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14ちく話「風雲! ちくわ城」

 寝ていると、アイリスに起こされた。夜明けだと言っていた。


「よくわかるな」

「旅をしているとな、自然と身に着くのさ」

「旅か」

「言ってなかったか? 私は旅人なんだ」

「それはとても、楽しそうだな……。俺もやりたいね。さ、みんなも起こそう」


 全員を起こし、牢獄の出口付近へ。もちろん、ちくわも配った。

 一同はちくわを心臓に掲げる。


「作戦の確認だ。俺たちが狙うのは本館。その五階にやつらはいる。だがその前に、退路を保っておくため、北館、南館を占拠する必要があるんだ。その役目は……」

「「「南館、K班!」」」

「「「北館、C班!」」」

「その通りだ! 任せたぞ」


 C班とK班は息まいていた。闘牛が走る前、地面を足で搔くように。『やってやる』などの会話はなかった。『やる』ことが前提なのだ。


「W班はアイリスが先導する! 原則は一つ。サーチアンドデストロイ!」

「「「サーチアンドデストロイ!」」」


 作戦の決行が近づいてきた。ついに、はじまる。

 鬨のつもりで、声を張り上げる。


「『ちくわ軍』ッ! 合言葉は覚えているか⁉」

「「「おう!」」」

「ち!」

「「「力を前に!」」」

「く!」

「「「苦痛の先に!」」」

「わ!」

「「「我ら栄光をもたらさん!」」」


 昨日、ちくわ軍一同と深夜テンションで考えた合言葉だったが、存外みな気に入っていた。

 士気は最高潮だ。


「行くぞッ! 怒りを開放しろ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 ちくわ軍、暁の出撃。一人残らず、我先にと飛び出していった。俺も続く。


「えっ⁉ なんだこいつら⁉」

「うるせぇちくわ食え!」

「ぐわっ!」


 北館に出ると、兵士が一人いたが、その程度で止まるちくわ軍ではない。誰かがフックで顎を打ち砕いた。

 進軍を続ける。以前よりも態勢を強化したらしく、兵士の数も増えているようだ。四人の兵士が目の前で槍を構えている。


「こ、こいつら……」

「おい! 大臣に知らせろ!」


 一人の兵士が転回し、駆けてゆく。

 だが。


「「「ちくわ~……」」」


 ちくわ軍の怒りはその程度では到底収まらない。

 C班が一斉に前傾になる。それは獣の戦闘態勢に似ていた。


「「「ちくわああああああああああ!」」」

「うわあああああああああああ!」


 荒れ狂う巨象を前に、例え一撃で仕留められうる武器を持っていたとしても、それを行使できる狩人は少ない。逃げた兵士も含め、彼らはあっという間に人海に吞まれてしまった。


「ちくわだゴラァ!」

「食えオラ!」

「や、やめ!」

「生臭い!」


 マウントポジションからのちくわ強要。勝負あり。


「C班! 北館を頼んだぞ!」

「「「おう!」」」


 まさに疾風怒濤。勝利が破竹の勢いを輪にかける。つまり破竹輪の勢いだ。

 本館にたどり着くと、K班はそのまま南館へ進んでいった。

 ある兵士が叫ぶ。


「ちくわってなんだ⁉ ちくわってなんなんだ⁉」

「ちくわはちくわだろうが!」

「ぎゃあああああああ!」


 南館もじきに阿鼻叫喚と化すだろう。

 それを尻目に、W班と共に上へ、ただ上へ。

 二階。


「「「ちくわ屋で~す」」」

「がはっ⁉」


 三階。


「「「ちくわの時間だァ!」」」

「ぶへっ!」


 ちくわの衝撃に耐え切れず、兵士たちの屍が廊下に積みあがってゆく。

 だがちくわ軍も無傷というわけにはいかない。

 中にはちくわの力におぼれた者や、戦争のむなしさを嘆く者もあった。


「キヒヒ、ちくわさえあれば……」

「オデ、チクワ、クウ」

「ちくわが……泣いている……?」

「おい! 戻ってこい! ッ……なんでこんなことになっちまったんだよ⁉」


 それでも、俺たちは止まるわけにはいかなかった。

 そしてついに四階の階段へ。

 W班は、一度ここで様子を見る。これはあらかじめ決めていたことだ。

 敵の目前であればあれほど、慎重にいかねばなるまい。

 王の間の扉。その前にはやはり、二人の衛兵がいた。

 

