〉フェリオ~似た者相棒~
なんでオレはあの時、シーナにマリルベリーがあると教えなければ、と思った?
なんでオレは、シーナが一人で森へ入ることを止めようと思わなかった?
なんでオレは、あの娘の動向が怪しいと感じながら、シーナに忠告出来なかった?
今にして思えば、気持ち悪いぐらいこの状況へ誘導されていた。
・・・ナニかに干渉されていた、のか?
オレに干渉出来る存在なんて、居るはずが――――――いや、彼女なら・・・でも、そんなことして何になる?
境界の森はとっくに抜けて、シーナと離れ離れになってしまったオレは、グローニアの腕の中。
無理矢理引き剥がされた爪がジンジンと痛むし、逃れようと藻掻けば腹に腕が食い込んで、ギュウギュウと締め付けられる。
なんとも最悪な状況に陥りながら、林の外で彼奴等が待っている事を期待して、今は大人しくこの状況を分析している。
シーナを突き飛ばす前、あの女は自分の持っていた花をシーナに向かって投げ捨てた。
霧が迫る中で動けずにいたシーナは恐らく、グローニアの故郷近くの森に出たはず。
――――――早く、迎えに行ってやらないと。
シーナはまだ牙狼さえ一人で倒すことが出来ない。
自分ではしっかりしてると思っているが、危機感は薄いし、あまり人を疑わない。
なにより、この世界の常識にまだまだ疎い。
見知らぬ土地からカリバヘ戻ってくるのは至難の技だろう。
――――――けっこう臆病だし、寂しがりだし。
無事に森を抜けて、人里に辿り着けるだろうか?
変な奴に騙されたりしないだろうか?
クソッ!・・・オレが気をしっかり持っていれば。
ダメだ、落ち着け。
まずはこの女から、シーナの行方を聞き出して・・・遠くで無いと良いが。
それからラインとコウガに頼んで迎えに行こう。
なんなら鳥に変化して飛んで行っても良い・・・魔力がもつと良いが。
さぁ、そろそろ林を抜ける。まずは彼奴等と合流だ。
「――――――――――ッッッ!!!?」
オレを抱えて飛び出してきたグローニアを見て、ライン、コウガ、マリア、トルネ、ラペルの五人は一様に驚きに眼を見開き、期待した人間で無かった事に落胆して肩を落とす。
そして腕の中のオレを見て、その目に敵意や警戒、疑念に不安といった感情を乗せる。
一方グローニアはと言えば、そんな此奴等の視線に気付くことなく、前の男二人にポーッとなっている。
オレはその隙にグローニアの腕を抜け出し、素早く飛び出して、コウガの肩を蹴ってマリアの肩の上に逃げる事に成功した。
「コイツに拐われた所為でシーナと離れ離れになった!シーナの居場所はコイツが知ってるハズだ」
オレが声を上げると、グローニアは呆気に取られたのかポカンと一瞬間の抜けた顔になり、次の瞬間には何故か傲慢な顔でこう言い放つ。
「私がアナタを境界の森から連れ帰ったのよ?これからは私がアナタのご主人様なの。私には素晴らしい才能があるんだから、不満なんて無いでしょう?」
グローニアのこの言葉に、今度はその場に居た全員が呆気に取らて、あ?とか、は?とか声が漏れている。
「あのな・・・オレは元々シーナのパートナーなんだよ。もうずっと前からな」
オレは怒りで逆立ちそうになる毛を何とか抑えながら、極めて冷静にそう言い聞かす。
「だから何?境界の森から連れ帰れば良いんでしょ?同じよ!!」
――――――ダメだコイツ。妖精と錬金術師に関する知識が無さすぎる。
「えぇと、まずはお名前をお伺いしても?」
オレがゲンナリしたのが分かったのか、今度はラインが引き継いでくれるらしい。確かに、こういうのはラインが一番上手く対応出来そうだ。
「グローニアです!よろしくお願いします!」
ラインにはめっちゃイイ返事だな、おい。
「ではグローニアさん。グローニアさんはどちらからいらしたのですか?」
「・・・それは言いたくないわ!私はこの街で錬金術師として生きていくの!」
――――早くッシーナの居場所を教えろ!!
なかなか進まない状況に、段々と苛立ちが募る。それは他の奴等も同じだったみたいで、コウガから殺気の様なものが漏れ始めている。
「この町の錬金術師はシーナねぇちゃんとオレ達だけで十分なんだよ!シーナねぇちゃんを返せ!!」
「フェリオはシーナお姉ちゃんのパートナーなの。だからムリなのよ?」
しびれを切らしたのはトルネとラペルも同じだったらしい。トルネはグローニアに食って掛かってるし、ラペルは泣きそうに顔を歪めながらも、グローニアを説得しようとしている。
「チチッ!シーナ、イナイ?」
「チュリ!シーナ、ドコ?」
その声にやっとその存在を認識したらしいグローニアがトルネとラペル、その肩にちょこんと乗っているペレとネルを見る・・・が、その目には明らかな侮りが見て取れた。
「何よ、そんな小さな妖精で何が出来るっていうの?そもそも、青系統の眼を持つ私の方が優秀な錬金術師に決まってるでしょ?」
この女に何を言ってもムダかもしれない。と、その場に居た全員が思った事だろう。
そもそも、青以外の色に優劣は無いはずだが・・・確かあの錬金術師の女も黒眼だ何だと言っていたな。思いの外誤った情報が横行しているんだろうか?
まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
この女からシーナの居場所を聞き出して、一秒でも早くシーナを迎えに行くのが最優先だ。
けれど、グローニアはこの状況じゃ素直に話をしないだろう。変に自信過剰でヒステリックなこの女には、落ち着いた人間が穏やかに話を聞くのが効果的だ。
でも、それまで待ってなんて居られない・・・他に何か手掛かりは無かったか?
―――――――――ッそうだ!
「ライン、オレはグローニアのしるべ草からシーナの居場所を調べてみるから、この女は
任せて良いか?」
ラインの肩に移動して小声でそう頼めば、この状況の深刻さを理解しているラインがしっかりと頷いてくれる。
「取り敢えず・・・貴女には一度、騎士団の詰所に来ていただきます。女性一人では不安もあるでしょう。マリアさん、付き添いをお願いしてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんよ」
マリアが穏やかな笑みで応えるが・・・その目が笑ってないのが怖すぎる。
「私は別に、二人だけでも良いんだけど」
そんなマリアに気付くこと無く、グローニアはラインに促されるように手を添えられ、先程までの高慢な態度を引っ込めて嬉しそうにラインに着いていく。
「オレは何をすればイイ?」
三人が去った後、珍しく焦りを滲ませた声音でコウガ聞いてくる。その横には自分も!と見上げてくるトルネとラペル。
「あの女が持ってたしるべ草の特徴を教えるから、皆で調べてくれ」
「わかッタ」
「任せろ!」
「植物ずかんなら工房だよ」
言うが早いか、三人とも工房へ向かって走り出す。
――――――調べるにはケットシーの姿じゃ不便だな。魔力消費も抑えたいし・・・。
工房に駆け込んだコウガ達は、片っ端から植物図鑑を引っ張り出してページを捲る。
オレは口で花の特徴を説明しながら、紙に花の絵を描いていく。
・・・・・・・・・・・・。
「ン?」
「「え?」」
そう。人型の幼児の姿で。
「「「フェリオ?」」」
オレの姿を見た三人の動きが止まり、驚愕に見開かれた眼は、次の瞬間には「あぁ、そうか」みたいな、落ち着いたものに変わる。
「まぁ、なんだ・・・オレ本当は妖精王級なんだ。って言っても、あんまり驚かなかったみたいだけどな」
「まァ、フェリオだからナ」
「フェリオだもんね」
「普通のケットシーなワケ無いよな」
オレの扱いがシーナと同等なのは心外なんだが?オレはシーナほど規格外じゃ無いぞ。
まぁ、ここでパニックを起こされたり、大騒ぎされるよりはマシだから、今は甘んじて受け入れておくが。
少しだけ釈然としないモノを感じながら、完成した絵と図鑑を見比べつつ、黙々とページを捲る。
オレはそこまで花に詳しくは無いが(妖精だからって花に詳しいとは限らない)、ラペルはオレの絵を見て何か思い当たるモノがあったのか、必死に本を捲っている。
「ねぇ、この花はどう?」
そこに載っていたのは、ベル型で丸い花弁が幾重にも重なった可愛らしい花。赤紫に色付けもされていて、確かによく似ている。
「確かに似てる。でもオレが見た花には、白い縁取があったんだよなぁ」
ここで間違ったら、シーナと二度と会えないかもしれない。そう思うと、どうしても慎重になってしまう。
「ここ!説明文に書いてある!白い縁取りのある花弁はフェノキー領南部のしるべ草として認定されているって」
『コレだ!!』
トルネが見つけた一文に、全員の声が揃う。
「フェノキー領ならすぐ隣だよ!」
「よしッ!!トルネ、地図貸してくれ。コウガ、虎になったら馬より早く走れるか?」
「あァ、任セロ」
「ポーションと、マナポーションと・・・水と食べ物と、、、」
トルネが場所を示し、コウガは素早く虎に変化し、ラペルが旅に必要な物を揃えていく。そして、
「オレはラインにぃちゃんに知らせて来る!」
と、飛び出したトルネが再び戻るほんの数分の間に、見事に支度が整った。
なんて頼もしいヤツ等だろう。
ラインも既にグローニアから話を聞き出していたらしく、目的地がフェノキー領南部のサパタ村だと確定したので、その日の内にカリバを立つ。
オレとコウガで先行して向かい、ラインはグローニアを連れて馬車で後を追う。
オレは、街道沿いの森の中を疾走するコウガの背に必死に掴まりながら、シーナの無事を祈る。
――――――全く、オレのパートナーは世話が焼ける。待ってろよ、今迎えに行ってやるからな!




