後に残ったものは
「聖女様ッッッ!!」
恐らく避難させられて居たであろうイシクさんは、まだ危険です!という騎士の人の言葉を振り切って此方へ走り寄って来る。
するとフェリオがそそくさとローブの中に潜り込んで来たので、首根っこをムンズと掴んで阻止した私は、急いで眼の色を茶色に変える。
ラインさんや他の騎士達の前で『聖女』をさせられるなんて、断固拒否する!!
「聖女様ッッ!!お怪我は御座いませんか!?申し訳御座いません!聖女様を危険に晒すなんてッッ」
そんな努力の甲斐もなく、スライディングする勢いで私の足元に平伏したイシクさんに、ラインさんは一瞬警戒した後、目を丸くしてイシクさんと私を交互に見やる。
「ちょッ頭を上げてください!・・・えぇと・・・聖女様って・・・何の事ですか?」
私は慌ててしゃがみ込み、平伏しているイシクさんに顔を上げて貰ってから、戸惑っている風を装いながら、しっかりと視線を合わせる。
顔を上げたイシクさんは、走って来たからか、はたまた聖女でも無い、ただの女に頭を下げてしまった事に気付いた恥ずかしさからか、カアッと顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまう。
「せぃッじょ、さまは・・・お帰りに?貴女は、覚えていないのですか?」
視線をさ迷わせながら、それでも眼の色を確認しているのか、イシクさんはチラチラとこちらを窺っている。
覚えているなんて言ったら凄く面倒な事になりそうなので、分かりませんって感じを全面に出しながら首を傾げれば、イシクさんは赤みの引かない顔を更に背けてしまう。
人違いした様な状況が恥ずかしいのかな?なんて考えていると、コウガに肩を引かれ、そのままバランスを崩してしゃがんだ状態のまま、コウガの足に背中を預ける格好になる。
ビックリしてワァッ!と声が出てしまった。急にどうしたの?心臓に悪いから止めて欲しい。
恨みがましく見上げれば、ムスッとした表情のコウガと目が合う。
「シーナさん・・・少し、近過ぎるかと」
ラインさんまでそう言うと、しゃがんだ状態の私を、フワッと然り気無く立ち上がらせる。
もしかして、二人ともイシクさんが教会の人だから警戒してる?
でも、イシクさんの魔力はずっと青緑一色で陰りも無いし、大丈夫だと思うんだけどな。
二人の疑念を感じ取ったのか、イシクさんは慌てて立ち上がると、ブンブンと頭を振りながら、必死に弁明する。
「あぁ、いぇ、そのッ・・・僕は聖女様に仕える身なので、邪な事など、なにもッッ・・・その、綺麗だなって思っただけでッッって、そうじゃなくてですね・・・」
――――――が、慌て過ぎている所為か、言ってる事が意味不明だ。
「落ち着いて下さい。とにかく、私は怪我とかしてませんし、何の問題もありません。なので、先ずはこの惨状をどうにかした方が良いのでは?」
教会の内部は床が抜け、テープルや椅子はボロボロ、しかもあちこちに魔蜜蜂の死骸。なんとも無惨な状態だ。
まぁ、本音を言えば、取り敢えず今は放っておいて欲しい。
だって、後始末を始めている騎士達の視線が痛いのだ。チラチラと興味津々な視線と、恐らくイシクさんに対しては警戒してるのか、それとも片付けもしないでなにしてるんだ?的な少し厳しめな視線が。
「―――ッそうですね。すみません、落ち着いたらご相談したい事があるのですが・・・」
「構いませんよ。私も後片付け手伝いますから、その後で」
マメナポーションを配って貰わなきゃならないし、後でゆっくり相談しないとね。
「ありがとうございます!!」
私が頷けば、イシクさんは深々と頭を下げてから後片付けに向かった。
「大丈夫ですか?少し休んだ方が・・・」
私が後片付けを手伝うと言ったからだろう。ラインさんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「マダ、顔が青い。少し休メ」
同じく私の顔を覗き込んでいたコウガにもそう言われ、私は首を横に振る。
