鬼
「じゃあ、この村がこんなに困窮しているのは、水不足だけが原因じゃないの?」
夕食に持っていた食材を使ってフレンチトースト作り、ナガルジュナで買った肉串と共に食卓に出せば、あっという間に姉妹は心を開いて色々と教えてくれた。
フレンチトーストをあっという間に平らげ、肉串をモキュモキュしながらエリーが頷く。
「そもそも、村の井戸が使えんくなったのは、鬼が原因なの。あの鬼は地面を操る魔法で村の井戸を使えなくして、自分の所にだけ水を引いたのよ」
加えて、トリアちゃんが親の仇の様に肉串をモギモギと噛み締めながら、そう説明してくれるけれど・・・・オニって、鬼?
あの、赤鬼とか青鬼とかの、鬼?
そう言えば、何処かで『鬼』という単語を目にした様な・・・はて、どこだったかな?
「それでね、水は野菜とかお肉とこうかんなの」
「あと、働かなきゃいけないの」
「交換?働く?」
そこからは、ゴックンとお肉を飲み込んだエリーちゃんとトリアちゃんが、ここぞとばかり不満を爆発させ、止めるゴビさんを無視して色々と教えてくれた。
食事中に聞いた話を纏めると、三ヶ月程前に突然鬼はやって来たという。そして、その鬼が井戸のある広場の地面に触れると、轟音と共に大地が揺れ、その後村の井戸は枯れてしまい、川や湖が側に無いこの村では水が確保出来なくなってしまった。
すると、村長の前に現れた鬼が「水が欲しければ対価となる物を寄越せ」と無理な要求をしてくる様になり、村の作物や森で捕れた獣、それに加えて労働力としての男手までも搾取され、今に至っているという。
「じゃあ、ゴビさんもその鬼の命令で働きに出てるんですか?」
終始渋い顔でただ黙っていたゴビさんが、諦め顔で頷く。
「まぁな。なんか分からんが、森ん中の洞窟で採掘しろって言われてな」
「採掘ですか?」
「あぁ。あんな何の価値も無い石を掘り出して、なんに使うんだか」
「価値の無い石?」
「そりゃあ、あんな普通の白い石、誰も欲しがらんだろうさ」
その石が本当に価値の無い物なら、鬼の目的は一体なんなのか。嫌がらせ?・・・にしては規模が大き過ぎるし・・・。
「騎士団や領主様に助けを求めたりはしてるんですか?」
ラインさんが聞いたら直ぐにでも動いてくれそうだけど、この辺りには騎士団の詰所とかは無いんだろうか?
「もちろん。どっちにも村長が何度も手紙を出してるんだが、何の音沙汰も無いらしい」
領主がどんな人かは知らないけれど、私が知っている騎士団は、そんな職務怠慢な人達じゃ無かったはずだけど・・・。
手紙がちゃんと届いて無いのか、この辺りの騎士団の質の問題なのか。
考えた所で分かる筈もなく、先を急ぐ身ではなんの力にもなれない。
――――――まぁ、錬金術が使えない今の私じゃ、何の役にも立たないだろうけど。
自分の無力さと、フェリオの存在の大きさを改めて痛感する。
「私では力になれる事は少ないですが・・・知り合いに騎士団の方が居るので、カリバヘ着いたら相談してみます」
「・・・・・・そりゃ、ありがたいな」
私の言葉に、ゴビさんからは何故か歯切れの悪い返事が返ってきた。
まぁ、村長が何度手紙を出しても動かなかった騎士団が、ただの通りすがりの一般人がどうこう出来ると期待していないのかもしれない。
私は内心苦笑しながら、話題を鬼の話に戻すことにした。
「でも、その鬼ってそんなに恐ろしいの?」
『鬼』というくらいだから、きっと恐ろしい外見をしているんだろうと予想して聞けば、案の定姉妹二人が大きく頷く。
「鬼はね、大きくてね、髪はしろいのに、肌はくろいの!」
「ここんトコに二本角が生えててね、牙も長いの!」
エリーちゃんが精一杯手を伸ばして大きさを表現し、トリアちゃんは両手を額に当てて角を表現した後、下の歯をイーッと突き出して説明してくれる。
二人とも恐ろしさを強調するように、顔を顰めたり口を大きく開けたり、ちょっと可愛い。
―――――いや違う、違う。ほのぼのしてどうする私。
二人の話から想像すると、黒くて白髪の大きな鬼・・・角が額から生えてるって事は、般若みたいな感じかな?
――――――コワッ!!
自分の想像の中で、三メートルくらいある黒くて大きな般若顔の鬼が、白髪を振り乱して襲ってくるのを想像してしまった私は、ブルッと身体を震わせた。
「そんなに怖いんだ・・・大丈夫なの?襲われたりしない?」
だってそんな恐ろしい鬼なら、暴れまわったりしないんだろうか?
「ん~とね、まだ怪我した人はいないよ。でもグロ、、」
「言う通りにしてさえいれば危害を加えんって約束だからな。大丈夫だ」
トリアちゃんの言葉を、ゴビさんが少し強めの口調で。遮る。
余計な心配を掛けさせまいとしているのか、はたまた余計な事をしてくれるなって事なのか。
どちらにしろ、今の私の選択肢は一つしかない。
只でさえ自分の手に余る状況で、しかも今の私には何の力もない。助けを呼ぶ以外、何も出来ない。
「それなら、もう暫く我慢してね」
早くカリバに帰り着きたい気持ちが一層強まるけれど、ここでふと不安が過る。
「でも、そん状態で村長さんに馬車を借りるなんて、無理なお願いだったんじゃ・・・」
村の人達がそんな苦しい状況で、しかも恐らく鬼に監視されてる現状で、見ず知らずの私の為に馬車なんて貸してもらえるんだろうか?
「悪ぃが確実じゃあねぇな。でも、村長はわりと村の外に出てってるから、まぁなんとかなるだろ」
ゴビさんがガシガシと頭を掻きながら、ぶっきら棒に励ましてくれる。
でもその顔はどこか苦しそうで、不安が募ってしまう。
「だから今日はさっさと寝ろ。寝床は子供たちと一緒でいいか?」
ゴビさんがこれで話は終わりとばかりに食器を片付け始めたので、それ以上話を続けることもできず、明日の不安は一旦考えない事にして片付けを手伝い、姉妹二人と寝床に就く。
知らない部屋の暗い室内で眼を閉じれば、いつも傍らに在るはずの温もりが無い事に、涙が滲んだ。
――――――もし馬車が借りれなかったら?歩いてでも辿り着けるだろうか?それまでフェリオは無事で居てくれる?
こんなにも不安が押し寄せるのは、この世界に来た日の夜以来、かもしれない。
――――――大丈夫、きっと明日にはカリバに向けて出発できる。だから今日は、しっかり休んでおかないと・・・・




