最低と最悪
瑠璃が死んでから一週間が経った。
俺は、瑠璃が死んでからも普通に高校生活を送っていた。
あの事故でトラックを運転していた人はあの瞬間、心臓発作で死んでいたらしい。
それで操縦の効かなくなったトラックが偶然にも瑠璃を轢き殺したのだ。
俺は、瑠璃の葬式には参加しなかった。
どんな顔で行けばいいのかも分からなかったし、何より…
「ねぇ?優くん今日も学校に行くの?たまには、私と遊ぼうよ!」
相変わらず、体のあちこちがグロッキーな瑠璃の幻覚は見えている。
彼女はふわふわと浮いていて幽霊のようだ。
この幻覚は常に俺の周りにいる。
どこに、言行ってもからずついて来る。
トイレも風呂もだ。
「そうだな、たまには学校サボってどこかに行くか。」
俺は、幻覚の瑠璃に返事を返す。
そして、着替えかけていた制服を脱ぎ私服に着替える。
両親はこの時間だと2人とも仕事に出ている。
1日ぐらい学校をサボってもバレないだろう。
学校に熱で休むと電話を入れて俺は散歩に出かけた。
何よりも学校になんて行きたく無い気分だった。
***
「ねぇねぇ!優くんあそこのクレープ屋さん行きたい。」
瑠璃がそんなことを言う。
「お前、死んでるから食えねぇだろ…」
小声で言ったが幻覚の瑠璃にはばっちり聞こえてたらしく瑠璃が返事を返す。
「優くんが食べたら私も味がわかるよ。
優くんと私は感覚が繋がっているの一方的にね。
優くんが感じたことは私には分かるけど優くんにはわたしが感じたことは伝わらない。」
「へぇー…」
俺は曖昧な返事を返す。
これは、俺の頭が痛すぎるということであっているのだろか?
そう思いながら、クレープの屋台に向かって歩く。
ドン
考え事をしていて周りを見ていなかったから人にぶつかる。
「す、すいません…」
反射的に謝って相手を見た瞬間に気がつく。
いかにも、ガラの悪そうな三人組の1人にぶつかったらしく機嫌悪そうにこちらを見る。
「痛って〜、骨折れたわ。どうしてくれんの?」
俺にぶつかられた不良がいつの時代の脅し文句だよっと突っ込みを入れたくなるようなことを言ってくる。
「なぁ!?金、金出せよ。」
「とりあえず、向こう行こうぜ。な!?」
他の2人も、口々に話し出す。
そうして、そのまま俺は人気の無い路地裏に連れて行かれる。
「おい。有り金、全部で許してやるよ」
路地裏で俺をぐるっと囲むように3人が立つ。
俺は、恐怖で声が出ない。
自慢じゃ無いが俺はめちゃくちゃ弱いし喧嘩なんてしたことが無い。
「ねぇ?なんで優くんをいじめてるの?」
その時に、幻覚の瑠璃がそう言った。
当然、不良3人組には見えたいなし聞こえていないようだ。
だが、瑠璃の手が不良の1人の頭を鷲掴みにして締め上げる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいぃぃぃぃ」
掴まれた男は狂ったように叫びながら頭を抑える。
やがて、その頭はまるで果物を潰すような感覚で破裂した。辺りが返り血で真っ赤になる。
他の不良2人が恐怖で引きつった顔になる。
そしてその場から逃げようとするのを瑠璃が2人の頭を掴む。
そして、2人の頭も潰した。
***
俺は、とにかく走った。
走って家に帰って鍵を閉め自分の部屋に入る。
部屋の鍵も閉める。
ゴミ箱に吐く。胃の中が空っぽになるまで吐いた。
意味が分からなかった。
相変わらず瑠璃の幽霊?は俺のそばにいて俺に話しかけているが耳に入ってこない。
あれは、俺が見ている幻覚では無いのか?
警察に捕まるのだろうか?
あれは、俺が殺したことになるのだろうか?
そもそも、この瑠璃はなんなのだ?
いろんな、ことが頭をよぎる。
気がつけば、時間は午後の9時ごろになっていた。
そこで気づく、おかしい。
両親はいつも8時ごろには帰ってくる。
なのに、なんの連絡も無しに1時間も遅いのはおかしい。
プルルルプルルル
固定電話が鳴る。
電話なんてでる気分じゃなかった。
だけどでなければいけない気がした。
じゃ無いと後悔するような気がして仕方なかった。
電話の受話器を取る。
『もしもし‥?』
『もしもし。蒼井 優さんですね?警察のものです。ご両親が亡くなられました。』
警察と聞いてドキリとしたがその後の言葉を聞いて唖然とした。
父は交通事故で母は通り魔に殺されたらしい。
警察に話をして聞いて病院に行った。
2人の顔を見て涙が溢れて来た。
現実を受け止めきれなかった。
その日は、それだけで後日、葬式の手配や諸々の処理をするらしい。
もう何もかもが嫌になった。
***
帰り道。
俺は1人歩いていた。
正確には瑠璃の霊とだが…
「やぁ。蒼井 優くんだね?探したよ。
初対面で悪いんだけど今から死んでくれるかな?」
サングラスをかけて派手な柄のシャツを着て下駄を履いた、金髪のボサボサ髪の変な男が話しかけて来た。
俺は当然そんな男知らない。
だけどこいつが後に俺の大恩人となる男との出会いだということを俺はこの時思いもしなかった。