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レンアイ放送  作者: 逢坂まなみ
都市伝説
8/55

第7話

《A組12番 古手川七菜こてがわななさんです。》





ついにレンアイ放送が始まってしまった。




青木裕太の好きな人は、古手川七菜。



こんな風に、これからみんなの好きな人が公開されていくのだ。




果たして、両想いなのか……



普段なら他人の恋愛なんか一ミリも興味がないけれど、今回に限っては一大事だ。



クラス全員が、スピーカーを見つめてゴクリと唾を飲んだ。






《そんな古手川七菜さんの好きな人は……》






そこで放送がピタリと止まる。



不安を煽るための演出だろうか。



結果発表の前にCMを挟むような、

それと同じものを感じた。



発表される結果は嫌なものだが、結果発表という点では似通ったものがある。




今から発表されるのは、

古手川七菜の好きな人。



そして、青木裕太の生死。



そしてまた、古手川七菜の生死が係った放送が始まる。




間が開けば開くほど、

私たちの不安は大きくなっていった。



これが最初の放送。



本当に失恋すれば死ぬのか、

本当に両想いなら助かるのか……



私たちの今後をも左右し得るものだった。




「あ……俺、見てくるわ、どうなんのか。」




その静寂を、クラス委員である

飯塚匠いいづかたくみが突き破った。



飯塚はそれだけ言って、

足早に教室を出ていく。




クラス全員が、

無言でその背中を見送っていた。



声には出さないが、みんな同じように、「冗談であってほしい」という思いがあるようだった。



緊迫した、今までにない空気感だった。






《古手川七菜さんの好きな人は、

A組24番 高橋雅裕たかはしまさひろくんです。》






青木裕太の好きな人は古手川七菜。



そして古手川七菜の好きな人は高橋雅裕……




両想いじゃ……ない……?




その結果に、私は身震いした。



両想いじゃない、つまり、

青木は殺されてしまう……?






《青木くんは、失恋です。》






無機質な声でそう流れる。




すると、外から大きな悲鳴が

聞こえてきた。





「アァァァァァァ!!!!

嫌だァァァァァァ!!!!

助けてくれェェェェェェ!!!!」




耳をつんざくような叫びに、

背中の芯がひゅうっと凍る。



これまでの人生で、

こんな叫びを聞いたことがない。



これは漫画やドラマなんかじゃない。



そんな演技で作られた世界で聞くような声とは圧倒的に違う。



誰かに追われているような、

そんな必死の声だった。




頭がおかしくなってしまいそうなほどに、その叫び声は止まなかった。



遠く遠くに離れて、

やっと聞こえなくなる。



でもそれは、きっと聞こえない場所に離れたからじゃない。



そう、クラス中が分かっていた。





その声が聞こえなくなってしばらくすると、カッターシャツを血で染めた飯塚が戻ってきた。




「……マジだった。」




たった一言、そう言った。



でも、言葉なんてなくてもいい。



具体的な情景描写も何もいらない。



真っ赤なシャツと、真っ青な顔が、

飯塚が見た惨い光景を映し出していた。




両想いでなければ死ぬ。



それは、本当なのだ。




レンアイ放送は夢でも幻でもない。



れっきとした、現実なのだ。




希望なんてとっくになかった。



全部、分かっていたはずなのに。




冗談だと、また美咲に笑ってほしかった。



でも、美咲は私の隣で小さく震えている。




ああ、私の人生はここで終わりだ。



最後にお母さんとお父さんと話がしたい。



今まで育ててくれてありがとうって、

直接じゃなくていいから。



お母さんとお父さんの声を聴いて、

温かい気持ちでお別れしたい。



けれど、それも電波の通じないここでは叶わない願いだ。



ごめんね、親不孝な娘で。



そう思った。


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