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異世界防衛隊〜進化で世界を救え〜  作者: シャルシャレード
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第二話

 俺は昔から穏健派だ。

 何をするにしても争いは好まないし、積極的に避けようとする。

 周りには怒りたくないとか、労力の無駄とか、協調性を乱したくないとか言っていたが、そんな事はない。昔から単に争うことが嫌い、いや、関心がなかった、無関心を装っていた。

 才能がないことに対して嫌味を言われたり、いじめられたりすることは良くあった。

 もちろんムカつくし、反抗したいなと思ったことがある。しかし、関心がなかったためか、無意識に無関心を装ったのか実行に移せなかった。

 そんな俺だから、積極的に何かを成し遂げようとしなかった。正確に言えば、成し遂げようとすることを避けてきた。


 

 なぜこの話をしたかと言えば、ある日、ある場所で、あの出会いがあってから全てが変わったからだ。

 人類の中の強の部分に触れた時の衝撃。

 雷に打たれたようであった。

 そして、無関心ではいられなかった。

 

 元々、異世界防衛隊には興味があった。

 みんなに注目されて、チヤホヤされるのもそうだが、それ以上に"憧れ"があった。

 

 ただ、それを成し遂げるためには越えなければならない壁があった。


 光力…

 全ての人間がうちに秘めており、使うことにより不思議な現象を起こすもの。

 あるものは、ダイアモンドをもスパッと斬る剣を、あるものは鋼すら砕く拳を、激流を操るものなどなど…。

 当たり前のように使っているがとても不思議なものなんだなと俺は思っている。

 ただ、ここにこそ不平等が隠されている。

 人により、素質と呼ばれ大きく分けられているのだ。


 素質ってのは簡単に言えば、成長の限界値みたいなものである。

 わかりやすく言えば、箱である。そこに後から蛇口で水を入れ、満たす。

 もちろん、個人によって箱の大きさ、蛇口の勢いが違う。

 どれだけ早く蛇口を回そうとも箱の大きさは変わらないし、蛇口の水の勢いが弱ければ水は貯まらない。

 

 では、それらは、どう決まるのか。

 肝心の素質は、当たり前であるが生まれた時に与えられる。

 つまり、生まれながらにして、限界は決まってしまうのである。

 どれだけ早く蛇口を開けようとも、箱がいっぱいなってしまっては意味がないのだ。


 無力とは、対岸にある才能。

 圧倒的な力で僅かな力をあっという間に飲み込み、超えていく。


 俺は無力だ。

 目を閉じれば、もう戻ることのない景色が浮かぶ。

 その度に痛めた心を思い出し、必死にそれを落ち着けようとする。


 俺はもういっぱいだ。

 手のひらに収まるほど小さい箱は、水で満たされていた。

 現実に背くように、ゆっくりじっくりと水を入れてきた。

 周りと同じように成長していたかったから、置いていかれたくなかったから。

 でも、それも叶わない。


 無しって言うのは、本当に怖い。

 文字通り、何も生みだせ無いのである。

 生まれ時から決まっているので、当然と言えば当然なのだが、あまりにも理不尽である。


 このレベルで、防衛隊で活躍した者は恐らくいない。

 いや、防衛隊に入るのはキツいであろう。



 要するに夢も希望も詰みなのである。


 

 『はぁ、誰か、俺の主になってくれよ。ゴロゴロしてるだけで褒めてくれよ…』

 神でもなんでも悪魔でもなんでもいい、とりあえず俺が今一番欲しいのは、無能を養ってくれる主なのである。


 ただ、誰でも良いわけではない。

 主の条件としては、お姉さん的な女性で優しい人。

 顔は美しく、俺を可愛がってくれる人。

 あんまりこき使わない人。

 そして、衣食住を保証してくれる主ならなおのこといい。

 

 これは、決してわがままでは無い。 

 可愛い天洋君を使い魔にするんだからこれくらいのことはしてもらわないと。

 それに、ぬくぬくの環境でぼーっと生きてきた俺には厳しい環境は耐えられない。

 優しいお姉さんの癒しも必要である。

 そこの君、痛いとか言うな泣くから。


 …こんな感じだから、俺の素質は何もない。

 だから、向いていないであろう、戦闘を無理やりに行ってあのザマだった。

 迷惑しかかけていない。


 『そうだ、何か目標を立てよう。とりあえず3つくらい。』

 俺は、目標を立てることにした。

 目標を立てることで、目標に近づくための努力をできるようになると担任の先生が言っていた気がする。


 『現実的に、モンスターを安定的に一人で倒せるようになるとかは弱いか。いっそのこと魔王を倒す…とかは逆にあれだしな。』

 目標を考えるというのも大変なものだ。

 簡単な目標では、怠けが出てくる。

 途方もない目標だと努力のしようがない。


 『とりあえず、可愛い女の子と仲良くなることにしよう。』

 俺は、そう決めた。

 人生において一度も女の子と仲良くなったことが無い俺にとって、高い目標ではあるのであるが途方もない目標ではない。

 コミュ障も治せて一石二鳥である。


 ただこう言う時、普段からぼーっと生きてる俺であるから、往々として何も思いつかないのである。


 『もうダメだ。』

 もう、二つはおいおい決めることにした。

 朝、起きてから2時間も頭動かし続けて疲れた。考えるのは一旦やめて朝ごはんを食べに行こう。

 

