再会の衝撃
「ん、どうしたの?そんなジッと見て」
一瞬見えた策士の笑みが嘘のように、ナイルはニコニコと人好きのする笑みを浮かべて首を傾げる。
見間違い?・・・何にしても、この話はルパちゃん達が一緒に居る時にもう一度ちゃんと話そう。ルパちゃん達だって、きっと反対するはずだよ。ナイルだって、あんなにルパちゃんを大切に思ってたんだもん、ルパちゃんが反対すれば思い直すでしょ。
「うぅん。何でもない」
そう思い直し、私はナイルから視線を外して、暗い森へと視線を落とす。
今は丁度、クロベリア領とフェノキー領の境の森。森の中に続く街道は、夜ともなれば人の気配など微塵も無く、勿論灯り一つ無い。
その中に、前方の木々の間から月の光が零れたようなキラキラとした輝きがチラッと視えた気がした。
――――――あれは?
炎の灯りとは違うその輝きは、何処かで・・・あッ!まただ!!
その銀色の輝きは、街道に沿って此方に向かって来ている様に視える。
――――――あの色は、あの魔力は・・・。
「ナイルさん、街道に沿って進んで!」
「・・・ナイルって呼んでよ、ねッ!」
私が"ナイルさん"と呼んだ事に不満を漏らしながらも、彼は次の跳躍で街道沿いへと進路を調整してくれる。
そのお陰で森の木々よりも遥かに高く、空からの開けた視界の中、その銀色の輝きをしっかりと捉える事が出来た私の胸に"もしかしたら"という思いが強く湧き上がる。
それは、森を駆け抜ける一陣の風の様に木々の間をスルスルと進み、もの凄い速さで此方へと近づいている。
自分とその輝きが、もうあと数十メートルの距離まで近付いた頃、ナイルもその存在に気が付いたらしく、大きな木の上で跳躍を止めた。
「何か来る。危ないかもしれないから、ここで様子を見よう?」
「うぅん。私の知り合いかもしれないの。だからお願い、下に降りて」
「こんな森の中を駆け抜ける知り合い?」
「そう。彼は獣人だから」
「わかった。でも人違いだったら言ってね。すぐに逃げるから」
軽い言葉とウィンクを私に向けたあと、ナイルはフワッと音もなく地面へ着地して、私を下ろしてくれる。
彼は魔法の使い方に長けている。それに、今まで見てきた中で、魔力量も一番多そうなのに、あまり戦いは好きじゃ無いらしい。
でもお陰で、逸る気持ちが「そこは逃げるのね?」と思わずツッコミを入れた事で少し落ち着きを取り戻せた。
だからこそ、改めてあと数十メートルの距離にまで近付いて来た銀色の輝きに、焦りを覚える。
あんなスピードで走っていたら、すれ違うのはほんの一瞬。
月明かりしかない森の中じゃ、私の存在に気付くこと無く通り過ぎてしまうかも。
ここまで来てすれ違いになっては堪らない。
私は慌ててポーチからスマホを取り出し、ライトを点けて大きく手を振りながら、声を張り上げる。
「コウガ!!―――――コウガ!!」
すると、森の木々の間を駆けていた銀色の輝きが、スピードを落としながら街道へと姿を現す。
闇に溶けてしまいそうな漆黒の毛並みに、キラキラと月明かりを写し込む、銀色模様。
「ブラックパンサー!?・・・いや、あれは・・・」
ナイルの緊張した声が聞こえたけれど、今はそれを気にしている暇は無い。
「コウガッ!!」
黒虎に向かって走れば、その背からミントグリーンの塊がぴょこっと飛び出し、私の胸に飛び込んで来た。
それは、最近見慣れた姿では無かったけれど、見間違えるはずがない・・・。
「――――フェリオッッッ!!」
胸にしがみついてくる、ミントグリーンの髪をした幼児を、私もギュウッと抱き寄せる。
「良かった・・・間に合って、本当に・・・」
しがみついたまま肩をプルプルと震わせるフェリオは、その姿も相まって迷子の子供の様で、なんとも痛ましく罪悪感が込み上げてくる。
「ごめんね、フェリオ。本当に、ごめんなさい」
ミントグリーンの髪を撫でていると、私も安堵の所為でジワリと涙が込み上げて・・・。
「―――――――――――の、・・・やろ」
「え、なに?」
「―――――ッこの、大バカやろう!!」
「うぇ!?」
「どれだけ心配したと思ってるッ!シーナには危機感が無さすぎる!あんな女に簡単に騙されてッッ・・・・・」
あまりの剣幕にパチパチと目を瞬かせれば、込み上げていた涙が、ポロッと溢れた。
「うッ・・・な、泣くなよ。悪かった、言い過ぎた。無事で良かったよ」
今度はフェリオによしよしと頭を撫でられて、そんな事を言われたら・・・。
「うぅ・・・うぅぅぅ・・・」
ポロポロと後から後から涙が溢れ出てしまって、自分も謝りたいのに嗚咽が漏れるばかりで言葉が出ない。
フェリオが消えてしまわなくて、本当に良かった、
もう、会えないかもしれないって・・・だから、だから・・・。
「あーもうッ!一杯文句言ってやろうと思ってたのに、そんなに泣かれたら・・・」
―――――――――ポンッ!
小さかったフェリオの手が、突然大きなそれに変わる。
顔の前辺りでフワフワと飛んでいたその影も、急に大きくなって月明かりを遮っていた。
ギュッと抱き締められ、回された腕でポンポンとあやすように背中を叩かれて―――――。
「慰めるしか無くなるだろ?」
――――――――――ッッッ!!!?
驚き過ぎて、一瞬で涙が止まってしまった。
だって・・・だって・・・。
「フェリオがッッ・・・大きくなってる!?」




