〉コウガ~泰然自若な虎獣人~
俺が守ると決めた女は、少々厄介な能力の持ち主だった。
元より変な女だとは思っていたが、恐らくとんでもない量の魔力を有し、類稀な想像力で見たこともない魔道具を創り出す。
――――――そして、それを感じさせない危機感の無さ。
アレは自分が"狙われる存在"だなどと、微塵も理解して無いだろう。
だが、間違いなくシーナは狙われる。
その能力を欲する者と、その能力を妬む者に。
その証拠に、カリバのあの錬金術師・・・アイツはシーナに敵意と殺気を向けていた。
カリバに戻ったら、どうにかしないとな・・・。
まぁ、まずは今回の件を解決するのが先か。
その為に今、シーナが新たな魔法薬の錬成をしている訳だしな。
しかし、今日は久しぶりにヒヤヒヤさせられた。危険と分かっている教会に一人で突っ込むとは・・・全く、なんなんだ、あの行動力は。
――――――それにあの水
「なぁ、コウガ」
ボーッとそんな事を考えていると、フェリオが肩に乗ってくる。
「ナンダ?」
「シーナの錬成の手助けをしたいんだけど、オレじゃ無理なんだ。手伝ってくれないか?」
「ベツに構ワないガ・・・」
フェリオは、何処と無く悪い顔をして言う。
「そしたらさ!シーナが大釜に材料入れ始めたら、後ろから、こう・・・ぎゅっと抱き締めてやってくれないか?」
声を潜めたフェリオが、よく分からない事を言ってくる。
――――――何故、シーナを抱く必要がある?
怪訝な顔をする俺に、フェリオが小さな前足を合わせて強請ってくる。
「頼むよ!どうしても必要な事なんだ!」
「・・・???まぁ、ベツにイイが・・・」
それが錬成の助けになるとは到底思えないが・・・妖精が言うなら、そうなんだろう。
――――――それに、やっていいと言うなら、断る理由もない。
「やった!コウガは話が分かるなぁ♪」
話が纏まった辺りで、シーナが此方に気付いて声を掛けてきた。
「何かいい案でもあったの?」
「ああ!すっごくいい案があったぞ!!」
どの辺がいい案なのかは分からないが、フェリオは自信満々だ。
「どんな?」
「―――取り敢えず、その大釜に他の材料入れてくれないか?準備するから!」
「――――――わかった」
怪訝な顔をしたシーナだったが、フェリオに押されて承諾したようだ。
「・・・よし!コウガ、今だ!」
フェリオに小声で促され、シーナを驚かせないようにそっと後ろから抱き締める。
それでもビクッと肩を震わせたシーナに、一言詫びを入れようと声を掛けた瞬間・・・。
――――――ッッッサバァァァァ。
―――――――――水、だな。
突如として空中、シーナの真上辺りから水が弾ける様に出現した。
咄嗟にシーナの身体ごと上体を反らして避ければ、その水は狙ったように大釜に注がれる。
――――――確かに。問題は解決したようだ。
それにしても・・・今のは明らかに・・・。
遅れてやって来たフェリオが、それっぽく水差しを持ってはいるが・・・ソレ、意味あるのか?
――――――まぁ、シーナだからな。
俺が守ると決めた女は、かなり厄介な能力の持ち主だ。
昨日の雨も、今現れた水も・・・シーナも。
同じ、いい匂いがする。
水辺の花の匂いだ。
シーナの首筋に鼻を当て、スンッとその匂いを感じる。
「―――――ッッッひゃぁ!!」
――――――ッッッサバァァァァ。
――――――ん?