 俺はベッドから降りて、部屋の外に出た。

 朝は、どうも苦手である。

 眠気もそうだが、あの太陽が1番、苦手だ。多分、ドヤ顔でこちらを照らし続けているであろう、この感じがムカつく。

 もちろん太陽がなければ、食卓は豊かにならないのはわかっている。でも、もう少し顔を出す時間を遅くしても問題ないと思うんだけどなぁ。


 ご飯の前に顔を洗いに行こうとすると、洗面所で30歳ほどの男が伸びをしていた。髪は短く、つり目気味の男である。俺とは似ても似つかない鋭い目をしているが、あれが父親のロスだ。ちなみにCランクの異世界防衛隊員。強いのか弱いのかで言ったら強い。多分。


 『おはよう、父さん。』

 

 『おはよう、天洋。今日も元気だな。』

 別段元気ではないのだが、洗面所でいつもこの言葉をかけてきている。モーニングルーティンが一緒のため、このやりとりが習慣となっている。


 『父さんこそ。』


 『そう言えば、彼女出来たか?』

 父親がそんなこと聞いてくるんじゃねーよ。いるわけねーだろ。


 『まだ、15歳だよ?いるわけないじゃん?』

 15歳で彼氏だの彼女だの言っているガキ共は、愛とかそういうのでなく恐らく、大人への憧れがあるのであろう。もちろん、好きあったというのもあるが、付き合うということに意味があって、その先はないのだ。付き合った事無いから知らんけど。


 『それもそうだな。』

 ハッハッハと笑いながらリビングへと向かっていく。いい加減この質問はやめて欲しいものである。


 『ごめん、父さん最低7年はできないと思う。』

 なんせ、世界でも類を見る非モテだから。

 いくら顔が良くても、この素質じゃ当たり前っちゃ当たり前か。子供っていうのは残酷で、すでに俺の将来に見切りをつけている、すごくおマセなのだ。


 『早く顔洗って向かおう。』

 顔だけじゃ無くて、そんな現実も共に全てを洗い流したいな。


 リビングへ向かうと、すでに料理が並んでいた。

 ロールパンと野菜が入ったミネストローネ。

 非常に簡単な料理ではあるが温かい手料理は本当にありがたいと最近身にしみる。というのも最近合同演習とかいうふざけた行事をしているからだ。まぁ、これは簡単に言えば危険地域でのサバイバルみたいなものなのだが、これがきつい。食べ物は支給されたパンや魚の塩漬け。保存食的なものなので美味しくない。さらに、見張り番などがあるため夜も眠れないと来ている。戦闘面で役に立たない俺が夜の見張りをさせられるのは火を見るよりも明らかなのだ。

 年頃の乙女なら肌が荒れるのを気にして、キレていたところだった。


 『おはよう、兄さん。』

 先についた俺に話しかてきのは2歳下の弟の隆史。

 顔は俺ほどではないもののイケメンである。

 素質は羨ましいことに抜群だ。

 すでに、簡単な火と風は使える。

 ちなみに火は一緒に練習して使えるようになった。


 もちろん、弟の方が上であるが。


 『おはよう、たかちゃん。しっかり励むんだぞ。』

 なんて言ってみる。弟というのもいいものだ、こんなに上から目線でも特に何か言ってくることは無い。

 

 『うん、兄さんもね。ってたかちゃんは辞めてよ…。』

 頬を膨らます。

 やだ弟可愛い。

 しかし、残念。兄さんは何も励むものなんてないんだよ。


 軽口を叩きながら、テーブルの前の椅子に腰掛ける。

 この家では全員揃っての食事が基本であるため、口を揃えたかのように料理に手をつけない。

 一種の暗黙の了解である。


 母親が来るまで手持ち無沙汰なので、俺はふとテレビに目を移す。

異獣が現れてからのここ何十年かは技術の進歩がほとんどと言っていいほど無い。停滞しているのだ。

 そのため、100年以上に渡って、主要なメディアツールはテレビなのである。

 

 『境外地は…晴れか…。』

 俺は思わず呟いてしまう。

 昔で言う東北…ここはつい10年ほど前までは"境内地"と呼ばれ、人間が普通に暮らしていたのだ。



 かつて、俺が住んでいた地域も含まれている。



 『おはよう、天洋。みんな揃ったし、食べましょうか。いただきます。』

 そんな事をぼーっと考え込んでいると、突如として声が頭に流れ込んできた。

 俺は、ハッとし、声のする方を見つめる。


 『どうしたの?』

 

