不老
魔力と寿命の関係を知った私はその夜、部屋で一人スマホを見ていた。
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名前:シーナ・アマカワ
性別:女 種族:人族/人?族
年齢:34歳
職業:錬金術師
パートナー:オーベロン級 フェリオ
体 力:164/210
魔 力:湧出
攻撃力:18 敏捷:18
筋 力:16 耐力:20
知 力:65 運:78
技能:錬成・家事全般・弓・魅了・客引き・錬水・子守
状態:泉の洗礼(防腐・防汚・状態異常耐性中)
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年齢が34歳に戻ってる。
ちょっとショック。いやいや・・・十代は無理があったよね。うん、知ってた。
それにしても・・・これも私の認識が変わったから、なんだろうか。
マメナポーションを錬成した時も、私が命名した途端『未定』から『マメナポーション』に更新されていたし。
この世界に来て、自分の見た目が18歳くらいだと感じたから最初はそう表示されて、魔力と寿命の関係を知ってその認識が変わり、やっぱり34歳だったと思い直したから表示も変わった?
いやいや、それじゃ私が間違った認識をしたらそれが表示されるって事になってしまう。
「どうしたんだ?難しい顔して」
うーん。と眉間にシワを寄せて考え込んで居た私を、フェリオが心配そうに覗き込む。
「うん・・・私、今日始めて寿命について知ったじゃない?」
「うッ!それはホントに悪かった。常識過ぎて気付かなかったんだよ」
「うん。それはなんとなく分かるから、もういいよ。でも・・・」
まぁそれが世界の常識なら、仕方ないのかなとも思っている。私だって自分の常識が別の世界の非常識だなんて思わないもの。
「ヒトヨミの鏡の表示が、今まで18歳だったのはどうして?寿命が長いだけなら、本当の年齢が表示されるはずでしょう?」
私が疑問を口にすれば、フェリオは「あぁ」と少し考え込んで、自分でも考えを整理するように、ゆっくりと話し始めた。
「多分、なんだが・・・シーナは異世界から来ただろう?だから、この世界に定着していない、と言うか・・・存在が安定していないんじゃないかな。だから表示が変化するのは、こっちに定着して、存在が安定しているって事なんだと思う」
それって、私が今までこの世界では不確かな存在だったって事?寧ろ、種族に未だに?マークがついている所を見ると、現在進行形で不安定な存在なの?
―――そう考えると、なんだか怖い。急に消えたりしたらどうしよう。
「でも、存在が安定したなら・・・それって良いこと、よね?」
私の問いに、フェリオは「うーん」と難しい顔で唸り、心配そうにこちらを窺う。
「良いことかどうかは、シーナ次第かな」
「私の?」
「あぁ。これは予想でしか無いが・・・こっちで存在が定着したら、例え帰る方法が見つかったとしても、もう元の世界に戻れないかもしれない」
もう、戻れない?
・・・それでも、いいかもしれない。
こちらへ来た時から感じていたけれど、私には元の世界への未練みたいなものは全く無い。できれば、祖父に「私はここで元気に暮らしてる」と伝えたいとは思うけれど、それだけだ。
私って・・・冷たい人間なのかなぁ。
「大丈夫か?やっぱり、帰りたいか?」
黙り込んでしまった私に、帰れなくなる事に不安を抱いていると思ったのだろう。フェリオが労る様に頬に頭を擦り付けてくる。
「ううん、違うの。帰りたいって、全然思えなくて。家族だって居るのにね。酷いよね・・・」
「酷い事なんてないさ。シーナがこの世界を好きになってくれたなら、オレは嬉しい。むしろ、今更元の世界へ帰るなんて言われたら、それこそ酷い!って言うだろうな」
「フフッ。フェリオは、私が居なくなったら寂しい?」
「そりゃそうだ。シーナほど面白い奴は居ないからな」
「別に面白がらせる為に居る訳じゃ無いんだけどね?」
フェリオと軽口を言い合っていると、沈んだ心が少し浮上する。
「そうか?これからも末長く、オレを楽しませてくれるって期待してるんだが?」
「末長くって・・・末長く?そうだ!私の寿命!!」
年齢の表示が変わっていた事に気をとられて忘れていたけれど、一番気になる所はそこだった!
「ねえ?私の寿命ってどうなるの!?」
ほんの少し前までのしんみりとした雰囲気はどこへやら。ガシッと抱き上げたフェリオをガクガクと揺する。
「ちょッ、待て、やぁめぇろぉ~・・・」
揺らされて間延びしたフェリオの声にハッとして手を止めれば、ぐったりとしたフェリオに睨まれてしまった。
「頭がグラグラする・・・」
「ごめん、つい」
「ついって・・・まぁ、確かに知らなかったなら大問題だよな。結論から言えば、シーナは恐らく不老、だろうな」
「フロウ?」
「このまま歳をとらないって事だ」
「フロウ、不老?え?私、不老不死なの!?」
それはもう、人外以外の何者でも無いのでは・・・。
「いや、不死とは違う。歳をとらないってだけだから、大怪我したら普通に死ぬぞ。それに、シーナの魔力がいつまで湧出するかも分からないからな。枯渇したら一気に老けるかもしれないぞ?」
成る程、確かに。
長生きは出来るけど、死なないとは限らないよね。それに魔力の枯渇かぁ。そもそもどこから魔力が湧いて出てるのかも分からないから、突然枯渇する事だってあり得るんだ。
「一気に老けるのは嫌だけど、でも・・・」
何気に18歳から34歳に戻って少しショックを受けてしまったのに、急激に老け込んだら流石に立ち直れないかも・・・。
でも、歳をとらないってどんな感覚なんだろう。
今まで、それこそ歳を重ねるのは当たり前で、この世界に来るまでは普通に年々老いていた(白髪が出始めた時のショックも経験済みだ)から、不老と言われてもピンと来ない。
これでも一応女だし、いつまでも若く在るっていうのは理想で憧れではあったけれど、それも必ず老いる前提での話だ。
そう思うと、嬉しいと思うよりも不安の方が先に立つ。
「一人だけ長生きしてもなぁ。最終的にはみんな居なくなって、私一人になっちゃうのかな?」
周りの人がみんな年老いて先に逝くのを、私はずっと見続ける事になるの?
マリアさんやラインさん、コウガにナイル、それからトルネ、ラペル、ルパちゃんも?
それは、寂しい、な・・・。
「まぁオレとしては、シーナが長生きしてくれればその分ずっとこっちに居られるから、願ったり叶ったりだけどな。なんせ、妖精も不死みたいなもんだ。長い付き合いになりそうだな?」
私の不安を払拭するように、フェリオはニヤリと不敵な笑みを浮かべて、タシタシと私の肩を叩く。
シリアスになり過ぎないその励ましが、今の私には丁度良くて、でも少しだけ涙腺が緩んでしまったのは、絶対誂われるからフェリオには内緒だ。
「長い付き合いか、先が思いやられるなぁ。でも・・・フェリオが居てくれて、本当に良かった。これからもよろしくね」
本当に不死かどうかも分からないのに、これ以上不安がっても仕方無い。それに折角フェリオが励ましてくれたんだから、今はもう悩まない。
色々と吹っ切って、フェリオに笑顔を向ければ、うぐッと喉を詰まらせたフェリオが、プイッと顔を背ける。
「――――――おう。よろしくな」
どうやら照れているらしい。
なにそれ、可愛いんだけど?




