とても長い1日の終わりと始まりに
フラメル家での最初の夜。
今日は、とても長い1日だった。
いつものように朝5時半に起きて会社へ行き、17時に仕事を終えて帰宅。
長年繰り返してきた私の生活。
代わり映えのしない毎日。
お世辞にも充実していたとは言えない。
こんな毎日から逃げ出したいと思った事は、何度もあった。
それでも、まさかこんな事になるなんて。
滝に落ちて、死んだと思ったら異世界で。
それから色んな出会いがあった。
妖精のフェリオ。まだ出会って数時間しか経っていないけれど、私の大切なパートナー。
ラインさん。優しくて、格好良くて、物語の王子様がそのまま目の前に現れたような人。
スフォルツァさんとは気が合わなかったけれど、彼女の所でトルネとラペルに出会えた。
お父さんとお母さんが大好きな、可愛い私の先生。
マリアさんも、あの二人のお母さんだけあって、気さくで穏やかな人だった。
そう、みんなとてもいい人で、今の状況になんの不満もない。
・・・・・・なのに、どうしてこんなにも涙が溢れてくるんだろう。
どうしてこんなにも悲しくて、不安な気持ちになるんだろう。
元の世界の気掛かりは、唯一祖父の事だけ。
まだまだ元気とはいえ、82歳と高齢なだけに私がずっと生活面を支えていた。
でも、私がいなければ神社を継ぐことになっている叔父が、祖父と一緒に暮らすだろう。
それとなく叔父夫婦に家を出るように言われていたし。
それでも・・・帰りたいと思ってしまうのはどうしてなのか。
自分でも整理のつかない感情を上手く処理できなくて、私は頭まで布団を被って声を殺して泣いた。
そんな布団越しの私の頭を、フェリオの尻尾がポフ、ポフ、と慰める様に優しく叩いていた。
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2日目の朝、目覚めた私の傍らにはフェリオがピタリと寄り添って眠っていた。
頬に触れるふわサラな感触が心地いい。
――――――心配させちゃったかな。ごめんね、フェリオ。
もう大丈夫。昨日沢山の泣いた分、今日からは前を向いて行かなくちゃね。
ペシッと自分の両頬を叩き、気合いを入れる。
着替えを済ませ、教えて貰った通り水差しと洗面器で顔を洗う。
そこで自分がコンタクトレンズを入れたままだったことを思い出した。
あんなに泣いて、しかもそのまま寝てしまったにも関わらず、痛みも違和感も無く、鏡を見ても目が充血しているという事も無い。
本当ならちゃんと手入れしなきゃだけど・・・外すのは・・・まだちょっと怖いし、洗浄液なんて持ってないから、今は気にしない事にしよう。うん。仕方ない。
異世界まで来て、こんな事を気にしてる私って・・・。
全っ然、前向けて無いじゃない!
人間、そう簡単に変われるモノじゃないってことよね・・・地道に頑張ろう。
意気込んで、凹んで、落ち着いて、また前を向く。
異世界生活2日目の朝、こんな私だけど・・・今日から錬金術師始めます。