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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ4
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偉大なる豆

 森での採取の数日後。

 あれ以来、森へは出掛けていない。

 幽霊が怖いから・・・なんて理由では無く、カリバの町である事件が起こったからだ。


 それは、女の子の誘拐事件だった。

 雑貨屋のハリルさんの話によれば、その子は友達と一緒に森の入口付近で木の実を採っていたらしい。

 その友達は、女の子の悲鳴を聞いて、女の子が森の奥へと連れ去られるのを目撃した。

 その友達の話を聞いて、駐在の騎士や町人が総出で森を捜索したけれどその時は見付からず、数日後に意識の無い状態で発見されとか。

 外傷も無く、無事に意識を取り戻したその子は、けれど行方不明の間の記憶は無く、事件は未解決のまま終わるかと思われたのだけど・・・。


 話はそれだけでは終わらなかった。

 その後も、数人の女の子が誘拐されたのだ。

 いずれも数日後には無事発見されるものの、やはり記憶は無く、犯人が目撃されたとしても顔の大半と頭を布で覆い隠している為、手掛かりがほとんど得られていないのも、また問題だった。

 いくら全員無事だったとはいえ、あまりにも気持ちの悪い事件に、今は町全体が神経を尖らせている。


 だから最近では私達も、ラペルとルパちゃんをあまり外出させないようにしている。

 誘拐されたのは全員、十歳前後の女の子だって話だから、二人だっていつ狙われれるか分からないもの。


「つまんない・・・」


 でも、そんな生活が続けば子供は不満に思うもの。ラペルが珍しく不貞腐れた様子でそう呟いた。

 ナイルに連れられて毎日ルパちゃんが来てくれるものの、それ以外の友達とは一切会えず、森での採取も出来ないとなれば、むくれてしまうのも無理は無い。

 

「じゃあラペル、今日は一緒にお豆腐を作ってみない?」


 そう。そこで私が考えたのが、豆腐作り体験だった。

 ナガルジュナで大量に手にいれた蔦豆で、何か作りたいと常々考えていたのもあったけれど、ちょっと実験っぽい作業だから、子供達でも楽しめると考えたのだ。


「オトーフ?」

「そう。私の国の料理なの」


 さっきまでむくれていた顔をキョトンとさせて首を傾げるラペルは、豆腐作りに興味を示してくれたみたいだ。眼をキラキラさせて元気に「作る!」と返事を返してくれた。



 それから何時ものようにルパちゃんが来るのを待って、皆で豆腐作りが始まった。


「じゃあ最初は~・・・この、大量の塩を水に溶かしまーす」


 スマホから大量の塩を取り出して、錬成用の瓶の中へ投入し、そこへ水もいれる。

 この世界では塩はかなり安価で手にはいる調味料だ。

 水が減少している影響で海の塩分濃度が上がってしまう為、海沿いの国では塩を大量に製造しなければならず、それに対応する為に内陸の国も塩に関税を課さずに取引を行う事で、海沿いの国の支援を行っている。

 お陰で塩は何処でも安価で手に入る。まぁ、その所為か、この世界の料理は基本的に塩辛い味付けなのが難点ではあるけれど。


「そんなに塩入れて大丈夫なの?」

「しょっぱそう」


 大量の塩を見たトルネとラペルが心配そうに瓶の中を覗き込む。


「大丈夫、使うのは塩じゃないんだ。錬成でこの塩に入ってる()()()っていう成分を取り出すのよ。フェリオ、お願い」


 ――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。


 瓶の中でナトリウムが結晶化し、岩塩の様な塊が出来上がる。そして、その塊を取り出して残った水を少しだけ指に取って舐めれば・・・。


「ッにが!―――でも成功」


 私の様子を見ていたルパちゃんが、私と同じ様ににがりをペロッと舐めてウ~ッと顔を顰めるのを見て、何故だかそこに居た全員がにがりの味見を始め、「にがッ」と一様に顔を顰める。うん。苦汁(にがり)だからね。


「これがオトーフ?」

「ううん、これは材料。これからが本番だよ~」


 ラペルが信じられないモノを見る目で見上げて来るので、私は慌てて否定する。

 それでも視線からひしひしと感じる、『こんな苦い物を入れた食べ物が美味しいのか?』という皆の心の声はまるっと無視して私は次の工程へと移ることにした。まぁ、実際食べてみないと分からないものだしね。


