指示出しラジオ
「先生の指示に従ったんです」
私は、そう言った。
私の言葉に、目の前に置かれたノートパソコンの画面に文字が浮かび上がる。
――他者に命令されたということですか?――
「えぇ、そうです。
救え、救え、と先生が言ったのです」
――アナタはそれに従った??――
「ええ、そうです」
私は文字に答えると、ぐるりと周囲を見回した。
教室だ。
私が通う、学校の教室。
真っ赤に染った、教室。
その血の主である、クラスメイトたちもまた血まみれだ。
血まみれで、たおれて、動かない。
私は視線を黒板へやる。
黒板の前には、教壇がある。
教壇の前には教卓がある。
その教卓の上には、【先生】がちょこんと置かれていた。
それはレトロ、と呼ばれる真っ黒なデザインのラジオだ。
このラジオが先生なのだ。
私に言葉をくれる先生なのだ。
私の机には文字が浮かぶノートパソコン。
パソコンの文字が消え、また新しい文字が浮かぶ。
――だから、クラスメイトを救った?――
「えぇ、救いました。
先生がそうしろ、と言ったので救いました」
私が文字に答えると、先生から雑音が流れはじめる。
ザザッ、ザーッという雑音が流れ始める。
先生から雑音が流れ始める。
それはやがて声となる。
声となって、私に語りかけてくる。
《救いましょう♪
全てを救いましょう♪》
それは、歌だった。
楽しそうな歌を、先生は歌いながら流し始める。
まだまだ救わなくてはならないらしい。
《アナタにはその力がある♪
全てを救う力がある♪》
私は椅子から立ち上がる。
パソコンの画面に文字が浮かぶ。
――まだ声は聞こえますか??――
《さぁさぁ、勇者様?
剣を手に取って、救いましょう♪
この世の可哀想な人達を救いましょう♪》
先生の声と、文字が重なり合う。
私は、剣を手に取る。
小さな、それを手に取る。
銀色のそれを手に取る。
私が答えなかったからだろう。
パソコンの画面の文字が、言葉が違うものに変わる。
――また指示に従うのですか?――
私は答えた。
「それが、正しいこと、ですから」
誰かを救うのは正しいことだ。
誰かを苦しみから救うのは、正しいことだ。
私は、それをしなさいと、【先生】から言われているのだ。
私は剣を手にして、教室を出る。
向かうのは、隣の教室だ。
問題児ばかりを集めた教室だ。
人の形をして、教壇にたち続ける偽物の先生を、剣を振るって救う。
それから、その教室の生徒たちも救う。
剣を振るって、救う。
彼らは救われていく。
私の手で救われていく。
その事実に。
その現実に。
私は嬉しくて、笑顔になった。
だって、皆、私を何も出来ない馬鹿だと言っていたのに。
そんな馬鹿な私に救われるのだ。
私しか、彼ら彼女らを救えないのだ。
気づくと、教卓の上に先生がちょこんと置かれている。
古びたラジオが置かれている。
先生のスピーカーから声が届く。
《よく出来ました♪
さぁさぁ、救いましょう♪
もっともっと救いましょう♪
哀れな子羊が、あなたを待っています、勇者様♪》
先生に褒められて、私はさらに嬉しくなった。
もっともっと、褒められるために頑張ろう。
私はまた、別の教室へと剣を携え向かうのだった。




