マメナポーション
「――――――ッッッ!!」
蔓豆の情報を確認して、バッと顔を上げる。
その表情を見たフェリオとコウガが何事かと首を傾げるけれど、興奮し過ぎて言葉が出ない。
「ドウシタ?」
「できるかも!薬!」
「???薬?」
「そう!教会の人達の薬!」
「マジか!?」
語彙と落ち着きの足りない私とフェリオの会話に、心配そうに問い掛けてくれたコウガが呆れ気味に苦笑する。
「ナラ、取リ敢エず宿に戻るカ?」
ちょっと大きな声を出し過ぎた所為で要らぬ注目を集めていたようで、周りの人が何事かと遠巻きに此方を窺っているのに気付き、今更ながらに恥ずかしくなる。
「そッそうだね。取り敢えず宿に戻ろう」
今すぐに!
「――――――で?薬が出来そうってのは?」
宿に着いて私が使っている部屋へ入るなり、フェリオが口を開く。
「ちょっとだけ待っててね。今確めるから!」
私はスマホのライブラリーを開き、フラメル氏のレシピから蔓豆を使ったものを検索する。
――――――あった!
蔓豆を使ったレシピは予想以上に沢山あったけれど、当たりをつけていた魔法薬の名前を見付けてホッとする。
上級の解毒薬と解麻痺薬。その他の上級の状態異常回復薬の名前もある。
やっぱり、蔓豆は状態異常に効果を発揮する。なら、浸食や依存といった状態異常に効果があっても、なんら不思議は無い。
自分の予想が当たっていた事で、私は更に確信を持って顔を上げる。
「あのね、蔓豆が凄いの!」
「ツタマメが?」
「そういえば、錬金術の素材になるって言ってたな?まさかッ?」
フェリオもどうやら店主の言葉を思い出したらしく、顔を輝かせる。
「そう!それで、蔓豆の効果の中に"体内循環を高め、毒素の排出を促進する"ってのがあるんだけど」
蔓豆の説明文に戻したスマホ画面を二人に見せて、更に説明する。
「さっき倒れた人ね、最初お店に入ってきた時は魔力が半分以上黒くなってたの。でも、倒れた時には黒い魔力の大半が消えてたの」
「消えタ?」
「そう!だから突然、魔力欠乏になっんたと思う」
あの時、黒紫の魔力がフワッと消えたのを私はハッキリと視た。
彼等の話によれば、今年になって蔓豆を大量に食べたのは今日が初めてで、しかもあの量だ。
加えて蔓豆の効果と、それによって錬成できるレシピの種類。
「影の魔力も毒素と捉えるなら、蔓豆を食べれば排出される?」
「そのマメを使ッて薬をツクルのか?」
ここまで言えば、フェリオとコウガにも言いたい事が伝わったらしい。
「そう!蔓豆入りのマナポーションなら、黒い魔力を消しつつ、魔力の回復も出来ると思うの!」
「確かにそれなら効果がありそうだ。何より、シーナが明確に効果をイメージ出来てるなら、問題無いだろうな」
フェリオにもお墨付きを貰ってやる気が一層湧いてくる。
「じゃあ、今から錬成してみよう!」
マナポーションの材料となる魔結晶とハーブ類はスマホに充分な在庫があるし、蔓豆もさっき買ってきたばかりだ。
デンッ!!と取り出した大きな釜は、フラメル氏御用達のお店で買った特注品。
自分の腰程の高さまであるこの大釜なら、この町の人達に行き渡る程の薬が錬成出来るはず。
とは言え、小心者な私は一番小さな釜も取り出して、テーブルの上に置く。
まずはちゃんと効果のある薬が錬成できるか、試してみないとね。
まずは・・・低級のマナポーションと同じ分量プラス、蔓豆を五粒くらいかな?上級の解毒薬や解麻痺薬の分量も五粒だし・・・うん。妥当でしょ。
小さな釜に材料を入れ、水差しの水を半分程注ぎ、イメージを固める。
――――――身体に正常な魔力を満たして、影の魔力の影響を心身共に排出する・・・こんな感じかな?
「フェリオ、お願い!」
「えッ?あ、あぁ、良いけど・・・」
「???どうしたの?」
どこか戸惑ったような反応を返したフェリオに、レシピに不備でもあったかと心配になる。
「・・・いや、何でもない」
けれど、少し考え込む素振りを見せたものの、フェリオはやけに楽しそうに笑いながら首を横に振った。
「そう?じゃあ、いくよ?」
「おう!」
――――――シュゥゥゥゥゥゥ・・・。
出来上がったのは、青緑色の液体。
早速、詳しく分析するために釜ごと一度スマホに収納する。
魔法鞄の内容一覧を確認すれば、Newと赤字で表示された『未定』があった。
――――――あれ、未定?・・・これかな?
