夢と現実
不思議な形の丸い窓の外は、何時も雨が降っていて、ずっと窓には雨が伝っていた。
そこから見える景色は、小さく見える町並みと遠くの山々。
朝が来て、昼が過ぎて、夜になる。
春が来て、夏が過ぎて、秋が深まり、冬になる。
真っ暗な部屋で、その窓だけが鮮明で。
水に揺らぐ景色を、ずっとずっと眺めてる。
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月明かりの差し込む、真っ暗な部屋で眼が覚めた。辺りに目を凝らせば、そこが今朝目覚めたのと同じ、宿の一室だと分かる。
―――――久し振りに、あの夢見たなぁ。
子供の頃によく見ていた夢。
暗い部屋で、テレビ画面みたいにそこだけ浮き立った、現実味の無い窓の景色を眺めている。そんな夢。
大人になってからは全く見なくなったこの夢の後は、少しだけ寂しい気持ちになる。
でも、決して怖い夢だと思った事は無い。
ベッドに横たわったまま、夢を反芻しながら暫くボーッとしていると、ふと、意識が浮上する。
――――――あれ?そういえば私、いつ宿に帰って来たんだっけ?
たしか教会で・・・グレゴール司祭の魂源を綺麗にして。ほんと、成功して良かったぁ・・・それから、、、それから?
あれ?それからは?魔石の錬成は?イシクさんとの約束は?
・・・・・・・・・覚えが無い。
ガバッと慌てて起き上がれば、枕元で寝ていたフェリオが眠たげに顔を上げ・・・
「・・・起きたのか。もう夜中だ・・・まだ寝てろ・・・ッカフゥ」
それだけ言って欠伸をすると、そのまま寝入ってしまう。
もう夜中、か。
じゃあ今日はもう、みんな寝入ってるよね。
迷惑掛けただろうし、明日皆に謝らなきゃ・・・。
――――――いや、ちょっと待て。
私が今このベッドで寝てるって事は、あの後誰かが私をここまで運んでくれたって事・・・だよね?
多大な迷惑掛けてる!!
町の中を、女一人背負って歩くとか・・・色々大変だったに違いない。
誰?コウガ?ラインさん?
どっちにしても申し訳ない。朝一で謝罪だ。
ベッドの上で冷や汗をかきながら決意を固めた私に、起きていたのか起きたのか、フェリオがそっと囁く。
「因みに、ここまではラインとコウガ、交代で運んだぞ。横抱きで」
――――――横抱き・・・ッッッ!!!?
ソレってもしや・・・お姫様抱っこ・・・というヤツでは?
――――――ッッッッなんてことをッ!いや、分かってる、私が寝ちゃったのが悪いし、100%善意だし、寧ろほんとごめんなさい!
交代ってことは、重かったからだよね。ほんッと!ごめんなさい。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・恥ずかしい。
意識が無かったのがせめてもの救いか・・・いや、そもそも意識が無かったからこんな事に。
布団の中で顔を覆い、ジタバタと見悶え、自己嫌悪に陥る私を尻目に、どうやら完全に起きているらしいフェリオの身体が小刻みに震える。
笑ってる?ってことは嘘?お姫様抱っこは嘘?質の悪い冗談?
「フェリオ、横抱きって言うのは嘘なの?」
「いや?」
「じゃあ何で笑ってるの」
「そりゃ、シーナの慌てっぷりと、ラインとコウガの攻防を思い出して、ちょっと」
フェリオめ、人を見て面白がるなんて。しかもそうなると分かってて、敢えて言ったよね、絶対。
でも、ラインさんとコウガの攻防って何の事?
寝落ちしている時の話だろうかと、首を傾げれば、ブハッと堪えきれないようにフェリオが吹き出す。
「いや~どっちがシーナを抱いて行くかで静かに揉めてたからな。で、最終的に交代で運ぶ事になったんだが・・・クククッ」
そりゃ、重いし、変な目で見られるかもだし、出来れば避けたかっただろう。それでも運んでくれた二人には、感謝しかない。
「あぁ、明日二人に謝らなきゃ・・・」
「うん?・・・なんか勘違いしてないか?・・・まぁいいか」
フェリオはそう言うと、ニヤニヤ顔を隠すことなく、今度こそ本当に寝る体勢になる。
フェリオの言葉は気になるけど・・・考えちゃダメだ。眠れなくなる。今は取り敢えず寝とこう、そうしよう。
再び布団にもぐり込み、目を閉じる。
その頃にはもう、久し振りに見た夢の事も、その後にやってくる寂しさも、綺麗さっぱり吹き飛んでいた。