 『いや、なんでもないよ。』

 俺は、誤魔化すように手を振る。


 『そう?では、改めて、いただきます!』

 今、いただきますの合図を言ったのは母のローラ。名前だけ見ても可愛いと思えるのだが、名前負けしないなかなかの美しさがある。お母さんは美しいとの相場はやはり正しかったらしい。そんなものあったっけか。

 ちなみに、名前からも分かるようにハーフである。


 俺は先程の悪い考えを振り払うかのように、一口料理を口に運ぶ。やはり、これは美味い。

 トマトを基調として野菜の味が染み出している。

 野菜は基本的には大の苦手な部類であるが、これだけは行ける。

 野菜を食べたくないとごねたもんだからいつもこれが食卓に出ていた。


 『最近どう?友達とうまくやってる?』

 ご飯を食べていると母親が訪ねてくる。


 『まぁ、ぼちぼちかな?』

 俺はいつものように答える。


 『そう。友達は大切にね。』

 これは毎日、母が聞いてくることである。俺に対する一種の状況確認みたいなものであろう。友達が少い俺にはこの言葉はとても身にしみる。


 『まぁ、こいつは大丈夫だろ。友達大切にしなかったら何も残らないしな!』

 父親がガハハと笑い飛ばす。

 親の言うことかそれ。

 事実だけど傷つくぞそれ。


 『そんなことないわよね?お父さん???』

 

 『は、はい…』

 うわ、こっわ!

 母さんの後ろから般若が見えるよ。

 なんでこんなに母親って威厳あるの?


 『まぁまぁ。そんなに怒んなくても大丈夫だよ。母さん。』

 とりあえずフォローを入れる。

 じゃないと父さんが、龍に睨まれたミジンコくらい暗い雰囲気になっちまう。 


 『すまんな、天洋…。』

 あーあ、元気なくなったよ。

 どうすんのよこれ…。 

 重い、重いぞ父さん!!!


 『あ、特集やってる!!!』

 隆史が突然声を上げる。

 視線の先にはテレビがある番組を流していた。

 俺は弟をその瞬間、まるで神のように感じた。

 特集神とでも呼ぼうか。

 

 『おー、本当だ!』

 見ると、以前危険地域を攻略した際に生中継をした映像だった。

 危険地域を攻略する放送は人気番組となっており、大体の攻略時は、放送される。

 視聴率も高いため、これが防衛隊員を志すものが増える一因となっているのだが、たまにグロいシーンがあるのが玉に瑕である。

 それよりも、Sランクの戦闘が見れるのは、本当に珍しいよな。

 大体の場合、人気のある隊員か、Aランク隊員なのに。それにしても、大体Aランクでも化け物なのにこれは…。

 

 『爆野さんか!やはりすごいな!』

 父さんが腕組みをしながら感心をする。

 北方最前線の基地において、活躍をする人なのだが、戦闘がとにかくすごい。

 なんか敵を爆発させたり、空気中からいきなり爆発させたり、めちゃくちゃでかい爆発を出したり、とにかくやりたい放題やっている。

 何より、それを遠くの敵までまるで遠隔しているかのように正確に爆発させている。

 これがすごい。

 同級生にも、爆発の光力を使うものがいるが、規模は断然小さいし、思いのままに、しかも遠隔なんて夢のまた夢の話である。

 とりあえず、言えることはめちゃくちゃ強いって言うことだ。


 『すげーな本当に。』

 これが、今の危険地域との境にいる隊員の強さか。

 嶋崎さんたち、よりも階級が上なんだよな。


 『そうね。でも、なんだか怖いなこの人。』

 母さんが、テレビを見て呟く。 

 母さんの勘は当たりやすいから、多分怖い人なんだろうな。


 『でも、カッコいい!!!』

 隆史が目を輝かせる。


 すると、父さんがテレビからは反対の俺たちの方へと向き直る。

 『天洋、隆史。お前らはこれを超えろよ?』

 父さんがニヤリと笑う。

 天洋はわかるとしてなんで俺なんか。

 息子だからって、煽てるなよ。息子だからって…。

 それより、父さんが自分は無理みたいな顔で言ってるのも腹立つ。まだ諦めるなや!