『未定』
錬成者:シーナ・アマカワ
素材:水・リコリスの根・グリーンミント・魔結晶・蔓豆
特性:魔力回復【120】・毒素排出促進
服用者の魔力を回復する
服用者の魔力に含まれる異物を排出する
服用者の精神に含まれる毒素を排出する
詳細表示を確認すれば、それは確かに蔓豆を加えたマナポーションのレシピだった。
――――――やった!ちゃんと効果が出てる!でも何で未定?名無しって事?
「ドウシタ?」
「ちゃんと効果出なかったのか?」
戸惑う私に、二人が心配そうに問い掛ける。
「ううん。錬成自体は成功だと思うの。でも、出来たモノの名前が"未定"ってなってて」
ほら、と画面を向ければ、それを覗き込んだフェリオが「なんだそんな事か」と呆れた顔を向ける。
「このレシピはシーナのオリジナルだからな。シーナがこの魔法薬に名前を付ければいい」
「え?そうなの?命名権とか在るんだ」
「まぁ、世間に浸透するかどうかは、シーナのネーミングセンス次第だけどな」
――――――ネーミングセンス。無いです。
でも、名前が未定じゃ不便なんだよなぁ。
蔓豆入りマナポーション、とかで良くない?ちょっと長くて野暮ったいけど。
略してマメマナポーションとか、どう?・・・うん、舌噛みそうだから却下。
「マメ、マナ、ポーション、マメ、マナ・・・・・・もうマメナポーションで良くない?」
なんだか甲斐甲斐しい感じで、異性にモテそうな名前のポーションだけど、覚えやすいし、決定。文句は受け付けない。
「マメ・・・何だって?」
「だから、マ・メ・ナ・ポーション!」
「・・・・・・いいんじゃないか?」
フェリオ、呆れないで。コウガ、ソッと目を逸らさないで!
そんなやり取りをしてから、ふとスマホ画面を見れば、さっきまで『未定』と表示されていた所が『マメナポーション』に変わっていた。
――――――おぉ!自動更新してる!
私がそんな事で一人感動していると、フェリオが「ところで・・・」と口の端をヒクヒクさせながら問い掛けてくる。
「そのでっかい釜で錬成するのは良いけど・・・水はどうするんだ?」
――――――確かに。
この大釜を一杯にするには、かなりの量の水がいる。
元々水資源が豊かな日本の田舎で生活していた私は、未だに水が希少という感覚を忘れてしまう。
この宿でも、宿泊する際に「水札」という木札を二枚渡されている。この札をもって行くと、水差し一杯の水と交換して貰えるのだ。
「水差し二杯じゃ・・・足りない、よね?」
えへへ、と誤魔化し笑いを浮かべながらフェリオを見れば、やっぱりか、と言わんばかりに呆れた顔を返される。
「俺のヘヤの分をモッテくるか?」
コウガはそう言ってくれるけれど、それでもまだ足りない。
――――――どうしよう。宿の人に事情を説明して水を分けてもらう?でも、いきなり行っても信じて貰えないよね・・・うーん。
考えてみるものの名案も浮かばず、どうしたものかと顔を上げれば、フェリオが何やらコウガに耳打ちをしているのが目に入った。
「何かいい案でもあったの?」
「ああ!すっごくいい案があったぞ!!」
私の問いに、キラキラと輝く笑顔のフェリオと、どこか戸惑った様に首を傾げるコウガ。
「どんな?」
「―――取り敢えず、その大釜に他の材料入れてくれないか?準備するから!」
「――――――わかった」
ニヤニヤと笑うばかりでどんな案かを言わないフェリオに、何となく嫌な予感はするけれど、他にいい案も思い付かないので、言う通りに大釜の中へ材料を入れていく。
少し身を屈めて材料を入れていた私の背後に、ふと、人の気配を感じ―――。
ぎゅっと。
背後から抱き締められ、
「――――――シーナ」
コウガの声が耳元で低く響く。
―――――――――ッ!!!?
――――――ッッッサバァァァァ。
声にならない悲鳴と共に、大釜に注がれる大量の水。
ハクハクと口だけ動かしてみても、驚きと羞恥と混乱で言葉なんて出てこない。
――――――なんで?どうして!?ッてか水!水がサバァァァァって!
自分の前に回されているのは、見慣れた逞しいコウガの腕。
少し目線を上げれば、全身をプルプルと震わせて笑いを堪えるフェリオの姿。
――――――――――お前かぁぁぁ!!
そして私は理解した。
この状況は全て、フェリオの策略だと。
なにしてくれてるの!?
コウガの目の前でバッチリ錬水しちゃったじゃない!
一応、水差し持って大釜の上に居るけど・・・ソレ、絶対に誤魔化す気無いよね!?
あと、コウガ・・・そろそろ離してぇー!!




