表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
55/264

浄化?いいえ、洗浄です!

「な?似たような事してただろ?」

「・・・似ては、いるけど」

 心の中で散々喚いてみたけれど、確かに・・・似てはいるのよね。

 でも、だからこそ・・・躊躇ってしまう。


 あの時、後から知った事実に暫く身体が震えていたのを覚えてる。

 あの一瞬、確かに私は人の命を預かっていた。

 私は医師を目指した事は無いし、人の生死に関わる覚悟なんて、全く無い。

 だから、突然私の手に誰かの命を乗せられても、怖くて落としてしまいそうだ。


「シーナ。シーナなら出来る」

 フェリオが何時になく真剣な声音で私を諭す。

「フェリオ・・・でも」

「それにな?錬成で体力を消耗しても、ポーションで回復できる。だから、今より悪化する事はない。何より回復させる手が、今はコレしか無いんだ」


「―――悪化しないって、ほんとう?」

「・・・あぁ。モチロン」


 ――――――今、間があったよね?

「ほんとう?」

「ッ大丈夫だ!」

 ・・・・・・・・・・・。


 きっと、悪化しないっていうのは嘘だろう。嘘とまではいかずとも、100%ではない筈だ。どうなるか分からないって、さっき自分で言ってたし。

 でもきっと、私がやらなきゃ回復しないってのは本当の事。


 命の重みに耐えかねて、自分の手が届く所に在るのにただ眺めて何もしないでいたら、後々きっと、その重みはどんどんと重量を増して、今の何倍もの重石を心に抱える事になる。後悔っていうのはそういうものだ。


 ふん!伊達に三十ウン年生きてないっての!

 やらない後悔のが後を引くなんて、何度も経験済みなんだから!


 軽く追い詰められて、若干自棄を起こしたと思われるかもしれないけれど、このぐらいの勢いが無いとこんな事出来ないのだ。


「・・・分かった。やってみる」

 それでも、恐る恐る出した私の答えに、フェリオは大きく頷いてくれる。

「よし!じゃあ、まずは魂源の視認からだな。まずは両眼でこの辺をよ~く視てみろ」

 フェリオが前足で指し示したのは、丁度魔石が埋まっていた辺り。

 影の魔力の根が残るその辺りを、魔結晶をイメージしながらジーッと視る。


 ――――――んん?うーん・・・コレ、かな?


 ジッと、ジ~ッと視ていれば、確かに胸の中心、心臓の辺りに魔力の塊が在ること分かる。

 けれどそれは明確なものじゃなくて、なんとなく分かる程度。


「・・・魔力の塊は視えるけど、これじゃハッキリ認識できたとは、言えないかな」


 眉を下げてフェリオを見れば、チッチッチッと猫手を器用に口元で振って見せる。

 格好つけてるけど、むしろ可愛いよ?


「視認できたら、今度はその場所を右眼だけで視てみろ」

「右眼だけ?」

 片眼で視たら逆に見辛そうだけど。

 それでも言われた通り、左眼を手で隠してから、同じ様にジッと視る。すると・・・


 凄い・・・さっきよりハッキリ視える。


 先程までボンヤリとしていたソレが、明確な輪郭を持って胸の中に存在している事が分かる。

 ソレは、青い卵の様な形と大きさで、けれど真ん中辺りに黒い蜘蛛が張り付いた様なシミができている。そこが影の魔力に浸食された所だろう。


「視えた・・・それで、この後はどうすればいいの?」


 視線は外さず声だけでフェリオに訊けば、ニョキッとフェリオの頭が視界に入ってくる。


「そのまま、魔石を魔結晶にした時と同じ様にイメージするんだ」


 フェリオの妖精の炎が私の手を伝って魔力と混ざる。

 私は魔石を洗うイメージを思い出そうとするけれど、グレゴール司祭の()()に在ると思うと、魔力がグレゴール司祭の身体の上を流れるばかりで上手く行かない。


「シーナ。上手く出来ない時は、見方を変えて一つずつイメージするんだ」

「見方を?」

「まずは身体の中に魔力を届けるイメージだ」


 身体の中に魔力を届ける。

 身体の中に・・・浸透させる。

 浸透・・・高い化粧水は肌への浸透力が違う、とかCMでやってたなぁ。


 なんて事を考えていたら、流れ落ちていた魔力がグレゴール司祭の身体の中へ不思議とすんなり入っていく。

 

 ――――――おぉ!出来た。


「よし。そしたらなるべく負担が無いように、最小限の魔力で錬成するぞ」


 フェリオの言葉に、私を含めその場にいた全員がゴクリと息を呑む。

 私は出来るだけ魔力量を減らすべく人差し指一本から魔力を流し、魔結晶に意識を集中させる。


 アレは魔結晶。魔結晶、魔結晶・・・。

 ちょっと汚れてるから綺麗にするだけ。

 あの黒いシミを・・・シュワッと浮かせて、剥がして・・・汚れ戻りしない様に・・・。

 するとほんの少しずつだけれど、黒いシミが薄くなり始める。

 そのスピードにヤキモキしながら、それでも根気よく少量の魔力を流し続け、イメージを絶やさない様に集中し続ける。


 この汚れ、すっごく頑固!


 ――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・


 最終的には、完全に靴下の泥汚れか、襟元の黄ばみを落としている気分になりながら、それでも漸く全てのシミを綺麗に消し去る。

 すっかりムキになっていたのに気付き、慌ててグレゴール司祭の様子を窺えば、蒼白かった顔に血の気が戻り、穏やかな表情をしていることにホッとする。


「よし・・・綺麗になった!」


 妙な達成感と共に呟けば、パッとラインさんの顔が明るくなり、コウガもどこかホッとしたように息を吐き出す。

 みんな、実は凄く不安だったみたいだ。

 そりゃそうだ。私だって手が震えてるもの。全力で見ないようにしてたけど。


 その震える手に、フェリオが頭を擦り付け、

「やったなシーナ、流石オレのパートナー!」

「シーナさん。本当にありがとうございます」

「流石ダナ」

 口々に誉められて、緊張と重圧から解放されると、張り詰めていた何かがプツリと途切れるのが分かる。


 すると、急激な倦怠感と共に眠気が一気に押し寄せてきた。


 ――――――あれ?・・・だめ。まだ、司祭の回復、と・・・魔石が・・・ムリ、ネムイ・・・。


 なんとか取り出したマメナポーションが手から滑り落ち、カツンッと音を立てた事で少しだけ意識が浮上する。

 けれどそれも一瞬の事で、直ぐにまた睡魔に襲われた私の意識は、身体が受け止められる感覚と共に、眠りの中に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