 

 『わかってるよ。ごちそうさまでした。』

 あっという間に俺は朝食を食べ終わった。

 料理が美味かった、というのもあるが今日は友達との約束があるからである。


 『ずいぶんと食べるのが早いな。』

 父がパンを片手に言ってくる。いつもならこの後に、椅子の上でぼーっとした後に行くのだから父が不思議がるのも無理はない。

 それにしても、パン持ちながら喋るな、置け!父は基本的に行儀悪く、口の中に食べ物を入れたまま平気で喋るタイプなのだ。


 『友達と待ち合わせて学校行くから、割と時間ギリギリなんだよ。』

 友達は居ないわけではない。こんな俺にも味方になってくれる人がいる。

 それが無償友情なのか、それとも見返りを求めているのか。分からないが、それは甘受すべきことなのだ。


 『そうか、気を付けろよ。』

 父さんが藪から棒に言う。

 多分この言葉は染み付いている言葉なのであろう。

 常に危険が伴う仕事を毎日こなしている。

 いつ死んでも後悔がないよう、少しでも死ぬことがないよう、そう言う思いがこの言葉に詰まっているのだと思う。

 そして、ここまでがノルマである。聞かないと1日が始まらない。

 

 『おう!いってきます!』

 俺は、いつも以上に元気に声を出す。


 『いってらっしゃい。』

 母と父が声を合わて見送る。こんな何気ないやりとりも何故か嬉しいものである。


 『頑張れよ!!!』

 『頑張って!!!』

 『頑張ってね!!!』

 

 『お、おう。』

 俺はいつも以上に元気な3人に戸惑いつつ、返事をする。


 俺は、そんな言葉を交わし、家から出た。

 そして、俺はふと空を見上げる。

 『気を遣ってくれる家族だな。全く。』

 ただ、それだけを呟いた。



ーーー『やっぱり、なかなかいい雰囲気だなぁ。』

 村はなかなかの活気に満ち溢れている。異世界防衛隊の支部が近いと言うこともあり、隊員専用の宿泊施設などが完備されている。

 それに伴い、街並みが整備され、異獣からの守られるように移住者も増える。異獣と移住を掛けたわけじゃないからね!

 …ごほん。だから必然的に街が潤う。

 最近はこれ目的で誘致合戦がある程である。

 その誘致合戦に勝ったから、この村はある程度潤っているし、単身赴任をしていた父さんも帰ってこれた。いいこと尽くめであるように見えるがそうでもない。異世界防衛隊の支部が近いと言うことは、暗に危険地域が近いということを示している。

 まぁ、危険地域からモンスターが出てきても隊員がすぐに討伐するのでそこまで心配はしていないのだが。


 『集合までは時間があるし、椅子にでも座って時間を潰そう。』

 悪い癖が出てるなほんと。事あるごとにすぐ座る。そういえば、たしか彼女との買い物の時に「座ってるから好きなもの見てきていいよ。」って言うのはNGだったな。ギャルゲーから得た知識だから、本当かどうかは知らないし、試すことも出来なかった。


 『それにしても。』

 俺の目の前には、憧れがまさに広がっている。


 堅い鎧に剣を携えている者。

 弓と矢を背負っている者。

 筋骨隆々で体ほどの大きさの剣を背負っている者。

 トンガリコーンみたいに長い帽子をかぶっている者。

 ドレスのような綺麗な服を着ている者。

 男女混合の部隊で楽しそうにしている者。

 女にくっつかれている者。

 女を侍らせている者。

 女とラブラブしている者。

 

 『羨ましくなんか、無いんだからね。』

 爆発しろ、ほんとに。

 恐ろしいほど口と心の中で思ってることの差異に二重人格説を感じる。


 『おい、何してるんだよ。』

 

 『ひゃい。』

 雰囲気に浸っているところに急に話しかけられたんでビックリした。

 今、話しかけてきたのは近所住む同い年のゴリラ。

 素質はまあまあで、力ではすでに見習いの隊員を超えているんじゃないかな。

 使う能力は簡単に言えば、あだ名の通り、ゴリラである。

 光力の基本の一つ。魔法はかなり苦手としているものの、体力、攻撃、耐久、俊敏。これらがバランス良く、攻撃の戦略もなかなかに豊富である。

 周りには、ガルバとミルチョというあだ名を付けられた手下を付き従えている。

 良い感じに合わせてゴニョゴニョ言ったら、ド◯チェ&ガッ◯ーナに似てないかと一瞬思ったが、そうでもなかったランキング17位には入ってそうな名前だなとか思う。

 俺はいつもこいつにいじめられてきた。しかし、今は違う。15歳なのだ。


 『おはよう、g…佐藤くん。何って、ただ待ち合わせしてるだけだよ。』

 危うく、学名ゴリラゴリラゴリラの方で言いそうになった。そんなことを言ったら間違い無く死ぬ。まだ、命が惜しいから言えんな。


 『待ち合わせ?てことは今は1人なんだな?』

 そう言いながら拳を振り上げる。


 『孤高の一匹狼なんで。』

 多分殴られる。


 『じゃあ。』

 