「なぁ」

「うん?」

「カブトムシってよく見ると可愛いよね」

「確かに」

「俺にも触らしてよ」

「やだ」

「頼むから」

「やだ」


 二人はカブトムシで戯れていた。昨日捕まえたのだろうか。ふざけやがって。


「リンタロー……どうする?」

「できれば大臣とシンの不意を突きたい。ここは隠密だろう」

「ふむ……」

「俺は面が割れている。できるか?」

「やってみよう」


 なんとなく流れで信頼しちゃってるけど、大丈夫だろうか。そう思っていると、アイリスはちくわ軍の一人から襤褸の裾を破り取った。


「い、いやぁん……」

「少し借りるぞ」

「強引なのね。でも、優しくしてね♡」

「殺すぞ」

「すんません」


 襤褸を頭から被り、顔を隠した。そして、腰から背を曲げ、ヨタヨタと兵士たちの方へ歩いて行った。その様は、老婆そのものだった。

 作戦が失敗したときに備えて、いつでも暴れられるように指示し、一同で彼女の後姿を見送った。

 カブトムシを持った兵士が彼女に気づく。


「貴様! 何者だ!」

「ムッ!」

「……ゴホッ、ゴホッ……あたしゃしがない老婆さ……ゴホッ」


 しゃがれた声だ。これはもう完全におばあちゃんだ。


「老婆? 怪しい奴め!」

「ゴホッ……ウゥ……堪忍してくれぇ……」

「ちょ、ちょっと待てよ。なんか苦しそうじゃん。どうしたの、おばあちゃん」

「ゴホッ……ありがとうぅ……でも、いいんじゃよ……。もう出ていきますから……」


 兵士の一人は、なにやら懐柔されかかっている。すごいぞアイリス!


「いいから、ね!」

「……ここの兵士にのぅ。あたしの孫がいるんでさぁ……うんとちいちゃい頃に別れてしまって……それきりですじゃ」

「あ~なんとかしてあげたいな」

「だよね」


 二人とも、情に篤いのかもしれない。というかチョロすぎるぞ。

 アイリスが急にうずくまる。


「うぅ! い、痛い……老い先みじかい婆の、ささやかな願いです……どうか、どうか」

「ちょ、おばあちゃん⁉」

「やべーよ!」

「兵舎にいるかな?」

「探してこよう! おばあちゃん待っててね!」

「ズェアッ!」


 アイリスは油断していたところを、テンプルに中高一本拳。続けざまにふたつ放った。

彼らは気絶した。そしてカブトムシは飛んでいった。

 笑顔でアイリスが戻ってくる。

 それを迎える俺たちの目は、どこか冷めていた。


「どうだった?」

「姉ちゃん。今のはちょっとないんじゃねえの?」

「確かに」

「アイツらいいやつそうだったし」

「あのまま行かせてもよかったでしょ」


 固まった表情のまま、首だけ動かし、彼女は俺を見た。

 見るな。


「なんで殴ったの?」

「その、つい……」

「失格です」

「そんなぁ!」


 また拗ねるといけないので、でもよく頑張ったよとフォローもしておいた。

 沈んではいたが、ギリギリ持ち直していた。成長したな、うん。

 落ち着いたところを見計らい、声をかける。


「行くか」

「うん」


 ちくわ軍W班総勢二〇人。脱落者、四人。現在、一六人。

 一歩一歩、鬼気迫る足取りで勇み往く。

 ──圧制者の通り道、扉を隔てて並び立つ。


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