔力が強かったから騎士からこっちに回されたんだ。魔法については素人同然だったのに・・・」


不思議そうにしているイザベラも首をかしげる。


「“彼”って言った?女性じゃなくて?」


「ん?まだ18歳で若くて可愛い顔はしているけれど、どう見ても男だよ」


イザベラは首をかしげる。


「凄い美人の女性に見えたわ。一瞬少年のような顔は見えた様な気がするけれど・・・」


「・・・・それは大変なことだよ」


シドの顔色がますます悪くなっていく。

彼の声がちょうど鐘の音と重なりよく聞こえずイザベラは聞き返した。


「え?なに?」


「別の誰かが “顔くらましの魔法” を使ってフィリップに成りすましているんだ。いや・・・そもそもフィリップは存在しないのか・・・?」


ブツブツと呟いてふら付きながらシドは部屋の中心の緑色の光る玉へと向かい右手を向けた。


「鐘を鳴りやませよう」


シドの手の平から白い光が出て緑色の玉へと吸い込まれていく。

しばらくすると鐘が鳴り止み静かになった。


「だいぶ魔力を吸っているな・・・」


小さく呟いてシドの体から力が抜けた。

イザベラはシドの体が重く支えきれずに一緒に床の上にて倒れてしまった。

なんとか彼を退かそうとするが、抜け出すことができずイザベラは大きな声を出した。


「誰か助けて!シドが倒れたわ!」





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