 俺は案の定、右頬を殴られて吹っ飛ばされた。ただただ理不尽な暴力である。

 最近殴られまくったおかげで受け身を身につけた。

 不名誉だけどなかなかに役に立つ。


 『やっぱり、弱えー。無能火達磨の実力は伊達じゃないな。』

 それを聞いてガルバとミルチョも大笑いする。


 無能火達磨とは俺のあだ名である。俺たちは何度か学校で異獣との実戦経験があるのだが、いつもいつも最弱のスライムに苦戦する姿と俺の弱炎から連想して、そう付けられた。

 てか、この言葉、あのアホ三人衆が思いつくような、ワードチョイスじゃ無いと思うんだが。多分誰かふざけて一枚噛んでるだろ。そうとしか思えない。


 ちなみにこの"無能火達磨"は、にわかにこの村の子供達の間で流行語になりつつある。

 多分、こいつらが必死に広めたんだろう。

 言い回しは大人っぽくてカッコいい感じなんだけど、ネットスラングをリアルに持ち出している時のあの痛さを感じる。


 『わかってる、そんなの。』


 最初の頃は、俺も何か抗おうと色々とやってみた。光技の発現や、戦闘の訓練。しかし、何も得ることができなかった。今、このぬるま湯に浸かっている現状に納得してしまってる。


 ふざけんじゃねーよ!と心の中で言ってみる。


 口にその言葉を出すのはやめる。また殴られるのがオチであるからだ。

 決してビビった訳ではない。戦略的に言わないのだ。


 『痛いからやめてくれよ。』

 暴力反対。

 何でもかんでも殴りゃいいってもんやないだろ。

 

 『無能傀儡はお気楽で良いよな?俺はこの前、スラッシュを支えるようになったぜ?』

 なんだこいつドヤ顔で話しやがって。


 『そうなんだ。』

 スラッシュってお前、ゴリラが剣を使うなよ。

 せっかく腕力で押せるのに、勿体ない。

 ないものねだり、というのは重々承知はしているが、才能の無駄遣いは、どうしても悲しくなる。


 『俺たちはもうすぐ、異世界防衛隊に入れるぜ。そして、Sランクになる。』

 ゴリラは自慢げに続ける。

 異世界防衛隊では、大きくランク付けをされる。最高はSで最低はE。最初は全員Eランクに登録されるが、光技や光力の成長、功績などに応じてランク上げがされる。ちなみにDランクまでは光力の成長と光技の獲得のみで上がることが可能である。

 簡単に言えば、Dランクまでは、成長するだけで上がるのだ。

 Eランクは、見習い隊員として主に後方支援や簡単な討伐にあたり、実力をつけてDランクになれば晴れて本隊員になる。

 本隊員になれば、討伐などで安定した収入も得られるし、色々な面での優遇を受けられる。

 ランクによって恩恵が全く違う。弱い人ほど恩恵が受けられないのである。戦闘面や金銭面でのサポートもだ。全くおかしいものだ、なんで強ければ強いほど仲間に恵まれるのだ。弱い人ほど助けが必要であろうが!


 『お前も受けられると良いな?まぁ、赤ん坊クラスのGランクのお前には受けられるところすら無いけどな?』

 問答無用で事実を突きつけられる。俺レベルが受からわけがないのは分かる。落ちても壊滅的に弱いから、民間の防衛会社にすら入れない。そのため、ほぼ無職みたいな状態になる。かつてあったと言われるハローワークみたいなシステムもないため、そうなると自分で一から道を開かなければならない。

 てか、赤ちゃんってことは、AランクかBランクなんじゃ?

 赤ちゃんのAとBabyのBで。


 『わかってるよ、そんなの。』

 このことは飽き飽きするくらい言われている。正直、呆れしか出てこない。


 『生意気な態度だな。ガルバ、ミルチョ。こいつにしつけが必要だな。』

 3人が指の骨を鳴らして近づいてくる。もうやだ、助けてくれ。


 

 『こらー!また、お前らかー!』

 足音と共に怒鳴り声が聞こえてくる。どうやら、なんとか助かったらしい。


 『今日も、天洋ばっかり虐めて!』

 美少女イベントというわけではないが、それは、俺にとっての救世主の声である。

 

 『うわ、あいつらか。みんな、逃げるぞ。』

 それに恐れをなして逃げていく。

 その光景の俺はさながら、虎の威を借るキツネである。俺は心の中でバーかバーカと吠える。虎の威を借るキツネ?威光を笠に着る?そんなこと知った事か。乗れる時に乗っとくのが大人の男ってやつだよ、少年達。一つ勉強になったろう?

 

 『全く。大丈夫?怪我はない?』

 そう言いながらこちらに手を差し出す。

 今、手を貸してくれた女の子の名前は真里亜。

長いブロンドの髪と可愛らしい顔を持つ女の子だ。もう少し惚れやすい性格であれば俺は間違いなく惚れていたであろう。俺は決してそんなことはしないため、そんな間違いは起きない…はず。

