朝日と雨
「つまり――――――」
スマホの画面を覗き込んでいた私、では無く、鬼人族の二人、でも無く・・・いつの間にか私の肩に乗って画面を見ていたフェリオが、分析を終えたようだ。
「虹色珊瑚の化石は何らかの原因で青く変色して、その青く変色した化石と魔石を併せる事で、人の魂源に侵食するあの“青い石”が出来るって事か」
うんうん。私もそうだと思ってた。
ちょっと考えが纏まらなかっただけで、考えてた事は同じだ。・・・うん。
「虹色珊瑚の変色に関しては、あの井戸に白い石が大量にあった事と関係があるんじゃないかな?中に青い石が混ざってたのは、多分あの中で変色したからだと思うよ」
あぁ、なるほど!ってナイルもフェリオも、なんでそんなに頭の回転が早いの?・・・私が鈍いだけ?
それから、虹色珊瑚がどうやったら青くなるのか、という議論が始まり、やっぱり人の感情が関係あるだろうとか、だとしたらどんな感情なのかとか、真剣に話し合いが続き・・・。
「シーナ、起きろ。ラインが着いたみたいだぞ」
頬を肉球でタシタシと叩かれ、ふと目を開ければ、フェリオの金色の眼が私を覗き込んでいた。
ハッとして身体を起こすと、窓の外からは既に朝日が射し込んでいる。どうやら話の途中で居眠りしてしまったらしい。
「ごめんなさい。寝ちゃった」
「いや、色々大変だったしな」
フェリオがそうフォローしてくれるけど、大変だったのはみんな同じだし、なんならコウガの方が絶対疲れてるはず。そんなみんなの前で爆睡とか、申し訳ない上に、寝顔を見られたかと思えば物凄く恥ずかしい。まぁ、コウガとフェリオには今更だけど。
サッと口の回りを確認してヨダレが垂れていない事を確認しながら、いつの間にか人型になっていたコウガの横に並んで窓の外を見る。
みんなの視線を追って村へ続く道へ目を向ければ、朝日を浴びてキラキラと輝く金色の髪と、朝日に劣らぬ輝かしい魔力を纏った騎士が、馬で此方に向かってくるのが視えた。
あれは確かにラインさんだ。
「外行こう!」
まだ事情を知らないラインさんは、きっと村長に話を聞きに来たに違いない。ナイルと会う前に色々説明しておかないと。
玄関の扉を開いて外へ出ると、ラインさんはあと数十メートルの距離まで来ていて、私の姿を確認するやいなや、スピードを上げてあっという間に駆け着け、馬を飛び降りる。
そんなラインさんに私からも駆け寄り、
「ラインさん、心配掛けて――――――」
言い終わる前に・・・ギュッと抱き締められた。
いつもの穏やかで紳士的なラインさんらしく無いその行動に、一瞬思考が止まる。
「大丈夫ですか?怪我は?酷いことをされたりはしていませんか?」
そうかと思えば、バッと身体を離したラインさんに真剣な眼差しでジッと見据えられ、思考がまともに機能していない私は、コクコクと頷く事で何とか返事を返す。
すると、深く息を吐いたラインさんに再びその腕の中へと抱き寄せられた。
「・・・貴女が無事で、本当に・・・良かった・・・」
その絞り出す様な声は、まだ何処か痛みを孕んでいて、彼が相当心配してくれていた事を伝えてくる。
それと同時に、抱き締められた腕の強さに、ジワジワと止まった思考が動きだし、ついでに鼓動もどんどんと早くなっていく。
――――――このままじゃマズい。
「あの、ラインさん?」
そろそろ離して貰わなければまた雨を降らしそうで、そっと声を掛けるけれど、何故か更に強い力で抱き締められてしまう。
そんな風にされたらもう、耐えられない。
――――――ザァァァァァ・・・。
パチンッと弾けた魔力が雨となって、朝日に照らされたサパタの村にキラキラと降り注ぐ。
―――なんて幻想的で美しい光景・・・。
とか現実逃避してる場合じゃないのは分かっている。でも、ラインさんは未だに離してくれないし、もうどうにでもなれって感じですよ。
「えぇ~!姫の旦那候補ってまだ居たの?ライバル多いなぁ」
諦めの境地で悟りを開かんとしていた私は、背後からナイルのふざけた声が聞こえて現実に引き戻された。
「鬼人族?・・・双角!?」
ナイルの登場に、ラインさんは素早く私を背後に庇うと、ナイルとの間に立ちはだかる。けれど、ナイルの顔を見るなり驚きと戸惑いを含んだ呟きを溢す。
――――――そうかく?
「ライン。コイツが噂の鬼だそうだ。まぁ、何となく分かるだろうが、悪いヤツでは無さそうだな」
そんな私達の間に割って入って、フェリオが面白そうにラインさんとナイルを交互に見やる。
「そんでナイル、だったか?シーナの旦那候補第一号のラインだ。ちなみにオマエは第四号な」
――――――ちょっと待て。
ラインさんもナイルも旦那候補じゃないし。しかも第四号って・・・フェリオの言う旦那候補って、ラインさんとナイルとコウガよね?え?あと一人誰?
「四号!?僕の前に三人も居るの?」
「まぁ、オレのパートナーだからな。そのくらい当たり前だ。ちなみに、一号がラインで、二号はカリバのトルネ、三号がコウガで、四号がオマエな?」
――――――うん?聞き間違い?一人未成年が混ざって無かった?
「そっか~。まぁ、姫だもんね。当たり前かぁ」
待って。本当に待って。
本人が色々処理出来てないのに納得しないで。
「・・・旦那候補・・・一号」
ほら!ラインさんが困って俯いちゃってるじゃない!変な冗談に巻き込まないの!
「ごめんなさい。フェリオの悪ふざけなんです。もう!冗談言ってる場合じゃ無いでしょ!?」
「いえ、私は・・・いや、そうですね。先ずはそちらの方の説明から伺うべきですね」
俯いていたラインさんは、ゴホンッと咳払いを一つした後、気を取り直した様にナイルへと視線を向ける。ただ、その頬が少し赤みを帯びている気がするのは気のせい、だろうか?
「それなら、先輩には僕から説明させて貰うよ。取り敢えず中入ろうか」
そう言ってナイルが村長邸へとラインさんを招き入れ、みんな屋敷の中へと入っていく。
――――――あれ?そう言えば・・・雨降らしちゃったのに、誰も気にしないのね。
え?もう慣れた?・・・でも、まだ私の所為ってのは・・・バレてない、よね?
そんなまさか。ねぇ?アハハッ、アハハハハ・・・。
―――――――――大丈夫だよねッ!?




