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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ3
72/264

"〇〇"な村長

 ・・・・・・眠れなかった。


 寝なければと思えば思うほど目が冴えて、境界の森での失態をグルグルと思い返しては、悔しさと寂しさに胸がザワついて、更に眠れなくなる。その繰り返し。

 明け方頃少し眠れたかと思えば、嫌な夢ですぐに目を覚まし、眠っていたとは思えない程の鼓動の早さに息苦しさを覚えた。

 夜通し走ればカリバに着いたかもしれない、と思うくらいには長い夜だった。


 そんな、明らかに不調な私を気遣ってか、朝はトリアちゃんがペポという、あの緑と橙の縞々模様の野菜を使ったスープを振る舞ってくれた。

 ペポは甘味の少ないカボチャみたいな感じで、優しい味付けが心に染みた。

 お礼にとパンと蜂蜜を渡せば、エリーちゃんがとても良い笑顔を向けてくれて、少し癒された。


 そんな姉妹に別れを惜しまれながら、ゴビさんと一緒に村長の家に向かう。

 途中、何故か昨日森にいた男の人達も合流し、朝早くから大勢で押し掛けるという異常な状況になってしまったものの、今は馬車が借りられるなら何でも良い。


「シーナちゃん、やっぱり無理だ。馬車は諦めた方がいい」


 もうすぐ村長の家という所で、ゴビさんがとても険しい顔でそんな事を言い出す。


「え?・・・やっぱり迷惑、でしたか?」


 やはり、馬車を出すにもそれなりにリスクがあるのだろうか?


「ゴビッッ!!・・・いやいや、なんも問題無ぇ。ちゃんと村長に話してやるから、心配しんくていい」


 けれど他の村人達は、どこか慌てたようにゴビさんを引き止めて小声で何やら言い争い、私を囲うように歩いていた人達は、少しだけ速度を上げてそのまま歩き続ける。

 なんだか連行されている気分だ。


 村長の家は、その他の村人達の家よりも遥かに立派な建物だった。


「村長!おはようございます」

 村人の一人が玄関口で声を張り上げると、中からお手伝いさんらしき女性が現れて屋敷内へ招き入れてくれる。

 けれどその女性は一言も喋る事無く、ずっと俯き加減で顔すら見えない。

 ここに来て、ずっと感じていた違和感が漸く危機感へと変わる。


 ――――――なんだか可怪しい。ゴビさんもさっきからずっと、物言いたげにこっちを見てるし。


 やっぱり馬車は辞退して別の方法を探そうか・・・と思った矢先、奥から屋敷の主らしき男性が姿を現した。

 その男性は、村人達とは正反対の姿をしていた。

 着ている服はどこも汚れてはいないし、ホツレてもいない、小綺麗な服装。髪は丁寧に整えられ、肌はテカテカと光り、そのお腹はでっぷりと突き出ている。


 ――――――なんていうか・・・"悪そう"。


 いやいや、彼がおそらく村長だろう。

 村人達の代表として前面に立って鬼と交渉し、助けを呼ぶ為に危険を犯してまで領主や騎士団に、何度も直談判に行っている立派な人だと、トリアちゃん達が言っていたじゃないか。

 人を見た目で判断してはいけない。


「おぉ!早かったではないか。それで、グローニアは何処だ?」


 村長は、どこか嬉しそうにキョロキョロと村人達を見回し、グローニアの姿が無いと分かると、その顔を険しくさせる。


「グローニアが居ないではないか。お前達、グローニアはどうした?」

「それが・・・グローニアは森へ行ったまま帰って来ねぇんです。どうやら、境界の森に迷い込んじまったみてぇで」


 村人の一人がオドオドしながら小声で説明すると、村長はみるみる顔を赤くして怒鳴り散らす。


「なんだと!私はグローニアを連れてこいと言ったはずだぞ!何故見張っておかなかったのだ!鬼に差し出す、、」

「村長ッ!!先ずはこの娘をご覧ください」


 先程ゴビさんと言い争いをしていた村人が、そう言って私を村長の目の前へと押し出した。


 ―――――え?ご覧下さい?


「村長!その娘は森の迷い人です。幸いにも故郷は近く、帰る家があるんです。この娘に、馬車を出してやって下さい」


 押し出されて困惑していた私の代わりに、ゴビさんが村長にそうお願いしてくれる。


 ――――――そうか、馬車を頼めって事だったのね。でも村長機嫌悪そう、大丈夫かな?


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はカリバのシーナと申します。境界の森へ迷い込んでしまい、帰る術を探していた所、村長さんを紹介して頂きました。カリバまで、馬車を出して頂く事は出来ませんでしょうか?」


 私はなるべく印象が良くなるように、努めて丁寧に、愛想よく挨拶をする。


「ほぉぉ。これはまた――――――しかし、困りましたなぁ。我々は今日、鬼の花嫁としてこの村の娘を差し出さねばならないのです。その娘というのがグローニアという娘でしてな」


 何故ここでそんな話を?て言うか、鬼の花嫁ってなに?人質?いや、生け贄!?

 グローニアには文句の一つや二つ、いや十や二十は言ってやりたいが、もしかしてそれが理由で逃げたんだろうか、と思うと責め辛い。


「その娘がどうやら行方知れずになってしまったようなのですよ」

「大変、です・・・ね?」

「そぉなんです!大変なのですよ!・・・なのでお嬢さん、グローニアの、身代わりになって下さい」

「え?」


 村長のその言葉と共に、私の後ろに控えていた村人達に腕と肩を掴まれ、慌てて身を捩ってみるものの、既に身体の自由は奪われていた。


「村長!!その娘は、この村となんの関係もない娘です。グローニアの身代わりにするのはッ」

「ゴビ!ならば、お前の娘を差し出す事になるのだぞ?」


 ゴビさんが必死に掛け合ってくれるけれど、村長の次の言葉にグッと唇を噛み締めると、苦し気に顔を顰めて俯いてしまう。

 そりゃそうだ。自分の娘以上に大切な者など、いる筈がない。


 けれど私にだって、譲れない大切な相棒(フェリオ)がいるんだ。

 ここで大人しく身代わりになんてなっていられない。


「皆さんが鬼に酷い目に遇わされてるのは聞きました。カリバに戻れば、きっと助けてくれる人を連れて戻ります。ですからどうか、カリバへ帰してください。お願いします」


 元々ラインさんには相談するつもりだった。むしろ無事に帰った所で、知ってしまった以上なにもしないという選択肢は無い。

 けれど私の訴えに、村長はピクリと反応しただけでその態度を変える事は無かった。


「残念ながら、我々には一刻の猶予も無いのですよ」


 酷薄とも思える表情で村長がそう告げると、何処からかハーブの様な香りと共に僅かに風を感じ・・・そこから一気に眠気が襲う。


 ――――――ナニ、これ・・・ダメ、寝たら・・・ダメ・・・なのに・・・

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