 ちなみに地毛らしい。


 『あんな奴らに殴られていいのかよ、天洋。』

 やや、怒り気味でこちらを怒ってきたのはマルコス。やや、金髪気味で、背が高い彼は、俺に勝とも劣らないイケメンである。

 日本人的な、いわゆる平たい顔とは違い彫りが深く目鼻立ちがハッキリとしている。

 いわゆる、"地域内"からの移住者である。


 『いつも本当にごめん。助かるよ。』

 真里亜の手を借りながらよっこらしょと立ち上がる。なんか立ちくらみが。

 手加減されてなかったら気絶してたな。この1ヶ月の地味な筋トレは、無駄では無かったらしい。

 光力使われてたら間違いなく、お釈迦だったけどな。


 『今、回復するからね。』

 真里亜は俺の頬に手をかざす。

 彼女の素質はかなり良い。同期の中でもかなり優秀である。彼女は、圧倒的に回復を得意としている。名前にぴったりの素質だ。回復が使える上に、さらに攻撃も出来るときている。羨ましい限りです。

 ちなみに聖母マリアという弄りをすると機嫌が悪くなる。最初に名前をいじった時に、明らかに怒りが頭に浮かんでいたため、多分間違い無く怒っているだろう。

 親が付けた名前なのに怒るなよ…


 『軟弱者だからそうなるんだよ。』

 マルコスも、真里亜に負けず劣らずであり、防御寄りの能力を備えている。

 マルコスが目指しているのは、守り重視の戦闘スタイル。攻撃型の奴らよりも力が劣っているため、火力は出ないものの、体力や耐久はとても高い。味方の能力の底上げや自身の耐久上昇が主だっていて、まさにタンクである。ちなみにヘイストと味方の耐久アップの光技を得意としている。耐久アップは、その名の通り、耐久がアップするという単純なものだが、これが強い。皮膚や身に付けている鎧がカチカチになる。

 岩みたいで初めて触った時はとても驚いたもんだ。

 俺はちなみにそんなものは無い。当たり前である。


 この2人は幼なじみで、弱い俺の数少ない理解者である。いつもいじめられている俺を助けてくれる。

正直、感謝しかない。


 『マルコス、お前が硬すぎるんだ。俺は決して軟弱者ではないぞ?』

 そう、マルコスが硬すぎるだけなのである。俺は決して柔らかくはない。例えるならば、マルコスは硬い煎餅で俺はシケタ煎餅であろう。

 柔らかくねーか、シケセンって。


 『また、お前はそうやって。軟弱者以下だな。』

 マルコスがこめかみを指で抑える。

 どうやら、俺はおばあちゃんがお湯とかお茶でふやかした煎餅並らしい。流石にそのレベルになると、美味しくはないから、受け入れたくはないな。


 『あれ、鏡は?』

 俺が発した鏡とはもう1人の友達のことである。ちなみに男である。


 『いつも通り、遅れるんだろ。あいつが時間通りに来るとは思ってないからな。』

 マルコスは腕を組み、険しい顔をする。彼の性格は厳格なところもあり、遅刻は許し難いところもある。


 『はぁ…鏡には、集合、1時間前の時刻を伝えたんだがなぁ…。』

 マルコスは深くため息をつく。

 そのため、俺の中ではすでに1時間遅刻をされている。ちなみに俺は時間は守っていた。学校やたまにある遊びの約束に。理由は遅れると悪目立ちするからだ。俺みたいな陰キャは、ちゃんと隠キャでなければならない。杭と同様に出る陰キャもボコボコに打たれる。知らんけど。別に、俺自身は、きっちりした性格というわけではない。


 『まぁ、しょうがない。鏡だもん。』

 そう、正直予想通りだったのだ。


 『先に学校に行きましょうか?』

 真里亜は、顔の横に手をやり、学校の方角を指差す。


 『あいつを待ってたら日が暮れてしまうからな。そうしよう。真里亜、天洋。』

 マルコスが笑顔を向ける。

 

 『そうだね。そうしよう。』


 俺とマルコスと真里亜は、学校へと向かうことになった。


 

 そこから、学校への道のりは15分ほどである。

 俺たちはいつも通り、昨日見たテレビや授業の内容とか、他愛もない話をしていた。

 『そう言えば、二人は進路どうするんだ?』

 マルコスがふと俺と真理亜に問いかける。


 『決まってるだろうが。まぁ、今日の試験次第なのだがな。これに受からなきゃ始まらん。』

 俺はグッと拳に力を込める。

 

 『まさか、君から話し出すとはね。この数日、その話は出すんじゃないオーラがムンムン伝わってきてたよ。』

 マルコスは苦笑いを浮かべる。

 

 『え、そうなの。』

 俺は、真里亜の方を振り向く。

 彼女も同じく、困った顔を見せる。

 えぇ…めちゃくちゃ気を使われてたじゃん。

 ショックと同時に不甲斐なさを覚えた。

 

 ここは話題を変えねば。

 『マルコスはどうなんだ?』

 ちょっと強引ではあるが、似たような系統の話は微妙に話題の本筋をズラせる。


 『俺は、もちろん異世界防衛隊だ!助けを求める人や大切な人を守るために俺は絶対に防衛隊に入る!』

 正義感の強いマルコスのことだから、多分立派な防衛隊員になれるだろう。

 わかったから、ちらちらと真理亜のこと見るのやめろ。ちゃっかりアピールすな。


 『なかなか熱いな、暑苦しすぎる。昔から変わらないな。』

 オーストラリアの夏くらい熱苦しいなマルコス。

 

