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レンアイ放送  作者: 逢坂まなみ
保健室の美少女
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第27話

「それ、どういうこと……?」




にわかには信じられない言葉に驚愕する。



レンアイ放送が、昨日も、一昨日も、

この学校で行われていたなんて……




「一昨日は開校記念日、昨日は学校に脅迫と思わしき爆破予告が届いたから臨時休校。そうですよね?」



「うん、そうだったけど……」




1日だけだと思っていた休みが2日間になって、不謹慎にも美咲とラッキーだね、というようなラインを送り合ったのを覚えている。



爆破予告が送られてくる高校は少なくないから、何も怪しまず、ラッキーな休みくらいに思っていた。




「でも一昨日は、受験に向けたガイダンスと外部講師による特別講演会が3年生のみで行われていました。


昨日は1年生にだけ、安全が確保されたから通常登校に戻りますと連絡があった……


そこで始まったんですよ。

レンアイ放送が。」




その子は一切表情を変えずにそう言った。



その眼には悲しさなど微塵もない。



ただ淡々と事実を述べているだけだった。




「じゃあ、1年生と3年生は……?」



「3年生は知りません。

でも1年生は、私以外死にました。」



「っそんな……!」




衝撃の事実だった。



今日、唐突に始まったと思っていたレンアイ放送が、もう既に始まっていたなんて。



しかもそれに、誰も気付いていなかっただなんて。




確かに、1年生を飛ばして2年A組から始まった放送に対して、私たちは何の疑問も抱かなかった。



それくらい、混乱していたからこそ、

1年生と3年生の存在を忘れ去っていた。




……信じられない。




「まだ5月ですよ?

1年生の中で、両想いの人なんているはずもないじゃないですか。

だから私は、次々に死んでいく人たちを見ているしか出来なかったんです……!!」




その子はそう言って泣き崩れた。



ただ見ているしかできなかった気持ちは、私にも痛いほどに分かる。



悲しくて、悔しくて。



何もできなかった自分が本当に嫌になる。



救えたかもしれない命を、自分の恐怖や保身で見殺しにしてしまう辛さ。



この子は、それを昨日からずっと感じているんだ。




「……大丈夫だよ。

あなたは何も悪くないから。」




私は、自分を落ち着かせるおまじないのように、その言葉を唱えた。



「いや、私が悪いんです。みんな私のことが好きで死んだから……


私はずっと、保健室のロッカーに隠れていたから殺されずに済んだけど、放送で何回も私の名前を聞きました。


そのたびに廊下から悲鳴が聞こえて、人が死んでいって、それは全部私のせいだって……」



「違う、レンアイ放送のせいだよ!!」



「そうだけど、でも……!」




みんな、抱えている想いは同じだった。



自分のせいだと抱え込んで、

それを死ぬまで引きずろうとする。



自分と同じだからこそ、

私はその子を助けてあげたかった。




「犯人、捜すよ。見つけてみせる。」



「……え?」




その子は勢いよく顔を上げた。




「本当、ですか?」



「うん。本当だよ。」




自分でも突拍子もないことだとは分かっている。



それでも、レンアイ放送を憎んでいるのに保健室から動けないこの子に、私ができることはそれだけだと思ったのだ。




「じゃあ、誰も殺さないですか?」



「それは、無理……かな。

死んだら元も子もないし、人を殺すのが大罪だと分かってても、やっぱり、私は生きていたいから。」



「ですよね……」




少し明るくなった顔が、

またすぐに暗くなる。



けれど、仕方のないことだ。



私が死んでしまえば、レンアイ放送の主催者を見つけることすらできなくなる。



この子とのこの約束だって、

果たせなくなってしまうのだ。



こればかりは、仕方ない。




私の思いが伝わったのか、それ以上反論してこなくなったその子を見て、私はずっと感じていた疑問をぶつけた。





「……ところで、ずっと保健室に隠れてたのに何で生きてるの?ていうか、なんで今日になってもまだ学校にいるの?」



「多分、好きな人がいなかったから生きているんだと思います。


ここにいるのは、放送の指示で。トイレ以外で保健室の外に出たら殺すって放送で言われたので、仕方なく……」




その子は脅されてここに居ることが分かった。



それに、レンアイ放送が終わってからも、まだ何か指示があるということも。




「……あと、好きな人がいない人を殺さなかったのには何か理由があると思います。確かなことは分からないけど、きっとそうです。」



「分かった。ヒントにするよ。」




そう言って私は立ち上がり、

その子から包丁を受け取った。



その子は不服そうな表情をしていたが、

生きるためだと繰り返したら、

私にしぶしぶ渡してくれた。




「ありがとう。今更だけど、名前は?」



白石しらいしゆりです。」



「ゆりちゃんね。

また何かわかったら報告する。」



「……待ってます。負けないで。」



「もちろん。」




私はそう言って、

ゆりちゃんと固く握手をした。




また一人。



私を待っていてくれる人が増えた。




……頑張らないと。



死なないように。



そして、それが終わったら

犯人を捜すんだ。




今からが、本当の闘いの始まり。



私は手早く下着を着替え、

保健室を後にした。


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