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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
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聖女の奇跡?

 騎士団の詰所を出て、お昼ご飯を食べる為に飲食店が並ぶ通りを目指して歩く。

 途中、再び教会の広場を通れば、そこには朝の喧騒が嘘のように穏やかな時間が流れていた。


「そう言えばアレって噴水なんだな?」

 ふと、フェリオがそんな事を言い出す。

 その視線の先を見ると、真ん中に杯の様な石像のある円形のベンチだった。

 恐らく、湧水の聖杯を模した噴水だったのだろう。今はそこから水が流れ落ちる事は無いみたいだけれど。


「うん?そうだね。でも、どうしたの急に」

「いや・・・ちょっと見ていってもいいか?」

「別に構わないけど?」

 何だろう?フェリオ的に何か気になる事でも有るんだろうか。


「おいシーナ、この杯見てみよろ」

 フェリオが見ているのは、黒い石で出来た杯の部分。

「スゲー綺麗だぞ、これ」

 確かに、よく見ればそれは黒曜石の様に艶があり、光を受けて虹色の光彩を放っている。

「ホントだ、気付かなかった・・・」

 ここに来る時は何かと気を張っていたから、そこまで目が行かなかった。


「それは来る途中でお話しした、この町の外壁にも使われている鉱石スラグで作られているですよ」


 不思議な光沢のある黒い外壁・・・そう言えば、明るくなったら見たいと思ってたんだった。


「へぇ~・・・綺麗ですね」

 ラインさんの説明を聞きながら、じっくりと観察する。フェリオも気に入ったのか、久し振りにフワフワと飛んで、真上から杯を覗き込んでいる。


 ―――コイツ、やっぱり普通に飛べるのね。いつも人の肩にばかり乗ってるのは、自分で動きたくないから?


「おぉ!シーナ、凄いぞこの中。見てみろよ」


 フワフワ飛び回るフェリオを半眼で見ていたら、覗き込んでいた杯の中から顔を上げ、こっちに向かって手招きをしてきた。

 自分の背丈よりも高いそこを見るには、一段高くなった所に登るしかない。

 そんな所に登るのは行儀が悪いとは思いながらも、フェリオの嬉しそうな表情に好奇心が刺激されてしまう。

「いいけど・・・」


 私が頷くと、今度はヒュンッとラインさんの所に飛んでいったフェリオは、彼も誘っているのか、何やら耳打ちしている。


 ―――流石に、騎士であるラインさんは、こんな行儀の悪い事しないんじゃ無いかな?いや、むしろ、登っていいか確認でもしてるのかな?


 そう思って見ていれば、ラインさんはこっちに向かって一つ大きく頷いてくれた。

 良かった。やっぱり勝手に登るのは良くないものね。


 私は安心して一段高いその場所に登ると、少しだけ背伸びする。

 覗き込んだそこは・・・ただ少し凹んで真ん中に水が出る為の穴のあいた、杯の中。


 ―――え?コレのどの辺が凄いの?


 フェリオにどういう事か聞こうとその場で振り向けば、いつの間にか目の前まで飛んで来ていたフェリオに驚いて、不安定な足場がグラつく。


「うッ――――わぁぁッ!?」


 当然、踏ん張る筋力の無い私はそのままバランスを崩し・・・目の前に差し出された腕に、咄嗟にしがみついてしまう。


 瞬間、少しの衝撃と、宙に浮いている感覚があるものの、痛みは無い。

 ギュッと瞑った眼に最後に映った金色と、ギュッとしがみついている暖かいナニか。

 加えて・・・背中と膝裏に感じる安定感。


 ―――――――――今、眼を開けたらダメな気がする。


 嫌な予感に、顔が蒼くなる・・・どころか、どんどん赤くなっているのも、変な汗が出てしまうのも、気のせい。うん、気のせいだ。

 どうか、どうかこのまま、何事も無かった様に下ろして欲しい。


「シーナさん?大丈夫ですか?」


 だが・・・無情にもその体勢のまま、至近距離からラインさんの声が耳に響いてくる。

 流石にずっと眼を瞑っている訳にも行かず、私は心を落ち着かせるように、ゆっくりと眼を開き・・・。


 ―――――――――――やっぱりムリィィィ!!


 眼を開けると、ラインさんのドアップ。しかも、優しげに「ん?」って覗き込まれて・・・堪えられませんでした。


 ―――――――――ザァァァァァァ・・・。


 教会広場を中心に、見事に雨が降りました。


「あぁぁぁりがとうございます!大丈夫です!大丈夫ですからッ・・・下ろしてくださいぃぃ」


「怪我が無くて何よりです」

 ラインさんはそう言って微笑むと、何故か私を抱えたまま噴水の淵を越えてから、ゆっくりと地面に下ろしてくれた。


 ――――紳士!凄く紳士だけど、恥ずかしいから直ぐに下ろして欲しかったです!


「ありがとうござぃひゃぁッ!?」


 ラインさんに御礼を言って、早く今の光景を忘れなければ!と思っていたのに、何故か私の足は又しても地面から離れる。


「――――――コウガッ!?」


 そう・・・何故か今度は、コウガにお姫様抱っこをされていたのだ――――――何故!!!?


「オレも、シーナを抱いテ歩クくらいデキルぞ」


 しかも少し強めに力の込もった腕に、ギュッと身体を抱き寄せられ、ワザワザ顔を寄せてそんな事を言われてしまえば・・・。


 ―――――――――ザァァァァァァ・・・。


 ソレは何の対抗心なの?

 なんで二人とも、突然の雨に動じないの?

 ホラ、町の人達が驚いて集まって来てるじゃない!

 だから、取り敢えず・・・一回下ろして。


 ねぇ・・・ねぇってば!

 誰か助けてぇ!雨が止みません!!!!

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