 『私も防衛隊に入るかな。お父さんにはすごく反対されてるけど。』

 真理亜が少し困ったように呟く。

 異世界防衛隊は、たしかに危険で命を落としかねない任務もしているのであるが、真理亜には光力の才能がある。幼馴染という色眼鏡を抜きにして見ても、この村の同級生の中で3本の指には入る。全国的に見てもかなり上位だと思う。なので、防衛隊に入ったら間違いなく重宝されるレベルなのだが、彼女の父は猛反対をしている。

 些か、過保護が過ぎると思うのだが、可愛らしい人形に優しい性格の彼女のことが心配で心配で仕方ないのであろう。


 『親の言い分もわかるけど、結局進路なんて本人が決めることだろう?真理亜の好きなようにしたら良いんじゃね?』

 俺は、真理亜の心配事を少しでもほぐせればと発言をする。当たり障りの無い発言であるが、こう言う一言でも楽になることもある。

知らんけど。


 『天洋の言う通りだ。夢は追いかけるべきだと思うよ。俺は全力で真理亜の夢を応援する。いつまでも!』

 マルコスが声を大きく宣言をする。

 

 『い、いつまでも…?ありがとう2人とも。お父さんと話し合ってみるよ。』

 マルコスのいつまでも発言に一瞬の戸惑いを見せたが、幸か不幸か華麗に流され、真理亜が天使のような笑顔を向ける。

 学校で真理亜の笑顔が天使スマイルと崇められているのを思い出した。

 これが男を沼にハマらせる天使スマイル…

 恐ろしや…


 ほれ、見ろマルコスが顔を赤くして見つめている。

 

 『そう言えば、天洋はどうするの?』

 真理亜が浮き足立つ俺を引き戻すように問いかけてくる。


 『そうだなぁ…、まぁ異世界防衛隊かな?』

 俺は特に意味はないが一瞬考える素振りを見せる。

 防衛隊は今や人気ナンバーワンの職業と言っても決して過言では無く、実際に同級生のほとんどが防衛隊員を目指している。

 

 『そ、そう、なれるわよ。』


 『ま、まぁ頑張れ!』

 

 『反応微妙すぎない…?お前らが否定したら誰も肯定しなくなるじゃん…。』

 反応から見え隠れする場違い感。

 泣くぞこら。


 『そんなことないよ?あ、ほら、異世界防衛隊って入った後が大変って言うし?』


 『そ、そうだな。任務のノルマや異獣の討伐とか、やることは沢山あるしな。』

 誤魔化しやがったこいつら…。

 まぁ、正直な反応を見せてくれるから本当にありがたいんだけど。


 『そう言うことにしてやるか。』

 そう言いながら、俺がため息を吐く。

 いつの間にやら校門の前についていた。


 『じゃあ、またね天洋。』


 『絶対に合格しろよ!』

 2人とは教室が別のためここで別れる。


 『おう。』

 俺は2人に手を挙げながら2人に背を向ける。


 『あ、そうだ天洋。鏡に釘を刺しておいてくれ。』

 マルコスが思い出したかのように声を上げる。

 この4人の中では唯一、俺と鏡がクラスが一緒なのである。

 

 『わかった。』

 俺は、了承する。いつも通りの事である。

 

 俺は2人と別れ、教室へと向かう。

 村の人数がそれほど多くはないため、学校の大きさ自体はさほど多くは無いのであるが、近くに防衛隊支部が出来たため、光力について積極的に力を入れている。そのため、基本的には希望制であるが光力に基づいたクラス分けが為されている。

 まぁ、残酷ではあるが、出ない芽の面倒を見るほど効率の悪いものはない。ある程度剪定が必要なのである。もちろんこんな現状には納得し難いが、そればっかりはもうしょうがない事なのである。


 俺は教室のドアに手をかけ、横に滑らせる。


 おはよう!と心の中で呟く。

 挨拶する相手が居ないのでまさか大きい声でおはようなどど叫ぶ事はできない。叫んでだが最後、その瞬間に俺の学校生活はおやすみになるである。

 そして、心の中で挨拶することに特段の意味はないが、やはり挨拶は大切なのだ。

 

 俺は、1番後ろの席に着き、周りを見渡す。

 クラスの人数は24人。

 雰囲気的には悪いと言ったわけではないが、俺が居るということはあまり光力のレベルが高く無いのである。ただもちろん俺と比べると高い方である。悔しいけど。

 しかし、このクラスにただ1人桁が違う奴がいるのだ。ダメな方ではなく凄い方で、だ。

 

