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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ 2
52/264

後に残ったものは

「聖女様ッッッ!!」


 恐らく避難させられて居たであろうイシクさんは、まだ危険です!という騎士の人の言葉を振り切って此方へ走り寄って来る。

 するとフェリオがそそくさとローブの中に潜り込んで来たので、首根っこをムンズと掴んで阻止した私は、急いで眼の色を茶色に変える。


 ラインさんや他の騎士達の前で『聖女』をさせられるなんて、断固拒否する!!


「聖女様ッッ!!お怪我は御座いませんか!?申し訳御座いません!聖女様を危険に晒すなんてッッ」


 そんな努力の甲斐もなく、スライディングする勢いで私の足元に平伏したイシクさんに、ラインさんは一瞬警戒した後、目を丸くしてイシクさんと私を交互に見やる。


「ちょッ頭を上げてください!・・・えぇと・・・聖女様って・・・何の事ですか?」


 私は慌ててしゃがみ込み、平伏しているイシクさんに顔を上げて貰ってから、戸惑っている風を装いながら、しっかりと視線を合わせる。

 顔を上げたイシクさんは、走って来たからか、はたまた聖女でも無い、ただの女に頭を下げてしまった事に気付いた恥ずかしさからか、カアッと顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまう。


「せぃッじょ、さまは・・・お帰りに?貴女は、覚えていないのですか?」


 視線をさ迷わせながら、それでも眼の色を確認しているのか、イシクさんはチラチラとこちらを窺っている。

 覚えているなんて言ったら凄く面倒な事になりそうなので、分かりませんって感じを全面に出しながら首を傾げれば、イシクさんは赤みの引かない顔を更に背けてしまう。

 人違いした様な状況が恥ずかしいのかな?なんて考えていると、コウガに肩を引かれ、そのままバランスを崩してしゃがんだ状態のまま、コウガの足に背中を預ける格好になる。


 ビックリしてワァッ!と声が出てしまった。急にどうしたの?心臓に悪いから止めて欲しい。

 恨みがましく見上げれば、ムスッとした表情のコウガと目が合う。


「シーナさん・・・少し、近過ぎるかと」


 ラインさんまでそう言うと、しゃがんだ状態の私を、フワッと然り気無く立ち上がらせる。


 もしかして、二人ともイシクさんが教会の人だから警戒してる?

 でも、イシクさんの魔力はずっと青緑一色で陰りも無いし、大丈夫だと思うんだけどな。


 二人の疑念を感じ取ったのか、イシクさんは慌てて立ち上がると、ブンブンと頭を振りながら、必死に弁明する。


「あぁ、いぇ、そのッ・・・僕は聖女様に仕える身なので、邪な事など、なにもッッ・・・その、綺麗だなって思っただけでッッって、そうじゃなくてですね・・・」

 

 ――――――が、慌て過ぎている所為か、言ってる事が意味不明だ。


「落ち着いて下さい。とにかく、私は怪我とかしてませんし、何の問題もありません。なので、先ずはこの惨状をどうにかした方が良いのでは?」


 教会の内部は床が抜け、テープルや椅子はボロボロ、しかもあちこちに魔蜜蜂の死骸。なんとも無惨な状態だ。


 まぁ、本音を言えば、取り敢えず今は放っておいて欲しい。

 だって、後始末を始めている騎士達の視線が痛いのだ。チラチラと興味津々な視線と、恐らくイシクさんに対しては警戒してるのか、それとも片付けもしないでなにしてるんだ?的な少し厳しめな視線が。


「―――ッそうですね。すみません、落ち着いたらご相談したい事があるのですが・・・」

「構いませんよ。私も後片付け手伝いますから、その後で」

 マメナポーションを配って貰わなきゃならないし、後でゆっくり相談しないとね。

「ありがとうございます!!」

 私が頷けば、イシクさんは深々と頭を下げてから後片付けに向かった。


「大丈夫ですか?少し休んだ方が・・・」

 私が後片付けを手伝うと言ったからだろう。ラインさんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「マダ、顔が青い。少し休メ」

 同じく私の顔を覗き込んでいたコウガにもそう言われ、私は首を横に振る。


「うぅん。今は動いてた方が気が紛れそうな気がするから」

 今考える時間が出来たら、色々と思い出して、考え込んで、悪い方にしかいかない気がする。

「それに・・・コッソリ魔蜜蜂を回収したいしね」

 