「ではでは・・・ここに昨日から水に浸けておいた蔦豆を取り出しまーす。それを、このすり鉢で・・・すり潰してくれるひと~!」


 子供達が楽しめるようにと声を上げれば、『はーい!』と元気な声が返ってくる。まぁ、その中にナイルとマリアさんが混ざっていたけれど、一旦見なかった事にしよう。


「じゃあ、まずはトルネ。お願いね」

「任せろ!」


 普段からすり鉢を扱う事の多いトルネに最初の難しい所を任せて、ラペル、ルパちゃんの順に皆で蔦豆ですり潰していく。

 そして全てすり潰し終えたら水を加えて火にかけ、煮立ったら布で濾し、オカラと豆乳に分ける。この辺は熱くて危険なのでナイルとコウガの担当だ。


「これが豆乳。お豆腐の元になるものだけど、このまま飲んでも美味しいからミルクの代わりにもなるの。あとこの搾りカス、オカラも食べられるんだよ。ホットケーキに混ぜても良いしね」


「へぇ~。蔓豆からミルクができるなんて不思議ね・・・あら、でも美味しいわコレ」


 マリアさんを筆頭に、豆乳の味は比較的みんな気に入ってくれた。コウガだけは、まだ少し青臭さが残っていた所為か、あまり好きじゃなさそうだったけれど。

 さて、ここからが豆乳作りで一番の山場だ。


「ここでさっきのこの苦い汁、()()()の登場です!」

「それ入れるの?にがくならない?」


 ルパちゃんが心配そうににがりの入った小瓶を見つめるけれど、これこそが豆乳を豆腐へと変える神秘の秘薬なのだよ!

 おっと・・・久しぶりの豆腐に、テンションが上がり過ぎたようだ。


「大丈夫だよ。入れるのはほんのちょっとだからね」


 再び温めた豆乳をゆっくりかき混ぜ、にがりを少しずつ回し入れていく。そのまま数分様子を観察していると、段々と豆乳が固まっていくのが分かる。


「あれ?なんか変!」

「モヤモヤしてる!」

「固まってる?」


 子供達はその様子を、キラキラと眼を輝かせてジッと観察している。楽しめている様で何よりだ。


「そう。豆乳ににがりを入れると、こうやって固まるのよ」


 一同から『へぇ~』と感心の声が上がったのに満足して、最後の仕上げに取りかかる。

 後は布を敷いた網底の木枠に流し込み、水を切れば出来上がりだ。


 水切りをしている間に私はもう一つ、蔦豆から作りたい物があった。

 瓶の中には水、蔦豆、脱穀済みの小麦、塩、それから脱穀前の小麦を少々。本当は稲穂が良いんだろうけど、この世界ではまだお米に出会っていないので、脱穀前の小麦で代用している。まぁ、錬金術で作るんだから大丈夫だろう。


「シーナ、今度は何を作るんだ?これもオトーフか?」


 フェリオが不思議そうに瓶の中を覗き込み、首を捻る。


「ううん。お豆腐を食べるのに欠かせない調味料を作ろうかと思って。だから、もう一回錬成お願い」

「調味料?同じ蔓豆で?」


 ――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。


 訝しげな視線を送りながらも、素直に錬成に協力してくれたフェリオのお陰で、瓶の中には夢にまで見た二種類の調味料が出来上がる。


「そう。そうそうそう!この上澄みの液体が醤油で、その下にあるのが味噌。やった!錬成大成功!!」


 出来上がった黒い液体を味見すれば、懐かしい香りと味わいがジーンと心に染み渡る。やっぱり、日本人にはこの二つが欠かせない。


「その黒いの、美味しいの?」

「うん!でもこれは調味料だから、そのまま食べたり飲んだりするものじゃ無いんだけどね。味見してみる?」


 ラペルに小皿に取った醤油の味見を勧めてみれば、先に苦汁を舐めた所為か、はたまた醤油の見た目の所為か、少量を指に付けて恐る恐る口に入れる。


「ん!?しょっぱい・・・けど、お塩とは違う味がする」


 そこからは醤油と味噌の味見大会となった。

 元々この世界には調味料と呼ばれるものの種類が乏しく、ほぼ塩味のみの生活を送っていたからか、どちらも大好評だ。


「けど、不思議だよな。同じ蔓豆なのに全然違う物になるなんて」


 トルネが感心した様子で醤油と味噌、それから豆腐をマジマジと見ていて、私も改めて大豆の偉大さを感じる。


 本当に大豆、いや蔓豆に出会えて良かった!!これで料理の幅がぐんと広がるもの。


 さて!お豆腐もそろそろいい感じに固まった頃だし、時間もいい感じにお昼時。

 豆腐の実食と参りましょう!

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