 名前は綾瀬杏璃。

 頭脳明晰で容姿端麗、おまけにとてつもない光力の持ち主でクラスはおろか学校中の注目、羨望の的なのである。

 そんな子がなぜ、落ちこぼれのクラスに来ているのか、全く検討もつかない。

 何度も何度も上のクラスへの変更を先生から勧められているのであるが、断り続けている。

 なぜ断っているのか、さまざまな憶測が建てられているが全くわからない、謎多き少女でもある。

  

 そして、最も大きな謎もある。

 今は教室に見当たらないが、多分そろそろ来る。


 『おはようございます。』

 ほら、来た。

 

 『おはよう、綾瀬さん。』

 綾瀬さんと同じようにそっけなく挨拶を返す。

 

 美しさで言えば、相変わらず群を抜いている。

 なぜこんな子がうちのクラスにいるかは分からない。

 腐ったみかんの中にある、特大のメロン感がある。

 お胸にはみかんがあるが。

 

 『朝の爆野さんの特集見ました?とてもカッコ良かです。』

 彼女が俺の前の席に座りながら、後ろを振り向く。

 表情はほとんど変わっておらず、いわゆる無表情である。

 あら、やだこの子にも気を遣わせてる気がする。

 

 『たしかに。あれだけの光力が使えるのはなかなかいないしな、爆発ドッカンはなかなかに爽快感ある。俺も使ってみたいな、ああいうの。』

 そう、何故か俺に話しかけて来るのだ。

 彼女自身、とても人気があるのだが、誰かと積極的に関わることは無い。人と関わるのが嫌いなタイプなのだろうか。ただ、何故か俺にはめちゃくちゃ喋りかけて来るのであるが、悲しきかな俺の時だけは、ほぼ無表情な上に敬語である。

 教室で一人である俺への同情か、あるいは好奇心なのかはわからないが、冴えない男子がエリート女子と話すのな。あまり良い目立ち方はしていないであろう。まぁ、どうでも良いけど。

 

 『あ…すみません、配慮が足りませんでしたね…。』

 綾瀬さんが申し訳なさそうに俯く。


 『そんな俯かなくていいよ。使えない俺が悪いんだし。』

 俺はフォローする。

 これぞ、紳士である。

 惚れてもいいんだぜ?


 『それもそうですね。頑張って使えるようにして下さいね?』

 綾瀬さんが、なかなか理不尽な事を言いながら鬼畜スマイルを浮かべる。


 『…善処します…。』


 俺のその言葉を聞くと満足したかのようにピタリと会話を止める。

 間が全く怖くないもの同士なので、このようなことが多々ある。


 そして、彼女は、徐にこちらの顔を覗き込む。

 ここまでがテンプレなのだ。

 最初は、この行動だけで心臓が張り裂けそうになったが、今は心拍数が1.5倍くらいになる程度になった。

 俺も女慣れしたなぁと実感する。

 慣れてるよね?


 普段であれば、このまま黙りながら終わるのであるが、今日は違ったらしい、彼女がポツリと言葉を漏らす。

 『やっぱり…分かりまs』


 ガラガラガラ

 彼女が何かを言いかけた瞬間、勢いよく戸が開かれた。


 『へーい!!!天洋!今日もいい天気だなぁ!?』

 タイミング悪く、鏡が来やがった。

 全く間の悪いものである。


 綾瀬さんなんて言いかけたんだろうか?

 もし、愛の告白とかだったら、遮った鏡を…いや、悪魔を処さにゃならんな。


 『おはよう。あと頼みがあるんだけど、お前を2発殴らせてくれ。』

 俺はそう言いながら拳を振り上げる。

 

 『なんで!?』

 鏡は、声を張り上げる。

 1発は遅れた事。そして、もう1発は俺の恋路を邪魔した事である。


 『黙って殴られろ!!!』

 俺は、力を込め、拳を振り下ろす。

 

 ふわっ。

 確かに鏡に向けたはずの拳が虚空を裂く。


 『光力使うなよ、バカタレが…。』

 俺は、さっきまで鏡が場所を見つめる。

 

 『痛いのは嫌いだし。』

 そう言いながら、先程殴ったはずの、場所に何事もなかったかのように座る。


 『もう、良いや。後であの2人にも謝っておけよ。ほら、どっか行け。』

 

 『へいへい。じゃあ、またね、綾瀬さん!』

 鏡は、綾瀬さんに向かって手を振るが、全く無視をしている。

 

 ざまぁみろ!

 俺は思わず心の中でガッツポーズをする。


 しかし、鏡はそんな事を意に介さず、ケロッとした表情のまま、自分の席に戻る。


 『よーし、席につけ。』


 俺は、あいつがいなくなったタイミングを見計らって、綾瀬さんに言葉の続きを聞こうとしたが、その時、ちょうど先生が来てしまい、彼女が前を向いてしまって聞けなかった。


 『さて、本日の防衛隊の一次試験についてだが。』


 俺は、彼女の言いかけた、その先の言葉を考えながら、眠る準備を始めた。ーーー

 


 

 


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