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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ3
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〈ある田舎娘の無知な野望

 やったわ!

 これで私も錬金術師よ!!


 グローニアは、これから自分が歩む輝かしい未来に想いを馳せながら、林の中を走る。



 グローニアの生まれた村は、辺境の小さな村落だった。

 水源地から遠く、村に唯一ある井戸だけが頼りの不便な村で、特産品と呼べる程の作物もなく、乾いた土地でも育ちやすいペポという野菜ばかりが食卓に上る。


 グローニアはそんな村の中で、浮いた存在だった。

 整った容姿と青を帯びた緑色の瞳。彼女は母親からずっと、貴女は特別な存在だ、青を帯びたその眼の色ならば、きっと錬金術師になれるはずだと言われて育ち、自身も自分が特別な存在なのだと考えるようになっていた。


 とは言え、グローニアもグローニアの母も錬金術師に会った事など無く、どうすれば錬金術師になれるのかは分からなかった。

 だから母は「ついでに錬金術師になる方法を調べてくるわね」と町へ出稼ぎに出て・・・そのまま帰っては来なかった。


 そんなグローニアに転機が訪れたのは、半年程前。元男爵だという男が、隠居という名目で村へ越してきたのだ。元とはいえ貴族。村人達は彼を村長として迎え入れた。

 

 大きな町からやって来たという元男爵には錬金術師の知人もいるらしく、グローニアが話を聞きに行けば嬉しそうに多くを語ってくれた。


 ―――錬金術師になるには、境界の森へ行って妖精を連れ帰ればいいのね。以外と簡単じゃない。

 私は特別な存在なんだから、きっと直ぐに境界の森へ行って妖精を見付けられるわ。


 それから数ヶ月、グローニアは暇を見付けては森に出掛けていたが・・・この日、遂に目的の森に迷い込む。


 やっぱり!私は錬金術師に成るべくして産まれてきたのよ。

 これで妖精さえ見付かれば、村に戻ってもあんなバケモノの言いなりならなくて済む。

 私に価値があると示せば、きっと村長が私を助けてくれるわ。

 ついでにその人脈で、王宮の錬金術師に推挙してくれないかしら?

 

 実際には、現役の男爵であってもそこまでの権威など無いのだが、グローニアの夢は広がるばかり。

 錬金術師となり、綺麗な服と豪華なアクセサリーを身に付け、多くの見目麗しい男性に求婚される・・・そんな自分を想像しながら歩いていたグローニアは、突然掛けられた声に盛大に身体を強張らせた。


 声を掛けてきたのは、珍しい毛色の猫を抱いた同じ年頃の女性。

 境界の森という状況で、その女性のどこか神秘的な美しさは、同じ女であり、自分の容姿に自信のあったグローニアでさえ息をのみ、妖精かと勘違いをする程だった。

 

 高位な妖精が現れたのかと一瞬喜び、人間だと分かってガッカリした。けれど、錬金術師として彼女をずっと側に置く事を想像すると、心の何処かでホッとした。


 ――――――フンッ!ちょっと顔が良くたって、眼の色は普通じゃない。私の方が錬金術師に相応しいわ!!


 心の中でだけそう強がったグローニアは、しかし彼女の腕の中にいる猫が妖精だと分かると、先を越された悔しさに歯噛みする。

 聞けば、この森で出会ったという。


 なんで茶眼のこの子が私より先に妖精に会うのよ。それとも、私にはもっと高位な妖精が用意されてるのかしら?

 ・・・まぁ、いいか。もう少し探して他に見付からなければ、このケットシーを私の妖精にすれば良いんだわ。

 ()()()()()()()()()()人間が、錬金術師になれるんだから、要は森を出る時に私が連れてればいいんでしょ?

 あとはどうやって妖精を渡して貰うか、だけど・・・説得は無理かしら?私の方が錬金術師に向いているのは一目瞭然なんだから、あっちから譲ると言えばいいのに。

 

 猫を抱いた彼女は、折角捕まえた妖精を逃がすまいとでもしているのか、ギュッと抱えたまま離さない。

 けれど、しっかりと猫を抱くその手の中に一輪の薔薇を見付けて、グローニアは名案を思い付く。


 いっそのこと、妖精としるべ草を奪ってしまえば良いんだわ。そしたら私はあんな村に帰る必要も、あんなバケモノの所に行く必要もなくて・・・あのスケベオヤジに媚を売る必要だって無くなる。


 それからグローニアは積極的に彼女に話し掛け、これから自分が向かう町の様子を聞き出しながら、妖精としるべ草を奪うチャンスをジッと待った。

 彼女は草や花に興味があるらしく、たまにその辺に生えた草を取っては嬉しそうにしたので、グローニアがふと目に入った白い花を指して声を掛ければ、簡単に誘われて夢中でその花や実を摘み始め、妖精を抱く腕を解いた。


 チャンスだわ!しかも、妖精にしるべ草を咥えさせるなんて、これはもう天の思し召しよ!タイミング良く霧まで出てきて、このまま妖精を奪って逃げろって言っているんだわ!


 グローニアは自分が持っていた花を捨て、立ち上がろうとする彼女を思い切り突き飛ばすと、彼女の肩に乗っていた妖精をガシッと掴んで引き剥がす。


「錬金術師になるのは私よ!この妖精は貰っていくわ」


 妖精も抵抗していたようだが、森から出てしまえば自分が錬金術師。妖精だってきっと直ぐに言うことを聞いてくれるはず。

 グローニアはそう考えていた。


 そして決して長くない道程の先、林から抜け出したグローニアを待っていたのは・・・。


 輝く金髪と艶やかな黒髪の、どちらも見目麗しい男性二人。と、子供と女。


 彼等はきっと、錬金術師になった私を出迎えているんだわ!

 こんな素敵な人達と出会えるなんて、やっぱり私は特別な存在だったのね。

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