第0話
この血は、誰のものだろう。
瑞季のブレザーに付着した血は、茶色く変色し、乾いて板のようになっていた。
「……早く、殺さなきゃ。」
右手に握りしめた包丁を背中に構えて、
瑞季はゆっくりと歩き出す。
私は殺人鬼でもなんでもない。
私が人を殺そうとしているのは、
殺人欲を満たすわけなんかでもない。
殺さなきゃ、私が死ぬ。
ただ、自分を守るために、
殺そうとしているだけなのだ。
早く、殺さなきゃ……
自分を守れるのは、
自分しかいないのだから。
ピンポーン、ピンポーン……
「お願いだから、もう帰ってっ……!」
玲奈は、布団にくるまり
鳴り止まないインターホンに怯えていた。
ブーッ、ブーッ
電源を切ったはずのスマホが鳴る。
[高松さんが出てくるまで帰らないよ]
[せっかく生き残らせてあげたんだから、これからは二人で幸せに生きようよ]
背筋が凍った。
気持ち悪い、気持ち悪い、
本当に気持ちが悪い……
何度ブロックしても、何度電源を落としても、この男からのメッセージだけは受信してしまう。
「もう……嫌だ……こんなことなら、死ねればよかったのに……!」
玲奈はそう呟いた。
あんな残酷なゲームを、一番嫌いな人の力を借りて生き残ってしまった。
こんなことになるなら、
死んでしまいたかった…
布団をぎゅっと被っても、インターホンが聞こえなくなることはなかった。