 心配する二人を安心させるように、わざとらしくニヤッと笑って見せる。まぁ、魔蜜蜂の素材が欲しいのも本当だけど。


「そうだな。魔蜜蜂の素材、根こそぎ奪ってくか?」

 空気を読める子フェリオも、同じ様に悪い顔でニヤリと笑う。

「全部はダメよ。あくまでコッソリ、バレない様に、ね?」


「堂々と回収して頂いて構いませんよ?」

 二人で泥棒ごっこをしていると、真面目の人、ラインさんが苦笑しながら口を挟む。


「いえ、そういう訳にはいきません。だって私は、魔蜜蜂を一匹も倒して無いんですよ?」

 そう。基本は倒さざるもの、獲るべからず。なのだ。

 だから、本当なら私には魔蜜蜂を回収する権利は無い。


「だからコッソリなんですか?」

「そうです」


 キッパリ答えた私に、ラインさんはフフッと笑みを溢すと、いたずらっぽい表情で片目を閉じる。

「では、物証として数匹は残して置いて下さいね?後は・・・聞かなかった事にします」


 ――――――ラインさんのウィンク、ヤバかったです。色気出てました。しかも・・・


「俺も手伝ウ。俺が倒した分は俺のモノ、だしナ?」

 ―――――ニヤリと器用に片側だけ口の端を上げたコウガも、似合い過ぎててツラい。


 危うく今以上の混乱を招く所でした。


「じゃッ・・・じゃぁ、始めましょう?サクサク片付けないとね!」


 ドキドキと脈打つ心臓と、ザワザワと波立つ魔力を誤魔化しながら辺りを見回せば、床に転がった大量の魔蜜蜂。

 改めて見ると・・・凄い数だ。よく倒したよね。皆さん、お疲れ様です。


 私はピシッと背筋を伸ばして小さく頭を下げてから、魔蜜蜂をこっそりスマホに収納していく。

 運んだりする手間が無い分、作業効率は誰よりもいい。なんなら、全て集め終わった後でラインさんに渡せばいいんだし、率先して回収してしまおう。


 その後は手近な魔蜜蜂を片っ端からスマホへ回収、加えてコウガが集めて来た分も纏めて回収し、その数が五十を越えた辺りで、一度休憩がてらスマホを確認する。


 魔蜜蜂は幾つかの素材と中級の魔結晶に解体された様だ。

 どうやら魔蜜蜂は、聖水を飲んだ人と同じ様に影の魔力に浸食されていただけで、影魔獣では無かったらしい。

 影魔蜜蜂(クイーン)が魔石を残して消えたのに対し、魔蜜蜂はそのままそこら辺に転がっているし、保持していたのが魔石では無く魔結晶だったのがその証拠だ。

 

 しかも、試しに取り出してみた魔蜜蜂の魔結晶は、牙狼の物の半分位の大きさだったけれど、その色合いは乳青色。

 魔蜜蜂の魔結晶は中級なのね。これならもっと沢山のマメナポーションが創れそう。

 

 思わぬ収穫にホクホクしながら、他の素材も確認する。

 後は・・・魔蜜蜂の羽と殻、それと針に・・・紫のフワ毛?

 あの胸の所のフワフワした所だろうか?と紫のフワ毛の説明文を見れば、案の定「魔蜜蜂の胸毛」と表示してある。


 ――――――胸毛、胸毛か・・・いや、うん。その通りなんだけど、ちょっと嫌。


 けれど説明文には更に、「非常に手触りが良い」と表示されていたので、ちょっと気になって取り出してみる。


 ―――フワッ。


 一匹分のフワ毛はピンポン玉位の大きさで、全く重量を感じさせない程のフワッと感だった。でも、この量では手触りを堪能する事が出来ない。


 十匹分を纏めて取り出し、掌でモフモフと丸めながらその手触りを確かめる。


 ――――――コレはッ!!!?


 フワッ―――モフモフモフモフモフモフモフモフ・・・


 ひたすら手の中の毛玉の感触を堪能する。

 フワッとして、モフモフで、それでいてしっとりとした手触り。堪らない。


 紫のフワ毛。癒し効果抜群。

 私は脳内説明文に新たな一文を付け加える。


 魔蜜蜂の素材は数匹分貰えればいいと思っていたけど・・・このフワ毛だけは、ラインさんに頼んで買い取らせて貰おう。

 そう心に決めた私は、それまで以上に回収作業に精を出す事にした。

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