「うぅん。今は動いてた方が気が紛れそうな気がするから」
今考える時間が出来たら、色々と思い出して、考え込んで、悪い方にしかいかない気がする。
「それに・・・コッソリ魔蜜蜂を回収したいしね」
心配する二人を安心させるように、わざとらしくニヤッと笑って見せる。まぁ、魔蜜蜂の素材が欲しいのも本当だけど。
「そうだな。魔蜜蜂の素材、根こそぎ奪ってくか?」
空気を読める子フェリオも、同じ様に悪い顔でニヤリと笑う。
「全部はダメよ。あくまでコッソリ、バレない様に、ね?」
「堂々と回収して頂いて構いませんよ?」
二人で泥棒ごっこをしていると、真面目の人、ラインさんが苦笑しながら口を挟む。
「いえ、そういう訳にはいきません。だって私は、魔蜜蜂を一匹も倒して無いんですよ?」
そう。基本は倒さざるもの、獲るべからず。なのだ。
だから、本当なら私には魔蜜蜂を回収する権利は無い。
「だからコッソリなんですか?」
「そうです」
キッパリ答えた私に、ラインさんはフフッと笑みを溢すと、いたずらっぽい表情で片目を閉じる。
「では、物証として数匹は残して置いて下さいね?後は・・・聞かなかった事にします」
――――――ラインさんのウィンク、ヤバかったです。色気出てました。しかも・・・
「俺も手伝ウ。俺が倒した分は俺のモノ、だしナ?」
―――――ニヤリと器用に片側だけ口の端を上げたコウガも、似合い過ぎててツラい。
危うく今以上の混乱を招く所でした。
「じゃッ・・・じゃぁ、始めましょう?サクサク片付けないとね!」
ドキドキと脈打つ心臓と、ザワザワと波立つ魔力を誤魔化しながら辺りを見回せば、床に転がった大量の魔蜜蜂。
改めて見ると・・・凄い数だ。よく倒したよね。皆さん、お疲れ様です。
私はピシッと背筋を伸ばして小さく頭を下げてから、魔蜜蜂をこっそりスマホに収納していく。
運んだりする手間が無い分、作業効率は誰よりもいい。なんなら、全て集め終わった後でラインさんに渡せばいいんだし、率先して回収してしまおう。
その後は手近な魔蜜蜂を片っ端からスマホへ回収、加えてコウガが集めて来た分も纏めて回収し、その数が五十を越えた辺りで、一度休憩がてらスマホを確認する。
魔蜜蜂は幾つかの素材と中級の魔結晶に解体された様だ。
どうやら魔蜜蜂は、聖水を飲んだ人と同じ様に影の魔力に浸食されていただけで、影魔獣では無かったらしい。
影魔蜜蜂が魔石を残して消えたのに対し、魔蜜蜂はそのままそこら辺に転がっているし、保持していたのが魔石では無く魔結晶だったのがその証拠だ。
しかも、試しに取り出してみた魔蜜蜂の魔結晶は、牙狼の物の半分位の大きさだったけれど、その色合いは乳青色。
魔蜜蜂の魔結晶は中級なのね。これならもっと沢山のマメナポーションが創れそう。
思わぬ収穫にホクホクしながら、他の素材も確認する。
後は・・・魔蜜蜂の羽と殻、それと針に・・・紫のフワ毛?
あの胸の所のフワフワした所だろうか?と紫のフワ毛の説明文を見れば、案の定「魔蜜蜂の胸毛」と表示してある。
――――――胸毛、胸毛か・・・いや、うん。その通りなんだけど、ちょっと嫌。
けれど説明文には更に、「非常に手触りが良い」と表示されていたので、ちょっと気になって取り出してみる。
―――フワッ。
一匹分のフワ毛はピンポン玉位の大きさで、全く重量を感じさせない程のフワッと感だった。でも、この量では手触りを堪能する事が出来ない。
十匹分を纏めて取り出し、掌でモフモフと丸めながらその手触りを確かめる。
――――――コレはッ!!!?
フワッ―――モフモフモフモフモフモフモフモフ・・・
ひたすら手の中の毛玉の感触を堪能する。
フワッとして、モフモフで、それでいてしっとりとした手触り。堪らない。
紫のフワ毛。癒し効果抜群。
私は脳内説明文に新たな一文を付け加える。
魔蜜蜂の素材は数匹分貰えればいいと思っていたけど・・・このフワ毛だけは、ラインさんに頼んで買い取らせて貰おう。
そう心に決めた私は、それまで以上に回収作業に精を出す事にした。




